第八十話 討伐会議

 少々後ろを気にしながら……そっとそっと村までなんとか無事に帰りつけた我々現地偵察グループだったが……早起きと気疲れでパイロット二人がヘロヘロになっていたため、正午を集合時間としてそれまで自由時間として二人を休ませることにした。


 俺がそれを告げると、二人は心から嬉しそうな表情を浮かべ、宿の女将さんに頭を下げて再び部屋に戻ると……正午までゆっくりと睡眠を取ったのでありました。


 そして正午――


 大分スッキリしたのか、清々しい顔で仮眠から目覚めた二人はお腹を鳴らしながら村の食堂へ急ぎ向かっていく。そういや……朝は軽くパンを齧ったくらいできちんととってなかったもんね。そりゃ腹ペコだろうな。

 そこで待っていたミシェルと合流し、昼食ながらの情報交換が始まった。


 昨日宿で食べたのとそう変わらない、言っちゃあ何だけれど残念な感じの料理たちなのに、空腹はスパイスとはよく言ったものだね。レニーもマシューも、ガツリガツリと美味そうに食べていて、ミシェルがびっくりした顔で見ている……。


「二人共……随分と美味しそうに召し上がりますわね……」

「だってさあ、移動中にパンを少し食っただけで今まで何も食ってないんだぜ?」

「そうそう! といっても、そんなの気にならないくらい大変だったんだけど」

「まあ! それほどの事があったんですの?」


『そうだな……中々衝撃的な物を見てきたんだけど……先にミシェルの報告を聞かせて貰えるかな。我々の話は食後にした方が良いだろうからな』

 

「一体何が有りましたのー? 気になって仕方が有りませんわ……」

   

 ソワソワとするミシェルだったが、ごほんと咳払いをして報告をはじめてくれた。

 見ろ、マシュー。こういうとこだぞ? お前もこういう生真面目さを見習えよー?


「カイザーさんに依頼されたとおり、それとなく村が保有する戦力について調べてまいりましたが……――」


 ミシェルの報告によると、現在動ける機兵は4機のみで、大半が大破して使い物にならない状況だけれども、それでも修理をすれば動けそうな機兵が数機ほどあるらしい。


「村の人達は口を揃えて『あんなのどうやって討伐するんだ?』とおっしゃるのですが、そんなに凄かったのですか?」


『ああ、ありゃあ凄いってもんじゃ無いな。予想以上と言うか、アレは流石に想定外だ。

 そうだな、我々が宿泊している宿があるだろう? あれがそのまま……いや、アレより少しでかいような気がするな……そんな物が我が物顔で転がりまわっているんだよ。

 色々とシミュレーションをしてみたが……あれは俺達だけじゃあ敵わないな』


「あの宿屋よりも大きいんですのー? そんなの……一体どうすれば……」

「そうだよカイザー、一体どうするんだ? 流石にあたいでもありゃあキツいと思ったけどさあ、ここで今更やっぱ無理ー! とか言うのは……無しの方向で行きたい」


 まあそう言うだろうと思ったさ。

 討伐云々はマシューが言い出してしまったことだから、その辺の責任は感じて居るのだろうよ。


 とは言え、アレは本当にどう考えても俺達2機だけでは到底無理。

 パイロット達が眠っている間、スミレやオルトロスと一緒にシミュレーションをしてみたけれど、何をどう頑張っても討伐することは出来なかった。


 だから……。


『レニー、今からちょっとギルドに行ってきてくれないか?』 

「今からですか? 一体どうして?」

『明日、ギルド前の広場でヒッグ・ギッガ討伐の説明をすると伝えてきて欲しいんだ。

 昨日の今日だ、なんだかんだで俺達の動向は気になっているはずさ。

 朝方俺達が偵察に向かったのは村人達には知れ渡ってるし、その上で説明会をすると言ったらどうだ? みんな興味を持って集まってくれるだろ?』


 ああ、あれはやっぱり俺達だけでは手に余る。とてもじゃないが現在の戦力で敵う相手じゃない。

 

 なので数で勝負だ。協力者を募い、それを最大限に活用できる作戦をもって討伐を成し遂げてやろうじゃ無いか。

 

 しかし、相手は巨大魔獣、ヒッグ・ギッガだ。いきなり『共に闘おう』と言った所で集まるわけが無い。なんたって皆、一度はアレと対峙して『無理だ』と諦めているんだからね。


 だから、先ずは説明会を餌に人を集めてしまう。


 集まったらこっちのものさ。ハンターたちを再び奮い立たせるちょっとした秘策があるからね……。


「で、でもですよ? 何を説明するのかわからないけど、私達がやれると説明した所で説得力があるんでしょうか……」

「悔しいが確かにそうだよな……あたい達、可愛らしい少女だからなー」

「自分でそれを言いますのね……」


 まあ、たしかにね。もしもこれが如何にも歴戦の戦士と言った厳つい風貌のA級エースハンターであれば、ハンター達は大人しく話を聞くだろうし、そんな人物が『共に剣を取り戦おう!』みたいに鼓舞すれば、戦意を滾らせて討伐に参加することだろうさ。


 しかし、レニーやマシューはそうではない。


 マシューが自分で言っちゃってるけれど、二人は黙っていれば、ただの可愛い女の子にしか見えない。それでも1級ファーストハンターである! というのであれば、見た目によらず凄え嬢ちゃんたちなのだと盛り上がるのだろうけれど、レニー達は3級サード


 たとえ、どんなに理にかなった作戦を語ったとしても耳を貸す者は居ないだろう。

……普通の方法を取ればね。

 

『それについては俺に良い考えがある。いいか、良くきけ。まずはこうしてな……――』

 

「は? 何いってんだ? まじかよ、正気かよ!」

「ぎゃ、逆に妙な騒ぎになってそれどころじゃなくなるのではありません?」

「で、でもさ、確かにそれなら皆も話を聞いてくれるかも……と、とにかくギルドに行ってきますね!」


 要するにさあ、強そうな奴が大いにそれっぽく語ったら説得力が増すんだろ?

 多少……いや、結構な騒ぎになるだろうし、俺もあまり望んでやりたい行動ではないけど、背に腹は代えられないよ。


 ふふふ……この俺自ら、大いに語ってやろうじゃないか。

 それこそが何にも勝る説得力! 大いに語り尽くしてやるともさ!

 

 ……実は作戦の詳細はまだ決めかねているから、この後もう少し皆に手伝ってもらわないといけないけどね……。


……

 

 翌日、昼過ぎにギルドに行くと既に結構な数のハンター達が集まってくれていた。

 けれど、そこにいる誰もが期待をするような顔では無く、一体どんなことを言い出すのか見に来てやったという雰囲気が漂っている。


 勿論それは想定内。こうやって集まってくれたらこっちのものさ。


 昨夜少し遅くまで作戦会議をさせてしまったから、みんな眠そうな顔をしているけれど……取りあえずこの説明会は気合いで乗り越えてくれ……! 寝るんじゃないぞ!


 よーし、予想通りのいい空気だな! レニー前説頼むぞ。大いに場を温めてくれ!


「皆さん、お集まりいただき、ありがとうございます。改めまして3級サードパーティ、ブレイブシャインのレニー・ヴァイオレットです。

 私達は昨日現地調査に向かい、実際にこの目で魔獣ヒッグ・ギッガを目の当たりにしました。いやあ、アレヤバいですね? 正直倒せるのかな? って私も思いましたよ」


 あの魔獣の名前を初めて知ったと驚く者、思ったとおり無理だと悟ったかとほっとする者や、ほれみろと馬鹿にしたように見る者等、反応は様々だ。

 

「それでも、それでもです! ヒッグ・ギッガを討伐する方法はあると。

 何事も成せばなる、成させてやるぞと、私達の師であり、仲間であり、実質的なリーダーで在る方がそう言ってくれました。

 昨日、ギルドに伝えたとおり、今日はその方が討伐の説明をして下さります」


 いつの間にレニー達の師匠になったんだ俺は。まあ、そう言った方が説得力は上がるけどさ、なんだかちょっと気恥ずかしいぞ。


 レニーがそんな事を言うものだから、そんな奴いたのか? とか、ハンターといやあ女3人しか村に入ってきてないぞ? とか……まさかあの商人か? 等々、周囲がすっかり戸惑いの声に溢れている。


 よしよし、やるじゃないかレニー。良い具合に場が暖まってきたぞ。

 そろそろ頃合いだろう……頼むぞレニー! うまく俺にバトンを渡してくれ!


「その仲間は普段はその力を隠しているため、皆さんには居ない者として扱われていますが、今もこの場で皆さんが勝利へ向かう作戦を伝える時を今か今かと待っています!」


 周囲のざわめきが増し、辺りをキョロキョロとし始めている。『お前かー?』『まさか、お前なんだろう?』なんて、冗談を言いながら指を差し合ってる奴らもいるな。


 ふふふ……何処を見ている? お前たちが探している相手は目の前だ!


「それでは! お願いします! カイザーさん!」


 待ってましたとばかりに馬形態からメイン形態、人型に変形しゆっくりと立ち上がる。村の中では馬形態で通していたため、みんなこの時点でかなり驚いているな。


「ブレイブシャイン、レニー・ヴァイオレットの搭乗機、カイザーだ。

 おっと、驚かせてしまったことは謝っておく。

 俺は……そうだな、ちょっと変わった存在、遺物的な機体アーティファクトとでも思って貰って構わない。素性について詳しい事は話せないが、君たちのように意思を持って考え、はなし、自ら動くことも出来る……君たちの言葉で言うところの機兵、それが俺だ」


 遠巻きに見ていた老人達が手を合わせ拝み始めてしまった。アーティファクトなんてかっこつけたのは不味かったかな……?


『カイザー、この世界で言うアーティファクトと言えば所謂神話の時代に活躍した機体……現在作られている機兵の元になったオリジナル達……言わば神機に近い存在なのですよ。

 完品が現存するかも怪しいらしいのに、ごらんなさい、要らないアドリブで余計に騒ぎが酷くなってますよ』


 ……そういやそんな話をレニーがしていたな……稀に発掘されるけど、ほとんどが壊れていて使い物にならないと。それでも神代の機体には変わりはないので、大切に大切に扱われると……うわああ。


 まいったなあ。俺の出所を誤魔化しつつ説得力が増す良い案だと思ったんだけど。しょうが無い、だったらこのままのノリで続けよう。なんだかそれが一番いい気がしてきた。


「コホン。そう、特別扱いをしなくても良い。今の俺は縁あってこのレニーの機兵として活動しているし、現代の機兵と比べれば多少は強いけれど、伝説の神機と呼ばれる程のものじゃあない。折角こうして君たちと話せるんだ、だから……そうだな、そこらのハンターだと思って気軽に話しかけてくれて構わない」


「そこらのハンターと思えって無理だろ……」

「俺は夢を見てるのか? 神話時代の機兵は心を持っていた……?

「どっからあんなの見つけてきたんだよ……いいなあ……」

「あんなデケえハンターが居てたまるかよ」

 

 あああ、ますますグダグダしてきたぞ。ザワザワと皆が皆、好き勝手に話を始めてしまって会議どころでは無いよ。

 ええい! だったら強引に集中させてやろう。アレを見せれば流石に静かにお話を聞いてくれるはずさ!


「俺の事が興味深いのはわかった、わかったからどうか! こちらを、向いてくれ!

 今から重要な話をする! 今回の討伐作戦に関わる重要な話だ!」


 まだ少しざわついているけれど、少し大きな声を出したら取り敢えずはこちらを向いてくれた。こっちを向いてくれたら後はこちらのものだ。ふふふ、驚け、驚くが良い!


「これが、ご存じヒッグ・ギッガだ。見たことがない者もよく見ておいてほしい。

 これが君たちを、パインウィードを苦境に陥れている魔獣の姿だ!」


 カイザーには様々な秘密機能が搭載されている。

 現在使用しているのもその一つで、なんと夢の3D投影システムだ!


 それにより、広場に縮小されたヒッグ・ギッガの像が浮かび上がる。

 丹念にスキャンしたデータを元に作り上げた3Dモデルだからね……どうだい、リアルだろう? ちょっとちっこいけど、それその物が居るように見えるだろう?


 あんまりにもリアルなものだから……俺が喋った時以上に腰を抜かす者や叫び声を上げる者、拝む者、パニック寸前というか既に片足を突っ込んでいる。


だいじょうぶ、やらかしてはいない。ここからなんだ、ここから上手く話を持っていくから……そんな顔で見ないでくれよ、ミシェル……。

 

「皆落ち着け! これは本物ではない! 俺が描いた絵だ! よく見ろ! 実物より小さいし動かないだろう!」


「はあ? これが絵だと?」

「いい加減な事を言いやがる! 絵が宙に浮くかよってんだ!」

「でもこれすげえよ。確かに動かねえし、これなら落ち着いて観察出来るぞ」

「よくわからんが、確かに俺が見たものより小せえぞ。どうやらこれは本物じゃなさそうだな……」


 俺の無理矢理な言い訳で多少気がほぐれたのか徐々にでは有るが落ち着きを取り戻しだしている。


 この機能はレニー達にも見せたことが無かったため、彼女たちも同様に驚いた顔をしていた……ミシェルだけは何故かひどく呆れたような顔をしていたけれど。

 ごめんなさい、正直やりすぎた感ありますよね。事前に説明しておけばよかった。


 マシューが小声で『どうしてこんな凄えこと黙ってたんだ』と怒っているけれど……なんでって言われてもな。

 ただ純粋に機会が無かっただけなんだよね……。


 まず前提として、この機能は実物をスキャンしなければ使うことが出来ない。

 ストレージに3Dモデルが保存されていれば別なんだろうけど、魔獣のデータなんてないからね。こうして便利に使おうと思ったらデータを自炊するしかないってわけさ。


これまで何度か強敵と戦うことはあったけれど、あれはぶっつけ本番見たいな状況だったからなあ。今回のように予め居ることがわかっていて、先に偵察をしてデータを集めようかってならない限りは出番がないと言うか、使いようがない機能なんだよなあ。


『カイザー……マシューは恐らく昨夜の内に言っておけと言う意味で言ったのでは』

『あ、ああ……そっか。資料を見せるとしかいってなかったもんなあ……』

  


……さて、村人達もレニーたちもぼちぼち落ち着きを取り戻したようだな。

 さあ、本題に入ろうか。

 

「さて、諸君。突然こんな物を見せた理由を説明しよう。

 ここに映る、ヒッグ・ギッガ……あれは我々2機でどうにか出来るようなものじゃあない。おっと、話は最後まで聞いてくれ。何も討伐が出来ないとは言っていないぞ? 

 先に言っておくが、アレを討伐することは可能だ! しかし、それを成すためには村のハンター達の協力が不可欠。皆で手を取り合えば必ずや討伐できる!

 しかし、その作戦は言葉だけでは説明が難しい。なのでこんな物を用意させて貰ったわけだが……驚かせてしまったことは謝ろう。


 さて、作戦の説明をはじめようと思う。話を聞くだけでも良い、困難な相手であることは理解している。協力ができないと思うのも仕方がないことだと思うし、それを咎めようとは思わない。

 けれど――俺の作戦を最後まで聞き、その上で我こそはと言う者が居たら――

 どうか、我々ブレイブシャインに力を貸して欲しい!」


 言ってやったぞ。正直この手の演説は苦手というか、あんまりやったことがないんだけど……一気に言い切ってやったぞ! どうだい、スミレさん! 俺だってやれば出来るんだぜ?


 静寂が消え、驚きと不安に満ちあふれた声が広場に広がっていく。


 自信満々に言い放ったけれど、正直に言えば俺が考えている作戦は運ゲーに近い部分がある無理矢理な作戦だ。


 それを皆に受け入れて貰えるかどうかは場の雰囲気次第だが……きっと納得させてみせるさ。

 

 さあ、作戦会議、本編の始まりだ!

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