第百十四話 その頃の乙女軍団
#本日は19時分の投稿が2つあります。
このお話の前に百十三話が投稿されています。
◇◆レニー◆◇
「馬車ってこんなに揺れるもんだったんだなあ」
マシューがしみじみと変なことを言うもんだから他の乗客達がクスクスと笑っている。
でも……言われてみれば確かに。
カイザーさんの馬車はおかしいほど揺れないし、椅子もフカフカしていて中に居ると本当に動いているのか不安になるくらいだった。アレになれちゃうと……普通の馬車はちょっぴり辛いものがあるね。
私達は今、久々に機兵では無く自分達の足で移動して買い物を堪能している。
ずっとカイザーさんに乗りっぱなしだったというわけでは無いけれど、こうして広い街を馬車で移動してお買い物するなんていつ以来だろう?
ここ、ルナーサはフォレムの何倍有るのか分からないほど広い。
フォレムだとお店とお家が適当に混ざり合ってるのに、ここはきちんと居住区と商業区がわけてあって、毎日わざわざ家からお店に通うらしい。
露天商みたいなことしてるなあって思ったけど、建物を丸々お店のスペースとして使えるのは便利そうだし、これもまた商人の街ならではの特色だよね。
でも……おうちとおみせ、建物を二つも所有すると維持費が大変なのでは? とミシェルに聞いてみた。
「国から補助が出ますので、個人で店を所有している人も居ますけれど……半分以上はうちみたいに大きな商家と契約した雇われ店長が多いんですの。
家賃が発生する代わり、借主に責任のない破損は大家が直す決まりになっているので負担が少ないのですわ」
「でもその分家賃が高いんじゃないの?」
「それは人によりますわね。家賃には決まった額はなく、月の売上から予め取り決めておいた割合を支払う取り決めになってますので、極端に儲からない月でも家賃を払えないと言う事にはなりませんの」
わあ、うまい仕組みだ! と、私は素直に思っちゃったんだけど、マシューが意地悪そうに質問を入れる。
「じゃあさ、100金貨稼いだのに『1金貨しか稼げませんでした』なんて嘘つかれたら大損じゃね?」
確かに……! 人間いい人だけじゃないし、そんな人も居るかも!
でも、ミシェルは何故か得意げに笑ってそれを否定する。
「マシューのおっしゃりたいことは良く分かりますわ。
でも、商人というのは怖いんですのよ? 儲けるためには他店の観察も必要ですの。
何が売れているか、客が何を求めているか、それを見定めるため他店の観察は絶やしませんし、仲間との情報交換もかかしませんの」
「じゃあ、例えばマシューが儲けているのに『あたい1銀貨しか稼げなかったよー』と誤魔化したところで、それを見ていたお姉ちゃんが『うそですよ、レニー。マシューは金貨10枚は稼げるほどお客さんが来ていましたよ』と言えばバレちゃうわけかあ」
「その通りですわ。そして雇い主に嘘をついた店長は厳しく取り調べられ、帳簿に嘘が見つかれば罰金を取られた上にルナーサから追い出されますの」
信用が第一の商人、その商人の国の首都ですのよ? と言うミシェルはやはり得意顔だった。
さて、今日はカイザーさん達は居ないとは言え、お姉ちゃんは一緒に来ている。
お姉ちゃんはお姉ちゃんなのにすっかり可愛くなってしまった。
「疲れました。レニー、乗せて下さい」
ふわふわと飛んでいたと思ったら……いきなり私の肩に座ってニコニコとするんだ。
お姉ちゃんがこうして身体を持ってお話ししてくれるのはとても嬉しいし、キラキラとした綺麗な翅を持ったその身体はとても可愛らしいけど、とにかく目立つ!
さっきから大人の人達は私を微笑ましそうに見てくるし、小さな女の子達はお姉ちゃんを欲しがるし、そのお父さんやお母さんなんかは『どこで買ったのか教えてくれ』と聞いてくるし。
お姉ちゃんと一緒は楽しいけど、これはこれで大変だ。
ちなみにお姉ちゃんは周りのことは気にせず飛ぶし喋る。
いいのかなあ? って思って聞いてみたんだけど……。
「何か言われたら『新進気鋭の人形師ザックによる人工精霊だ』と言えば良いんですよ」
なんて無責任なことを言っていた。
確かに元となった模型はザックが作った物だけどさ、あそこに行ってもお姉ちゃんは買えないのにな……
……いやお姉ちゃんの姿を見たら本当に作るかも知れないな。帰りに寄るんだろうけど、お姉ちゃんを見てどんな反応をするか目に浮かぶようだよ……。
ま、自分で動く物は流石に無理だろうけどさ。それでも似たようなものを作れば機兵人形を売るより大儲けできそうな気がするね……お姉ちゃんかわいいもん。
そんな感じで、4人で楽しく行動しているんだけど、今日はお試しということでミシェルの案内で中心街を見て回ったんだ。
色々なお店があったけど、特に多いのが服屋さん。フォレムの倍以上あってさ、しかもどのお店も良いものばかり売ってるんだよ。
折角だから見るだけ見てみようかって、冷やかしのつもりで入った私やマシューだったけど……何着か買っちゃったんだから恐ろしい。
良い服だったというのもあるんだけど、品質の割に安かったのが大きい。
新品なのにさ、古着と値段が変わらないんだよ? びっくりしちゃったよ。
なんでもさ、採寸して作ってから売るんじゃなくて、予め5段階の大きさ毎に同じ服をたくさん作って殆どの人が着れるように作っているから値段を落とせるみたい。
ミシェルが『既製品というものですわ』と言っていた。
ウロボロスの
カイザーさんも変な知識いっぱい識ってるけど、カイザーさん達はほんと不思議な存在だな。
そう言えば異世界から転移したとか凄い事言ってたっけ……。
カイザーさんが言うことだから本当のことなんだろうな。
だって人間みたいに考えて喋って動く機兵なんて居ないし、お姉ちゃんとカイザーさんって時々私が識らない単語を出すし。
今度暇な時カイザーさん達が居た世界のこと聞いてみようかな。
あっちはきっとカイザーさん達みたいな凄い機兵が沢山居るんだろうなあ……。
はー、いつか行ってみたいなあ……。
「おーいレニー! 何ぼさっとしてんだ! 今度はパーツ屋行くってさー! あたい腹減っちゃったよお……なあ、パーツなんかさっさと見て港にご飯食いに行こうぜ!」
っと、このままじゃほんとにパーツ見る時間が無くなっちゃうよ!
まったくマシューの食欲は異世界級だなー!
「まってよー! 今行くから! ご飯はその後ゆっくりと!」
「そうですよ。カイザーが身体をねだっていましたし、パーツもじっくりみないと」
お姉ちゃんの一言でマシューが絶望感に包まれた表情に変わる。
普段のマシューなら一緒になってパーツに夢中になるのに……よっぽど腹ペコなんだな。
「まあまあ、お姉ちゃん。お昼も近いしさ、ほどほどにね?」
「しょうがないですね。ほどほどにじっくり見ることにします」
「た、たのむよお……スミレぇ~!」
「うふふ。お昼はおすすめのお店を抑えてありますから、楽しみにしておいて下さいな」
「うおおおお! さすがミシェル! 頼もしいぜ!」
「ま、ミシェルに免じてお昼までには済ませましょうか。急ぎますよ、レニー」
「ああっちょ、ちょっとまってよお姉ちゃん! 一人で先に飛んでっちゃダメだって!」
キラキラと翅を輝かせながらお姉ちゃんが飛んでいく。
後ろからはミシェルとマシューの笑い声。
なんだか久しぶりにのんびりとして楽しい1日だったけど……やっぱりちょっと物足りないね。
いつか、カイザーさんともこうして一緒にお買い物できたらいいなあ。
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