第八十六話 浪漫武器の提案
――3日目
本日、我々Aチームは狩りではなく獲物の解体作業をしている。
なぜ狩りではなく解体作業に回されてしまっているかと言うと……Bチームから泣きが……マシューから待ったが掛かったのだ。
『なあカイザー……その、言いにくいんだけどさ……明日は狩りをしなくていいからな』
『む……何故だ? 資材はいくらあっても困らないんじゃないのか?』
『そりゃそうなんだけどよ。それでも限度があらあな。そうポンポンポンポン毎日狩ってこられると、何が不要で何が必要なのかわかんなくなんの! 魔獣はただあってもだめなの! 解体しねえと使えるパーツ使えねえパーツがわかんねえの! だから今ある分を解体するまで狩りを控えてくれると助かるっていうか、すんな!』
こんな風に言われてしまっては仕方がない。
いやあ、村の狩人たちの腕が中々のものでね……レニーが足を引っ張っている形になってしまっているのに、4人でサクサクと魔獣をたくさん狩ってしまうんだ。
普段は持ち帰るのも手間だと、必要最低限の数に抑えているらしいんだけれども、俺という運搬向けの機体が同行しているため『遠慮はいらねえぜ! このチャンスに安全エリアを広げてしまえ!』なんて、普段以上に大喜びで狩っちゃってるわけで……。
結果として、マシューからクレームが入る羽目になってしまったのである。
手が空いてしまったし、ミシェルを護衛して街道まで取り引きに行こうかと、提案してみたのだけれども……。
『申し出はありがたいのですが、まだマシューの方から資材リストが上がってきませんの。
それが来ないことにはギルドに提出する申請書も作成できませんし……手持ちで立て替えるにも心許有りませんので、もうしばらく待っていただけると嬉しいですわ』
なんて返されてしまったのでした。
マシューから資材リストが上がってこない理由はわかりきっている。
我々がどんどん遠慮なく魔獣をまるごと持ち込んでいるのだから、解体に手を取られてリストアップが進まないんだ……。
なんというか……張り切りすぎて逆に足を引っ張ってしまっている我々なのである……猛省!
なので、本日は少しでもBチームの負担を減らすべく、作業の遅れを取り戻すお手伝いとして解体作業を申し出たのだ。
幸いなことに、村の狩人たちは魔獣の解体スキルもそれなりに高く、問題なく解体作業にとりかかれるようだった。
とは言え……だ。
一通りの解体スキルをリックから習っているレニーは兎も角として、俺の体じゃ流石に細やかな解体作業というのは不可能だ。
かといって、ただ黙って見ているわけにはいかないので、取り敢えず荷物運びを買って出たのだが……人の手でするには中々の作業量であっても、俺の手にかかればあっという間。
たちまちする事がなくなってしまった……。
他に何か出来ることは……ああ、そうだ。昨日閃いた戦術をマシューに伝えるのにいい機会じゃないか。むしろ、今このタイミングで伝えておかないと間に合わなくなってしまう。
……なんだかまた作業の邪魔をしてしまうような気もするが、これが実現すればヒッグ・ギッガ戦の勝利がより確実なものになる。申し訳ないがぜひ聞いてもらいたい。
何故、このタイミングかと言えば、追加する戦術には新開発の秘密兵器が必要となる。
ミシェルにリストを提出前の今であれば、それに必要な資材もきちんとリストに追加してもらうことが出来る。
勿論、後から必要なものは増えるだろうし、そうなればまた買い出しに行くのだろうけども、秘密兵器の製作には時間が掛かる。作戦決行まであまり時間がない今、なるべく早く伝えるのが得策なのだ。そう、これは必要不可欠なことであり、決してただいたずらにマシューの邪魔をすることにはならないはずなのである。誰かさんたちのせいでただでさえ忙しい所にさらに枷を嵌めるような真似をするわけでは――
『……カイザー……私はわかってますから、そう言い訳じみたことをブツブツと言わなくてよろしいですよ』
「う……思考が漏れてたか」
『まったく。ただいたずらにやらかしたわけではないのですから、もう良いでしょうに』
「そうはいうけど……うん、そうだね。切り替えていこうか」
さて……と、マシューの姿を探してみれば、解体されたパーツを弄くり、何かメモを取っているようだ。資材のリストアップ作業かな?
あちこち走り回りながらメモを取っていて、やたらと忙しそうだが、取り敢えず声をかけみよう。
「マシュー、忙しい所すまない。ちょっといいか?」
ピリピリとした顔で動き回るマシューに恐る恐る声をかけてみると、作業の手を止めずに快い返事をしてくれた。
「ああ? ああ、カイザーか。いいよ、このまま聞くから好きに話してくれ」
「ああ、ありがとう。昨日さ、レニーと共に銃を試したのは知ってるだろう?
それでな、昨夜その運用データをチェックして居る時、改めて銃の機構は素晴らしいなと思ってね。魔導炉を利用した射出装置、あれをこれから作る罠に流用してみてはどうかと思ったのだが――」
「ああ、アレな。バリスタにってんならあたいもそのつもりで考えてるよ。
あんなデカブツ相手なんだ、普通のバリスタをデカくしただけじゃ矢が通らないだろう?
アレを貫くほどの威力を考えると、弦を用いたバリスタじゃあ無理が出る。だから魔導炉しかねえなってね」
「流石マシューだな。俺が考えていることは既に想定内だったか。
けどな、俺はそれにさらなる改良を加えて貫通力を上げるアイディアがあるんだよ」
「へえ、おもしろそうじゃないか。聞かせてくれよ。ああ、既に図面を引いてるってんなら、それも見せて欲しい。カイザー達はあたいらが思いも寄らない技術で物を作りやがるからな。ぜひとも参考にさせてもらいたい」
嬉しいことを言ってくれるじゃないか。そう言ってくれると思って図面の用意はしておいたんだ。喜んで見せるともさ!
「昔やっていたゲーム……いや、読んだ本でな、超巨大生物を討伐するのに使用したと言われている超大型兵器を見たことがあるんだ。
それもまたバリスタなんだけどさ、高速で回転する銛を射出するんだよ。
回転によって貫通力が上がった銛は獲物体内深部まで喰らいついてな……それはそれは良いダメージを与えるんだ」
「回転か……なるほどな。ほほう、銛に溝がついてんのか。なるほどこれはエグいな……ついでによ、ここにこうして返しをつけちまったりすりゃあ……深く刺さって抜けねえ凶悪な兵器になりそうだぞ……ククク、やべえなこりゃ」
先端がドリル状になった矢、うまく言葉で説明が出来そうになかったので、そこは図面に任せたけれど、それを見てさらにエグい改良をしようと考えるとは……流石だわ。
けれど、これはあくまでも拘束用バリスタの効果を上げるアイディアであり、真に提案したいものとは別だ。
「で、だ。実はもう一つ……当作戦の成功率を引き上げる秘策があるんだ」
「おいおい……まだなんかあんのか? 勿体ぶってねえで言えよ」
「当作戦の秘密兵器……それをシンプルに説明すれば、先程説明した物をそのまま大きくした様なものでな……射出される銛のサイズは……そうだな、丁度俺くらいで――」
「はあ? カイザーくらいだぁ!? 馬ッ鹿野郎! 無茶も休み休み言えよ! 弾がでかけりゃつええ? まあ、わからんでもないさ。けどさ! 大体にしてそんなもんまともに飛ばないぞ!」
「ああ、そうだろうよ。けどな、これは飛距離が出なくてもいいんだ。超至近距離で使用する近接型バリスタだからな。
だから分類上は近接武器になるだろうな。だから射程距離は考えず、高威力で前方に突き出ることだけ考えれば良いんだ。
ほら、呆けてないで……先ずはこの設計図を見てくれないか? スミレと二人相談しながら書いたんだが、中々に面白いものが出来たと思うぞ」
『一応、一般的に使われている武器や機兵のデータを元に書き上げましたので、実現不可能な機構は採用していませんよ』
「あ、ああ……ったく、なんてもんを……む? ふむ……」
図面を渡すと真剣な顔にかわり、それはやがて面白い物を見るような、楽しげな表情に変わって……どこかリックを彷彿とさせる良い顔で眺めている。
ふむふむと声を出しながら何かを考えるようにじっくり隅々まで見ていたが、突然「プッ」と噴き出すと、そのままゲラゲラと笑い始めてしまった。
一体何がそんなにツボにハマったのか。笑い転げるマシューを困った顔で見つめること2分32秒……漸く笑いが収まったのか、ハアハアと呼吸を落ち着けている。
「いやあ、すまん。あまりにも馬鹿な発想過ぎて笑っちまった……あ、違うぞ、お前達を馬鹿にしてんじゃ無いんだ、よくもまあこんな恐ろしい物考えつくよなって思ったんだよ」
「一体何がそんなマシューのツボにはまったんだ?」
「いやさ、魔導炉を……ろ、6基も積むっつうぶっとんだ設計がまず面白えし……そっから得られる有効射程距離が最大でも5mで……それで十分って思想がまた頭おかしいしさあ……。
ククク……し、しかもここ、隅っこに『使い捨てを考慮している』と書いてるじゃ無いか。
こ、こんな金がかかりそうなブツを使い捨てって! 魔導炉6基だぞ? そ、それも銃に使う小せえやつじゃねえ、機兵用の中型魔導炉だ。ばっかじゃねえの、ばっかじゃねえの! あー、もう面白くて仕方ねえ! じっちゃんやリックの爺さんに見せたらあたい同様めちゃくちゃ笑うぞ」
なるほどな。浪漫が過ぎて思わず笑ってしまったってわけか。
いやあ、確かにこいつは変態武器さ。それは俺も認めるし、誰かから聞かされたらば、俺も大笑いして褒めるだろうね。
こいつは元々ここぞという時に、討伐作戦で勝利するために重要な一撃を放つ勝利の鍵となる必殺武器として設計したものなんだ。
いや……かっこよく言っても仕方がないな。これはあくまでも保険だ。
ヌタ場でコアを破壊して勝利を掴むのだ――とは言ったけれど、ぶっちゃけそれが叶う確率は半々だった。
奴をヌタ場に追い詰めた際、上手く削りきれていなければパイプが破損していたとしても、水の冷却で反撃可能な状態まで回復される恐れはある。
その場合、ヌタ場でトドメをさせなかった場合のフォローをどうしようか密かにずっと考えていたんだ。
それを解決する武器こそがこの頭の悪い設計の巨大なバリスタ……いや、これはもはやパイルバンカーと呼ぶべきか……だ。
こいつを何処か特定のポイントに設置し、いざという時はそこまで追い込んでカウンターパンチとして打ち込んでやるんだ。
奴のスキャンデータよりシミュレーションした結果では、こいつを使えば様々な条件下においてヒッグ・ギッガを昏倒させることは十分に可能であると出た。
使わないに越したことはないけれど……俺の嫌な予感は当たるからな。
言いたくないけど、きっと出番はあるはずさ……。
「使い捨てと考えてしまえば酷くもったいないけれど、こいつは最後の切り札だからな。
使わないで済めば万歳という最後の保険だから、作戦の成功率を上げるためになんとか作って欲しい。
……ほんとは中型炉6つじゃあなくて、バステリオンの魔導炉1基で賄おうと思ったんだけど……それをやっちゃうとリックに泣かれそうだからな……」
「バステリオンの部品を使い捨てにしたらリックじゃ無くてもあたいだって泣くよ!」
「レニーも泣くな」
『私もちょっと泣くかも知れません……』
「そんな真似をしたらみんな泣くんだ、流石にそれはやめて正解だ馬鹿野郎!
……まあ、それはおいといて! この武器いいじゃん! 最高だよ、あたいも気に入ったよこれ! 技術者の大好物が詰まってやがる。ぜひ作らせてくれ!
そうだな、今からちょっと設計図とにらめっこして明日までに必要な資材を割り出しておくからさ、明日はその調達を頼むよ」
「ああ、勿論だ! じゃあ、後は頼んだぞ、マシュー!」
「おう、頼まれた!」
マシューの許可も出たし、これで作戦は安泰だ!
さあ、明日は頑張って素材を集めなくちゃな!
一体何をどれだけ取ってこいと言われちゃうのか、想像するのが怖いけど……そこは浪漫兵器を設計した自分の責任ということで頑張るしか無いね。
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