第百八話 王家から商家へ
『大戦は不思議な何かの力で強制的に終わった。白い髪に紫色の目……今でも覚えているわ。
そうね、ちょうどレニーの様な雰囲気の女性が天に現れて戦争を辞めるように言ったの』
『始めは映像を投影しただけのハッタリかと思ったんだ。でも違かった。
彼女が大剣を喚び出し、それを振ると……周囲の機兵達は皆その身体から力を失い動けなくなったのだから』
レニーの様なと言われてレニーがわたわたとしている。唐突に名前を出されてびっくりしたんだなー? ちゃんと話を聞いてないときにやる奴だよこれ。
レニーも前に似たような話をしてくれたっけな。
あの時は自然現象かなにかを大げさにした伝承かと思っていたけれど……その場にいたウロボロスが言うのなら、伝承は本当の話だったんだな。
『周りの機兵が動きを止めていく中、私達は何故か平気だった。
戦争によって身体に多大な損傷を受けていたから無事とは言えなかったけどね』
『その後、アズベルトくんと共にここに戻った僕たちは3人で相談してある決心をしたんだ』
『『この身をどこかに封印し、機兵の技術を眠らせようと』』
その時点で動ける機兵はウロボロスのみ。
しかし、その身は既に大破していて普通の修理じゃ直せない。
ならば姿を眩まし、再び時が来るまで、いつかまた、この体が直せる時代が訪れるまで永き眠りにつこう……そう決心した当時のアズベルトとウロボロスは、技術を識る者とその家族、そして王家の者と共に禁忌地へと姿を隠したのだという。
『運が良かったんだよね、その頃には禁忌地の活動がピタリと落ち着いてさ』
『今ほどじゃないけど森もあったしね、身を隠すには最高だった』
「そこが例の洞窟ってわけか」
『そう、僕たちはかつて目覚めた場所と似た雰囲気の洞窟を見つけたんだ』
『そこに私達を隠し、民達は周辺に住居を作って隠れ住んでいたんだ』
ウロボロスは残された力を振り絞るようにして洞窟を掘削し、拡大して過ごしやすいよう改良を加えたそうだ。
……なるほど、だから格納庫みたいになってたんだな。
それに技術者達も一緒に来たということならあのゴーレムの存在も頷けるな。
「しかし、身体はあそこには無かった、無いんだよね? では今何処に?」
『一通り作業を終えると、いよいよ僕達のエネルギーは残り僅かになった』
『どうやら炉に重篤な損傷を受けたようで機体を動かすほど蓄えることが出来なくなったのよ』
『そこで僕たちは外部デバイス……スミレが作ったような物を作ったんだ』
『移動はうまく行ったわ。このサイズならば僅かながらエネルギーをためることが出来たからね。お陰でその後もアズベルトくん達の役に立てたの』
その際、いたずらごころでバリア機能を加えたが、消費エネルギーが凄まじすぎてめったに使えない代物になってしまったと言っていた。
そのいたずらごころのお陰で何度も助かってるのだからわからないものだな。
『そしてその後は幾度となく世代を交代して営みを続けるルストニアの人たちを見守りながら長い時を過ごしたよ』
『でも、その生活はある日感じた気配によって終わりを告げることとなるの」
魔力とも違う、でも何処か懐かしい不思議な気配を感じたらしい。
それがどこから来ているのか、それは分からないが極近くから強く感じた。
その頃になると、禁忌地にも多くの人が移り住むようになっていて、既に隠れ住むことも難しくなっていた。
悪い気配ではないが、良くわからない気配が近くにあるのは望ましくない。
そう、判断したウロボロスはルンシールへの帰還を提案する。
不安に思うもの、ウロボロスを心配するもの、意見は様々だったが、最終的にルンシールへ移動することになった。
当初はウロボロスの身体をおいていくことにしていたそうだ。
機兵文明の残滓ともいえるその機体は外部の人間に見られると厄介ごとの原因になると考えたからだ。
しかし、既に世の中では機兵は過去の遺物である。
あちらこちらから残骸が発掘されるが、動かない其れは見つけた所で喜ぶのは歴史学者くらい。
日常的に『歴史的遺物』として発掘されているのだから、動かぬ機体が運ばれている姿は珍しい物ではなかった。
むしろ置いていくと盗掘され、物好きな学者によってその身を暴かれてしまう危険性がある。
ならば一緒に連れて行って身近な所に隠したほうが良い。
最終的にそういう判断に落ち着いて。
ウロボロスの機体は巨大な馬車に積み込まれ、ガタリゴトリと非常にゆっくりとした足並みでかつての居住地、ルンシールを目指すこととなった。
ルンシールに到着後、彼らは秘密裏に旧王城の地下に存在する洞窟にウロボロスを隠した。
今や盗掘され尽くした王城には近づくものも居らず、格好の隠し場所になったのだ。
そして当時の当主、ルナーサ・ルン・ルストニアは王家から商家になるべく活動を始める。
かつてウロボロスの協力によって建てられたルンシールの建物は強固であり、かつての面影を残したままではあったが、長らく放置された廃墟であった。
ルナーサは残されていた建物を修繕するよう民に伝え、共に道具を手に取り修繕に励んで住民達の住処を確保した。
簡易ながらも港を整備し、郊外に畑を作るなどして食料問題が解決した後にルナーサが提案したことは生活に明るさと潤いを齎すことだった。
それを聞いたルストニアの末裔たちは存分に腕を振るった。
代々貯めてきた素材と磨いてきた技術力、それにウロボロスの知恵を交えて様々な生活魔導具を生産した。
かつてこの大陸に広まっていた魔導具……しかし、その技術は大戦によって失われかけていたため、簡単な照明や火おこし道具ですら高価な物になっていた。
彼らが作り上げた魔導具はルンシール跡地でしかなかった廃墟を美しい街へと変貌させ、大陸屈指の技術力を備えた最先端の街に生まれ変わらせてしまった。
やがてそれは大陸各地で話題となり、トリバ共和国をはじめとした各地からそれを求める商人が殺到することとなった。
これをきっかけとしてルストニアは王家から商家に転身することになった。
魔導具を求めてやってきてそのまま永住を決める者も少なくはなく、やがて街はかつての輝きを取り戻し始めていた。
人と商人にあふれた活気のある街はかつてのルストニア王都とそう変わらない雰囲気になっていたのである。
そして数年後、豪商となったルナーサ・ルン・ルストニアは仲間の商人を集めて商人の国を起こそうと話し合う。
商人による商人のための商人の国、それはとても魅力的な話で、皆は同意し、言い出しっぺであるルナーサの名を取って「ルナーサ商人連邦」が建国されたのだ。
『そして、また新たな時代が始まったんだけどさ』
『300年位前かな? また世の中の事情が変わったのよねえ』
その話を聞いてピクっとスミレが反応したのが見えた。
実体があるって便利だねえ……。
「……魔獣の出現……ですね?」
重々しくスミレが口を開く。
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