第百二十六話 暗部
◇◆????◆◇
―帝国領某所
「成る程、奴らはアレを回収していったか」
「ええ、リブッカの調査をする者が居たため、念の為に監視を続けていましたが……。
まさかアレにたどり着くとは……」
薄暗い小屋の中でボソボソと小声で言葉をかわす二人の人物。
依頼主である帝国軍諜報部アルスト・レビン、そしてもう片方はアサシンギルド所属の若い女……いや、年の頃は10代中頃の少女である。
アサシンギルドと聞けば、何か物騒な暗殺等を生業にするしている姿が頭に浮かぶが、ギルドが請け負う仕事はそれだけではなく、影となり闇に溶け込み人知れず情報を集める諜報活動も彼らが得意とする仕事だ。
ギルドと名は付いているが、これは裏組織。その存在を知っているものは決して多くはない。
アサシンギルドの本部、アサシン達が帰る場所については様々な噂が飛び交っているが、その場所を正確に識るものはギルド員以外には存在しない。
帝国の強硬派が彼らの力を完全に掌握し、帝国諜報部に取り込もうとしたことも過去にあったのだが、作戦開始から間もなくして出立した諜報部員達の存在が永遠に失われることとなってしまった。
経緯からしてアサシンギルドに消された事は疑いようがなかったが、諜報部員達に何が起きたのか、一切の情報が掴めず、作戦は完全に失敗してしまった。
その後も懲りずにあれやこれやと手を変え、どうにか内側に引き込もうとしたのだが、そのどれもが徒労に終わってしまった。
帝国としてはどうとしても手に入れたい力ではあったが、相手方の情報が一切入手できない以上どうすることも出来ない。
現在においては既にうちに引き込むことは諦め、対等な間柄として仕事を頼んでいる。
勿論、アサシンギルドに仕事を依頼するのは帝国内部の人間だけではないため、ギルドが請け負う仕事の中には帝国に都合が悪い依頼も存在するのだが……ギルドを抑え込めない以上、割り切った付き合い方をするしかないのであった。
「アレから我々に辿り着く可能性はあるか?」
「我らはあくまでも諜報が仕事。故に拙い意見になりますがよろしいかな」
「ああ、構わない。君が見て感じたことをそのまま話してくれればそれでいい。
ここ数日、奴らを監視していた君の意見を聞きたいのだからな。
そうだな、先ずは改めて詳しい報告をしてくれ」
「であれば……。
連中の姿を初めて見かけたのはルナーサにほど近い竹林でござった。
中間報告にも上げたとおり、連中は見慣れぬ3機の機兵に乗っています。
アレに気づいたルナーサが軍機を派遣したのかと思い、監視を続けていましたが、その日は大したことはせず、平原にも近づくことはせずに帰還していきました」
「確か、2機はそれなりに手練だが、1機は素人だと報告していたな」
「ええ、竹林に槍を持ち込むとは初心者もいい所。故に軍人ではなく、ただのハンターであり脅威度もまた低し……と報告を上げましたが、問題は翌日です。
槍を持っていた紫色の機兵がタチ……いえ、リーンソードを装備していたのです」
「ほう、リーンソードか。今では見ることも少ないのに何処からもってきたのやら。
大方家の倉庫から持ってきたのだろうが、アレは素人には難しいと聞くぞ」
「ええ、故に私も呆れつつ監視をしていました……が、その動きは決して付け焼き刃等ではなく、永きに渡って鍛錬をしたブシドウに通ずる物がありました」
「ブシドウ……大戦と共に失われた武術と聞くが一体何処でその技術を……」
「わかりません……が、連中の調査はそれで終わりではなく……。
その後、調査先を原野に変えたようで南下していきました」
「先程聞いたとおりだな。リブッカの調査をしている以上、本来の生息地を見に行くのは当たり前の話だ。リブッカを追っている以上、よほどの間抜けではない限りそうするだろう。
……しかし、連中は池には寄らず、そのままビスクルに抜けたと報告にあったが?」
「その行動は私にとっても想定外で首をかしげましたが……もしかすれば軍部からの依頼、はたまた軍部のツテを使っての調査かと疑い監視を続けました。
が……奴らは普通に露店で買い物をしていただけで特に何か目立った行動をとる事もなく。
ろくに荷物も持っていなかったようなので恐らく補給に寄ったのだと思いますが、
アレだけの動きが出来ながら、初心者ハンターのような行動……理解できません。
熟練のハンターであれば、平原の調査となれば十分な備えをするはずですからね」
「ううむ、こちらに気付いて撹乱しているという線はないのか?」
「それはないかと。ビスクルで私が監視していた赤毛のパイロット、恐らくは獣人族の女と思われますが、奴は屋台を次々巡ってはだらしない顔で買い食いをしていましたから」
「しかし、それが……結果としてはアレを回収していったのだろう?」
「はい、あのパーティーの中にまともな奴が居るとは思えませんでしたが、翌朝になるとまっすぐ池に向かい間もなくアレを発見しています……不可思議な事です」
「やはり村で協力者から情報を得たのではないか?」
「そうでしょうか……。他のパイロットも……いえ、全員が一様にただただ買い物を楽しんでいたようにしか見えませんでした」
「回収した後はどうだったのだ? 何か気付いたような気配はしたか?」
「いえ、水から引き上げたそれを……無警戒に手にとると、どこかにしまいこんでそのままルナーサヘ引き上げていきました。
形状から銃だと勘違いしていたのでしょう、銃のように構え、何かふざけているようでしたからね。
まあ、なにか面白いものを見つけたというくらいにしか思っていないのでしょう」
「ふむう、であればアレを回収することは可能か?」
「はい、間抜けそうな連中です。お時間をいただければ必ずや」
「よし、今日は休んで明日からまた頼むぞ、シグレ殿」
「かしこまった」
シグレと呼ばれたアサシンは表に出ると口笛を吹き何かを呼び寄せる。
現れたのは巨大な黒い鳥――いや、それは魔獣だった。
ひらりとそれに飛び乗ると夜の空に消えていく。
一人小屋に残ったアルストは報告に会った3人について考えていた。
(作戦について感づかれることはないとは思うが、念には念を入れておかねばな。
人が魔獣を作り出す……この禁忌が世にでることとなれば他国は黙っては居ないだろう)
アルストはあちこちに印がつけられた地図を広げため息をつく。
(上の考える事は理解できん。魔獣を生み出し資源にするなど……あってはならないことだ。
しかし……従わねば俺だけではなく家族まで……。
……願わくば、この忌々しい印が全て何処かへ消え去ってくれればいいのだがな)
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