第百二十七話 依頼の裏に潜む影
念願の……純正装備を一つ取り戻したぞ!
しかもそれは熱望していた射撃武器であり、カイザーの象徴とも言える武器だ。
俺の心が「ぶっ放そうぜ!」と囁いていたが、これは一応今回の件における証拠品だ。
はやる気持ちをぐっと抑え、先ずはアズベルトさんへ報告を入れることにした。
レニーもまた、カイザーリボルバーRの虜となり、撃ちましょう、撃ちましょうと俺を誘惑していたのだが……
「お楽しみは後に取っておいたほうが嬉しさが増すだろ?」
と、それらしいことを言ってやったらあっさりと納得して静かになった。
単純なやつは好きだぜ、レニー。
というわけで、サンプルとして池の水を回収し、カワウソも数体狩った我々は急ぎとルナーサに戻ることにしたのである。
決して早く試射がしたいからではない。この件は急ぎ報告する案件だと判断したからだぞ。本当だぞ。
帰り道の話題は謎の飛行魔獣だ。
今回の調査で姿を見ることも、痕跡を見つけることも無かったため、見間違いかホラではないかと言う意見も出たのだが……
「私も何度か未知の反応を検知しています……。
ログを見るとなんとも言えませんが、目撃例がある以上、念のため警戒はしておきましょう」
スミレが冗談とは思えないまじめな表情で言っている以上、やはりこの情報は無視することは出来ない。
俺も何か……気になるというか、妙な胸騒ぎがするのでこの件に関しては依頼と関係なく、今後も継続して調査することに決めた。
……
…
いつも以上に周囲に気遣い、索敵精度も上げていたのだが……。
帰り道に怪しげな気配を察知することはなかった。
他にも特筆する事はなく……強いて言えば土産代わりに何度かリブッカを狩ることはあったが、それ以外には殆ど戦闘も発生せずに皆無事に帰還することが出来た。
屋敷に帰還後、いつもの流れで格納庫に集まってアズベルトさんに報告となった。
「……以上が今回の調査によって判明したことです」
「ありがとうございます、カイザー殿。しかし……本当にこの水の中に魔獣が居るのですか?」
「小さいので肉眼では見にくいんですが……水槽に顔を近づけ良く見てみて下さい、なにか小さいものが動いているでしょう」
「確かに……何か、粒の様なものが動いていますね……」
アズベルトさんが水槽に顔を近づけ、魔獣が泳ぐ姿をしげしげと眺めている。
中にはミジンコサイズの魔獣が何体か泳いでいるのだが、肉眼でその姿をしっかりと見ることは難しいし、魔獣であると目で見て理解することは無理だろうな。
なので俺のカメラで撮影し、拡大した映像を投影してみせることにした……というか、はじめからこうすればよかったな……。
手のひらサイズにまで拡大されたミジンコが空間に投影され、ちょこまかと体を動かす姿が明らかになった。
それは明らかに機械化された生命体――魔獣であると判断できるものである。
「これがこの中に居るんですか……」
「はい、この中を拡大して投影しています。これならはっきり見えるでしょう」
「ええ……確かに。魔獣の特徴である金属の身体を持っていますね……」
アズベルトさんは水槽をちらりと眺め言葉を続ける。
「それで……この生き物が発生した原因を作ったのはカイザー殿の武器である、そうおっしゃいましたね」
「はい、非常に言いにくい話ではありますが、先程説明したとおりですね」
「カイザー殿達がそう結論付けたのであれば、きっとそれは正しい事なのでしょう。
仰る通り、カイザー殿の武器が池の生物を変異させ、リブッカもまた池の水を飲み変異した存在であると考えられます。あの辺りはかつてはリブカの生息地でしたからね。
しかしです、カワウソの魔獣については話は別です」
「と、言いますと」
「カワウソが変異した原因は確かに池の魚――カイザー殿の武器が要因となっているのでしょう。しかし、カワウソがあの地に辿り着いたのは偶然とは考えにくいのです……」
アズベルトさんは難しい顔をすると、資料を広げた。
「見てください。これは別件で調べていた魔獣の発生地です」
広げられた資料はざっくりとした大陸の地図で、そのあちこちにバツ印がつけられていた。
カワウソがいた池は勿論のこと、近いところではラウリン西部にも印がついている。
「……これは、新種が発見された場所です……」
「新種……? まさか他にも同様の異変が起きているのですか?」
「はい……今回の調査はもしかしてと言うところでは有りましたが、大当たりでした。
黙っていた事については謝ります。この件は防衛上非常に重要なお話で、機密事項として取り扱っていますので」
「それを俺達に話したということは……協力を求めたい……そういう事でしょうか」
「いえ、強制はしません。しかし、ここまで重要な情報を持ってきていただいたのですし、無関係な話ではなさそうでしたので開示すべきだと判断しました」
「他にも新種が現れた土地がある……ともすれば、もしかしてそこには……」
「ここから先は……申し訳ありませんが協力の確約が出来なければお話することが出来ません。
あなた方には選ぶ権利があります。どうでしょう、我が国に協力していただけませんか?」
真面目な顔をしたアズベルトさんは俺達をじっと見つめている。
ここから先は個人の依頼ではなく、ルナーサ商人連邦からの依頼、しかも機密事項が含まれる依頼だ。
首を突っ込めばきっと何かしら面倒なイベントがほいほいとやってくるはずさ。
これは俺一人の判断で決めて良いことではない。
ブレイブシャインみんなの意見を聞いてから決めよう。
「防衛上大切なんだろ? あたいは手伝ったほうが良いなって思うよ」
「うんうん、ルナーサに何かまずいことがおきてるんでしょう? ミシェルの国だもん、助けなきゃ」
「二人とも……ありがとうございます……」
「それに……これはカイザーやウロボロス、オルトロスにとっても重要なお話だと思いますよ」
「ああそうだな。異変が起きているとされるポイント……因縁を感じずにはいられない」
「……リブッカの件はカイザー殿が失った武器が原因となっていた、つまりは異変があった場所に武器があるのではないか……そうおっしゃりたいのですね?」
「はい。自分たちの装備品……それが何か悪さをしているとなれば、責任をもって回収しにいかねばと考えています。
パイロット達も同意している様ですので、この件、手伝わせていただきましょう」
頷きながらアズベルトさんは続ける。
「では、あなた方には改めて追加で長期の調査依頼を出させていただきます」
「勿論、受託します」
アズベルトさんが予め用意しておいたらしい依頼書を取り出すと、それをレニーの元に差し出した。
依頼内容はルナーサ内部に起きている異変の調査。ただし今回は期限は設けられておらず、調査範囲もルナーサ全土とざっくりしたものになっている。
わざわざ追加依頼として発注し、それもこちらの意思を尊重したうえで、国に協力するかどうかを尋ね、その意思が無ければ詳細は話せないときたもんだ。
一体どれほどヤバい案件が飛び出してくるんだろうな……怖いような楽しみなような……。
それだけずっしりと重たい依頼だというのに、レニーは普段通り落ち着いた顔でがさらさらとそれにサインをし、アズベルトさんにあっさりと手渡した。
何もわかっていないのか、頼もしいのか……。
アズベルトさんは深々と頭を下げてそれを受け取ると、割り印をした半分をレニーに返して依頼の詳細を語り始めた。
「それでは現時刻をもって依頼を受託したとみなし、さらなる詳しい情報を開示しましょう。
まず、前提としまして……この件には恐らく……帝国が絡んでいます」
ゲゲェ……て、帝国ぅ? ここで帝国が出てきちゃうの?
機兵マニアが立ち上げたとされているシュヴァツヴァルト帝国が黒幕……?
ま、まさか……奴らが俺の武器を狙うライバルだったり……するのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます