第百四十四話 つかの間のフォレム

翌日、名残惜しそうに見送る村人達に再会を約束して別れを告げて俺達はフォレムへと向かった。


 今回はロボモードで淡々と進んでいるので商人に捕まることも無く、急ぎ足だった事もあって日暮れ前には余裕でフォレム入りする事が出来た。


 門を抜け、そのまま真っ直ぐに我々の拠点と化しているリックの工房に向かった。

 どやどやとゲートを潜って中に入ってみれば……珍しくアルバートの姿もそこにあった。


「お、カイザー達じゃねえか! もう帰ってきたのか?」


 ニコニコと手を上げるリックに久しぶりだな、と声をかけようとして思い出す。

 おっちゃんことアルバートには俺達の秘密を話していなかったのでは無いか。


 レニーに確認を取ると、(ああ~~! 忘れてたあ!)という顔をして居る。


 どうしたもんかと思っていると……アルバートがこちらにやってきて声をかけてきた。


「よお、レニー! 無事の帰還何よりだ! そしてカイザーつったか、噂は聞いたぞ!」


 む? 噂……? それはもしかして……


「あれ? おーい、カイザー! お前喋るんだろ? 商人が言ってたぞ! パインウィードで見たって! 銀髪の少女が乗る白い機体つったらお前しかねえじゃねえかよ!」

「なんだよ、カイザー、アルに教えてなかったのか?」


 やっぱりか。コツコツと続けてきていた活動がおっちゃんにまで届いたってわけだな。

 そして今日まで打ち明けていなかったことを知ったのか、リックが呆れた表情で俺を見ている。


 いやまあ……レニーの大切な人だし、内緒のままってのもアレだと思ってたし……言うタイミングを逃してたというか、忘れていただけだから……このタイミングで話そうと思ってた所なのだが……なんだこれ、言い出しにくいな。


「カイザーさん、おっちゃんが気の毒になってきたから……ね?」

「うむ、その……なんだタイミングというかなんというかな……。

 まあいいか。じゃあ改めて……俺はカイザーだ。よろしくなアルバート!」


「お、おお、おう! やっぱ喋んじゃねえかよ! な、なんだ……その。実際見るとび、びびるなこりゃ」

「だからおめえはいつまで経ってもジャンク屋なんだよ!」

「う、うるせえ! リックだって最初はびびったんだろ!?」

「さてな」


『私達はオルトロス-』

『よろしくね~』


『この姿では初めましてだねリック』

『ミシェルの、ウロボロスよ』


「おお、見慣れねえのが増えてると思ったがまた喋るのが増えたのか!」

「か、カイザーだけじゃねえのかよ! なんだよおめえら……すげえな……」


「私もこの姿では初めましてですね、リック。

 アルバートも色々とお世話になっています、スミレです」


「う、うお、うおお! す、スミレェ?」

「なな、なんだこいつは? よ、よよ妖精か?」


 スミレの姿を見た時が一番びびるってどうなんだ。

 ジャンク屋とメカニックだから機兵には理解が及ぶが妖精っぽい何かには理解が追いつかないって事か?


「スミレはこう見えてちっさい機兵みたいなもんで、これはれっきとした機械の身体なんだ。

 別に妖精なんて不思議で大それたな存在じゃないし、普通に接してやってくれ」


「それはそれで恐ろしいわ!」

「まったくだ! 一体どうやったらそんな小さくて緻密な機兵作れんだよ!」

「これは私が自分で作りました。パーツの一部はアルバートの店で買った物ですよ」


「ああん? じ、自分でぇ? す、すげえなお前さん……」

「うちの店にそんな上等なパーツがあったのか……」


 おいおい、アルバートはもう少し店の商品に自信を持てよ……。


「あ、そうだ二人居るなら丁度いいや。はい、お土産だよ」


 空気を読めるよい子、レニーがバックパックからドサドサと山のように酒や海鮮を取り出した……なんつう量だ。


 ちょいちょいと討伐した獲物を納品して稼いではいたから金はまあ、それなりに皆持ってたとは思うけど、にしてもこんなに買い込んでたのか? 保護者に対するレニーの愛が凄いな。


 そして……バックパックの存在を知らないアルバートが腰を抜かし、ぷるぷると震えている。そうか、そうだよな、おっちゃんならそういう反応するよなあ。


「お、おおおい! 今更何を出されてももう驚かねえと思ったが、なんだ? 今のこれ、どっから? どっから出した?」


「機兵の俺が自分の意思で動いて喋る以上、何があっても驚かない方が良いぞ……。

 じゃないと心臓がいくらあってもたりんからな」


「へ、へへ……ちげえねえや。カイザーは冗談も言えるんだな。

 まったく変わった機兵が居るもんだぜ……」


 だらだらと雑談をしながら、土産を分けながら30分ほど休んだ後、レニーがリック達に今夜はここに一泊をして、明日の早朝には発つよと伝えると『じゃあ、今からタップリ土産話でも聞こうか!』と、保護者達が盛り上がったのだが……『ごめんね、ハンターとしてギルドに報告しにいかなくちゃ』と、オヤジどもをバッサリと切り捨ててギルドに向かっていってしまった。


 楽しげに去って行く乙女軍団を見送り、ロボ軍団とオッサン軍団が取り残される。

 暫くの間、なんとも言えない空気が漂っていたが……いち早く我に返ったリックが少々鋭い瞳で俺を睨み付ける。


「おめえさん達が帰ってくるのはもう少し後だと踏んでいたが……随分早いお帰りだな?」

「ああ、ちょっと面倒な依頼を受けていてな。その流れでこちらに急ぐことになった」

「……やっぱりそう言う事か。まあ、規約だなんだで言えねえ事情もあるんだろうから詳しくは聞かねえがよ、レニーの事……頼むぜ?」

「な、なんだ? レニーはそんなヤバそうな仕事をうけるようになったのか?」

「正直言って危険な依頼だと思う……しかし、約束しよう。

 俺がどうなろうとも、必ずレニー達を護り抜くと――」


 と、俺が決意を新たにするとリックにスネをガァンと殴られた。


「馬鹿野郎、おめえさんがぶっ壊れちまったらレニーが泣くだろうがよ……。

 おめえさんも無事に帰ってこい。まだ俺に見せてねえ素材が色々あんだろ?

 素材毎おさらばなんて許さねえからな」


「ああ……そうだな、ありがとうな、リック。しかし素材か……そういや出しにくい素材が結構あんだよな……ヒッグ・ギッガに……ヒーガ・マッゴに……それからええと……」


「ああん? 今なんつった? ま、またなんかヤベえのが増えてねえか?」

「おいおいおい! 嘘だろ? レニーがそんなの狩れるわけ……なあ、嘘だろお?」


 ったく、オッサン共には敵わんな。

 

 赤き尻尾の件がどう転がるのか、今の所は全く予想が付かないけれど……

 ……絶対にパイロット、機体共々無事に戻ってこよう。


 俺達には待っている人達が沢山居るからな!

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