第百二十四話 水場

 夜になり、我々は昼間集めた情報を元に明日以降の活動方針について打ち合わせをした。


『というわけで、昼間連絡したとおり、乾物屋の主人から飛行魔獣について聞いたのですわ』

『今まで居なかった魔獣が現れた、ってのはリブッカの移動に関係がありそうだけど、どうもピンとこねーよなあ』

『そうだよね。それが沢山居るのなら話は別だけど、1匹ならもっと別の原因がありそう』

 


 単体で影響を及ぼすような事態を巻き起こす……と考えた時に浮かぶのはヒッグ・ギッガだけれども、相手は空を飛ぶ魔獣で、目撃例があまり多くはない。

 なにか影響を及ぼすほどに目立ったことをしているならば、もう少し噂になっているはずだし、そんな事をして居ればここに来るまでになにか見つけられていたと思う。


 ここまで目撃例が少ないとなれば……恐らく居るのは1匹だけだと推測される。

 1匹だけの迷い鳥であれば、リブッカが捕食を嫌って大移動すると言うことにはならないだろう。


『そうそう、あたいが聞いた話だと足を怪我しているリブッカが多いらしいんだ』

『足? どうして足なんだろ』

『それは分からないが、村の近くまで逃げてくるリブッカは大体足を怪我してるんだと』

『ううん……、あまり聞いたことが無い話ですわね。わたくし達が狩った個体にもそんなことはありませんでしたし』


 足に怪我……か。これはかなり大きな情報だ。

 

 単純に考えよう。何か、リブッカの足を囓る存在が現れたのだ。

 それを嫌ったリブッカ達が大移動をはじめた……。


 これだけではまだ弱いけれど、飛行魔獣よりも情報が多い分原因として考えられる。


「取りあえず、明日こそはちゃんとポイントを調査してみよう。現地を見ないことにはわかることもわからないからな」

『いやほんと頼むぜカイザー、あんたが頼りなんだからさ』

「うむ、今日は帝国寄りを通ってきたが、明日は中央を通るようにしよう。

 それならば昨日と違った何かを見つけられるだろうさ」


「では、範囲が狭まりますが、明日はより細かく判別出来るレーダーを張りましょう」

「そうだね、頼んだよスミレ」


 普段、常時展開しているレーダーは人か魔獣かをざっくり見分けられるだけのもので、何か反応があってから改めて高精度レーダーに切り替えるようにしている。


 高精度レーダーは範囲が狭くなるという欠点があるが、データ登録されている物であればレーダーの光点にそれぞれ識別名称が表示される便利な仕様なのだ。


 明日はそれを常時展開し、見落としていた何かを……探す。

 今日やらかしてしまった汚名返上と行こうじゃないか。


……

―――そして翌朝。


 昨日の遅れを取り戻すべく、我々ブレイブシャインは朝早くにチェックアウトを済ませ原野を移動している。


 マシューは半分寝ているのか、フラフラと移動し、ミシェルがそれに付き添うように並んで歩いている。


 普段より1時間早い目覚めだったからな……今日のところは許してやろう。

 探知に必要なのは俺とウロボロスで、今のところはオルトロスの出番はないからな。


 周囲に見える光点は今のところ見知った物ばかりだが、徐々にリブッカの数が減ってきている。

 

 如何にもな流れだ。そろそろ何か見えてきてもおかしくは無いだろうさ。


 見た目的にはこれまでと変わらぬ景色が続いている。


 1m~5m程の草が多いしげり、ちょいちょいと大きな木が茂る林が存在している。

 ただ、昨日移動していた帝国側と違い、地面が少々ぬかるんでいるのが気になるな。


 どうやらこの辺りには大小の池が点在していて、辺りは湿原のようになっているようだ。


 機械生命体である魔獣であっても水は欠かせないものだ。

 奴らの生態は面白く、植物や鉱石、または他の魔獣を食べ体内でパーツを生成し生長し、繁殖をしている。

 水もまたそれに必要な物であり、それ以外にも冷却水として体内を循環する重要な存在だ。


 この周辺は池が多く、魔獣の数も多い。

 水場として重宝して集まってくるのだろう。

 

 そして、本来であればリブッカもここを生息地として使っていたはず……。

 だが、何かが起きて大移動をはじめた、それは一体何か……。


「カイザー、Unknown反応多数!」

「Unknownだと? 詳細を頼む!」

「体長は2m前後、数は23体、データベースに存在しない未知の魔獣です!」


 ガサガサと何かが草をかき分け移動しているのがわかる。

 しかし、草の背が高く、目視で確認することが出来ない。


「ウロボロス、この辺りで魔獣が多い場所を教えてくれ」


『250m先、左側にある大きな池だ』

『その周囲と中に集まっているわ』


 集まっている……か。嫌だなあ、数が多くなると小さくてもちょっと大変だぞ。

 

「聞いたかみんな、今からその池に向かう。

 足下にも未知の魔獣が居ると思われる。油断せず引き締めていくぞ」


「おう!」

「はい!」

「了解ですわ!」


 移動中も絶えず足下を何かがガサガサ、チョロチョロと移動している。

 向こうから何かをしてくるわけでも無く、様子を伺うように足下をうろついている。


 辺りを伐採して姿を捕らえることも考えたが、それは止した。

 無駄に敵対しても面倒だし、なによりこれから向かう先、池の中にも同型の反応がある。

 池の中には草が生えていない、つまり刈らずとも行けば見れると言うわけだ。


 間もなく、問題の池が見えてくる。

 

 一応心配していたが、水草に覆われて見えないと言うことも無く、多少濁っては居るが中の様子がよく見える。


「驚いたな……」


 そこに居るのは50体程の見慣れぬ小形魔獣。

 見た目はカワウソを彷彿とさせる姿をしている。

 こいつらがリブッカの足を噛んでいるのかはわからないが、取りあえず暫くこの辺りで観察をした方が良さそうだ。


「よし、各機周辺の水場を監視してくれ。リブッカとUnknown……暫定的にカワウソと呼ぶが、その2体の関連性について調査する」


「倒しちゃダメなのか?」

「だめだ。後ほど資料として何体か持ち帰る予定だが、今は手は出さず観察に徹してくれ。

 相手に警戒されてしまったら任務がやりにくくなるからな……では各機散開!」


 俺の合図でそれぞれ周辺の池に散り、息を潜ませる。

 デカいので目立つが、相手は魔獣だ。静音モードにしておけば岩か何かだと思ってくれるだろう……多分。


 俺達はそのまま中心となる大きな池でじっと息を潜めていた。

 といっても、コクピット内から外部に音が漏れることはないため、パイロット達は呑気なものだ。一応は周囲に注意を配りながらも、もぐりもぐりと何かしらおやつを口にしている。


 それについては特に叱ることはなしない。長期戦だし、じっとさせていた方がリスクが高まるからな。きっとマシュー辺りが我慢できなくなってコンソールに触れて動かしてしまったり、レニーがうっかりなにかやらかしてしまったり……要らないイベントが発生してしまうはずさ。


 だったら始めからゆったりとリラックスさせておいたほうが良いってわけだ。


 ……と、スミレが何かを見つけたようで、慌てた声を上げた。


「カ、カイザー、池の中央を見て下さい」

「む? おお、何かうっすら光ってるな? 濁っていてよくわからんが、ぼんやりと白く光っているな……」


「あまりにもあからさまなのでディープスキャンをかけてみたところ……アレの正体がわかりましたよ……」

「その口ぶりからすると……もしかして……」


「はい、どうやら貴方の武器です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る