第百二十一話 キャリバン平原へ   

 支度を終えた我々は大事を取って丸1日じっくり休暇をとって休んでから再びグレートバンブーへとやってきた。


 ここの竹は奥に行くに従って大木のように太い竹が増えていく。

 それこそがミシェルの槍を苦しめた原因であるわけだが、確かにこれだけ太く頑丈ならば様々な用途に使えることだろうな。


 竹林の道は山頂へ向かって伸びているが、キャリバン平原に向かうためには途中でそれから外れなければいけない。

 

 道が無いと言ってもちゃんとした道が無いと言うだけで、調査依頼を受けて向かうハンターはちょいちょいいるため、彼らによって踏み固められて、ある程度の道らしき物は出来ている。


 ただしであって、ちゃんとした道ではないため、あくまでも平原へのルートがわかる程度の物ではあるのだが、この辺の地理に明るくはない我々にとって、その道は非常にありがたかった。


 平原への道が見えるまでにも何体もリブッカと遭遇したけれど、奴らは攻撃的な魔獣では無いため、こちらから手を出すことはせずに見逃している。


 竹林の辺りに現れる分には他のハンターが討伐してくれるだろうし、今日は無駄な消耗は控えたい。


 今回我々の目的はあくまでも元を調べて絶つことだ。

 無駄な戦闘はなるべく避けていく必要があるのだ。


「なあ、カイザー馬車になってくれよー。焼き菓子食いながらノンビリいきてーよー」


「ダメだダメだ! 旅となればそれも悪くは無いが、今は任務中だぞ!

 それに街道じゃないんだ、いつ何時なんどき魔獣が来るかわからんのだ。

 絶えず備えておく必要があるんだぞ」


「ちぇー、わかったよー。そんかわり野営は早めにしようよー なーいいだろー」


 早速マシューが飽き始めている。


 景色を楽しむレニーや、商材になる物は無いかと目を光らせるミシェルと違ってマシューは暇を持て余していた。マシューにも何か暇を潰せるものがあればよいのだが……流石に直ぐにそういった提案が出来るほど優秀な頭脳が俺にはないからなあ……。


 現在我々は道を外れて山を下っているところだ。

 まだ竹はちょいちょい生えているが、だんだんと植生が変わってきているのがわかる。

 

 先ほどまでと打って変わって竹に混じって木が見え始めているからな。

 そしてここでもやはりチョイチョイとリブッカの姿が見える。


 図鑑をサーチして見ると、キャリバン平原にはリブッカの他、フォルンやクッカ、ロップ等が居るようだ。

 フォルンはブレストウルフをスマートにしたような魔獣で、恐らくはキツネタイプなのだろうと思う。

 クッカはニワトリ型、と言えば良いのだろうか? 体高5mもあるのでダチョウ型? 兎に角、飛ばずに地を歩くタイプの鳥型魔獣のようだ。


 そしてロップがウサギ型だ。

 体長は様々で、1m程度の小型の物に始まって、3m級や5m級もいるらしい。

 稀に10mを超える大型も居るようだが、温厚な性格で小型の個体を飼育する物好きも居ると書かれていることから、大型の物でもさほど脅威とはならないだろう。


 ちょっとだけ大型個体のロップの暴走が原因かも? なんて思ったけれど、ナイナイと直ぐに自分で否定する。

 変なフラグにならなければ良いが、まあ、その心配は無いだろう……無いよね?

 だめだな、ヒッグ・ギッガの件が妙に後を引いている。アイツ……強敵だったからなあ……。


 暫く移動をするとようやく道がなだらかになり、平原側に降りられたことを悟った。

 さらにもう少し歩くと大きな木が立ち並んでいた林を抜け……眼の前に広大な景色が飛び込んだ。

 

 見渡す限り広がる原野、これがキャリバン平原ということだが……この広い平原の南部、ここから3日ほど移動した辺りがリブッカの繁殖地らしい。

本来ならばその周辺に暮らすリブッカが何故グレートバンブーにまで現れているのか。

 きっとそこまで行けばその謎も解けるに違いない。

 

 現地までは西にそびえ立つラジロック山脈沿いに下れば良いと言われてるので迷うことはないが、これから移動するにあたってひとつ気をつけなければいけないことがある。


 それは平原の東側にある山脈だ。

 ちょうど東西の山脈に挟まれるようにしてあるのがキャリバン平原だが、東の山脈、トゥエルブゴッドなる凄い名前の山脈は帝国領。


 つまりは国境を護る壁の如くトゥエルブゴッドがそびえ立っているわけだが……現在戦争中では無いため、誤って侵入してしまっても拘束されるで済むが、それだって大事だし後の処理が非常に面倒くさいらしいのだ。


 だから間違えてもトゥエルブゴッドに迷い込まぬよう気をつけて進めとアズベルトさんから釘を刺されてきた。


 俺だってそんな面倒はごめんだし、わかりやすい目印があるからそう迷い込むことは無いだろうと思うけど……気をつけて進まないといけないな。特にうちにはマシューというイノシシ娘がいるからな……。


 ちなみに東西の山脈にはルナーサとシュヴァルツヴァルト、それぞれの軍隊が簡易な基地を設けて駐屯しているらしい。

 一応戦時下では無いにしろ、トリバと違って友好的な関係というわけでは無いらしいからね。

 いつ何時何があっても直ぐ分かるよう、互いににらみ合っているとのことだ。

 だからマシュー、くれぐれも帝国両側に行くんじゃないぞ……?


「なあーーカイザァーー! そろそろいいだろお? あたい腹減ったし疲れたよー 今日はもうここらで休もうよー なぁー! カイザァー!」


 噂をすればマシューがまた泣き言を言っているな……っと、もうすぐ16時か。

 少し早いけれど、普段と違って警戒が必要な場所だからな。今日は早めにしまいとしようか。


「わかったわかった。マシューからのリクエストもあったことだし、今日はそろそろ休むとしようか」


「やったー! 実は私もちょっと疲れてたんですよねー!」

『カイザーさんがおっしゃるならそれでよろしいですわ』 

『やったぜ! 言ってみるもんだなあ!』

 

 周辺をチェックするとやや見晴らしが良い丘を見つけたのでそこをキャンプ地とすると各機に伝えると、皆嬉しそうに素早く向かっていくんだから面白い。


 みんな、お疲れ様だよ。

 

「ウロボロス、広範囲スキャンをお願いするよ。対象は人間だ」


『了解だ。ローちゃん頼むよ』

『おっけーウーちゃん。ん、少なくとも今日中に来れる位置には人間の反応は無いわよ』


「ありがとう、ウロボロス達。じゃあ今日はどうどうと【おうち】を出して寝られるな」


「わあ、わたくしのお家の初陣ですわね!」

「ミシェルが選んだ家具可愛かったよね、のぞきに行って良い?」

「勿論ですわ! マシューもスミレさんも来て下さいね、お茶会をしましょう」

「ああ、飯食ったら寝るまでミシェルんちだな!」

「ふふ、夜更かしはだめですからね」


 丘の上に並ぶコンテナおうちが3軒。


 流石に3軒ともなると少々目立つな。

 バックパックハウス……本来このような使い方をする物では無いが、コンテナハウスというものも有るし、確かに簡易的な家として使う分には悪くは無いのだろう。


 実物のコンテナと違って外部の熱を遮断するからね。冬は暖かく、夏は涼しい……地球でそんなものあったら俺だってどっかに土地を買って置いて使うよ。


 キャンプは誘われて何度かしたことがあるけれど、楽しいけど地味に疲れるんだよね。

 慣れもあるんだろうけど、いくら頑張ってゴツゴツしない寝床を作ってもやっぱりちょっと疲れるんだ。


 その点このはズルい。


 広々とした室内にフカフカのベッド。

 頑丈な壁は風でガサガサと揺れることはないし、隙間風が入りそうに見える入口部分もフィールドで保護されているため夜中に震えることも無い。


 こういった近隣に宿が無い場所に籠もる時はこれ以上無いチートグッズだよね。

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