第百十六話 ミシェル加入 

 グレートバンブー、それはルナーサ西部に聳える標高3000m級の山である。

 その名前の通り、麓から中腹にかけて広大な竹藪が広がっていて、不慣れな者がルートから外れるとたちまち遭難してしまうらしい……。


 中々に物騒な山だけれども、ルナーサではその竹を使った産業も活発で、釣り竿や籠、竹細工などの細かい日用品の他、建物の足場として使ったり、一部建材として使ったりとするため、竹の産地であるこの山はかなり重要な場所として管理されているらしい。


「グレートバンブーには魔獣が生息していない筈なんだけど、最近リブッカの姿が見られるようになってね。まだ問題になるような数では無いんだけど気になっているんだ」


 リブッカとは鹿タイプの魔獣で、体長は5m程度と機兵から見れば可愛いものだが、手当たり次第植物を囓る悪いクセがあるらしく、数が増えれば中々な事を招く魔獣のようだ。


「君達にお願いしたいのはそのリブッカの調査です。

 勿論、姿を見かけたら討伐もお願いしたいのですが、出来れば何故それが現れたのか。

 今後のためにも何か分かることがあれば調べて欲しいのです」


 依頼書はこの場で直接渡され、後はこれをギルドに持って行けば良いらしい。


 勿論、ギルドを挟まず手っ取り早く依頼人とだけのやり取りだけで済ませる方法を取るハンターも中には居るらしいのだけれども、きちんとギルドを通せば依頼人から直接受けた指名依頼という扱いになるそうで、勿論ランクアップに関わる実績にもなるため手間を惜しむわけには行かない。


「期限は特に指定していませんので、数日かけてじっくりとお願いします。

 それと……野営はせず、夜には屋敷までお戻り下さい。

 ……私としても娘が旅に出る前にもう少し一緒に居る時間を作りたいですからね」


 ニッコリとアズベルトさんが微笑みながらそんな事を言う。

 きっと半分は本音だろうけれど、我々を気遣っての提案だろうね。

 この依頼は訓練も兼ねている。三機編成に慣れるために色々と試すことも在るだろうし、きっと夜にはすっかり疲れてしまっているだろうさ。


 ミシェルの“おうち”もまだきちんと仕上がってないだろうし、夜はしっかりとお風呂に入ってベッドで眠ったほうが良いだろう。ここはお言葉に甘えておいたほうが良いね。



……


 ――翌朝

  

 依頼書の提出のため、ギルドに来た我々ブレイブシャインだけれども、依頼の件の他にもう一つ、再重要案件があった。

 

 それはミシェルの加入手続き、彼女を正式にブレイブシャインのメンバーとして迎える手続きだ。


 すっかり気分的にパーティーメンバーとして扱っていたが、それは俺達内輪のお話。

 これから一緒に依頼を受けようとするならば、きちんとギルドに申請しなければならない。


 場合によってはミシェルのハンターズ登録もと思ったが……その心配はいらなかったようだ。


 なんと彼女は既に3級サードクラス。

 これにはレニーも少々悔しげだ。


 サードにあがるには盗賊など犯罪者との交戦がその条件となる。

 ハンターはサードクラスから一人前となり、戦争となれば戦線に立たされることもあるため、対人経験が昇級の条件として求められているのだ。


 マシューの場合は特に聞いては居ないが、恐らくトレジャーハンターの仲間と一緒にそう言う経験をしたことがあるのだろうし、レニーの場合は棚ぼた的で実際はまともに交戦すらして居ないのだが、勘違いしたギルド職員により免除されている。


 その辺り、ミシェルは一体どうやって達成したのだろうか。 

 気になって聞いてみると面白い答えが返ってきた。


「わたくし、商人ギルドでは2級セカンドランクを頂いてますの。

 高ランクの商人は徴兵されることは無いため、ルナーサでは例の条件が免除されますのよ」


「ずるい!」


 思わずレニーが突っ込みを入れる。

 けれど、レニー……君も少しズルい感じで免除されてるじゃ無いか……。


「そうは言われましても、商人ギルドとハンターズギルドとの取り決めですからわたくしは知りませんわ」

 

 と、ワイワイやっているうちにミシェルのパーティー登録が完了した。

 では、さっそく下見にでも行くかとギルドを出ようとすると、受付嬢に声をかけられる。


「グレートバンブーの依頼で行かれると言うことですが、リブッカの他、見慣れない魔獣の目撃報告も上がっています。

 パインウィードのヒッグ・ギッガを討伐したブレイブシャインの皆さんであれば十分に討伐可能かと思われますが……くれぐれもお気をつけてくださいね」


 深々と頭を下げる受付嬢。依頼先の情報を把握しているのはもちろんのこと、そのことについて律儀に伝えてくれるなんてなかなか好感が持てるギルドだね。


 しかし、ヒッグ・ギッガか。

 何だか随分懐かしい名前を聞いたような気分になるけれど、それもついこの間の話なんだよな……。

 3機揃った今なら搦手無しで、純粋な我々の戦力だけで撃破出来るかも知れないが、なるべくならその機会が訪れないことを祈る。




 門番にギルドカードとパーティーカードを見せ、西門を出るとなだらかな傾斜になっていて、まもなくすると周囲はすっかりと竹に囲まれた竹林になってしまった。


 広大な竹林はどこまでいっても似たような景色が続くため方向感覚がつかみにくく、なるほどこれは道を外れれば迷いやすいというのも頷ける。

  

「春先にはここでタケノコ取りをするんですのよ」

「ほう、タケノコか。この世界でも食べるんだなあ。コリコリとして旨いんだよな」


「カイザー? 何故タケノコの食味を知っているのですか? あなたにはそう言う機能は無いはずですが」


「たっ、竜也が言ってたんだよ! 春はタケノコだよな! ってさ」


「たつや……? それは一体誰のことでしょう?」


「誰ってそりゃ……ん? ああ、たつやじゃないぞ、てれびだ! テレビ! テレビで見たんだよ。言い間違いだ。」


「そうですか? カイザーですからね。そういう事もありますね」

  

 やってしまった……スミレはオリジナルとは違い、作中の記憶が一切ないんだった。

 しかしまいったな。オルトロスだけなら兎も角、ウロボロスまで加入した今、いつ地球での話題――俺からすればアニメ作中での思い出話が飛び出してくるかわからない。


 その際、スミレにどう誤魔化せば良いのか……いや、誤魔化しきれないだろうな。

 やはり折を見てきちんと事情の説明をしないといけないよなあ。


 スミレだけじゃなく、僚機たちにだって嘘をついていることになるんだ。

 はあ、何かいいきっかけがあれば良いのだけれども……今後の課題だなあ。

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