第百二十二話 魔獣の分布
―― 一夜明けて
本日も引き続き、調査ポイントを目指して移動中だ。
この平原は凄まじい。なんというか、植物が異世界らしい頑張りを見せていると言うか……いや、地球でもほったらかしになっている原野はこんなもんなのかもしれないけれど、とにかく生えている草の背丈が高いんだ。
俺達ロボであれば深くても腰のあたりまでしか無いのだけれども、これが生身の人間であれば大変だろうな。
我々の身長はだいたい9mくらいだ。
そこから計算すると、草の背が低い場所でもだいたい1m前後はあり、高いところならば5m近いんだ。
生身であれば視界が悪いってもんじゃない、前が全く見えない場所が多いんだ。
ロボに乗ってこなければ非常に歩きにくかろうと思う。
それに加えてここには魔獣が多数生息している。
その多くがロップやリブッカのように好戦的ではない魔獣なので、ヤバい連中がわんさか棲んでいる王家の森よりはマシだけれども、それでもクッカやフォルンは生身であれば十分に脅威となるはずだ。
中々に厳しい土地だし、なにより国境に面しているというのもあってなかなか開拓する気にはなれないのだろうな。
しかし、前々から少し不思議に思っていたがルナーサに来て余計に謎が深まった事がある。
それは魔獣の分布だ。
王家の森に生息している魔獣は概ねスミレのせいで発生したと言える。
スミレが俺を半端に起動させたため、余剰分の輝力があふれ出して魔獣を生み出してしまったわけだけれども……。
その効果範囲はそれ程広くは無いはずなんだ。この大陸各地に棲む生命体全てに干渉出来るほどの出力は無いはずなんだよね。
仮定だけれども、オルトロスが眠っていた場所でも同様の事が起きたのではなかろうかと思っている。
スミレが目覚めた時……限定的にカイザーOSが起動した際にオルトロスにも何らかの信号が送られた。
遠く離れた場所でも緊急信号は到達するため、やがてオルトロスに届いた信号の影響でシステムの一部が起動した。
しかし、寝ぼけたままで居たオルトロスはきちんと機体の制御をする事ができず、また、パイロット登録が当時はされていなかっただろうから俺と同様に余剰輝力が生じて周囲の動物に変化を起こしたのでは無いか。
当時オルトロスが何処に居たのかはわからないけれど、その周辺の生命体を輝力によって変異させてしまった可能性は大いにある。
ウロボロスの場合は不完全ながらも起動していたため、それは起きなかったのだろう。
先祖の方のアズベルトと出会った山……大魔法使いの山には図鑑を見る限りでは固有種が生息していない。過去にウロボロスが単体で居たであろう場所には固有の魔獣が発生していないんだ。
魔獣達の生息地は基本的に生じた場所からあまり大きく広がらず、生息範囲は狭いと言うことが分かっている。過去にウロボロスが住んでいたルナーサ周辺は魔獣が少なく、居てもリブッカのように何処か別の場所から移動してきた魔獣ばかりなんだ。
この事から、ウロボロスは動物の魔獣化をして居ないと言えるよね。
けれど、ルナーサにもいくつか狩り場が存在している。
サウザン北部にある狩場、ゲンベーラ大森林はかなり広く、王家の森とはまた違う魔獣がうじゃうじゃ居るそうだ。
そしてこのキャリバン平原もそうだ。
種類は兎も角、広大な土地にこれまたうじゃうじゃと魔獣が暮らしている。
そして、そのどれもが固有種である。
念の為に確認をしたけれど、ウロボロスは過去にこの場所に立ち入った事はないという。
「なあ、マシュー。オルトロスって何処で拾ったかわかるか?」
『拾ったって犬かなんかじゃないんだから……まあこいつら犬みたいだけどさ……。
いや、あたいはわかんないよ。じっちゃんがどっからか持ってきたからね。
当時のあたいはまだ拠点でお留守番してたのさ』
「ルナーサって事は無いよね?」
『ああ、あたい達はトリバで許可をもらってやってるからね。
少なくともルナーサでは無いよ。多分だけど、大陸西部じゃないかなあ。
そっちにも
オルトロスも白……となれば、別の要因に寄る魔獣化が考えられるけれど、俺達は既に3機揃っている。
そんな我々とまだ合流していない別の要素……考えられるのは我々の装備品だ。
装備品と言え、各装備にはそれぞれ小型の輝力炉が搭載されている。
我々に搭載されているものほど高機能ではないため、そこまで広範囲に影響を及ぼすことはないとは思うけれど、それでも輝力はきちんと備えている。
もしかしたら薄く広く遠くまで伝わった俺の信号により再起動した武器達からも残存輝力が滲み出ていたのでは無いか?
それによって各地で魔獣を発生させたのでは無いか……そう思うんだ。
スミレが活動を開始した頃から大陸
つまり、俺の仮定が正しければこの土地、キャリバン平原に我々の装備が存在しているのかも知れない。
仮定は仮定だ。
もしもこの平原で何かが見つかったらそれで良し、無くてもがっかりしないよう過剰な期待はしないようにしないとな。
『スミレ、聞こえるかい』
『おや、珍しいですね。内緒話ですか』
声を出力せず、直にスミレとだけやり取りをする。
頭の中で自問自答してる気分になってくるが、慣れたら便利なものさ。
『前にお前が魔獣を生んだきっかけとなったって話をしていたよな』
『まだそれを引っ張るんですか? 意地悪ですね、カイザーも中々に』
『いや、聞いてくれ。大事な話なんだよ。
明らかに俺の輝力が届かないであろう場所にも魔獣が発生している。
トリバ内ならまだわかるが、ルナーサにも居るわけだ』
『カイザーの目覚め……いえ、私の目覚めに連動して各機が再起動、それにより……という話ですか?』
『ああ、端的に言えばそうなんだが、それを起こしてしまったのはオルトロスだけではなく、散り散りになっている各装備もそうでは無いかと仮定したんだ』
『なるほど……確かに武器にもカイザーシステムは搭載されていますし、簡易ながら炉も搭載されています。少なからず影響があったかもしれませんね』
『例えば、ここキャリバン平原。ここもまた固有種が多く生息する特殊な土地だろう?
もしかして……と思っているわけさ』
『もしそうであれば、微弱でも輝力を放出して居る可能性はあります。
ただ、あれから300年は軽く経っていますので、既に炉が停止しているかもしれませんね……いえ、ダメ元で生物以外にも何か変わった反応が無いか探ってみます』
『ああ、頼む』
俺とスミレが話し込んでいる間にも、レニー達の操縦で我々はポイントまでの距離をかなり稼いでいて、気づけば日が山に隠れようとしていた。
「よし、もうすぐ日が落ちる。野営ポイントを探してくれ」
「既に選定済みです。では皆さん。本日は彼処の林にしましょうか」
『ひゃっほー! 待ってました!』
「今夜は何を食べようかなあ」
「私のお勧めはエビですよ、レニー」
『ふふ、スミレさんが食べたいだけではありませんか』
「私ではありませんよ。きっとレニーが食べたいんですよ、ミシェル」
「もー、おねーちゃんは直ぐ私のせいにして! 食べたいけどさー!」
『『あはははは』』
乙女軍団が途端に元気を取り戻し、あっという間に野営ポイントに移動すると、たちまちおうちを出して拠点を作り出してしまった。
まったく、スミレの奴もさっさと野営したかったんだなー? 既に野営地点を指定するとか……しかし林の中か、周りから隠れられるし悪い場所じゃ無いのが腹立たしい。
今日の食事は皆でミシェルハウスに集まり摂っているようだ。
ミシェルのおうちから楽しげな声が聞こえてくる……いい香りもね……。
はあ、いいなあ……俺も早くこの世界の料理って物を味わってみたいもんだよ……。
スミレ……忘れてないよね? 俺の義体……。
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