第八十八話 最終防衛砦 

 本日は……なんと午前中でノルマを達成してしまい、早くも素材調達役から卒業することになってしまった。


 まともにやれば半月以上は掛かる作業だと思うけれど、俺は触るだけでホイホイとバックパックに収納できるからな。


 他の班員達が切り倒すそばからどんどん収納したり、岩もどんどん砕き、どんどん収納してしまったので、1日半であらかた終わってしまったわけだ。


 どのみち明日は商人の所へ行かなくてはならなかったから、今日の内に木材と岩の調達が終わったのは幸いだった。


 ノルマを達成したぞと、通信でマシューに報告すると、現場に資材を運んだら、そのままチームごと建造作業を手伝うよう指示された。


 砦の建造現場には今朝からA班から機兵が2機回されていて、作業用機兵2機とオルトロスの計5機で建造作業を進めている。

 けれど、工期がめちゃ短い砦建造工事だ、たった4機じゃ何処にも数が足らないわけで。

 当然、手が空いた俺達も回されるわけなのでありました。


 これで村の機兵が6機、俺とオルトロスで2機。午後からはかなり作業が進むことだろうな。


 ただしオルトロスは現在自立機動中で中身は居ない。マシューはマシューで兵器製作にとっかかりだからね。こういう時、我々のようなAI搭載型ロボだと無駄がなくて良いね。


 前もって『オルトロスも俺と同じような存在である』と、軽く紹介はして置いたのだが、それを知らないものもちょいちょいいるようで、現場で働くオルトロスから声をかけられて目を白黒させる村人の姿もチラホラと見られた。


 明日は俺が不在になるけれど、予定では修理上がりの機兵がさらに3機追加され合計9機稼働できるようになるらしいので問題は無いと思われる。


 当初の予定ではまずは2機という話だったんだけど、資材が調達されてきたことと、マシューのメカニックスキルの高さもあって想定より早い修理が可能となっていそうだ。


 そしてありがたいことに、マシューのチェックの結果、作戦決行までにさらに3機が追加され、村から12機の機兵を出せるようになるそうだ。


 それだけ居れば最終防衛作戦の成功率は格段に上がるだろう。


 ……こうして俺が考え事をしている間にもレニーの操縦で手が止まること無く土木作業が続けられていく。


 パイロットが操縦しているのであれば俺は何もしなくてもいいのでは無いか? 


 これはAI系ロボットアニメを見ている時にも少し思ったことだったけれど、実際に自分がそうなって見ると、それは誤りであるということがようくわかった。


 パイロットにコントロールを預けているとは言えそれは全てでは無い。


 人で言えば、自律神経が制御しているであろう無意識化の部分、流石にその部分はAIによる制御が必要なのだ。

 前に試しと完全に俺の制御を切り、フルマニュアルモードに変更して全てをレニーに任せてみた所……歩くことは勿論の事、立ち上がり、じっと姿勢を保つことすらできなくなってしまった。


 なので、こうして操縦をレニーに預けている状態であっても、実は完全に意識を閉ざしている……というわけではなく、密かに地味な働きを続けているのである。


 ま、ほとんど無意識下でやってることだから何もしてないのと変わらないけどね。


 さて、逆にパイロットがいない場合はどうなるのかと言えば……そこで一人棒倒しをはじめて叱られているオルトロスを見れば理解出来るだろう。


 いやまあ、これは個人差が在るけどな。流石に俺は一人にされても遊ぶようなことはしないけど、オルトロスのAIは10歳程度の少女と少年をモデルとして組まれているから……怒る人がいないとたまにああやって無邪気なことやっちゃうんだよなあ。


 さて、砦――俺達が作っているのは城壁のような物だけれども――それが現在どんな具合かというと、基礎となる大木が何本か地中深くに打ち込まれ、それに沿って立てられた木製の基礎柵によって街道が完全に塞がっている。


 現在はその木柵に沿って岩を並べ、砦の基礎工事をどんどんと進めているところである。


 しかし、この砦建造工事だけど……進むのがめっちゃ早い。

 俺達が森から戻ってきたらさ、昨日まで何もなかったのに杭は打たれてるし、基礎作だってあらかた立てられていたんだぞ? 驚くなって方が無理だよ。


 あまりにも速い作業の進みにびっくりしてマシューに『凄え早いな、やるじゃん』と通信を入れた所――


「あったりめえだよ! 馬鹿イザーだなあ、まったく。

 いいか? 現場は朝から機兵4機でフル稼働してたんだ、柵を立てるくらい終わって無くてどうすんだよ! キチっと段取りすりゃあ、こんなもんだっつーの! あー、明日にはまた2機修理から上がっからよ、こっちのことは気にしないで良いからな!」


 と、当たり前の話をするなって怒られた感じになってしまった……ううん、なんだかマシューの親方度がグングン上昇している気がする……。


 ルナーサについたら暫くミシェルの家に預けてみようかな……幾分か女の子らしさを身に着けてくれるかもしれない


 しかし、機兵を土木作業に使うとここまで早く作業が進むんだなあ。

 そりゃさ、地球にだって重機というロボに片足を突っ込んだマシンはあったしさ、アニメでも土木作業用のロボが存在する作品はあったさ。


 けど、それを実際この目で見ると余計に驚くと言うか……そこまで出来るんだって言うか。

 

 生身であれば到底手に負えない大きさの資材を片手で持ち、開いた手に持つデカいハンマーで地面にガンガンと打ち付ける……そんな芸当がサクサクと出来てしまうんだ。


 アームを2本備え、其れと似たような事が可能な重機も存在するのは知っているし、それがやたらと高効率で作業をすすめる動画を見たことも在る。


 けどさ、ロボが凄いのは手に持つ道具を持ち変えるだけで速やかに別の作業に移れるところだよ。デカいのこぎりで木材を切り、それをガンガンとハンマーで地面に打ち付け……今度は木に釘を打ち込んで……と、この世界の機兵がどういう理屈で操縦されているのかはわからないけれど、やたらと器用な動きまで出来てしまうからな。


 作業を見ていると、太い縄をロープのように使って木材を束ねると言うことも簡単にこなして居て思わず笑ってしまったよ。台風なんかで被災した箇所の災害復旧工事などをやらせたら大活躍するだろうなあ。


 さて、こうして働く機兵達によって建造中の砦だけど、最終的には全面を石垣で覆われたダムのような形をした1階あたり2.5mの全6階の砦となり、その3階部分に轟雷槍が設置されるとのことだった。


 壊すにはちょっともったいないほど立派なものが出来ちゃいそうだぞ……使うにしろ使わないにしろ、用が済んだらこのまま村の南門として使ってもいいかもしれないね。


「おーいレニー、丸太束ねといたから向こうまで運んでいってくれや」

「はーい、任せて下さいよ!」


 バックパックに収納できる俺は運搬係として大活躍だ。いくら機兵とは言え一度に運べる量には限界があるからな。


 その点俺は無限とも言える量を重さを感じず持ち運ぶことが出来る。


 通常の機兵が10往復しなければいけない量の資材だって俺の手にかかれば1往復で済ませられる。


 オルトロスも同じく荷物運びに精を出しているし、これもかなりの効率アップに繋がっているはずさ。


……

 … 


 作業は夕方、日が落ちる前におしまいだ。

 日が落ちてからの作業は危険が伴うということで、急いでいても無理はしない良い現場なのである。


 現場を共にした者たちでねぎらいの言葉をかけながらその日は解散となった。


 宿に帰ると、直ぐにレニーはお湯をもらいに走っていった。機兵に乗っての作業とは言えそれなりに体を動かすこととなる。


 風呂好きのレニーだからな……汗まみれを嫌って一刻も早く湯を使いたかったのだろうな。ほんとはお風呂にでも入れさせてあげたいけれど……流石にリックの工房のように贅沢な真似はできないし。今は体を拭く程度で我慢しておいておくれ。


 さて、と。今のうちに明日の打ち合わせをしておこうかね。


『はい、ミシェルですが……カイザーさんですわね。お疲れさまですわ』


 ミシェルに通信を入れるとすぐに応答があった。


 ミシェル率いるC班は現段階ではやることが全て終わり、ハンターズギルドからの資金調達も完了したということで、後は明日以降の仕入れを待っている状況らしい。


 B班も凄いけど、C班も流石に優秀だね……。


 それで、問題の仕入れ、商隊との直接交渉だけれども……現在季節は初夏、幸いなことにこの時期は王家の森周辺での狩りが活発になり、ルナーサからそれを仕入れる商人たちが多数向かうらしい。


 勿論、商人たるもの手ぶらで向かうということはしない。ルナーサ近郊に生息する魔獣の素材をはじめとして、様々な食料や物資をたんまりと積んでくるわけだからありがたい。


 街道で商隊を待つというのは……変な喩えをしちゃうけど、移動販売の焼き芋屋さんを家の前でじっと待つほど不毛かもしれないと思っていたんだけど……結構楽に済んじゃいそうだね。


「それで明日はC班からは村人10名と私が出ますので、A班からはカイザーさんとレニー、お二人が護衛につくということでお願いしますわね。あまりぞろぞろ機兵を連れて行くと、商隊の方々に不快に思われかねませんので」

「ああ、それでかまわないよ。馬車で街道を行くのだから、そう危険はないと思いたいが……いざという時はアレを期待してもいいのかな?」

「アレ……? ああ、ウロボロスの護りですね?」


『それに関しては大丈夫だよ。あれからかなり回復したからね』

『ええ、それに以前より力の貯まりが良くって、3回……いえ、2回は発動可能よ』


 唐突に会話に参加したウロとボロスが直々に許可を出してくれた。

 あんな強烈なシールドを2回も張れるならなによりだよ。


「それを聞いて安心したよ。本当はあと2機は連れていきたいところだけど、ミシェルが言う通り、あまり相手を驚かせたくはないし、今うちの班も砦の建造作業で重宝されているからね。俺1機となれば守りが少し不安だったけど、ウロボロスが居るなら安心だな」


「砦……ああ、轟雷槍と言う武器を据え付けるんでしたわね……轟雷槍……」

「ん? 轟雷槍になにかあるのかい?」


 轟雷槍と何か思わせぶりに呟いたミシェルだったが、其れには特に意味はなかったようで直ぐに『いいえ、なんでもありませんわ』と、否定をし、後は護衛に関する細やかな話や、必要な物資についてなど打ち合わせをして通信を終えた。


 今日で作戦開始から5日が経過した。

 決行日まであと5日、丁度半分過ぎたところだね。


 特に何か理由があって決めた期日じゃないけれど、この分ならば予定通り作戦決行出来そうだ。


 さあ、ここからが正念場だ。最後まで気を緩めずにがんばるぞ。

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