第百九話 地下洞窟
『そう、魔獣ね。かつて私達が住んでいたあたりに魔獣が現れ始めたの』
『まさか僕達の影響ではないのか? そう考えて何度か調査を送ったよ』
二人の声にスミレがピクッピクッと、反応する。
……が、話の腰を折らないようにしているのか、単に言いにくい事だからなのか口をつぐんで黙って聞いている。
『丁度その頃辺りからだったかな、私達の身体に異変が起きたの』
『デバイス越しに勝手に起動してるのがわかったんだ』
起動してしまうと残存エネルギーがどんどん抜け落ち無くなってしまう。
その際何が起こるのかわからない以上、それはなんとしても止めたかった。
『でもね、どうやっても止まらなかったの。それで起動キーであろうコアを抜いたのよ』
『けれど、完全に停止することはなく緩やかにでは有るけれどエネルギーの流出を感じた』
ほとほと困り果てた頃、当時の当主に巫女が現れ神託を与えたそうだ。
『かつて暮した地、彼の洞窟に祭壇を作り宝珠を祀りなさい』
通常であれば『夢だろう』で済まされる話であったかもしれない。
しかし、当主の元に幻影となって現れた巫女は伝承にある通りの姿をしていて、その特徴をウロボロスに伝えると『過去に現れた存在と同一である』と答えられたため、夢であるとは思えなかった。
まして、縋るものがあれば縋りたい時である。
直ぐに技術者を伴い彼の地へ向かい、祭壇をしつらえてコア――つまりは宝珠を奉納し封印したのであった。
『どういうわけか、コアがその地に置かれて間もなくして……身体が安定したんだ』
『何故かわからないけれど、エネルギーの流出が止んだのよ』
そして盗掘者避けに様々なトラップと共にかつて先祖が作ったゴーレムを配置し、
年に数回お参りという名の見回りをするようになったという。
『それで、今回のお話につながるんだけどね、アズベルト君に神託が下りたの』
『コアを回収し機体にはめろって言うことなんだけど、そこからがわからない』
「巫女は言いました。『時は来た。その身に宝珠を戻し眠りから醒めよ』と。
そして……『その役目はミシェルにさせよ。長年の待ち人と共に其れは果たされる』と……」
「あの宝珠にそんな大切な役割がありましたのね……。
そうと知ってればもう少し早く戻ってきましたのに……」
『いや、それには及ばないわ。あの行動にも何か意味があったのかもしれないしね』
『うん、あれはミシェルが成長するためのいいイベントだった。あの判断は誤りではないよ』
巫女がどういう存在なのかわからない……。
しかし、その予言によれば長年の待ち人、つまり俺が来ることが予言されていた。
これはきっと……神様のお節介なのかもしれないな……。
本来自己修復能力により、完全破壊されない限りはゆっくりと回復するのが俺達の身体だ。
ウロボロスがかつて大戦で負った傷を今も直せないままでいるのは、もしかするとその機能が無い、つまりは本当に俺とは違う由来で転移してきた無関係のロボット、そういう事も考えられるかもしれない。
けれど、ここまで条件がそろっている以上、それは無いだろうな。
ウロボロスは間違いなく俺の僚機であり、修復機能が働かないのは俺とのリンクが途切れていることが原因ではないかと推測される。
リンクが途切れ、本体からの承認を得ないまま機動を続けていたためにきっと一種のセキュリティ機構が働いて修復機能をロックしてしまったのかもしれない。
そして宝珠を洞窟に治めてまもなく安定したという話……それは当時山頂付近に居た俺の輝力が影響したのではないかと思われる。
俺達の根源……人間でいう所の魂はコアに収められている。そこに輝力がチャージされたとなれば何らかの形で遠き地の本体に影響を及ぼし、輝力炉を安定させる程度のロックが解除された……もしくは、減りゆく分の輝力をチャージし続けていたか……いずれにせよ、コアが俺に近づいた事によってなにかが好転したのだろうさ。
であれば今取るべき行動はただ一つ。
「アズベルトさん、ウロボロス。身体を、本体を俺とスミレに見せてくれないか」
『……そうね、ここまで来たらやはり何かはあるのでしょう』
『神託どおり事が進んじゃってるからなあ。断る理由はないよ』
「そうですね。カイザー殿相手に断る理由はありません。直ぐ近くですのでこのままご案内しましょう。こちらへどうぞ」
アズベルトさんは部屋の奥に行くと本棚を何かいじっている。
……ああっ! こ、これは……王家によく有る
王族にのみ伝えられるいざという時に使う隠し通路……それを開ける不思議な仕掛け、まさにそれじゃないか……やばい、どうしよう? 滾るぞこれは!
俺が一人ワクワクしている間にも、アズベルトはテキパキと本棚の本を抜いてはまた別の場所に押し込んでいく。
何か適当に入れ替えているだけにしか見えないけれど、それにはきっとなにか特別な法則性があるのだろう。
本を棚に収める度、パチリ、パチリと音がして……最後に「トン」と本棚を押すと、強い力では無かったのにモカ買わず、ゆっくりと奥の壁に沈み込んでいく。
本棚が壁に消え、間もなくしてゴゴゴゴ……と言う、鈍い音と共に壁に大きな穴が開いた。
穴は俺でも楽に通れるほどに大きな物だったが、その中は単なる小部屋で特になにもない。階段でも現れて何処かに降りるのかと思ったが、どうも違うようだ。
「カイザーさん達はここでしゃがんで下さい。ミシェル達は此方の椅子に」
そう言われて首を傾げながらしゃがむと、同じくレニー達も不思議そうにして椅子に腰掛けた。
やたら天井が高い部屋は結構広く、俺やオルトロスが入ってもまだ余裕がある。
一体この部屋はなんなのだろう? これから何が起こるのだろう?
――と、辺りを見渡しているとガコンと音がし、妙な浮遊感を覚えた。
……ああ、なるほどこれはエレベーターだ。ロボ物お約束の巨大な昇降機、まさにそれだ!
初体験であろうマシューとレニーは未知の感覚にオロオロとうろたえている。
ミシェルはと、みてみれば落ち着いた顔をしている……恐らくは何度か使ったことが有るのだろうな。
ゆっくり降りているのか、距離があるのかわからないが、数分ほどの時間をかけて下降し、ようやく目的地に着いたようで再びガコンと揺れてレニー達をビビらせる。
ゆっくりと開いた扉の外は真っ暗だったが、先行するアズベルトさんが外に出た瞬間にパパパっと照明がつき――
――目の前に紅いロボットが姿を現した。
どこか女性的な体つきのそのロボットは酷く傷ついていて、見ていると悲しい気分になってくる。
『これが私達の身体、本体よ……』
『可愛いだろう? かっこいいだろう?』
ああ、確かに美しいし、かっこいい機体だよ……でもこんな痛々しい姿、長くは見ていたくは無い。
「アズベルトさん、ウロボロス、少し見させてもらっていいかな……?」
『変な所見ちゃいやよ……』
『壊さないでくれよな……』
……それぞれ何か失礼なことを言うが、アズベルトさんは静かに頷いてくれた。
「よし、スミレ。機体のスキャンだ。ここまで来てアレが無いとは言わせない。じっくり隅々までチェックしてやってくれ」
「了解、カイザー。何もかも全て見させて貰いますね」
俺の機能を使って調べるのかと思いきや……ヒラヒラとウロボロスの周りを飛翔し、目視で確認しているようだな……。
きっと動き回れるのが楽しいのだろうな。レーダーなら直ぐだろうにと言う無粋なことは口に出さずにそれを見守る事にしよう。スミレならば見落とす事は無いだろうからな。
『一体何を……探しているの……?』
『おいおい、別に変なものは無いぞ』
本当にウロボロスが俺の両機ならば、必ずアレがあるはずだ。
いや、俺はもう確信している。必ずあるぞ――
「……やはりこれは! カイザー、ありました!」
『一体何が見つかったの?』
『僕たちの身体に変な物なんて無いはずだよ?』
「あるんだよ、俺にとって、いや、俺達にとって大切なものがね」
確信していた通り、ウロボロスには俺達を繋ぐ大切な物――接続コネクトが確かに存在していた。
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