第百三十七話 ロボ軍団会議

乙女軍団がなにやら旅行者らしい乙女を捕獲し、楽しそうにしている頃……俺達は宿裏の駐機場で作戦会議をして居た。


 明日には次のポイントの調査に向かう予定だ。鳥の魔獣という懸念がある以上、のんびりとはしていられないからな。

 

 奴は恐らく今も何処かで我々を監視していて、きっと我々がゲンベーラに向かったと慣れば間違いなく現れるはずだ。


 奴との再戦は……間違いなくその場で実現する。


 パイロット達にも何か案を考えておくように――とは伝えて置いたけれど、珍しく留守番を決め込んだスミレから報告された乙女軍団の様子を聞くに期待は出来ないだろうな。


 まさか一般人を巻き込んで普通に休暇を楽しんでしまうとは思わなかったからな。

 乙女軍団だけなら兎も角、外部の人間が一緒にいるとなれば、流石の彼女達とは言え、普通に休暇を楽しんで終わりになっちゃうだろうさ。


 ま、そういう日がないと人間参っちゃうからね。何より善意で行ったことのようだし、別に文句を言うつもりはないさ。


「というわけで、今日はスミレも居るしロボ軍団で会議をしようと思う」


『わー』

『どんどんぱふぱふ~』


『何でそこで盛り上げるんだい、オルトロス……』

『まあいいじゃないの。楽しみながらやりましょ』


「今回の議題だが、勿論例の魔獣との戦い方についてだ」


『その事についてですが、重大な事に気がつきました』


「む、いきなり会議の方向性が変わる発言だね」


『パイロット達との会議では、"見えない敵と戦う方法"について案を出し合っていましたね?』


「そうだな、結局良い案は出なかったから今日はロボ達の視点で考えてみようと思ったんだけど……」


『その前提が間違っています』


『うん? 相手は光学迷彩とステルス機能を備えた厄介な敵だろう?』

『そんな相手とどう戦うか、そう言う話じゃ無いのかしら?』


『……思い出して下さい、あの日洞窟で戦った時のことを』


『あー! 見えてたねー!』

『鳥がいたよね~! なんかカラスみたいに黒い奴!』


『そう、見えていたのですよ。姿が』


「確かに、言われてみれば見えていたが……あ!」


『ええ、ターゲットは戦闘中、光学迷彩を解いて姿を現していたのですよ』

 


 酷い思い込みだったなこれは。

 スミレはおろかウロボロスの目まで掻い潜って俺達を出し抜いたあの魔獣。


 それを実現させたのはカメラもレーダーもすり抜ける光学迷彩と高度なステルス性能による完全に近いスニークだった。


 交戦結果だけを考えれば苦戦をしたし、まんまと取り逃がすことになってしまった。


 しかし、それは相手の姿が見えなかったからではない。

 飛行による機動力を位置取りを武器とする相手に慣れていなかった未熟さが招いたものだ。

 

 相手は足場の悪い凍結した洞内でそれを気にせず自在に移動することが出来る。

 経験不足に加え、地形効果によって俺達は苦戦を強いられる事になった。


 ああ、ちくしょう。俺の悪いクセが出てしまってたな……。

 

 鳥型魔獣において一番厄介な機能は何か?

『それは透明化である』

 

 そう、考えてしまったら、思い込んでしまったら……もう、後はそれにまっしぐらだ。

 

 高機動で飛行する敵とどう戦えば良いのか考えていたつもりが、いつしか透明化にどう対処したらよいか、それだけに夢中になっていた。

 

 確かに、あのステルス性は厄介なものだ。

 しかし、冷静になってスミレの話を聞いてみればどうだ。

 奴は戦いの際にはそれをを解いてその姿を視覚的にもレーダー的にも我々に晒していたではないか。

 

『でもさー、どうしてかくれんぼやめたんだろねー?』

『透明のままなら僕ら殴られ放題だったよ~』


「そうだな、敵が集団なら同士討ちの恐れもあるだろうから頷けるが……相手はソロだった。

 単騎であるのならば、透明化にデメリットなど何も無いはずだよな」


『しかし、奴は透明化を解除していた』

『大きくて黒い鳥型の魔獣、確かにその姿をはっきりと晒していたわ』


『理由は恐らく負荷、でしょうね』


「負荷……か。ステルスは兎も角、光学迷彩は負担が大きそうだもんな」


「はい、まして戦いとなれば動きは大きくなり、生半可な処理では周囲に溶け込むのは不可能となるでしょう。増して……相手はこちらの世界の魔獣です。我々のように高度な演算が可能となるOSやAIを搭載しているとは到底思えません」


『それくらいであればオフにして攻撃にリソースを割く……か』

『当然よね。スニーク中であれば兎も角、見つかって敵が警戒している目の前ではあまり意味が無いもの。あの距離なら広範囲攻撃でもすればどこに隠れていてもあたってしまうわ』


「とは言え、だ。あれを上手く使われるとやっぱり厄介だぞ。

 打ち合っている最中に一瞬でも姿を消されたら……そう考えると恐ろしいよ」


『幸いなのは奴が近接戦闘が得意では無さそうな所です。

 あくまでも推測ですが、前回の戦いを分析すると避けるのが精一杯、その様な印象を受けました』


『あいつ、かくれんぼは上手だけどー』

『攻撃するのは上手じゃなさそうだったもんね~』 


「次のポイントはゲンベーラ大森林、樹木が生い茂る森か……。

 攻撃が苦手そうだとはいえ、だ。奴がどんな攻撃をするか分析が済んでいないし、相手が飛んでいる以上我々は不利な事には代わりはない。

 であれば、こちらのフィールドに持ち込む、どうにかして叩き落とす方法が無いか、と思うのだが」



「であれば……敵の狙いは明らかですから。それを上手く使えば……ね?」


 わざわざ人形に移ったスミレが悪戯そうに笑うと俺に作戦案をアップロードした。

 クスクスと笑うスミレは楽しそう、というか何処か邪悪な笑みを浮べていて、余程悔しかったのだろうなと推測できる。


「なるほどな……この作戦なら戦いになるどころか、互いに無傷のまま相手を捕まえることが出来るかも知れないな」


「全てが上手くいけば、ですけれどね」


 スミレの作戦はパイロット達の連携が重要であり、それ以上に場を見て柔軟に対処する事も求められる。


 搭乗者の捕獲はあくまでも『出来たら』であり、今回の作戦における合格点はもう少し下にある。


 今回は敵に「そう簡単には奪えない」と覚え込ませることが第一目標だ。

 なので奪われなければそれだけで勝ちで有り、同時に相手を警戒させることが出来る。


 警戒した相手は仲間を連れてくるかも知れないし、作戦を変えてくるかも知れない。

 

 しかしアレを解除する事が出来るのが俺だけであるというのは大きなアドバンテージ。

 いくら暗殺に優れているような相手であっても、うかつにブレイブシャインのメンバーを手に掛けるようなことはないだろう。


 奴らからすれば、我々の誰がアレを解除する能力を持っているかわからないのだからな。


 下手に手出しが出来なくなった相手には隙が産まれ、やがて捕獲するチャンスだって訪れるかもしれない。

 

 それは別に前回してやられた鳥魔獣の搭乗者でなくてもいいのだ。

 向こうの手の者を一人でも捕らえられれば情報を入手出来る可能性はある。

 

 なんにせよ……明日の作戦は今後に繋がる大切な物になるはずだ。

パイロット達だけじゃなく、俺達ロボ軍団も気合を入れて挑まないといけないな。

 

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