第七十五話 ジャンク屋

◇◆レニー◆◇

 

 カイザーさん達と別れた私達、女子チームは楽しい楽しいおかいもの。


 今日はこの間みたいにオルトロスが居ないから荷物持ちに困りそうだけど、旅の資材はあんまり買わないで済みそうだし個人的な買い物を自重すればまあ……なんとかなるよね。


 女子チーム……なんて言っちゃったけど、私とマシューが好むお店と言ったらお察しだし、頼みの綱のミシェルはフォレムに詳しくないから結局私たち任せのショッピングになってしまう……い、いいんだ! 楽しかったらそれで!


 あーあ。カイザーさん達も小さくなれたら楽しいのになあ。

 どうにかお姉ちゃんだけでも一緒にこれたらいいのにね。そしたら本当の意味で女子チーム全員での街歩きが出来るのにさー。


 そんなわけで……色々と残念な私達は、特に女子らしいお店に行くわけでもなく……取り敢えずってことで、おっちゃんのお店、ジャンク屋さんに向かっている。


 今回は結構フォレムをあけることになるんだ。今回ばかりはおっちゃんに顔を出しておかないと……きっとめちゃくちゃ怒られてしまうだろうからねえ。


ミシェルにあれやこれや説明をしているうちに……やってきましたジャンク屋さん!

 ……って呼ぶと怒られるんだよね。ジャンク屋さん改め、パーツ屋さんに到着だ。


 ここはギルドで買い取らないような素材――野に打ち捨てられた機兵のパーツも査定してくれる貴重なお店なんだけど……そんな物が大量に売られているからから、みんなジャンク屋って呼ぶんだよ。 


 自業自得じゃんね。


 折角だからミシェルの紹介を……と思ったけれど、今日はいいや。

 まだおっちゃんに教えられない事も色々とあるし、まだまだあちこち回りたいからね。

 のんびり遊びに来るのはまた今度にして……パパっと報告してちゃちゃっと次に行こう。

 


「ちわー、おっちゃんいますか?」


 ミシェル達には店の前で待ってもらってドアをくぐって挨拶するや否や……奥からガタタンと音が聞こえてきた。


 ガチャガチャとジャンクパーツをかき分ける音がだんだんと近づいてきて……おっちゃんがひょこっと顔を出す。


「その声はやっぱりレニーか! 聞いたぞ聞いたぞー! お前、悔やみの洞窟踏破したんだってなあ! なあなあ! どんな魔獣が居たんだ? 何か珍しいパーツは? 斃したんだろう? 取ってきたんだろう? ほれほれ! あったら買い取るから見せてみろ!」


 ……遠くからでも唾が飛んでいるのが目に見えるほど興奮して矢次に質問を飛ばしてくる。まったくもう、これだからパーツマニアは! 

 はあ、説明しないと収まらないね、こりゃ。おっちゃんには申し訳ないけど、念のため差し障りが無い所だけ説明しようっと。


……

 …

 

「なーんでえ、魔獣じゃなくて……アレの巣だったってわけかよぉ……」


「それだけじゃないんだからね? 危険な罠がまだまだいーつぱい残ってんだからさ、おっちゃんも行っちゃだめだよ? 死んじゃうような罠だってあるんだからね」


「わーってる、わーってるって……それでよ、他に何か気づいた事はなかったか? なにかこう、変わった模様があるとかよ、特殊なギミックの形跡とか――」

 

 それでもまだ興味深そうな顔をして私から情報を得ようとしている。うんうん、わかるよおっちゃん、未踏の遺跡って……こう、何かロマンがあふれてるものね。

 

 でもね、おっちゃんでもだめだよ。行かせられない。あそこは……ゴーレムくんはそっとしておいてほしいからね……特にジャンクマニアのおっちゃんの目に触れたら……ヤバい! 解体されちゃうよ!


「まってまって。おっちゃん。危険なのは私の話で分かったでしょう? まだ行きたそうな顔してるのわかるんだから! ダメったらダメなんだからね?」

「お、おおお、おれは……行かねえ……よ?」

「おっちゃん! ホントダメだよ? なんせギルドから立ち入り禁止令が出たんだよ?

 罠で危険なのもそうだけど……あの洞窟は……ほら、彼処に立ってる女の子、ミシェルのおうちの所有物……ルストニア家の所有物だからね……? 

 わかるでしょう? あのルストニア商会だよ? あんなに大きな商会が管理する場所だとなれば近づくのはまずいって……おっちゃんでもわかるよね?」


 くどいくらいにおっちゃんを諭してやった。

 なんだか困ったような顔をしてめんどくさそうに聞いていたけれど、ルストニアの名前を出した瞬間……おっちゃんがはっと目をむいてガクっと肩をおろす。

 

 やっぱりルストニアの名前は凄いな。ギルドの禁止令より効果があるじゃんね。


「ル……ルストニアかあ……さすがにそれは敵にしたくねえなあ……ってか……」


 と、顔を私の耳元に寄せて小声で囁く。


「レニーよ、おめえすげえな? ルストニア商会の娘さんかよ! ほんと凄い子と友達になったな!」

「凄いのはおうちでミシェルはミシェルだよ。それに別にあたしは凄くないからね?」

「……いやあ、うんレニーはレニーだけどよ。それはそれですげえよ!」


あたしはすごくないってのー!

 

 それにさ、ミシェルのおうちが凄いのはあたしでもわかるけどミシェルはミシェルだもんねー。

 できればおっちゃんにも普通の女の子として見てあげてほしいな。


「と、今日は別に買い物にきたわけじゃないんだよ」

「なんでえ、それをはやくいいなよ。出てきて損したー」


 言葉とは裏腹にあんまり残念そうには見えない。

 たまに遊びにこないとおっちゃんも拗ねるからなあ……。


「あのね、うちのパーティさ、このまま護衛依頼を継続して依頼主のミシェルをルナーサまで護衛するんだ。

 フォレムとルナーサの往復でしょう? 行って帰ってくるまで結構かかると思うからさ、行く前にご挨拶に来たんだよー」


「そうかよ、なんでえ、そんなんわざわざいいのによ……へへ」


 嘘だ! 来なきゃ来ないで絶対へそを曲げるくせに!

 その証拠にめっちゃ機嫌が良くなってるじゃん。


「まあ、そんなわけで暫く留守にするからさ、リックさんと喧嘩しちゃダメだよ?」

「わーってるよ! つーか、好き好んであのクソ爺んとこなんか行かねーっつーの」


 嘘だ! ちょいちょい二人で飲んでるの知ってるんだからね! 

 きっとそのうちあたし達の笑い話を肴に旨い酒を飲むに決まってるんだ!


 ……と、折角来たんだから一応はお客さんらしい事もして帰ろうかな。


「そうだ。留守中にカイザーさんに合いそうなパーツあったら一応取っといてね?

 折角機兵を手に入れたのに殆ど何もしないままだからさ、何かしてみたいんだよね」


「おうおう、任せとけ。面白そうなのあったらとっとくよ」


 ニコニコなんだかニヤニヤなんだか分からない顔のおっちゃんに手を振り店を後にする。


「お? 用事はもう終わったのか?」


 静かだと思っていたら、どうやらマシュー達は外でパーツを見ていたらしい。ミシェルはつまらなかったろうにと思ったけど、何かが琴線に触れたのか夢中になってジャンク箱を弄くっていた。


「ほらほら、ミシェルー? 行くよー」


「あら? もういいんですの? 面白いですわね、このお店! 機兵の部品がこんなに! うちの機兵に使えないかしら?」


 ミシェルんちの機兵につけたら性能下がりそうだよ……と、口に出すとこだった。そんなこと言うとまーたおっちゃんが飛んでくるからな。


 

 いつも行かないような所にいくぞう! なんて張り切って出てきたけれど……結局この後は何時もの流れ。食料を少々と日用雑貨を買っていつものライダースカフェで休憩だ。


 旅の前だから仕方が無いけど、もう少し女の子らしい1日を過ごせない物かと我ながら呆れてしまうよ。


 はあ、ルナーサについたらミシェルに色々案内して貰わなくっちゃね。

 そしたら私とマシューの女子力も少しは……あがるよね?

 

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