第百二十話 ミシェルの母

 突如として格納庫に飛び込んできた女性。


 その女性はミシェル同様金髪碧眼で、見た目はかなり若く見えるが……ミシェルの年齢から推測するに30台前半くらいだろうか? なんだかそのままミシェルが大人になったような顔をしているな。

 

 ミシェルの母親であるというその女性は感極まった表情でミシェルをがっしりと強く抱擁している。


 ミシェルの母親……今日まで会ったことが無ければ話題にも出ない。

 

 きっと何かがあるのだろうと敢えて存在を聞かないようにしていたが、ただ単に少し遠くに商談に言っていただけだったようだ。


「あの、お母様……その、恥ずかしいので少し……離れて……下さい……。

 そ、それと、私のお友達とは言えお客様の前ですのよ? まずは自己紹介をなさっては?」


 ミシェルにつっこまれ、お客さんなんか来てたの? と言うような顔をして慌てて取り繕っている。


「こほん、わたくしはマリエーラ・ルン・ルストニア。ミシェルの母ですの。

 皆様にはミシェルがお世話になったようで、心よりお礼を申し上げますわ」


「いや、我々こそミシェルさんの優れた意見には度々助けられました。

 きっと親御さんは素晴らしい方だろうなと常々思っていました」


 この人は敵に回すと面倒だ、俺のカンがそう告げている。

 なので得意では無いお世辞など使ってみたのだが……。


「ミシェル、この大きな方は? ああ、彼がアズくんが言っていたカイザーさんね」


 驚かないのは何となく予想はしてたけど、大きな方、ときたか。

 人間扱いされているようでちょっと嬉しいけど、ロボにその言い方はどうなんだ。


「貴方……とても良い目をしてますわ。ミシェルと結婚なさいな」


「お、お母様!?」

「ちょ、ちょっとマリエーラさん?」


 俺とミシェルが同時に聞き返す。

 どういうことかとアズベルトさんをみると頭を抑えて苦笑いをして居る……。


「体格差が大きい夫婦は別にめずらしいわけではありませんわ。

 多少からだが硬いからと言って旦那に出来ないという理屈はございません」


「それ以前に俺は人間ではないのですが?」


「わたくし、差別はムカデより嫌いですの。機兵だからといって娘と結婚出来ないという理由にはなりませんわよ?

 流石にわたくしでもお人形と結婚しろとは申しません。でも、貴方は、カイザーさんは見た目は機兵でも中身は我々と変わりが無い、心を持った存在ではありませんか。

 直ぐに返事をしろとは申しません。どうか、ご一考下さいまし」


 涙ながらに現れたから、娘大好きすぎるお母さんなんだろうなあと思ったんだ。

 だからきっと、俺と冒険に行くのを涙ながらに止めるのだろうなと。

 下手をすれば俺達をさっさと追い出すんじゃ無いかな?まであった。


 なんなのこの人……


『カイザー……あの人は……なかなかにキツいですね……』

「スミレ……君もそう思うか……流石の俺もびっくりしたよ……」


 コソコソとスミレとお話をして何とか平静を保つ。

 いきなり現れて娘と結婚してと言われても困るというか……そもそもにはミシェルと結婚するのは無理だよ……いや、異世界なら法律とかそういうのが違うからアリなのかな? いやいやいや……無理だって!


「マリエーラさんのお考えは良く分かりました。しかし、今はまず受けた依頼と旅を優先させて頂いて構いませんか?」


「ふふ、長い旅の中で培われる物も有りますからね。

 また可愛いミシェルと離れるのは寂しいけれど、将来のためと我慢しますわ」


 取りあえず問題を先送りにすることが出来たぞ……。

 こう言うのって先送りにすればするほど面倒な事になっていくんだけど、流石にこれを今どうこう出来る気はしない。


 アズベルトさんが何か言ってくれれば嬉しいなあってさっきから思ってるんだけど、俺と目を合わせた瞬間両手を合わせられてしまった。


 日本と同じ意味合いであるならば、そのジェスチャーは「すまん! カイザー殿! 僕にはどうもできない!」と言う具合だろうか……。


 追々ミシェルから事情を聞いた上で話し合って逃げ道を探ろう……。


 気を取り直して会議を再開する。

 マリエーラさんがニコニコと俺達の様子を見ているが、気にしないことにする。


「まず、目的地は先ほど話していたとおりキャリバン平原だ。

 安全を第一に考え、なるべく余計な戦闘は避けて進みたいが、場合によっては戦闘もあるだろう。

 その時は気を引き締めていこう」


「街道が無い場所とのことですからね。お姉ちゃんやうーちゃんろーちゃんの索敵があるから不意打ちは避けられそうだけど、私達も気をつけていかないとね」


「あの、レニー? うーちゃんろーちゃんというのは……その、もしかして……」


「うん、女の子なのにボロスじゃ可愛そうだなって。ろーちゃん。

 ついでにウロくんもそれにあわせてうーちゃんって呼んでるんだよ。可愛いよね?」


「か、かわいい……わたくしは別に可愛らしさは求めませんが……貴方達は構わないの?」


『俺は別にかまわないさ。皆好きに呼びたいように呼べばいい』

『私はろーちゃんのがかわいくて好きね』


「そ、そうですの……ボロスがそう言うのなら……うう……」


 俺達の良いところで有り悪いところ、それはどうでも良い話題で直ぐ脱線するところだ。

 おかげでパーティーがギスギスする事は無いが、会議の進行に支障が出まくってしまう。


「ごほん! じゃあ、続けるぞ! 食料や他に必要な物は明日を準備日にするので買っておくように。

 特に食料は重要だ。往復で10日の行程が予想されるが、それは何も無かったらだ。

 念のため15日分は新たに買って置いてくれ。バックパックに入れれば傷むことはないからな」


「そっか、あたい達にはバックパックがあるんだもんな!」

「ここからなら街の何処からでもカイザーさん達からの範囲内ですよね」

「ああ、そうだぞ。今回は忘れずバックパックを活用すること」

「では、私お勧めのお店を回って色々と仕入れることにしましょう」


 「「賛成ー!」」


 なんだか余計な物まで買ってきそうな気がするが、リブッカを納めた報酬で多少余裕もあるし好きにさせておこう……加減はしてほしいがね。

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