第百十七話 竹林
とりあえず……スミレや僚機の皆にハッキリと俺の存在を打ち明けるという話は後回しにすることにした。
今話した所で説得力をもたせられないと言うか、上手く説明できる自信がないからね。
もう少しうまく説明が出来る場というか、材料が見つかってからきちんと話そう。
それに……この話はいずれレニー達には打ち明けようとは思っているからね。
だからもう少し時間が経ってから、落ち着いて話せる状況になってからだ。
異世界から来た不思議なロボと、異世界から来てロボになった元人間では扱いに差が出るに決まってるんだ。
単純でアホな理由だけれども、こんなつまらない話で折角上手くいっているこのパーティーが気まずくなるなんてごめんだよ。
何よりその切っ掛けがタケノコっていうのも間抜けすぎるから却下、却下だ!
そんなわけで適当に誤魔化すべく、レニー達にテレビについて説明をする事にした。
「テレビと言うのは元いた世界にあった道具でな、予め機材を使って記録しておいた視覚情報を音声情報と共に窓から見ているかのように見る事ができるんだ」
「へえ、そんな魔導具きいたことないよ」
「興味深いですね。どんな物がみられるのです?」
マシューとミシェルが食いついてきた! いいぞ!
「そうだな、娯楽だと歌や演劇のような物を見たり、遠くで起きた事件や事故等を報告と共に見るニュースという物があったりな、兎に角便利な道具なんだよ」
「そんな道具が有れば、田舎でも都会の様子がみられちゃったりしそうですよね」
レニーも興味深げに食らい付く。
「ああ、逆に都会に住んでいても秘境の映像を見られたり、現地に行かなければ見られない生き物の姿を見られたりするな。
外国に住んでいる珍しい動物の映像というものもあったぞ」
「「「へえええ」」」
そんな中、半目で俺を見ているのがスミレだ。
なんだかとっても俺を疑っている。
……まあ、スミレになら、スミレにだけなら後で打ち明けても構わないだろう。
けれど、取りあえず今は山だ! 依頼だ依頼!
今日はギルドに寄ってから来たと言うことも有り、あくまでも下見である。
事前に聞いていたとおり、竹藪をぱっくりと割ったように道が延びている。
道には石がしっかりと敷き詰められていて、おそらくは竹が生えないようにして居るのだろうけれど、無情にも所々石を持ち上げるようにしてタケノコが頭を出していた。
竹の繁殖力は凄まじいからな。軽い気持ちで庭に植えたら酷い目に遭うんだ。
それが家の敷地内に収まっていればまだ良くって、地中から壁を超えてお隣さんの庭にまで進出してしまうと……そりゃあもう面倒なことに……。
何処まで行っても何処まで行っても両脇には同じような竹藪が続いている。なるほど、これは迷い込んだら酷いだろうな……。
歩けど歩けど延々と続く代わり映えのない景色が続く。
最初に飽きたのはマシューで、なにか良く分からない謎の歌を歌いだしてしまった。
まもなく、レニーがそれに併せて歌い始めるとやたらと騒がしくなってしまい、ミシェルにぴしゃりと叱られていた。
「二人共! うるさいですわよ! これは私の訓練も兼ねているんですから、もう少し真面目に――」
「カイザー、皆さん。お待ちかねの痕跡を発見しました」
ミシェルのお説教を遮るようにスミレが何かを発見したと皆に告げる。
活機のモニタにマーカーが表示され、それに従ってカメラを向けてみると……、明らかに違和感のある場所、複数の竹が中程から折れている場所が映し出された。
それは中々に広い範囲に渡っていて、自然にそうなったとは到底考えられない。
スミレのスキャン結果によると何者かに"つまみ食い"された痕のようだ。
改めて周囲を詳しくスキャンすると足跡を発見した。その形状を図鑑を元にして作成したデータベースと照合しリブッカのモノであると推測。パイロット達に指示を送る。
「みんな、どうやらこれをしでかしたのはリブッカで間違いないようだ。
恐らくこの辺りはリブッカの縄張りになっているはず……まもなく接敵するだろう。
ミシェルは索敵範囲を広げて反応を調べてくれ。マシューは直ぐ動けるように備えろ。
レニーは……やる気だな、よし、それではみんな油断するなよ」
「「「了解!」」」
下見とは言え、既に依頼は始まっている。痕跡を見つけて今日はおしまいとは行かない。
時間はまだたっぷりと残っている。やれるだけやってやろうじゃないか。
足跡をたどるべく道を外れ、竹林に突入する。目覚めた直後から常時マッピングを続けている俺ならば、例え入り組んだ場所に入り込んだとしても現在地を見失うことはない。
目覚めた場所、あの山を基準点として座標を記録し続けているため、衛星によるサポートがなくとも何とか現在地を把握することが出来るんだ。
これで生身だったら、竹林に入り込むなんて絶対にやりたくないけどね。
いや、例えロボの身体でもマッピングしていなかったらばきつかっただろうな。
ここの竹は大小様々だけれども、中には異世界サイズのとんでもない物が混じっているんだ。まるで何かの建造物のような大きさで、その高さは30mは優に超えている。
機兵であっても見通しが悪く、油断すれば容易く遭難してしまうだろうな。
囓られ、途中からへし折れた竹を倒しながら、踏みしめながら奥へ奥へと進んでいく。
足跡はまだ新しく、レーダーにもチラホラそれらしき影が映っているため間もなく遭遇する事だろう。
サラサラと風で葉が揺れる音……カーンカーンと、竹が呼吸をする乾いた音……。
こんな時でなければ風情たっぷりなんだけれども……ああ、そんな呑気なことを考えている場合じゃなくなったようだ。
「カイザー」
「ああ、みんな。見えているな? レーダーに反応があった。反応からしてお待ちかねのリブッカだ」
『やっとおでましだね』
『ミシェル、初めての共同作業よ、頑張りましょうね』
ウロボロスの
意味としては間違ってないが、何だかそれは違うだろ……。
「相手は1体だ。よし、ミシェル。まずは君が単騎で戦ってみてくれ。危なくなったら援護するが、どこまでやれるか見せてくれ」
『了解ですわ! 今日まで訓練してきた結果、見せてさしあげますわ!』
訓練と言うことも有り、先に接敵するのはミシェルだ。
当然、オリジナルの武器は失われているため、
ここまで原作と駆けはなられた装備を好むパイロットが多かったため、何だか意外な気分だが、これこそ正しい姿では無かろうか。
むしろ逆に、弓か実弾銃を装備して遠距離アタッカーとして加入してくれれば、今の我々に足りない部分が補えて助かったのだが……元々槍で訓練をして居たらしいし、何より原作通りなのだから文句は言えないな。
きっとウロボロスにうっすらと槍を握っていた記憶が残っていて、いつかの日のために槍を使った訓練をさせていたのだろうな。
さて、今回の獲物、リブッカだが、こいつはトナカイの様な立派なツノを生やしているが、それはギラギラとメタリックに輝き、如何にも強力な武器であることを物語っている。
……が、
が、しかし……リブッカとの戦闘を始めているミシェルは苦戦していた。
まあ、そうなるだろうなあ……とは思ってたんだよな……。
竹林という周りに障害物が大量に存在する場所で長い槍を振り回しているのだ。
その長さが仇となり、上手く攻撃をすることが出来ないのだ。
密集する竹に柄が当り、刃が当り……竹の隙間をヒョイヒョイ逃げるリブッカには到底当たらない。
やがて一際大きな竹に槍を突き立ててしまい、動けなくなってしまう。
そんな様子を見ていたリブッカはミシェルを馬鹿にするように身体を反転させ、頭を下げて突進する。
『きゃあああああ!!』
巨大な竹に食い込んだ刃を抜こうと頑張っているところだったからたまらない。
避ける間もなく、突撃を腹部に喰らって吹っ飛んでしまう。
「ミシェル! 大丈夫!?」
「その武器じゃ戦いにくそうだもんなあ……」
相性が悪いと言うか……地形にあっていないと言うか。
流石に今のままではまともに戦えないな。
よし後はマシューに任せるぞ。
俺の合図をみたマシューが待ってましたとばかりにリブッカに飛びかかり、一撃で仕留めてしまう。
『へへーん! どんなもんだい!』
「槍と竹林、相性は最悪だからな。ミシェル、気を落とすな。相手というか場所が悪かったんだ。こういう地形はマシューやレニーのように身軽な戦い方が適しているんだ、仕方ないさ。
サンプルも取れたし、今日の所は帰って作戦を考えよう」
『うう……悔しいですわ……せっかくのデビュー戦でしたのに……』
スポ根ヒロインみたいなセリフを言っているが、今日は終わりだ終わり。
無理をして戦って怪我をしてもいけないからな。
『場所が悪かったんだよ。ミシェルが弱いわけじゃないよ。元気だして?』
『ありがとうですわ、レニー』
『そうだぞ。こういう場所での戦いにあたいが慣れてるってだけさ』
『ええ、ええ。マシューもありがとう』
撤収という事で、再び竹をかき分けながら道を目指して歩いていると、突然スミレが表情を固くし空を見た。
「どうした、何かあったのか?」
「……いえ、気のせいでした。何か上から気配を感じたのですが」
ただでさえ方向感覚が狂いやすい竹林……それに我々の常識が通用しない異世界だからな。もしかしたらばなんらかのセンサーに影響が出たのかもしれないな。
現にログを眺めてみてもなにも記録されていない。
……けれど、こういうカンは馬鹿には出来ない。帰還したらばこの件も含めてじっくりと話し合わなければいけないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます