6章 暗躍する者

第百十五話 新機能開放

 街から戻った乙女軍団はやけにツヤツヤとしていて、それぞれ両手に大量の荷物を提げていた。

 

 それは服だったり、食べ物だったりパーツだったり……。

 皆思い思いに買い物を楽しんできたようだ。


「わるいオルトロス! これしまっといてくれ!」


『おっけ~……なんだいこれ~』

『すこし生臭いよねー』


「ああ、海産物だよ。帰り際に買ってきたからまだ新鮮なはずさ」


 マシューが買い込んだのは大量の海産物らしい。

 食べ物なら今日買わなくても帰る前にまた仕込みをするというのに……ん……まずい。


 サブシステム8の事すっかり忘れてたな……。


 スミレは気づいているのか、忘れているのか。

 ……一応確認をしておこう。


「スミレ、君も楽しんできたようだけど買い物はしなかったのかい?」

「いえ、結構買わせて頂きましたよ。私にもお小遣いをくれたじゃ無いですか」


 スミレが買う物と言えばパーツ類。

 レニーもまた、パーツを買ったのだろうが二人分にしては量が少ない。


「レニーも沢山買ったねえ。それ全部君のかい?」

「そうですねー、でもお姉ちゃんも結構買ってましたよ……あれ? お姉ちゃんの荷物は?」


 これで確定した。

 スミレめ、さり気なく意地悪をしたようだな。


 スミレはけして性格が悪いAIでは無い。

 思いやりが有り、困っている人を見かければ助けるよう、俺やパイロットにお願いする心優しいAIだ。


 しかし、悪戯心は半端ないんだ……。

 

 悪戯を仕掛け、俺やパイロットが困る姿を楽しそうに眺める悪いクセがあるんだよな……。

 それこそ、妖精の姿となった今、その性格がしっくりくるというかなんというか……。


「スミレの荷物は恐らく……ん、ほらあった!」


「え? なんでカイザーさんがお姉ちゃんの荷物を?」


 第9サブシステム、それはウロボロスの固有機能【広範囲レーダー】を応用し、パイロット用の各端末の有効範囲を広げる素晴らしい機能だ。


 それにより20km四方以内であれば互いに連絡を取ることが可能となり、また範囲内であればどれだけ離れていてもバックパックにアクセスすることが可能となるのだ。


「というわけでだな……今後はウロボロスのおかげで今日みたいな買い物で荷物に悩まされるような事は無くなったわけだ。

 スミレがついていったからね、その場でスミレが教えるものだと思っていたよ」


 ふふふ……スミレよ。俺を陥れようと思ったのだろうがそうは行かないぞ。


 どうせ『もー!カイザーさんなんで先に言わなかったんですか!』と、レニーが俺に文句を言うのを楽しみにしていたのだろうさ。


 だが、先読みしていればこうだ!

 全てスミレになすりつけてやればその矛先はスミレに行き、彼女の策謀は失敗に終わるというわけだ。

 

 あまり俺をなめない方が良いな! スミレ! ふはははは!


「もー、お姉ちゃんは何でそんな大事なことを教えてくれないんですか!」


「久々にプライベートな買い物をしたのでしょう?

 であれば普通の女の子らしく荷物に悩まされながら買い物をしてこそです。

 4人で休憩に寄ったカフェで『買い過ぎちゃったね』と笑い合ったのは私にとっても良い思い出になりましたよ」


「そっか、そうだよね! それを考えて秘密にしてたんだ! やっぱりお姉ちゃんは流石だなあ。

 それに比べてカイザーさんは……普通に忘れてたんだろうからダメですよねえ……大体普段から……」


 っく、何故だ! 何故スミレは上手く切り抜けてその矛先がこちらに向かうんだ!

 見ればスミレがこちらを見てニヤリと笑っている。

 くそ! おのれ戦術サポートAI、この手の問題もお茶の子さいさいというわけか。


 まったく恐ろしい機械妖精だぜ……!


……

 

 買った物の収納が終わったようなので、お茶を飲みながら今後の相談をはじめた。

 先ずは大きな予定として、3機構成の練習がてらルナーサ周辺で軽く装備品の捜索をし、フォレム経由でトレジャーハンターギルドを目指すと言う事を話す。


 マシューは少し照れくさそうな顔をして居たが、光子フォトンライフルの調査をしたいと言うと興味深そうに了承し。


「そうさな、あれは強いが燃費が悪いんだ。移動中に代わりとなる武器を考えておいて、着いたらそれと交換に頂くというのも悪くないよな」


 と、提案してくれた。

 

 使うか使わないかは別にして、自分達の武器が戻ってくるのは嬉しい。

 それに、炉を使い捨てにするような砲台は金食い虫だろうからもう少し普通の武器に換装した方が良いだろうしね。


「私としてもそれには賛成ですが、捜索先に何かあてはあるのでしょうか?」


 あて、あてね……。

 正直な話、パッと思いつくようなあてはないんだよな……。

 もしかしたらばルナーサ方面に飛ばされているんじゃないかなっていう希望的観測と、演習としてあちこちうろついていればヒントの一つや二つ拾えるのではないか……なんてあれば良し、無くても練習になるのでそれはそれで良しと言う……割と雑な提案だったりするんだよな。


 勿論、俺がそんな事を考えているのはスミレ先生にはお見通しなので、先程からニヤニヤと悪戯げな表情を浮かべ、俺がどう答えるのか楽しみに待っている……。


 適当なことを言ってもしょうがない、ここは正直に『アテはない』と言ってしま――


 「それなら丁度良い話があるよ」


 と、俺がぶっちゃけてしまおうと思った所で思わぬ助け舟が現れた。

 格納庫にやってきたアズベルトさんだ。


「丁度良い話ですの? それはなんですの、お父様」


「ギルドに出そうと思っていた案件があったんだけどね、丁度良いからブレイブシャインの皆さんに指名依頼を出そうかなと相談に来たんだよ」


「指名依頼……ですか?」

  

「ええ。皆さんのお力を借りられればありがたいのですが……依頼内容はルナーサ西部に聳える山、グレートバンブーでの調査依頼です」

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