第八十五話 射撃武器
――討伐作戦2日目
B班C班は共に昨日に引き続き機兵のチェックと資材のリストアップに全力を注ぎ込んでいる。
そして俺達もまた、昨日と同じメンバーで狩りに来ているわけだけれども……今日は少し変わったことをレニーと試している。
なんと本日の俺は射撃武器を装備しているのだ!
この銃は森で発見された俺の武器……というわけではないし、異世界知識で生成した物でも無い。
……ごく普通にこの世界に存在していた一般的な装備なのである。
いや、言い訳をさせて欲しい。
そもそも、そもそもだよ? 俺は他のハンターが狩りをする姿をまともに見たことが無かったんだよ。
さらに言えば、これまでであった機兵達はどれもが近接武器しか装備していなかったし、フォレムをうろつく他のハンター達もまた、ソードなりアックスなりの近接武器を装備していたんだ。
だからこの世界に銃が存在しないと考えちゃうのは……思い込んじゃうのはしょうがないことだと思わないかい?
……よくよく考えればトレジャーハンターギルドに設置されているフォトンライフルを彼らは普通に使っていたわけで……。
銃という物を知らなければ……改造して使うという判断はしないだろうし、武器だと検討を付けても彼処までまともに使いこなすことは出来なかったんだよなあ……。
いや、でもだよ! 一応ね? 流石に俺だってさ、弓矢のような物は有るだろうと思っていたんだよ。
使ってるやつがいないけど、まあ弓より殴ったほうが強かろうからなあ……なんてレニーのような事を考えちゃってた事は否定しないけど……一応は飛び道具の存在は予想してた。
けどさ、ここまで銃っぽい物があるとは夢にも思わなかったよ。
昨日……村のハンターたちがそれを担いでいるのを見た時は目を疑ったね。
ハンターたちは武器を使わず素手で殴りかかるレニーを見て目を疑っていたけれども。
いやあ、昨日狩りから戻った後さあ『銃が存在してたんだな』ってマシューに話したら……もう、それを公開するレベルで散々馬鹿にされてしまったよ。
それならまだしもだよ? レニーですら――
『えっ……? カイザーさん、銃があるって知らなかったんですか? てっきり近接が得意な私に合わせて買おうって言わないんだなって思ってたんですけど……まさか本当に存在を知らなかったなんて……』
――と、何かこう……信じられないものを見るような目で見てくる始末。
スミレは珍しく俺をいじってこなかったけれど、あの様子じゃスミレもきっと……っと、あいつはどうもカンが鋭いと言うか、こちらが思考を同期しようと意図しなくても心を読むかのように伝わってしまうことが在るからね……余計なことは考えないようにしよう。
あとがこわい。
それでさ。だったらばと、恥かきついでにマシューからその仕組みを聞いたんだけど、この世界で使われている銃ってものは、俺が知っているその仕組みとはかけ離れた物だったんだ。
まず、前提として弾丸の射出に火薬を一切使わない。代わりに使うのが魔導炉だ。
銃内部には魔法陣が刻み込まれた媒体が仕込まれていて、魔導炉から供給される魔力を受け、爆発魔法を内部で発動させるらしい。
それは直ぐには完成せず、ある一定レベルまで圧縮されてキープされた状態になる。
そしてトリガーを引くことでその力を解き放ち、その勢いを使って弾薬を撃ち出すという仕組みのようだ。
これがまた、にくいことにリボルバーでさあ、撃った後に撃鉄を引き起こすと弾が装填されると同時に魔法陣に魔力が再供給される仕組みらしいんだけど……実用性は兎も角として、ヤバいくらいかっこいいよこれ……。
火薬の代わりが爆裂魔法というなんともファンタジーな仕様だけど、浪漫だよ、浪漫。ファンタジー系ロボ物の武器として最高の逸品じゃないか……。
これだけの浪漫武器だよ? もっと使われてもいいじゃんって思うだろう?
俺もそう思ったし、なんなら何処かで買って俺のサブウェポンとして使いたいなとすら思ったんだけど……見かけないのにはちゃんと理由があったんだ。
まず、銃を使用するのに無くてはならない魔導炉だけど、こいつがまたコスパが悪いんだ。
大体200発前後の射出で魔力が枯渇するらしく、そうなったら別の魔導炉に交換するしか無いらしい。
銃に搭載する魔導炉は、ティニーロッパーというウサギ型の魔獣や、ハッカ・ラッタというネズミ型の魔獣等、小型の魔獣からはぎ取れるものが使われるらしく、機兵用の魔導炉と比べれば、圧倒的に安く入手は出来るけれども、それでも魔導炉は魔導炉、それなりに良い値段がしてしまう。
先に言ったとおり、小型魔導炉は機兵用の大型のものと違い、外部機構を用いて魔力の装填が出来ないため、運用コストがそこそこ高くなってしまうらしいんだ。
ここのハンター達が何故そんな物を愛用できているかと言えば、狩りが上手いから、シンプルだけれどもそれが何よりの理由だ。
彼らは銃に搭載する小型魔導炉を自分たちで調達することが出来る。なので、運用コストといえば弾薬の補充くらいのもので、大して負担に思わないで使うことが出来るようだ。
けれど、魔導炉を壊さずに小型の魔獣を倒すのにはコツが居る。
レニーほどじゃあないけれど、そこらのハンターが真似をしようとしても、結構な確率でオーバーキルをしてしまい、10体倒して1つ手に入れば良い方という、散々な結果に終わるらしい。
銃はそれなりに強力な武器なので、憧れを持って購入するハンターは少なくはないらしいのだけれども、運用コストの高さに辟易し、ここぞという時の虎の子として保存してしまっていることが多いらしい。
しかし、銃というものは撃てば当たるものではない。上手く当てるためには練習が必要だ。いざという時に意気揚々と取り出し、使用してみたは良いものの……上手く扱うことが出来ず、結局使わないままになる
街で担いでいる連中を見かけないのはそういう事らしい。
レニーは銃の存在を知ってはいたけれど、俺と出会うまで機兵に乗る機会に恵まれなかったため、銃を撃ったことが無い。
今回はせっかくだからと、1丁貸してもらい……現在装備しているというわけなのだ! うふふ……。
「装弾数は12発、リロードは……なるほどスピードローダーみたいので一気にできるようになっているのか……おおおお、すごいな……ロボにこれは浪漫武器過ぎる……」
銃的な物に飢えていたため、嬉しくてついつい自分で動いて弄くってしまう。そのうち試し撃ちしたくて仕方なくなってしまったが、弾と魔力を無駄にするわけにも行かないのでここは我慢だ……我慢、我慢!
運用コストは気になるけど、場合によってはサブウェポンとして採用する事になるかもしれない。今日は
初めて触ると言う事で、簡単な使い方のレクチャーを受けた後は、試射をするのも勿体ないという事で……いきなり実戦だ。
というわけで、現在我々は他のハンターから少し離れたところで行動している。
レニーが何か間違えてフレンドリーファイアなどしてしまっては目も当てられないからな……レニーなら真後ろに弾を飛ばすくらいのことをやりかねんもの。
この銃の射程距離は200m前後で、一般的な魔獣の装甲を貫ける有効射程距離はだいたい100m程度らしい。
無論、これは魔獣や機兵相手の話なので、それ以外……相手が生身の生命体の場合はその限りではない。
「レニー、50m程先にブレストウルフが居るのが分かるな?」
「はい、1頭……水を飲んでいますね」
「うむ、いいか照準はスミレがサポートする。レニーは対象を撃ち抜くことだけ考えろ。
……くれぐれも燃料タンクに当てるんじゃ無いぞ? それを避けて腹部を狙うんだ」
「む、難しいですがお姉ちゃんのサポートがあるなら……がんばります!」
俺の指示通り銃を構え、目標に向ける。
銃の仕組みはファンタジーだけれども、地球の近代兵器と比べれば原始的な物なので、素人が普通に撃ってはまず当たらない。
けれど、それを装備している俺には地球の科学力を凌駕した素晴らしい機能が搭載されている。
スミレの演算により導き出された照準サポートが働き……レニーの動きを補正していく。
ふらりふらりと揺れる照準が徐々に落ち着いていき、モニタに『Fire』の文字が浮かび上がる。
「ここだっ!」
それを合図と理解したレニーが引き金を引く。
ドゥっと、中々に良い音を立て、銃口から放たれた弾丸は風を切りブレスとウルフに向かって翔んでいく。
スミレの照準サポートを受けた銃弾は見事、吸い込まれるようにブレストウルフの隣に生えている木に当り……中程までめり込んで止まった。
「ありゃりゃ?」
ま、まあ? いくらハイテクなサポートがあっても? 最初から上手くいくことは無い……からな。
いくらサポートされているとは言え、銃を動かすのは手動だ。サポートで腕の制御も少々オートで動作しているので、相手が動かない限りは……そう簡単に外れることはないけれど、それでも100%じゃあないからな?
俺の専用銃ならもっと高度なサポートが出来るし、撃ち出される弾はフォトンで多少の追尾もするからレニーでもちゃんと当てられるし!
いやあ、なんというか……レニーは逆にすごいなあ……止まった相手に外すかよ……。
「は、初めてにしては上出来だ。さあ、次の獲物を探そう。そうだな、今回使える弾は10発ということにしようか。後1回だけ練習をして、残った10発で1頭仕留められたら合格だ」
「いまのでコツは掴みました。もう一度試せばより完璧になるでしょう。
ふふふ……1頭と言わず、全部当ててしまってもいいのでしょう?」
レニーのクセになかなか言うではないか。
その自信が何処から来て居るのか気になるが……ま、例えどういう結果になろうとも優しい言葉をかけてあげよう。
そう思って特に期待せず、勿論きちんとアシストをかけた上で挑んでもらったのだが……結果を見て驚いたね。
木を4体、岩を3体……倒した所で俺もスミレもなんだか優しい気持ちになりつつあったのだけれども、その後に奇跡が起き、なんとブレストウルフを2体倒すという、中々びっくりの結果になったのであった。
「どうですか! 9頭は無理でしたが2頭やりましたよ!」
「ま、まあ……そのうち1体は火だるまになってたが……それでも1体綺麗に狩れたので合格としよう!」
「やったあ! これであたしも狩人の仲間入りですね!」
「お、おう……」
まだまだ実戦で使えるとはとても思えないけれど、それでも2頭仕留められたことは素直に評価してあげたい。
そしてレニーの討伐結果に驚いたのは俺とスミレだけではなかった。
「マジかよ……嬢ちゃん意外とやるじゃねえの」
「ダニーのやつな、レニーちゃんが木を何本撃ち抜いてくるか賭けようぜっていうんだよ」
「おいくそビリー! おめえだって『俺は岩を3つに賭けるね』っていってたじゃねえか」
「もー! 二人共! って、ヨックさんもジーンさんも目をそらして!」
「いやいや、だってよ……こいつぁ俺達なら兎も角、普通のハンターじゃなあ?」
「ああ、ヨックの言うとおりだ。嬢ちゃん、あんたセンスあるよ」
「えっ? ほんと! やったあ、ねえ、きいた? カイザーさん、お姉ちゃん! あたしセンスあるって!」
「あ、ああ……凄いなあレニーは」
『ふふふ……じゃあもっともっと訓練しないといけませんね』
そう、パインウィードのハンター達はマタギと呼べるレベルで射撃技術が高い。それは普段から生身でも弓を用いて狩りをしているのと、先に述べた理由により銃を低コストで運用できるため、使用機会が普通のハンターに比べて圧倒的に多いからだ。
そんな彼らから褒められてしまったレニーのテンションはいつになく高く……。
スミレが何か良からぬことを考えていることには気付かないのでありました。
……レニー、生き抜くんだよ……。
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