第百十三話 おるすばんかいざー
この世界に散らばっている俺達の武器――
一つの所在は明らかになっている。トレジャーハンターギルドに備え付けられている
あれを返して貰うかどうかどうかは別として、せっかくだから一度ウロボロスに装備してみて貰いたい。
戦力としてというよりも、純粋に……装備しているところを見たいからな!
オルトロスとデータリンクした時もそうだったけど、武器に関しては記憶が戻らないらしく、ウロボロスとリンクをした時も装備品のデータについては一切送信されてこないというか、思い出すことが出来なかった。
気になって聞いてみると、オルトロス達もまた、自分達の専用装備の事を思い出せないらしい。
武器に関してのデータは例の安全モードに突入した際にそれぞれの武器にアップロードされていて、それを装備した時再び俺達にダウンロードされる具合になっているんだろうな。
武器なのだから誰が装備してもいいだろうに、ご丁寧にも専用武器は互換性を切っているため、それぞれ持ち主、またはそれと合体時の俺以外は装備用のコネクタが拒否され接続することが出来ない。
しかし、今は皆揃っている。
訓練をしながらルナーサ国内で武器の捜索をし、ある程度満足が行く水準に達したら赤き尻尾の所に向かうのは良い案かもしれない。
マシューの里帰りも出来るし、ミシェルとジン達の顔合わせも出来る。
まずはルナーサ近郊で訓練をし、それが済み次第、武器の探索をしながらフォレムへ。
フォレムに着いたらギルドやリック達の所に顔を出し、
こんな所か。
予定がまとまったのでさっそく乙女軍団にも話して……と、行きたいところだが、現在彼女たちは街に出かけている。仕事ではなく、プライベートの時間、ぶらりルナーサ街歩きってやつだ。
まあしかたないよね。今日まで我慢が多い行程だったしさ。
パインウィードを出てから……最低限の滞在しかしないで移動を続けたからね……きっと屋台での買い食いに飢えているはずだよ。
ミシェルの家で出されるご飯も中々に美味しいらしいけど、屋台のご飯はまた別物だし、買いたいものだっていろいろあるはずだ。
今日は徒歩で行くーってことで、俺達は留守番だけど、たまにはハンター稼業から離れて普通の女の子として遊ぶのも大切な事だしね。
今日はインカムもオフにしているし、純粋に楽しめるだろうさ。
……スミレも『護衛ですので』と威張ってついて行ったから完全にオフといった感じにはならないかも知れないけど。
そんなわけで、現在豪奢な格納庫に居るのは俺とオルトロスにウロボロス。
大好きだった機体が3機も揃って並んでいるんだ、これはこれで素晴らしい時間だよ。
せっかくだし、ウロボロスから昔話でも聞くとするか。
「なあ、ウロボロス。大戦時ってどんな機兵が居たんだ?」
一番興味があること、それは大戦時……旧機兵時代に存在していたロボ達だ。
今で言う軍機のような物ばかりだったらしいが、詳しい仕様は聞いていない。
そこはやっぱり聞いておきたいよね。
『ああ、聞いちゃう? やっぱ聞いちゃう?』
『好きそうだもんね、カイザーは。そうねえ……――』
二人の話によれば、旧時代の機兵は現在の軍機より俺達に近い存在だったらしい。
AIこそ持たないが、現在では作れない部品も数多く採用しており、そのスペックは現行機なんて足元にも及ばないほど高性能。
ウロボロスですら、数機で囲まれると結構危なかったりしたというのだから凄いよな。
ライダーたちの機体を見ていると、お世辞にも我々に敵うとは思えないからな。
それなりにロボットとして活動できるほどのスペックは在るけれど、俺達と本気でやりあったら、たとえ1対10だろうとも5分と持たずに勝負がついてしまいそうだよ。
『昔のルストニアに凄い技術者がいてね、マーレイって言うんだけど、彼は輝力炉を実現しようとしたんだ』
『でもそれはあっちの世界でも量産不可能な特別製。だから彼はなんとかそれを応用したの』
輝力炉、人が持つ輝力……気のような物をエネルギーとして動作するもので、パイロットのメンタルの影響を受けてしまう少し面倒くさいエネルギー炉だ。
当然トンデモ設定の塊だ。存在自体がファンタジーなアレは実際に作れるようなものじゃあないだろう。どんな技術者だろうと、流石に作ることは出来ないだろうさ。
しかし、技術者マーレイは意地になった。研究に研究を積み重ね、輝力炉の再現に心血を注いだ。その原因と言うか、火に油を巻くようなことをしたのは勿論ウロボロス。
よりによって輝力炉をみせてしまったらしいからね……いやあ、想像は容易いぞ?
リックにそんな真似をしてみろよ、確実に半月は拘束されて調べつくされてしまうし、半年は工房から出てこなくなっちゃう。
……なにがあっても炉を見せることだけはやめておこう……うん。
さて……そんなマーレイが寝る間も惜しんで開発した結果、生まれたのが魔光炉だ。
現行の機兵に搭載されているのは魔獣のそれと同様に『魔導炉』と呼ばれていて、それは魔石から抽出したエーテルを精製して作られた『エーテリン』なるガソリンめいた液体で動作する。
なので街や街道沿いにはエーテリンスタンド的な店が存在しているらしい。
民間機も軍機も等しくエーテリンの残量に頭を悩ませるわけだが、魔光炉にはそんな心配は無かったらしい。
『輝力がなにかわからんが、魔力みたいなものなんだろう? と、彼は言っていてね』
『輝力では無く、魔力を直に流して動かす魔光炉を開発しちゃったのさ』
仕組みは俺達と同様、コンソールから流し込まれた魔力を炉に送りエネルギーとする。
パイロットである人間の魔力量には個人差はあれど等しく限界はある。
なので、戦争や長期任務となると魔力回復ポーションが持ち込まれ、降りる頃にはコクピットに空き瓶がゴロゴロしていたそうだ。
『日本の日常みたいでちょっと笑っちゃったよ』
『エナジードリンク漬けみたいで痛々しかったけどね』
そうそう、彼らは自分達以外の記憶ははっきりと残っていたそうだ。
自分達が何者なのかと言う記憶はそっくり封印されていたみたいだけれども、日本で生活をして得た知識だけはしっかりと残っていたのだという。
ただし彼らが知る日本とは俺と違って現実世界ではなく
勿論、ウロボロスだけではなく、オルトロスも同様だ。
彼らが知る日本には竜也も謙一も雫も実在していて、彼らには作中の登場人物たちと共に暮らした思い出がたっぷりと残っている。
アニメのどの辺までの世界観がウロボロスやオルトロスの記憶として使われているのか分からないけれど、恐らくは最終話後の世界から来たのでは無いかと思われる。
……そして俺ともウロボロス達とも違う存在、それがスミレだ。
彼女はこちらの世界に来て『はじめまして、カイザー』と自己紹介をした。それはきっと、第1話以前の出会い、本部で俺がはじめて起動した際に交わされたやり取りと同じものなのだろう。
彼女もある程度は作中準拠の知識を持っているようだけれども、それはきっと機能として備えているだけのデータであり、個として見聞きして覚えた記憶とは別のものだと思う。
つまり、彼女には作中での出来事についての記憶が一切ないと言っても良い。
その理由は明らかだ。彼女は俺に搭載されている戦術サポートAIだ。
彼女の生は俺とともに有り、俺がこの世界でカイザーとして生まれ直した時、共に生をなした存在……
そう考えると……ウロボロス達、僚機に作中の記憶が残っているのが不思議だけれども……彼らにはそれぞれ独自のAIが搭載されているからな。
ロボットに魂が宿るのかどうかはわからないし、まして架空の存在である彼らだからますます不思議な気分になるけれど……きっと、俺とは別の存在として、神様は転生ではなく、転移したという形をとったんじゃないかなって思う。
……あくまでも俺の想像でしか無いけどね。
いずれにせよ、こうして3機揃えば作中の話題もちょいちょいと出てしまうことだろうさ。
……いずれ、スミレには真実を打ち明けないといけないだろうな。
「……ところでさ、生活魔導具で儲けまくってルナーサを立ち上げたって聞いたけど、魔導具の知識なんてどっから覚えたんだ?」
『そんなの決まってるじゃ無いか、現代日本の知識だよ。ライターや室内灯は無いと困るだろ?
水を汲み上げるポンプなんかも無いと面倒で仕方がないからね。こちらには魔力という便利なものが在るからそれを使って再現させたのさ』
『魔導具だけじゃないわ。他にも石鹸やシャンプーなんかも作ってね、そりゃあもうバンバン売れたわよ。今思えば……これって雫ちゃんの知識よねえ』
ウロボロスのパイロット、桜川 雫は石鹸やシャンプーを作る女の子らしい趣味を持っていた。
ローちゃんと呼ばれ可愛がられていたウロボロスの
なるほどなあ、異世界知識で商売チートか……。
……ウロボロスって……大戦で無双したり、商売で無双したり……俺なんかよりもずっと異世界主人公らしい事をしていたのでは……?
#本日はこの後にもう1話更新されています。
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