第百十八話 反省会

 ルストニア家の屋敷に戻ると、パイロット達は直ぐに汗を流しに風呂に消え……しばらくした後、さっぱりとした顔で格納庫に集合した。


 俺はロボだし汗をかくことはないけれど……ひと仕事終えた後のお風呂はちょっと羨ましいな……前世ではどんなに疲れていてもお風呂だけは欠かさなかったからなあ。


 異世界にやってきた日本人達がお風呂に憧れる――なんてネタはよく見るけれど、彼らはどうにかして叶えちゃうんだよね。俺なんてこの巨体だからさ、どう頑張っても無理なのがとても悲しい……いや、必要ないんだけどさ……。


 さて……みんな揃った所で報告を兼ねた反省会の始まりだ。


 この広い格納庫は俺達ロボが悠々と歩けるくらいなので、4m程度のリブッカなんて余裕で置けてしまう。

 

 サンプルとして持ち帰ったリブッカは、現在この家の技術者とマシューがせっせと解体している。それをパイロット達と揃って眺めていると、なんだか自分達の基地に居るようでなんだか気分が昂ぶってくるな。


 ああ、良いよね……基地……。

 

 ロボたる者、いつかは自分の基地を持ちたいものだね……。

 モニタが無駄にたくさんある司令室なんかも作ってさ、専用の格納庫に、無駄に凝った発進システム……ああ、憧れちゃうな。


 ……っと、反省会をしなければな。


 やはり今回の反省点はミシェルの武器だろうな。

 槍を見た瞬間、正直嫌な予感はしていたけれど、やはり竹林であれは無謀だった。

 

 今日の朝、嬉しそうに槍を素振りして張り切るミシェルを前にしてさ、


『ミシェル、竹林と槍は確実に相性が悪い。別の装備に変えよう』


 なんて酷なことは言えるはずが無いよ。

 取りあえず今日は下見程度の予定だし、ダメなら帰ってから考えようと言う甘い考えだったんだ。


 相手はリブッカと聞いていたから油断もあったしな。

 

 ギルドで別の魔獣の存在を聞いた時は嫌な汗が流れたけれど、今日の所は遭遇しないで済んで本当に良かった。


 もしそれと遭遇していたらと考えればゾッとするね……スミレが感じた謎の気配、あれがエラーではなくて本当に何か別の魔獣だったらば、あのまま我々に襲いかかってきていたらば……そう考えると、やはり他の武器で使える物は無いか聞いておくべきだった。


「今日の調査は俺の作戦ミスだ。やはり竹林と槍は相性が悪かったな……」


「そんな! カイザーさんのせいではありませんわ。わたくしが槍なんか装備していったから……」


「確かに、戦地に赴く際にはいくつかの武器を装備していくと万全だ。

 しかし、不慣れな武器を持って行けば自分や周りに怪我をさせる原因ともなる」


「それは……確かに……しかし竹林に槍はわたくしの判断ミスですわ。

 好みではありませんが、やはりあれを持って行くべきでした……」


「アレとは?」


 俺の質問にアズベルトさんが答えた。


「ミシェルは槍の他にリーンソードの訓練も受けているんですよ」


「リーンソード……? 初めて聞く名前ですな」


 アズベルトさんは無理もないと頷くと、リーンソードについて説明をしてくれた。

 かつてルストニアと同盟を組み、最後まで共に戦ったリーンバイル。

 

 島国故に他国とは違う文化を持ち、武器もまた独自のものを使っていたという。

 細身でやや反りがある独特の形状をした剣はリーンソードと呼ばれ、ルストニアでも一部の兵士が愛用していたという。


 王家の者も芸術品のようなその剣に惹かれ、嗜みとして訓練をしていたとのことだ。


 機兵用に作られた大きなリーンソードが運ばれてきた。

 話に出てきた特徴を聞いてまさかな、と思ったらそのまさかであった。


「むう、刀じゃないか! まさかこの世界にも刀が存在していたとはな……」

「カタナ? ですか?」


 アズベルトさんが興味深そうに言う。


「はい、これと同じような……いえ、ほぼ同一の武器が我々の世界、それ所か我々が住んでいた国に刀と言う名前で存在しています」


「カイザーさんの故郷にもリーンソードが?」

「ああ、あったよ。けれどその武器が戦地で活躍したのは遠い過去の話だけどね」


 俺の世界にもあると聞き、何か考え方が変わったのだろうか。

 ミシェルはいそいそとウロボロスに乗り込むと、リーンソードを鞘から抜いて構えてみせた。


「おお……美しいな……」


 思わず声が出てしまった。

 その刀身は白く輝き、まるで雪原に昇った三日月を思わせる。


 女性型のウロボロスがスラリと伸びる刀を持つと異様に似合うため、その美しさが際立って見える。

 

「なんだか吸い込まれそうな輝きですね……」


 レニーが感心したように言う。確かになかなかの業物だ。

 この刀はかつてリーンバイルから贈られた物だそうだ。


「我々の居た国ではこのような名刀には銘が刻まれているものだったが、そのような文化は無いようだな」


「メイ?」


「ああ、銘とは製作者の名前だな。有名な刀には名前がつけられていたんだ。

 他にも号と言って、刀にまつわるエピソードを元にして名前をつけることがあってね。

 製作者名である銘か、刀の名前である号のどちらかを刀身に刻み込むんだよ」


 そんな事をうっかり言ってしまったが最後、じゃあカイザー殿がつけてくださいとアズベルトさんに言われてしまった。

 

 そんなセンス俺にはないよと、すがる目でウロボロスに訴えるが……


『そりゃあいい、昔のアズが刀を貰って今のアズが名を貰うか』

『なんだか運命を感じて素敵よねー』


 と、変に盛り上がっているからたまらない。レニー達も期待に満ちた眼差しをこちらに向けていて、すっかり俺が名付ける流れになってしまった……。


 正直俺の命名センスは酷いんだぞ!? 猫に「はったい粉」なんてつけて獣医さんに笑われたくらいだからね? どんな名前でも文句は言わさないからな!

  

 うんうんと、しばしの間頭を悩ませる羽目になったけれど、悩み悩んで悩んだ末にどうにかそれらしい名前をひねり出した。


『雪月華』


 と、書かれた紙をプリントアウトしてみんなに見せた。


「これはなんて書いてあるんですの?」


「セツゲッカだ。昔の人が書いた歌に出てくる言葉をもじったものだが、雪のように美しく、月のように輝き、そして持つものに華を与える、そういう理由でつけたんだが……どうだ?」


 スミレがニヤニヤと……すごく何かを言いたそうな顔をしているが……気にしないことにしておく。


「なるほど! 何処かリーンバイルの言葉のような趣がある名前ですな」


 かつて交流があったリーンバイルは独特の言語を使っていたらしい。

 流石に大陸に出るような者達は標準語も使えたそうだが、国内はその言語と相まって異質な独特の雰囲気が漂う土地だったという。


 大戦後から現在まで長きに渡って鎖国していて、今、国内がどうなっているのかまったく分からないとのことで、現在どうなっているかを知る事が出来ないらしい。


 話を聞く限りでは、なんだか日本のような場所が頭に浮かぶよね。

 鎖国しているということだけれども……どうにか一度行ってみたいものだよ。


 RPGなんかで日本モチーフの国や街が出てくると妙にワクワクしたからなあ。

 この半分スチームパンクに足を突っ込んだナンチャッテ中世ヨーロッパ風の世界に在る日本モチーフの島だよ? 想像するだけでワクワクするよ。

 

「セツゲッカ……いい名前ですわね。正直リーンソードは好みじゃ有りませんでしたが、こんな素敵なお名前を頂いたのなら好きになれそうですわ」


 ミシェルは好みじゃ無いと言うが、機敏に動くウロボロスを考えると槍より刀の方が向いているような気がするんだよな。

 

 素早く間合いを詰め一刀に伏す、想像するだけでかっこいいじゃないか!


 明日は早速刀の腕前を見せて貰うとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る