第百十二話 月皇

 悔しげな……いや、楽しげな歓迎会の翌日、再び俺達は地下に降りていた。


 朝からウロボロスが興奮気味に完全復活の報告をしてくれたからである。

  

 早朝、突然に俺のコクピット内にウロボロス達の声が聞こえた時はびっくりしたが、それは修復を終えた本体にウロボロスが戻った事を示すことであり、非常に喜ばしい出来事だった。


 早くこの嬉しさを皆と共有したい……そう思ったけれど、時刻はまだ4時を過ぎた所。

 レニー達はともかく、アズベルトさんを起こすのには気が引ける時刻だったため、しばらくの間ウロボロスやオルトロスと3機仲良くおしゃべりをして皆が目をさますのを待ったのである。


 というわけで、現在の時刻は10時を回った所。昨日の部屋に揃った皆にウロボロスの回復を告げ、皆で揃って昨日の部屋までやってきたところだ。


 送信されてきていたデータから既にわかっていたことだが、実際にこの目で修復された機体を見ると嬉しさがこみ上げる。


 まるで新品のように煌めく真紅の機体……ああ、かっこいいな!

 腕を組み堂々と立っているその姿にレニーたちも感嘆している。


 っと、見つめていても何も始まらないな。早速搭乗試験をしてみなければ。

 お告げがあったとは言え、パイロット適性のチェックはしなければならない。

 ミシェルであれば確実に適正してくれると信じているが……一応ね。

 

「では、ミシェル。まずはウロボロスに乗り込むんだ。直ぐに適正チェックが行われるが……君なら問題ないだろう」

 

「はい! カイザーさん!ウロボロス、よろしくお願いしますわ」


『こちらこそよろしく、ミシェル!』

『貴方を乗せられる日が来るなんてね』


 降着姿勢を取ったウロボロスにひらりとミシェルが乗り込んでいく。

 練習機のおかげか、妙に手慣れた様子でコクピットに収まると、直ぐに適正チェックが始まった。


 全身をくまなくスキャンレーダーが精査し、直ぐに『適格者』の判断が下された。


「おめでとう、ミシェル! これで君はウロボロスのパイロットだ!」

『や、やりましたのね? これでわたくしも……正式に……ああ、ありがとうウロボロス』


『お礼を言うのはこちらの方よ、ミシェル』

『ああ、僕達のパイロットになってくれてありがとう』


『ええ、ええ。改めて……これからもよろしくおねがいしますわね、二人共』

  


 さて……無事に適格者として認められたけれど、問題は操縦方法だ。

 この世界の機兵達に採用されている操縦方法は大体が2本のレバーと2つのペダルに寄るものである。


 レバーはそれぞれが腕に対応していて、ペダルは足に対応しているようだ。

 なんというか、昔ゲーセンにあった対戦型ロボットゲームの操作を少し複雑にしたような感じ……そういう印象を持った。


 基本的なそれらの操縦桿に加えて、様々なレバーやスイッチ等を搭載して自分好みに仕上げていく――というのがライダーたちの拘りらしいのだけれども……。


「さて、ミシェル。俺達の操作方法は他の機兵とは違う……が、君なら直ぐに理解し、物にできそうだな」

 

 俺達――今では表立って名前を出すのがちょっとアレな『シュヴァルツバルトシリーズ』の操縦システムはいわゆるアニメ的な物だ。

 

 それが竜也に伝えられたシーンを思い出してみても――


『さあ、コンソールに手を触れろ! そして感じるんだ俺の鼓動を! 伝えるんだお前の鼓動を! お前の意識と俺の意識は今ここに一つになった! さあ、感じるままに地を蹴り拳を燃やし敵を倒せ!』


 ――見たいな感じで、ノリと勢いで済ませられていた……。


 実際、操縦方法と言っても、複雑なことはなんにも無いのだ。コンソールに手を触れイメージをすれば我が身のように自在に機体を操れるというでたらめなものだからな。


 レニーとマシューは実際に身体を動かしながら操縦する事が多く、しばしばコンソールから両手が離れているのだけれども……それでなんとかなる様ないい加減な仕組みだ。


 ……演出上そういうシーンが多々あるアニメ原作準拠といえばそうなのだけれども。


 しかし、それをそのままミシェルに伝えたとして伝わるわけがない。特に決まった操縦方法が無い以上、お前なら出来ると言葉をかけるのが精一杯というわけだ。


 マシューも最初は戸惑っただろうが、あいつは器用だから直ぐ仕組みに気付いてものにしたんだろうな。


 ……と、さすがミシェルだ。早速理解できたようだな。


『凄いですわ……私が思い描いたとおり……ウロボロスが動いていますわー!』


『流石アズの子孫だね。彼も飲み込みが早かったけれど、君も中々のものだよ』

『この感じ……懐かしいわね……やっぱりロボットはパイロットが居てこそよね』

 

そうか……ウロボロスは大戦に自らも参戦したような事を言っていたし、自立機動で色々と手伝ったりしていたわけだから、そりゃパイロット登録済みなんだよな……。


 なんだろうな、この、親友が先に恋人を作ったような感じというかこの……まあ良いけども!

 

 俺がいらない事を考えている間にもミシェルは操縦テストを続けている。


 ゆっくりと、だが力強く地下空洞を歩く姿は中々どうして立派なものだ。

 どこかの誰かみたいに天高く跳躍することもなく、それでいてよろめくこともない。

 いやあ、ほんと大したものだね。


 レニーは馬鹿みたいに輝力が多いため、初回の大跳躍は仕方がなかったことなのだと思っているが、ふらつきや転倒、激突等……大体の失敗はただ単に不器用なのが原因だ。


 その点ミシェルは大丈夫そうだな。練習機で長年訓練をしてきたのもあるだろうけど、ミシェルは落ち着きが在るから機体の周囲に気を配って適切な動き方が出来るようだ。


 暫くの間、洞窟内を歩いてもらったり、小走りをしてもらったり……飛んだり、シャドウボクシングをしてもらったりと、色々動いてもらったが、問題なさそうだ。


 よし、これならばいけそうだ。

 ウロボロスとの2身合体をためしてみよう!


「レニー、ミシェル、合体するぞ!」


「うおおおお! ウロボロスとの合体、試すんですね! ミシェル! がんばろうね!」

『ええ、任せて下さいな!』


「よし、ではいくぞスミレ!」


『了解、カイザーシステム第5起動 モードソニックウィンド 承認』


「ソォオオオオオオニックウウウウウインドオオオオ!!」

『えっ? そ、それ叫ばなくちゃだめですのー?』


 突如叫んだレニーに驚くミシェル。

 別にいいんだよ……叫ばなくても……でもレニー……いいよそれ……いい……。


 煌めく謎の光……エフェクトに包まれ、ウロボロスの機体が3つに分かれる。

 別れたうち一つは俺の胸部と繋がり、残り二つは脚に向かう。

 ガシン、ガシンと無駄に大きな音をたてて装着されたウロボロスのパーツが俺から伸ばされたコネクタによって完全に接続され――


 ソニックウィンドモード、脚部強化状態に無事成功最多。

 ……脚が伸びて一気にスタイルが良くなったな。

 

「まあ! 聞いていましたけど二人横に並ぶんですのね!」

「うふふー、そうなんです! 一緒のコクピットっていいよね」


「いいかミシェル、が怪我をせずにいられるかは君にかかっている」


「はえ? 一体何の話ですの?」


「脚の出力制御はウロボロスのパイロット、つまり君の役割だ。

 レニーの操縦に併せた出力をしなければ……転ぶぞ!」


 格段に足回りの性能が上がってしまうソニックウィンドモード。

 そして通常時でさえも走ればちょいちょいと転んでしまうレニー。


 最近ようやくあんまり転ばなくなってくれたが……それでも油断をしていればコロリと行く。

 そんなレニーに反応と速度が向上した足回りで歩かせてしまったら……想像するだけで恐ろしいな。


 合体時における各部位の出力制御はそれぞれのパイロットに委ねられている。

 スミレがやってやれないことはないのだが、そこはそれアニメ的な演出上の都合というものがあるわけで……仕様上、パイロット達が制御しなければ最大限の力を発揮することが出来ない……という設定になっているのだ。


 そしてメインパイロットは少々操縦に難があるレニーだ。

 俺が転倒するもしないも脚部を担当するミシェルのさじ加減ひとつ。


 頼むぞミシェル……どうか、レニーに合わせてうまくやってくれ……。


「いいか、レニー! 落ち着いて、落ち着いてゆっくりと一歩ずつ歩くんだぞ……いいか、普段以上に気を遣って一歩一歩確実に――」


「そ、そんなに言わなくたって平気だってば、カイザーさん!」


 一歩踏み出し、さらにもう一歩。

 慎重にゆっくりと歩いている。


 バランス制御もバッチリ。足がもつれることも、ふらつくこともなく。


 なんだ、レニーもやればできるじゃなあああああああ!?


「わあ! 凄い! なにこれ凄い凄い! ちょっと走っただけなのにこの速度!」

「お、おい! レニー! もう少し速度をさげ、さげ!」

「ちょ、ちょっとレニーさん? ゆっくり、ゆっくりいいいいいい! わ、わたくしの制御がおいつかなあああああああ」


「「「うわああああああ!!」」」


 ……凄い音を響かせながら盛大に転んでしまった。

 

 呆然とした顔でこちらを見ているアズベルトさん、そして腹を抱えて笑っているマシュー。


『ひーおかしー! 何やってんだよお前ら! そ、そんな所で凄え勢いで転ぶとか……あははははは!』  


 ふふふ……マシュー……そうかい……。

 きっと寂しくて……そんな事をいってるんだね? いいだろう、いいだろう!


「よし、レニー、ミシェル! オルトロスも入れて3身合体するぞ!」


「「はい!」」


『はい?』


「聞いたな、マシュー、オルトロス!」


『ちょ、まじかよ、あたいたちも?』

『やった~!久々に3がったいだ~!』

『すみれー頼むよー』

『ちょ、ま、待って! あたいまだ乗ってないから! こら! 待てって!』


 慌てた様子でマシューがオルトロスに乗り込んでいく。ふふふ有無を言わさないぞ。どのみちこの後すぐに披露する予定だったんだ、それが少し早まっただけさ。

 

『揃いましたね。ではいきますよ、皆さん! モード:カイザー・ルナ承認!』


 合体していたウロボロスが一度分離し、分離したオルトロスと共に合体フォーメーションを組む。

 ウロボロスとの合体時よりさらに派手な謎の合体エフェクトまばゆい光が発生し、合体が始まる。


 腕や脚にそれぞれが合体するのは変わらないが、胸部に合体する2体は俺に到達する前に合体・変形し、月のレリーフを備えた胸部パーツとなって俺と合体する。


「「「カイザァアアアアア・ルナッッ!!!」」」


 うおおお! なんだかわからんがでかした! パイロット達!

 打ち合わせもしていないのに声が綺麗にハモって合体決め台詞を成功させてるぞ!

 マシューもミシェルも……なんだかんだいってこういうの好きなんじゃないか。


「あれ……なんであたい……レニーみたいなセリフを……」

「カイザー・ルナってなんですのー!?」


『レニーの思考とリンクして引っ張られたんですね……』


 ああ、そう言う理屈なのか……。

 変身ヒロインが何故かいきなり決め台詞を言えるアレかと思った……。

 そこまでで都合が良い仕様ではなかったのね……。


 パイロットとして同じコクピット内にいると、謎の力である程度思考がリンクするらしいからな。ロボットモノのあるあるだけれども、実際目にするとちょっとびびるね……。


 しかし……念願の3身合体……ついにきたぞ!

 頭部パーツこそ元と変わらぬ1本角だけれども、胸部には月のレリーフが輝き、腕、脚と共に大きく長くなりとてもバランスが良い、一言で言えばカッコイイ機体になった……。


 とうとう、とうとう念願の完全合体だよ……。


 俺のボディカラーである白を基調とし、両腕に紫、脚部に紅が差し込まれ色的にも素晴らしい……。

 

 ああ、これは早くザックに見せてやりたいな……。

 まさか自分のフィギュアを欲しがる日が来るとは思わなかったけれど……完全合体カイザー・ルナのフィギュアは是非欲しい!

 


「凄い……この機体なんだか力が漲りますよ」

「本当だ、吸われる感じがあんまり無くて……寧ろ満ちあふれてくるよ」

「これが……完全合体……」


 カイザー・ルナになると輝力消費が3人で分担されるためそれぞれの負担がグッと減る。

 そればかりか、高機動で動かない限り、機内で循環した輝力がパイロットに還元され、回復すらしてしまうのである。


「しかし、3人一緒のコクピットってなんかいいよな!」

「そうだよね、私だけ前に出て後ろに二人が並んでるのは少し寂しいけど……」

「パーティーリーダーなのだから当然ですわよ」


 広くなったコクピットに3人収まり賑やかなこった。


「というわけで、レニー、当然私もブレイブシャインに入れてくれますわよね?」

「勿論だよミシェル! これからも……これからもよろしくね!」

「あたい達が3人揃えば怖い物なんて何も無いぜ!」


 ったく、マシューはすーぐ調子に乗って……。

 

 しかしミシェルがとウロボロスが入ればほんとに百人力だよ。

 神託の巫女さんとやらは、我々と旅に出るようにといったらしいけれど……旅の予定と言われても、今のところは別にないんだよね。


 ううん、さてどうするか。


 旅と言われて思いつく用事と言えば、方々に散らばっているであろう俺達の武器探しなんだけど……。


 3機構成に慣れるまではルナーサに滞在して、何処かで訓練をした方が良さそうだな。

 となれば、どこかいい場所が無いか後でアズベルトさんから聞いてみないといけないね。


 ちらりとアズベルトさんを見てみると、呆然とした顔のまま動かなくなっていた。

 

 ああ……そうか、そうだよな。これが普通の反応だよね……。

 

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