第百十話 ウロボロス

 俺の両腕と両脚に背中、オルトロスには両肩と、それぞれ接続用のコネクタが存在している。

 

 そしてウロボロスの機体には、予想通り脚の付け根部分に同型のコネクタが確認できた。

 間違いない、ウロボロスこそ俺の脚となり共に戦う仲間だ!


『キャーーー! エッチ! カイザーの馬鹿! なんてとこ調べさせてんの!』

『おいおい、僕達の身体のそんなところを……君と言う奴は……』


 場所が場所だけに緊張感がない不満の声が飛んでくる。

 なんとでも言ってくれ。ここまで来たら後は真実を述べるのみだ。


「ミシェル、こちらに来てくれ」


 自らの力で動く事が出来ないウロボロスはミシェルの腕に巻き付いている。

 なのでミシェルを呼べば自動的に彼らも此方に来るというわけだ。 


 オルトロスに頼んでウロボロスの隣に並んで貰い、かがませて両肩のコネクタをウロボロスに見えるようにして貰った。


「これがオルトロスのコネクタで、そしてこれが……君達のコネクタだ」


『同じ……規格ね……』

『と言うことは、僕たちがかつて仲間だったというのは……やはり……』


「その答えを識るには君達の同意が必要だ。見てくれ、俺にはこことここ、そして脚元にコネクタが有る。

 前に話した通り、オルトロスは俺とケーブルを接続することにより記憶を取り戻した。

 どうだい? 試してみないか……? 俺や君達が失った物を取り返すことが出来るかもしれない……」


 ウロボロスは暫く無言で何か考えているようだったが、意を決したように肯定する。


『わかったわ、このままだと本体は完全に壊れてしまうし』

『何が起こるかわからないけど、賭けてみるしか無いよね』


「よし、スミレ! 頼んだぞ!」

『はい、カイザー! 任せてください』


 いつの間にか俺の中に意識を戻したスミレが接続に入る。


『では……行きます。第3サブ接続ハッチ開放……ケーブル放出開始。

 ウロボロスに接続します。3、2、1、接続しました。

 データリンク開始……システム良好……ウロボロスのメインOSに損傷を確認……修復中………修復完了、ウロボロス全システムの完全動作を確認……

ダウンロード及びアップロードを開始します……正常終了しました』


『続きましてカイザーシステムアップデートを開始します。

カイザー及びパイロットの承認確認……と見なします……今更なので……本部の承認、無いので省略。

セーフティロック解除カイザーメインシステム 第5及びサブシステム第8の機能制限が解除されました』


 なんだか……随分適当になった作業だなっと……ああ……俺の中に失われた記憶が流れ込んでくる……。

 

 この感覚はオルトロスの時と同じだ。

霧が晴れるように……なにかが芽生えるように……雨上がりの陽を浴びたかのように、俺の中に失われた記憶達が現れ蘇り染み渡っていく……。

 

 ……ああ、そうだ。ウロボロスはかつての仲間……俺の僚機だ……。


 作中では生徒会長、桜川さくらがわ しずくが乗っていた紅き機体ウロボロス。

 ウロボロスはナギナタ部である雫の影響か、同型の長物を振り回すスピード重視の機体だった。

 

 そして、脚となりカイザーと合体をする2号機でもある。

 ようやく、ようやく俺は完全形態になれるわけだ……。


「スミレ、ウロボロスの様子はどうだい?」


『システムの修復によりOSが完全起動、それにより各種ロックも解除され本体の修復も開始されたようですね』


『これは……カイザー……僕たちは君のことを忘れてたんだね……』

『何だか不思議な気持ち……そう、あの日感じた懐かしい不思議な反応は貴方だったのね……』


「取り敢えずお帰りだ、ウロボロス!」


『ああ、ただいまだよ、カイザー!』

『あの日貴方から離れた時……データの移行に失敗していたのね……』


『私達はちゃんとデ~タを移してから飛んだからカイザ~のこと覚えてたもんね~』

『先に目覚めたし、僕たちの方がお兄ちゃんでいいんじゃないかなー』


『その力が抜ける口調は……』

『オルトロスね! あんた達もほんっと相変わらずなんだから……』 


 俺からのデータリンクによりウロボロスのことを思い出したオルトロスが軽口を叩く。


「何言ってるんだ、お前達だって半覚醒状態でねぼけていてマシューを抑えられなかっただろ」


『えへへ~それを言っちゃダメだよカイザ~』

『もー、下克上のチャンスだったのにー』


『2000年早いよ、オルトロス』

『そうよ。私達は貴方より2000年早く起きて働いていたんだからね』


『本体は二度寝したじゃんか~』

『ノーカンだよノーカーン』 


 気が抜けたAI同士の会話が続いているが、人間達が置き去りになっている。

 説明をしてやらないとな……。


「ウロボロスは、機械的では無い損傷、人で言えば……そうですね、脳に損傷がありました。

 恐らく大戦で受けた攻撃により、何らかの障害が発生したのだと推測されますが、それが原因で防衛機能が上手く働かなくなり自己修復機能が働かなくなっていたのです」


「自己修復機能……ですか?」


「はい、俺達にはこの世界の機兵とは違う特別な機能が多数装備されていて、その一つが自己修復機能です。

 現在、ウロボロスは既にその状態に入ってるので、明日には元通り動けるようになるはずですよ」


「ほ、本当なんですか? 何年も、いえ、2000年もの間、どの技師でも直せなかった損傷が治るというのですか?」


『ほんとうだよ、アズベルト君。いつかの神託通り僕たちの身体は治りつつある』

『アズ君、今日まで助けてくれてありがとう。これで2000年ぶりに身体を動かせるわ』


 二人が言ったその言葉に感極まったアズベルトは涙を流した。

 先祖代々、長きにわたっての悲願が全て達成されたのである、涙が流れないはずが無かった。


『アズベルト君に見つけて貰ってアズベルト君に助けて貰った、奇妙な縁もあるもんだ』

『ほんとよね。アズベルトに始まりアズベルトに終わる、いえ……ここからが本当の始まりね』


 そしてウロボロスの二人はミシェルに内緒にしていた最後の一つを話す。


『ミシェル、これはアズベルト君とも相談して決めていた事なんだが』

『私達ウロボロスのパイロットになってくれないかしら?』


「わ、私がですの? う、嬉しいけど何故私ですの?」


「君が産まれたその日、マリナーゼに神託があったんだ」

「お母様に? 一体どんな」

「当代でいよいよウロボロスが目覚める刻が来る、その時が来たらミシェルをパイロットにして欲しい、銀色の巫女はそう言っていたんだってさ」


 そしてその神託の後、代々当主が身につけていたウロボロスはミシェルの腕に収まることとなったのだという。

 

 巫女はいつ目覚めるとは言っていなかったが、いつその時が来ても良い様、12歳のころから練習機を与えられ、日々訓練をさせていたんだそうな。

 

 練習機はあるが、専用機は持っていない。

 前にそう言っていたけれど、それはこの日のためだったんだな。


「そして巫女は言っていたんだ、その日は機神と再会する日……

 ……機神の助けとなり共に旅に出しなさい、ってね……」


『正直に言うとさ、はじめて君を見た時、もしかしたら君がその機神では無いかと思ったんだ』

『でも思っていたのとちょっと違うじゃ無い? まあカイザーだししょうが無いんだけど』


『今なら君がその神託に合った機神だろうと素直に思えるよ? でも僕たち記憶が無かっただろ?』

『なんだか妙に人間臭くってちょっと情けない感じがするし……神々しさなんて全くないし? 疑ってかかってたことは謝るわ。ごめんね? カイザー』


「そりゃどうも! いや、でも再会出来て本当に嬉しく思う。

 まだちょっとぼんやりした感じはあるけど、記憶は大分復活したからね」


 そうなんだ……。

 これで俺も完全復活だ! と、思ったけどデータ量が膨大なのかまだ思い出せないことは多い。

 ウロボロスもまだ万全ではないし、それはきっと時が解決してくれるんじゃないかって思う。PCだって復旧作業は直ぐには終わらないしね。


 俺達はデータ量が膨大なんだし、その辺は仕方が無い事なんだろうと我慢しておくさ。


「では、皆様。ウロボロスの修復には時間がかかるようですし、一度上に戻りましょう。

 レニー殿、マシュー殿。改めておもてなしさせて頂きますよ」


 ごはんかな? ごはんだよな! と遠慮無く目を輝かせる二人。

 気づけば時刻は夕方になっている。二人がそうなるのは仕方が無いな。

 

 明日にはウロボロスの修復が終わることだろう。

 早速ウロボロスとの強化合体と、3機による完全合体を試してみないとな!

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