第七十四話 オルトロスの新装備
朝食をもりもりと食べ『いってきます!』と、元気よく飛び出していったレニー。
どうやらすっかりいつもの調子を取り戻したようだね。
昨夜はまだ少し
それらの喜びが重なり、嫌な思い出をねじ伏せてしまったのだろうな。
もっとも、中々に彼女達は強く……元々そこまで精神的なダメージが残っている様子はなかったのだけれども。
他のハンター達と違って、敗走ではなく勝利をしたというのも大きかったんだろうな。
もしもあそこで敗走していたならば、まだあそこにアレが居る、行けばまたアレと会う、もしかしたら行かなくても向こうからこちらに……なんて嫌なトラウマとして染み付いてしまったかもしれない……というか、他のハンターがそんな感じだよね、ガッツリ行ったことをトラウマレベルで
『カイザー、レーダーに反応1。凄まじい速度でこちらに向かってきます』
「おっと、どうやらおいでなすったようだな……!」
オルトロスと共に格納庫で待機すること三十分、ドタドタと言う足音とともにリックの雄叫びが近づいてくる。
「カイザアアアアア!!! 居るよなああああ? 出来たぞおおおおおお!!」
レニーが必殺技を叫ぶ傾向にあるのはリックの影響ではなかろうか? カイザアアのあたりがそっくりだよ。
「ああ、いるよ。今日はちゃんとオルトロスにも残っててもらってるからね。直ぐにでも試せるぞ」
『よろしくね~』
『リックー』
「なに! オルトロスもいんのか! だったら説明が楽だな、でかしたカイザー!」
オルトロスを見上げて満足げに頷いたリックは壁に取り付けられているゴッツ端末に向かうと、ガチャガチャとクレーンを操作し、
その
「お前の無茶ぶりには正直かなり頭を悩ませることになったが……へへっ、我ながら良いものが出来たと思うぜ」
クレーンに吊られ奥から現れたのはオルトロスのカラーに合わせ白と紫色で塗られた一対の武器、俺のガントレット同様、両手にそれぞれ装備して使うタイプの武器だ。
最初は少し長いナイフ程度の気持ちで図面を書いていたんだ。けれど……
敵のふところに潜り込んでチョロチョロと器用に翻弄するマシューの戦闘スタイルを考慮して……そのスタイルからくる火力不足も考慮して――なんてやってたら、なんだかちょっと……いや、とんでもなく色物武器になってしまった。
近接主体のレニー、そして今回の新装備でより近接攻撃が強化されたマシュー。
……近接と近接……得意とするスタイルがかぶっている現状に俺は少し頭を抱えている。
もしも、もしもウロボロスが予想通り俺達の僚機だったら……もしそうであれば是非とも遠距離タイプのロボであって欲しい。
そもそもだよ。本来俺の設計から導き出される戦闘スタンスはバランスタイプなんだ。
ソードとハンドガンといった近距離・遠距離武器といった基本装備を状況に応じて使い分けるのが本来の姿だ。
それらの武器は基本装備と言うだけあって、性能は特に高いわけではなくて、特化型装備を持っている他の僚機と比べてしまうと器用貧乏の面は否めない……おぼろげだけども、そう記憶している。
オルトロスは両手に装備する専用の特殊兵装からアイスビームやファイアービームを撃てるのが特徴の機体だ。
パイロットである
それなのに……どうしてこうなった……。
前衛と前衛……近接と近接……ああ、しょうがない事だけれどもかぶってしまったなあ。
元のカイザーに乗る
「おいおい、カイザーきいてるか? オルトロスに渡すぞ? いいな?」
『私達は準備おっけ~』
『ちょうだいちょうだいー』
「あ、ああ! すまんすまん。いいぞ、構わん! やってくれ」
「ほらよ! 手に取って握ってみろ!」
『わ~! 変な形だ~!』
『面白いね、面白いねー!』
「これはな、カイザーが言うにはトンファーナイフとか言う名前らしいんだがよ。
出っ張りがあるだろ? そう、そこだ。そこを持ってぶんまわしてよ、その遠心力で敵をぶった斬るようなもんらしい。
頭おかしいよなあ? こんなの正直危なっかしくて使えるか! って思うんだが、おもしれえ武器だから困るよな。
ま、機兵のお前さんなら刃が腕に当たっちまっても平気だろ? 遠慮なくぶん回してみろ!」
『おおお~! これは私達でもちょっと難しいね~』
『最初の内はマシューにぽこぽこ当てられちゃいそうだねー』
……いやいやいや。ロボの身体でも別に平気じゃないぞ? あんなもん振り回してガンガンと自爆しちゃったら、それなりに機体ダメージを負うんだからな?
けれど確かにこれは難しい武器だ。最初はあちこち誤爆しちゃいそうだけど、折角の浪漫武器なんだしなんとか慣れてもらわない。
……自己修復機能もあるから、多少の損傷ならすぐに治っちゃうしさ。
痛くなければ覚えませぬ……何で見たセリフだったか忘れたけれど、自爆しているうちに制御できるようになってくれる……筈さ。
「で、だ! カイザーのアホはとんでもない仕組みを盛り込みやがった。
今の形状は手数を稼ぐにゃあいいが、正直大したダメージを与えることは出来ねえと思う。だからなんだろうなぁ……おい、その出っ張りを合わせてぐっと押し込め!」
『なにこれなにこれ~』
『えええ? くっついたよー!』
「変だろー? バカだろアホだろー? その形態は『ブンディ・ダガー』とか呼ぶらしいんだが……やばいよなあ」
「本人を前にして散々言ってくれるよな、リックは……。
いいか、二人共。そのブンディ形態の使い方なんだけどさ――と、データを送ったから参考にしてくれ」
『おおおおお……これはこれは……』
『カイザー、なんてものを作らせたんだー』
ブンディダガー、別名ジャマダハル。ドラゴンキラーという名前でゲームに登場することも在る刺突に特化したヤバい代物だ。
持ち手を握ると拳の先に尖った刃が来るようになっていて、パンチをするように敵を刺突することが可能だ。
マシューの戦闘スタイルなら、右手に握って高く跳躍した後、左手を添え、そのまま体重を乗せて相手に向かって落下する……なんてエグい真似だって出来てしまう。
「機兵同士のやり取りはよくわかんねえが、これの使い方を伝えたんだな?
どうだ、オルトロス、ヤベエだろお? 確かに高火力は出るだろうがよお、あんな攻撃喰らっちまったら、並の魔獣なら素材撒き散らしてお陀仏じゃねえか! まったくひでえ武器だよ!」
『ひどいひどい~非常識だ~』
『けどこれ、かなり強力だよねー』
確かに酷い武器だよねえ……。
トンファーモードは慣れないと自爆のリスクが有るし、ブンディーモードは存在自体がエグいし……!
でも、こいつは器用なマシューなら良い相棒にしてくれると思うんだよな。
素早く動き、トンファーを振り回して敵を撹乱。大きく隙が生まれたらモードチェンジからの一撃必殺!
もしコレを使うのがレニーだったなら……うん、酷いことになるのは目に見えている……マシュー専用武器のままでいこう。
「カイザーに散々酷え酷えと言った後だからなんだけどよ、実はこればっかしだと面白くねえから第3の形態を追加したんだよ」
「なに!? また
「そんな嬉しそうな顔すんなよな……ったく、まるで俺が何かやるのをわかってたって顔だな? 気に入らねえ奴だ! まあいい。おい、オルトロス! もう一度柄のボタンを押して2つに分けろ」
『おお~』
『パキッと分離したー!』
「そしたらな、出っ張りじゃなくて柄を持って刃と刃をバツ字に重ねて左右のボタンを押すんだ」
『わわわーー!?』
『なにこれなにこれー!』
「なん……だと……? そ、それはまさか……大鋏か?」
「おう、これぞハサミ形態だ。敵の懐に潜り込みパイプやなんかをチョキチョキできるエグい武器だぜ」
「リック……あんた……最高だよ……」
凄い。何かやらかすと期待していたけれど期待以上だ。
ハサミにまでなっちゃうの? こんな変態武器見たこと無いよ……。
ハサミ形態……モードシザーと呼ぼうか、かっこいいし。
いやあ、これはいいな。そのまま突き刺してもいいし、中でガチャガチャ動かしたら……ひぃい、中々にエグい! エグいぞリック!
いやあ、うまく使えば色々できそうだよ。マシューの戦術が広がるなあ。
「はっはっは! あんま褒めても何も出ねえぞ! まあ、アレだよ。ルナーサ行くんだろ?
彼処は商人の国だけあって色んな物資があつまんだ、土産に旨い酒と変わったパーツを手に入れてきてくれや。そしたらまた変なの作ってやるからよ!」
照れ隠しなのか普段余りしないおねだりをしている。
ふふふ、いいぜリック! あんたにゃ世話になってるし、道中稼いで旨い酒もパーツもたっぷり土産に持ってきてやるともさ!
今後ウロボロスが……そうじゃなくとも、いつかしくは別の機体が仲間になった暁にはまた世話になることだろうしな。リックにはじゃんじゃん貢いでじゃんじゃん協力してもらわねば。
しかし、武器なあ。一体、俺達のオリジナル装備は何処に眠っているのだろうな?
一つはマシュー達のギルド、赤き尻尾の所で見つけることが出来たけれど……あんな具合で誰かに使われてたりするのかね? どうも武器のセキュリティは甘いみたいだしさ。
現在データに残されている範囲だと、カイザー用のソードにハンドガン。オルトロスの専用ビーム兵器があるはずなんだ。
ソードはともかく、ハンドガンなんかはロックが掛かってるため普通には使えないんだけど……赤き尻尾の事を考えると……どうも力技でセキュリティを破れちゃうみたいだからな……。
変なやつに拾われてたらやだし、権利問題で揉めるのもいやだよ。
はあ、なるべく人の目につかない所にあればいいなあ。
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