第八十七話 木樵の日
「どりゃあああああああ!!」
早朝の森に反響するレニーの声。遅れてボゴウと、鈍い音が辺りに響く。
レニーが放った拳が対象を貫き、ミキミキと音をたててヒビを入れていく。
「えい」
トドメとばかりに、ちょんとレニーがそれを押せば、対象はメキメキと音を立て……やがてズズンと音をたてて地に伏せた。
「ふう、これで……5本目だ!」
本日我々は
昨日、マシューと約束したとおり、本日は例のアレの資材調達として森に入る予定だったのだが……何故魔獣狩りでは無く木の伐採をしているのかと言うと……。
本日の朝会でB班リーダーであるマシューから一つの報告と提案があったからだ。
……
…
「あーB班リーダー、マシューだ。昨日、そこのアホ……カイザーからとんでもない提案をされたんだ。聞いて驚け、凄えでけえバリスタを造ってくれって言われたんだ」
唐突に俺の悪口を言い始めたと思ったら、昨日のアレを皆に説明しているらしい。
けれどマシュー……お前はもう少しこう、俺を馬鹿にしない説明の仕方を覚えたほうが良いと思うよ……ていうか、今の説明で場が和んでいるから複雑だ……。
「バカでかいバリスタ……呼びにくいので勝手に
「む……かっこいいじゃないか。それでいこう」
「ありがとよ! でな、轟雷槍ってのは説明したとおりスゲーデカい。どんだけデカいかって、そこでアホづらして突っ立ってるカイザーサイズの矢を撃つってんだからデカさと馬鹿さがわかるだろう?」
こいつ……またアホって言ったね? そりゃさ、ゲームに出てくる浪漫兵器を実際に作ろうってんだから、我ながらアホやなーと思うけれどさあ。
……次アホって言ったらまたオルトロスに頼んでお仕置きしてもらおう、そうしよう。ククク……。
しかし、悔しいけれど説明は的確だ。昨日俺が伝えたとおりとは言え、俺を比較対象に出したのは良いね。村人達が俺をじっと見上げて『ほえー』とか言ってるもん。身近に在るものでサイズ説明すると伝わりやすくていいよな。
俺はこの手のロボにしてはやや小さめの全長8mで、少し大きめの2階建ての建物くらいなんだ。魔獣やら何やらのサイズを思い浮かべる際はこれを元にして考えると想像しやすいと思う。
ハンターが搭乗する一般的な機兵のサイズが5mから7m程度なので、俺はちょっぴりデカめのサイズで、街を歩くと人型なのも相まって結構目立つんだよね。
で、魔獣のサイズだけれども、そこらに沢山居るブレストウルフが全長4m前後、これは俺の半分くらいだ。生身の体では脅威となるが、熟練のハンターでは敵にはならない雑魚キャラだ。
そしてそれのヌシであるバステリオン、こいつはデカい。俺達が戦ったバステリオンは後で計測してみたところ9.2m、体高は5.4m……例えるならば、デカ目の平屋、ロフト付きの物件がそっくりそのまま歩きまわっているような感じだろうな。
最後に問題のヒッグ・ギッガだけれども、こいつはデカい。全長26.8m、体高はなんと18.2m! バスが2台並んで……いや、バスどころでは無く5階建てのちょっとした建物、近所のレンタル店が丁度そんくらいの物件だったが……そんな建造物に脚が生えて向かってくるわけだ。
わかりやすく俺を人間サイズに置き換えて考えると、ヒッグギッガはだいたいめっちゃ車高が高いピックアップトラックサイズか……走行中のそれに飛びかかり動きを止めるだなんて無理な話だってようくわかる。
それ故の拘束用バリスタで有り、控えの轟雷槍というわけだ。
サイズ的に5階建ての建造物にタンクローリーが突っ込むような感じなんだ、結構良いダメージが入ると思わないか?
マシューが轟雷槍の仕組みやその想定される威力などを説明すると、村人達からため息と歓声、一部からは笑いが起きている。トンデモ武器だからな、反応は様々だ……と、轟雷槍を用いる作戦は後出しだからな。ここはしっかりと俺からも説明しておかないと。
「ああ、俺からも説明させてくれ。まず、知っておいてほしいのは、これは主戦力としては考えていないという事だ。
作戦は先に話したのから変わらずに、バリスタによる拘束からパイプを破壊し、その後、決戦ポイントとして定めた災害現場にてとどめを刺す。
今話題に上がっている轟雷槍は作戦が想定しているとおりに進まなかった時の保険だ」
そして轟雷槍を保険として設置するのはもう一つ理由がある。
奴が何かの気まぐれで村に向かって走ったら……何も防衛策を持たないままで居ればかなりの被害が出てしまうことだろう。
なるべく村に奴の目が向かないよう戦うつもりではある。しかし、魔獣は中途半端に知恵をつけているんだ。自らを痛めつけている生き物たちがどこから来るのか、それを理解していれば気まぐれではなく、作戦として村を潰しに来ることも考えらなくはない。
「万が一奴が村に目をつけ、矛先を向けた場合のことを考え、轟雷槍は村の南門に設置しようと思う。そこに設置しておけば万が一奴が村をめがけて駆け込んできたとしてもカウンターを当てて止めることが出来るし、門の両脇には切り立った崖が在るからな。
ヌタ場で仕留めきれなかった際に真っ直ぐ誘導するのに丁度いい」
そこまで説明をすると、マシューがサッと右手を上げ、説明を引き継がせるよう合図をした。俺が言いたいことはもう大体説明しちゃったので、素直にそれを譲ることにした。
「このように、轟雷槍は強い。強力で、確実にアレを倒す鍵となるはずなんだけどよ……問題は設置方法とその場所だ。
まず、はじめに知って置いてほしいのは射出されるやりの特性とその目的だ。
轟雷槍から射出される槍は
この武器の目的は対象を貫くことではなく、衝撃を与えて昏倒させることに在る。刺す必要が無いのであれば先端は尖らせず、面にしたほうが効率的に打撃を与えられるだろう、そういうことなんだ」
カウンターとして当てるのであれば刺すよりも殴ったほうが良い……気がするんだよな。
頭蓋骨というか、頭部を護る内部フレームが想定よりも頑丈だった場合、刺突型の武器だと貫通せずに思った通りのダメージが出ない可能性がある。
ならば衝撃を与えて昏倒させてしまえと、刺突武器ではなく打撃武器としての轟雷槍を設計したんだ……けど、それの設置方法と設置場所か……門前に置こうと思ったんだけど、それじゃあダメなのかな。
「それでな、カイザーがアホなのはわかって居るつもりだったが……予想以上にアホだった。こいつが書いてくれた設計図には肝心なことが書かれていねえ……それは設置場所だ。
じゃあ、何か考えてるのかと思いきや、さっききいたら門前に置くとか言いやがる。
馬鹿だよなあ。んな真似したら、反動で砲台も後ろにすっとんじまうし、そもそも奴の鼻っ柱と高さがあわねーってんだ」
くそっ! またアホって言ったな!? ついでに馬鹿とまで言いやがって……いや、これは完全に俺が悪いです……そうだよな、ただそこらにぽっと設置しただけじゃだめだよな……。
「こいつで奴をより怯ませるためには、今言ったように鼻っ面にぶつけるのが一番だ。
けれど、それを設置するためだけにでけえ台座をわざわざ建てるのは勿体ねえし、かと言って今ある門じゃあ流石に脆すぎて使い物にならない。
なので、多少強度に不安があるけど、岩や木材を組んで簡易式の砦を作ってそこに設置しようと思うんだ。
勿論、街道が砦で封鎖されるような形になっちまうけれど、幸いと……と言ってしまって良いのかわからんが、今は誰も通らないからね。討伐が済んだらさっさと片付けることにすりゃあ問題なしと。
というわけで、さっそくA班には砦の素材を集めてほしいんだが、総司令殿、それでいいかな?」
「え? ああ、わたくしですわね! ええ、勿論ですわ! ただ、そろそろ……遅くとも明後日には申請書が出来上がりますでしょう? そうなれば直ぐにカイザーさんをお借りする事になりますがよろしいですか?」
「ああ、カイザーやレニーには運搬という大切な役割があるからな。便利に使ってやってくれ。こっちもそれをアテにしたいけど、オルトロスも居るから問題ないさ」
……
…
――というわけで、我々は朝からずっと必死に木を切っては収納しているわけだ。
時刻は既に昼近い。他のハンターが切り倒した分も勿論キッチリ俺が収納しているため、現在バックパックの中には多数の木材が収められている。
午後になったら今度は岩場に向かい、石材の回収だ。
まともにやれば中々に骨が折れる作業だけれども、俺が居れば問題ない。石だろうが岩だろうが、どんどんバックパックに収納できるからね。
そしてある程度資材が集まったら、そのまま砦予定地に向かって資材置き場に納品……と。
これが今日明日我々A班に与えられた仕事、砦の素材集めだ。
バリスタや轟雷槍の材料を集めなくていいのかと一応聞いてみたが、射出する槍に関してはレニーが狩るのをミスってボロボロにしてしまった
ただ、射出装置本体に使う魔導炉はもう少し品質が良いものを使いたいそうで、それは後日ミシェルに調達してもらうよう頼んであるとのことだった。
皆の協力で作戦がどんどん形になっていく。
俺が考えた作戦は穴だらけだったけれど、それもみんなの力で確かなものに生まれ変わっていって……ああ、良き仲間達に出会えたなって心から嬉しく思う。
ありがとうな、みんな。
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