第百四十七話 黒騎士到着まで残り……
紅き尻尾を見送ってから3時間が経過した。
現在時刻は午後二時を少し回ったところだ。
広範囲レーダーにてジン達の様子を見ていたウロボロスが
『速いよね、彼ら無事に森まで到着したよ』
『私達のレーダーで追えるのはここまでだけど、もう安心していいわね』
と、嬉しい報告を入れてくれたので取りあえずは一安心だ。
森には多くのハンター達が狩のために入っている。下手に目立ちたくない黒騎士が森を通るとは思えない。
となれば、シグレから聞いていた通り、森には入らずまっすぐ山を越えてここを目指すはずであり、ジン達が森に到達した以上、彼らが黒騎士に襲われる確率は限りなく0に近づいたと言えよう。
「まずは第一目標、クリアというわけだな」
俺の発言に皆頷くが、表情が和らぐ事はなく、真剣な眼差しのままだ。
俺達にはジン達の安全を確認した後、後を追うという選択肢もあったが、それは選ばずにやれるところまで迎撃するという苦難の道を選んだのだ。
機体のスペックを除けば明らかに格上の存在との戦いが予定されている。
パイロットたちがピリリとしているのは仕方がない話だな。
紅き尻尾の目標ポイント到達をもって、彼らの見守りは完了したが、レーダーによる監視は別の目的もあるので変わらず展開したままにしていた。
そしてそれは日が沈み、パイロット達がつかの間の休息をとっている間も続けられ、また日が昇って傾き……みんなが早めの夕食を摂っている間にも変わらず展開を続けていた。
それは勿論、これからお迎えする事になる
『なあ、カイザー。随分とお早い到着だが、これはもしかしてもしかするよね?』
『待ち人来たる、っていう奴かしら? あらやだ、別に待ってなかったわ』
ウロボロスのその報告、それは海岸に到着した
現在俺が表示できるマップは自分でマッピングして作成した正確なものと、アズベルトさんから見せてもらったざっくりとした大陸マップを組み合わせて作成したものだ。
ケルベラック以北に関しては、目視で確認したことはなく、アズベルトさんのざっくりとしたマップをレーダーにて僅かに修正をかけて作り出した情報から判断するしかない。
それによれば、海岸からケルベラックの麓まで機兵の足で6時間はかかる計算だ。
これはその間に特に障害物がなく、走りやすい環境であることが前提となっているため、抜かるんでいたり、岩がごろごろしていたり、森だったりすればさらに時間が掛かるはずだ。
まして、途中にはケルベラックが聳え立っている。
山の裏側がどのような地形なのかはわからないが、こちら側から登った印象からすれば中々の難所。
流石に夜間の山越えは辛かろうから、到着は早くても明日の朝を見て置けば良いだろうな。
普通のハンターならば、交代で夜番をする必要があるのだろうけれど、こういう時我々は強い。
広範囲レーダーをはじめとした警戒はそのままに、ひとまず本日の仕事は半分終わりと言う事になった。
そして翌朝、5時。
「ウロボロス、ターゲットの現在地はどうなっている」
『あいつ結構脚が早いよね。昨日のうちにケルベラックの麓についてたんだもん』
『あいつも一泊してくれたのは良かったわね。日の出と共に山を登り始めて……しかも結構なペースよ。これなら1時間もすればこちら側に出ちゃう』
「1時間……か……」
ここで一度黒騎士と対決しておこう、そうは決めてたものの、パイロット達の事を考えるとやはり決心が鈍ってしまう。
……これは
相手は1機とは言え未知の機兵、侮るのは危険だよ。
ブレイブシャインのみんなは私の判断に従ってくれるはず。
これでも司令官だし、自分で言うのも何だけれど、ここまでの旅であの子たちからの信頼を積み重ねてきたのもあると思う。
ううん、だめだ。それじゃあやっぱり自分の中にモヤモヤとしたものが残る。
黒騎士、アランドラと戦うとなれば万全な状態で挑まなければ酷い目に遭うだろう。
情けないようだけれども、私が俺として、カイザーとして決意を固めるために改めてきちんと彼女たちの気持ちを聞いておこう。
昨日、何時もよりも大分早めに眠ったおかげで既にレニー達は目覚めている。
今はギルドホームの庭でお茶を飲みながら黒騎士に警戒しているところだ。
「さて……黒騎士が現れるまで残り1時間だ。皆の決意は固まっているかと思うが、ここで改めて聞いておきたい。今ならばまだギリギリ森に逃げ込むことが出来る。
ここで戦うか、ジン達の後を追って我々も逃げるか……どうしたい?」
「あたしは……逃げません。ここで逃げても何にもなりませんから」
「ああ……あたいも……そのつもりさ。だって今から逃げたら森に入るところを見られるかもしれないだろう? 黒騎士がどんな奴かはしらねえけどさ、問答無用って奴だったら折角みんなを逃がした意味がなくなるじゃんか」
」
「わたくしは…………いえ、わたくしも応戦に1票ですわ。マシューが言う通り、考え無しの者が来た場合を考えればフォトンライフルが無いとなった時にどういう行動をとるか……最悪のケースを想定してここで一度やりあっておくのが最善だと思います」
パイロット達の意思は固まっている……か。
ではロボ達はどうだろう? 彼らの意見も重要だ。なんといっても彼らにはアニメでの経験があるのだからな。
パイロットの練度を考慮して、ダメならダメだと意見を言ってくれるはず。
『私達はー戦うよーここは私達のおうちだもん』
『うんうん、マシュ~と僕達とギルドのみんなが住む大切なおうちだからね~』
『オルトロスの気持ちもわかるけれど、僕個人としては退避をお勧めしたいね。
帝国の技術力は侮れない。僕からすれば後発の国だけど技術力は凄いんだよ?』
『そうね、トレジャーハンター達の熱意がそのまま建国に繋がったような国、それがシュヴァルツヴァルト。私達が手掛けた遺物を現代に蘇らせた国の特別機よ? 油断はできないわ。
でもね、私は戦いたい。ミシェルのお友達で私達の仲間……マシューの大切なものは守りたい……そう思うの』
オルトロスは勿論そういうと思ったが、ウロボロスは意見が割れたか。
確かにあの国は不気味だ。歴史を見れば建国が一番遅い国ではある。
けれど、"うーちゃん"が言うとおり、その技術力は侮れないと聞く。
剣を交えるとなれば、やはり油断が出来ない相手だよなあ。
「で、スミレさんはどう思う?」
じっと腕組みをして皆の意見を聞いているスミレに話を振ってみる。
彼女なりにシミュレーション等していたのかもしれないし、きっといい意見が聞けるはずだ。
「うーん……、わかりませんね」
「わからない」
「ええ、そもそも黒騎士の情報が足りなすぎるのです。
幸いな事に相手は1機。対するこちらは3機ですので……数だけ見れば勝機はあるでしょう。
しかし、相手の力量がはっきりとわからない以上確信はできません。
状況からすれば、罠に嵌めて撤退というのが一番生還率が高いのですが、その罠を張る時間はもうありません」
「つまりは、当たって砕けろということか」
「砕けないでほしいのですが、当たってみるしかありませんね……」
罠か……もう少し早く聞いておけばその選択肢があったかもしれないな。
けれど、わざわざ言わなかった辺り、スミレ的にも気に入らないというか、上手くいくビジョンがわかなかったのかもしれない。
皆の決意は固い。
もう、みんなの気持ちは固まってたんだな……気弱な事を言って、ここに来て日和ってしまった自分が恥ずかしいよ。
「すまなかったな、みんな。土壇場で気弱になっては司令官失格だ」
「いいんですよ、カイザーさん! あたしもちょっとだけ……怖かったから」
「ああ、あたいだってそうさ。でもさ、カイザーから改めて聞かれて……やっぱここは護んなきゃなって。戦う覚悟がしっかりとついたよ!」
「ええ、わたくしもですわ! 格上相手にわたくしがどこまでやれるのだろう?
恥ずかしいお話ですが、昨夜は少々寝つきが悪くって。けれど、カイザーさんに改めて尋ねられて、皆の意見を聞いて決心がつきましたの」
「うんうん、カイザーさん、謝らなくていいよ。あたし達だっていざとなったらちょっと迷ってたんだから」
「だよな! でもおかげで決心がついた!」
「わたくし達はやれるところまでやりましてよ!」
やる気十分に乙女軍団が答えてくれた。
ありがとうな、みんな……情けない司令官だけれども、
「よし……いいか、改めて当作戦の勝利条件を確認するぞ。
一つ、ギルドメンバーの避難。これはほぼ達成出来ていると言っていいな。
二つ、ギルドホームの防衛。これは頑張るしかないな……なるべく壊すなよ!
三つ、フォトンライフルの防衛……」
ここまでは事前に取り決めしておいた通りだ。
1は確実に達成しなければいけないもの。
2と3は条件付きで達成しなければ行けない物。
その条件とは、勿論……
「最後に四つ目、全員の無事な生還だ。ギルドホームとライフルの防衛、これは確かに重要な目標だ。
しかし、誰かの命を犠牲にしてまで達成しなくてはならないとは俺は思わない。
申し訳ないが、ホームは壊れたら直せばいいし、ライフルは……諦められるものだからな」
「確かにギルドはあたいやオルトロス、じっちゃん達にとっても大切な場所だよ。
でもさ、レニーやミシェル、カイザー達を失ってまで守りたいと言えば違うんだ」
「私達には待ってる人がいるからね。誰一人欠けてもあたしは悲しいし、悲しませたくないもん。
無理そうならなんとしてでも逃げる、そう約束するよ!」
「そうですわね。わたくしはお父様が、マシューはギルドの皆さんが、レニーにはリックさん達が今も帰りを待ちわびているのですから」
そうだな。みんな待っている人が居るんだ。レニーはあまり話題には出さないけれど、故郷には今もレニーの帰りを待つ家族が居るはずなんだ。
こんなところで散らせて良い命じゃない。みんな五体満足に帰還出来ればそれが勝利だ。 命を大事に、これが今回の作戦ということで意思統一が出来たな。
『っと、お客さんが来たようだよ。君達準備はできてるかい?』
『シグレちゃんの言っていた通り反応は増えずに1機のままね。
どうやら西から来たようね。北から来なくてよかったわね。ギルドホームを巻き込んじゃうもの』
そうだな、素直にまっすぐ山を越えて……北から来たとなればギルドの裏山で戦う羽目になったからな。
それに上から来られるとこちらが不利になる。
高低差がある場所で優位に立てるのは上に居る者、つまりは黒騎士だ。
西側から来てくれて本当に良かった!
『対象は呑気にグレートフィールドを歩いてきたようだね……』
『結構目立つでしょうに……何を考えているのかしら』
ほんとだよな。トリバにバレるとまずいから、わざわざ大陸を迂回してこっそり北側から上陸したろうに……これじゃあ余計な目撃者を作ってしまうんじゃないのか?
騎士団というからには賢い奴だろうと思っていたけれど……少々アレな奴なのかもしれないな。
となれば、やはり先にジン達を逃がしておいて良かったのかもしれないな……。
「カイザー! 敵機、目視できます」
よほど急いでいるのか、結構な速さでこちらに向かって走ってきていたようだ。
おいおい想定よりだいぶ早い接敵だぞ……っと、この機体は……
「……黒いな……」
「はい、どことなくカイザーににていますが、黒いですね」
「人型なのを考慮しても……結構うちの機体に似ているよな。大戦時の遺物を基にしているからそうなるのかな」
「かもしれません。いずれにせよ、あの機動力は侮ってはいけませんよ」
「ああ、勿論だ」
と、迫りくる黒騎士に備えながら陣形を整えていると……やたらと元気が良い男の声が荒野に響き渡った。
「おらおらおらあ! 聞こえるかあ? トレジャーハンター共ぉ! 俺は山賊だあ!
おめーらが隠しているお宝、頂きに来たぜ!」
「カイザー……あれは……」
「いい、言うな。わかってる。あれはどう見ても山賊じゃない……わかってる……」
意気揚々と現れた黒い機兵……それがコクピットハッチを大きく開き、パイロットらしき男が仁王立ちになって何やら妙な名乗りを上げている。
えぇ……変な奴が来ちゃったな……。
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