第百二十五話 池の謎
「貴方の武器です」
スミレにそう言われ、はやる気持ちを抑えて……より詳細に状況を探る。
スキャンによって表示されているのは形状からすればハンドガン。
水深4m程度の場所に突き刺さっており、銃口を天に向け直立している。
スキャナーをそれに集中させてようやく検出する事ができたが……微弱ながらも輝力を放出していて、外部に何らかの影響を及ぼしていたことは明らかである。
見つけてしまった以上、即座に回収せねばなるまい。周囲に影響を及ぼす要因は速やかに撤去スべきだからな。決して俺が直ぐに手に取りたいとかそういう理由ではない。
ほんとだよ?
俺が動くことにより、この池の監視が台無しになってしまうけれど、マシュー達がそれぞれ別の場所に散っているから問題あるまい。
「カイザー、待って下さい。先に確かめたいことがあります」
「確かめたいこと?」
「レニー、水に手を入れていただけませんか? サンプルを採りたいので」
「さんぷる? 良くわからないけど手を入れればいいんだね」
レニーが俺を屈ませ、水に手を差し入れる。スミレは一体何を調べるつもりなのだろう?
むむ……水温はやや温め、多数のプランクトンが生息する肥沃な水だ。
それは良いのだが……ああ、これはこれは……うわあ。
「やはり水に輝力が溶け込み周囲に影響を及ぼしているようですね」
「いやまってくれ輝力って水に溶けるもんなのか?」
「厳密に言えば、違います。簡単に言うとですね……」
スミレが「簡単に」と言いつつ長い説明をしてくれた。
それによると、まず輝力は池に生息していた動物性プランクトンに影響を及ぼした。
それは言わば極小の魔獣とも言える存在となり、別の生物に捕食された。
そしてそれがさらに別の生物に補食され……それを繰り返していって――言わば輝力の生物濃縮が発生してしまった。
池における生態系の頂点は肉食魚である。
ただ、それは適正が無かったのか魔獣化はせず、ただただ体内に輝力をため込んでいた。
それを捕食したのが何処からかやってきたカワウソだ。
池に訪れたカワウソは魚を捕食し、体内に輝力を取り込むこととなってしまった。
そして適正を持つ個体がそれと反応し魔獣化した、スミレはそう結論づけた。
ここで一度仲間を集め、情報をまとめることにした。
『わたくし、はっきりとみましたわ。確かにカワウソがリブッカの足を齧る姿を。アレは何なのでしょう? 悪戯なのでしょうか? とても捕食しているようには見えませんでしたわ』
「なぜ噛むのかはわからんが……カワウソと言う生き物はペットとして飼育した際に油断すると結構な力で噛まれるらしいからな……。もしかすればリブッカの足元をちょろちょろしているうち、誤って踏まれて報復し……そのうち面白がって悪さをするようになったのかもしれないな」
『ああ、そういやあたいが見てたリブッカはカワウソを踏んずけて噛まれてたな。レニーみてえな奴もいるもんだと笑ってたが……まさかそれが真相かよ』
「ちょっとマシュー、ひどいんじゃないの?」
『ああ、わりいわりい。どちらかと言えばレニーはカワウソに似てるよな』
「マシューこら!」
「しかし……このカワウソ、unknownということで図鑑に載っていない魔獣なんだよな。
魔獣である以上、元となった生物が居るはずなんだが……』
『ううん。あたいはみたこねえんだよなあ……』
「私もないですね。ラック・パッダに似ては居るけれど、アレよりはスラッとしているし」
『ううん……確かにラック・パッダに似ていますわね……ラック・パッダの原種はラクーン・パンダでしたかしら……ううん』
撮影したカワウソの画像を皆で眺めつつ、思いついたことを何でも喋りながら推理する。
と、ミシェルが何か思い出したような顔をして口を開いた。
『そうですわ、このカワウソ……前に帝国から持ち込まれた剥製で見たことがありますわ』
「ほう、詳しく聞かせてくれないか」
『なんでも、半島にしか生息していない動物だとかで、あちらの商人が猛プッシュしてましたの』
であれば、何かしらの原因で……ここ数年の間に何かが起きてこちらにやってきたと言う事か?
「なあミシェル。この周辺で近年何か災害か何か無かったか?」
『災害……ですか?そうですね……そう言えば5年ほど前でしょうか、大規模な地滑りが発生しましたの』
「地滑り? それはどこでだ?」
「帝国側の山を見て下さい、ほら、あそこ滝になっているでしょう?」
ミシェルに言われ指す方向を見てみると確かに立派な滝が存在していた。
それは国境沿いを流れる川となり、ルナーサ側の海に注いでいるらしい。
『あの川はその地滑りで産まれましたの。元々あった山上湖が地滑りによって決壊し大量の水が溢れ出す大災害でしたのよ』
「それが今でも滝となって残っているわけか……つまり……」
『その山上湖に住んでいたカワウソたちが落下後もしぶとく生き残り、その何体かがこちらまでやってきた、そして池に住み着いた……という事なのでしょうか?』
「そこまでタフな生き物が居るのも疑問だが、本来居ない生物がここで魔獣化して居る以上、取りあえずの理由としては有りかも知れないな」
ギルベルトさんやギルドに報告をする以上、何らかの理由を添えなければいけない。
正直俺の武器が原因であると、ギルベルトさんには兎も角ギルドには言いたくないのでそこはまあボカすが……。
バレたら国際問題に発展しかねないからな……うう、怖い怖い。
「よし、取りあえずレポートはそんな具合でするとして……お待ちかねのお楽しみタイムと行こうじゃ無いか」
『お楽しみタイム? おい、そりゃなんだカイザー?』
『何か面白いものでも見つけたのですか?』
「おっ、鋭いなミシェル。よし、レニー! さっそくやってくれ!」
「はい、わかりました!」
レニーは良い返事をすると、ジェットガントレットを池に放ち、底に沈んでいる装備を見事に掴み、池の上までぐいっと引っ張り上げた。
「どんだけここに沈んでいたのかは知らないが、随分と綺麗なもんだな」
そして同時に武器から情報がアップロードされ、詳細が明らかになる。
【カイザーリボルバーR】
カイザー専用の小型銃で、リボルバーを模した
一発撃つ毎にシリンダーが回転し、計六発使用するとリロードが必要となる。
その際、フォトンで出来た薬莢が排出されるが、それはただの浪漫で有り、大した意味は無い。
同型のカイザーリボルバーLと同時に装備することにより二丁拳銃モードとなり
より多彩な攻撃方法をとれるようになる。
「ねんがんの しゃげきぶきを てにいれたぞ」
「なんですかカイザーさん、そのわざとらしい口調は……」
「い、いや……言ってみたかっただけだスマン……」
いやいやいや! 念願の射撃武器ですよ! レニーに射撃の練習をさせておいて良かった。本当に良かった!
これで噂の飛行魔獣が現れてもある程度なら対処可能だぞ!
しかも二丁拳銃モード? こりゃやはり何処かに眠る相棒を見つけて試さないといけないな。
調査結果はなんとも微妙な感じだったが、武器が手に入ったので俺は良しだよ!
……
…
珍しく異常にはしゃぐ俺を様々な視点で生暖かく見守るパーティーメンバー達。
しかし……この時、我々はは気づいていなかった。
レーダーを掻い潜り、我々の姿を鋭い眼差しで見つめる者が居たことに……。
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