第七十話 輪
洞窟を出た我々は早々にキャンプ地を定めハウス達を設置した。
流石にみんな疲れた顔をしていたし、精神的な疲れもかなりあるからね……。
悔やみの洞窟……。
我々はなんとか大きく悔やむような事態を避けることが出来たが、マシューやレニーの心に大きな傷跡を残してしまった。
ロボの俺だってまあまあの精神的ダメージを受けたんだ、生身で其れを見た彼女達は其の比ではないだろう。
その証拠に例の件には一切触れる事はなく、焚き火を囲みながら宝珠の話……、今後のことについて話し合っているのであった。
「それで、フォレムについた後はどうするんだ?」
「そうですわね、ギルドで直接依頼達成の書類にサインをして……そのままルナーサまでの護衛依頼を新たに出しますわ」
「ルナーサか……。ねえ、その依頼って私達がそのまま受託しちゃだめかな? そこらのハンターより事情知ってる私達のほうが信頼度高いと思うよ?」
悔やみの洞窟行きの依頼を俺達が達成したと知れば、ミシェルが洞窟で何かを得ていると考える者も居るだろうね。
ハンターと言っても色々居るんだ、俺達を陥れた連中のように質が悪いハンターだって居るはずさ。そうなれば下手に新たな護衛を雇うより、俺達への追加依頼として申請した方が安全だろうな。
「そうだな、あたい達はミシェルの信頼に足ると思うんだが、どうだい?今日まで一緒にいてさ」
マシューも乗り気でミシェルに持ちかけるが、首を縦には振らなかった。
「だからこそですわ。レニーさん……いえ、レニーとマシューは……もう、依頼者ではなくてお友達です。お友達をあんなに危険な目に遭わせてしまいました。帰り道だって何があるかわかりませんし、危険な目に遭うのは私だけで……」
「そんな! 水臭いこと言わないでよ! あたし達はハンターだよ? それ以上危険な目にだって当然これから遭うの。せっかく手に入れたこの力……友達のために使ったって良いじゃないか!
それにさ……そんなに危険な目に遭うかもって言ってるような子を知らないハンター達と組ませて帰すのは嫌だよ……」
「そうだぞ! あたい達だって死に急ぐわけじゃないぞ。ミシェルを護ってあたい達も生きる、其れが一番だ。カイザー達はまあデケえし硬えからほっといても死なないだろうしさ!」
ついでに弄るのやめてくれませんかね……。
「でも、でも……!」
『ミシェル、この人達にお願いしよう』
『少なくとも他のハンター達より信頼できるわ』
「でたな有耶無耶になっていた謎の声! 君たちは一体……何者なんだ?」
突如聞こえてきた声に誰よりも驚いているのはミシェルだ。
「ちょ、な、え?ど、どうして……?」
『いやあ、こうなったらもう今更かな? って思ってね。ほら、洞窟内で紅の護りを使った時喋っちゃっただろ』
『そうそう。有耶無耶になりかけてたみたいだけど、私達だってお礼を言わなきゃいけないしね』
男女二人居るのかな? ミシェルの関係者と思われる声達が腕輪を通してだが、正式にその存在を明らかにしてくれた。
ルストニア王家の紋章やあの強烈なシールド……それにこの高度な通信技術と聞きたいことは山ほどあるが、先ずは自己紹介をして貰いたいな。
そしてそういう話はまずこちらからってね。
「改めて自己紹介をさせてほしい。俺の名前はカイザー、声だけではわからないかもしれないが……俺は君たちの言葉で言うところの機兵、意思を持ち、言葉を話す機兵だ」
「あ、あたしはレニーです! カイザーさんのパイロットをしています。あ! カイザーさんにはもう一人いて……ああ、カイザーさんがもう一人いるんじゃなくって……」
と、レニーがあわあわと自己紹介を始めた所で謎の声から待ったがかかる。
『あー……、すまんすまん、なんと言ったら良いか……。君たちのことは知ってるよ。それに、カイザー、君たちは恐らく、勘違いをしている』
『そうね、きっと私達がどこか遠くから通信してるとでも思ってるんでしょう?』
「えっ違うのか? じゃあ……君たちは一体……」
『自己紹介するよ。僕の名前はウロ、昔からミシェルの一族を護る存在さ』
『私はボロスよ。ウロとは兄弟…なのかしらね? 二人仲良くこの腕輪に宿っているの。
窮屈なこの体だけど……見たでしょ? あの護り。これでも立派な護衛役なんだから』
まて、待て待て待て……。窮屈なこの身体……? ウロとボロス? これは……まさか……。
「なあ、もしかして君たち……二人セットでウロボロスとか言う名前じゃないのか?」
『えっ!? な、何故それを?』
『どこからその情報を仕入れたの? 油断ならない機兵ね!?』
「どこからって……ウロとボロスって安直すぎるだろ……オルトロスに「オル」と「ロス」ってつけたマシューレベルだよ……」
『そう言えばそちらにも双子が宿った機兵が居たな』
『なんだかとても親近感を覚える子達ね』
「というかね、思ったんだけど君達ってもしかして俺の知り合いなんじゃないの?」
『なんか急に馴れ馴れしい口調になったな……』
『その根拠は何? 私達は貴方みたいな存在を見たことも聞いたことも無いのだけれども……』
「実はな、過去に起きたとある事情で俺は大半の記憶を失っているんだ。オルトロスはかつて俺の仲間だった存在なんだが、会った時には互いに仲間だとは気づけなかったし、そのせいで拳を交える羽目になった」
『じゃあ、どうして今一緒に組んでるんだい?』
『まさか拳で芽生えた友情とか言わないわよね』
「俺達には特別な仕掛けがあってね。オルトロスと接続することにより相互に情報を補完しあって過去の記憶を少し取り戻せたんだ。そして、オルトロスの他にも仲間が何処かで眠っていることを確信して探していたんだが……」
『其れが僕達だって言うのかい? 人ではない物がこうして話しているからって短絡過ぎないかな』
『そうよそうよ。私達は腕輪サイズよ? いくらなんでも根拠が薄いわ』
……さっき自分で
ただ単に双子に反応したなら「双子が居るのよね」とか言うはずだ。それに……
「ウロボロス、ってどういうものか知ってるかい?」
『え? ウロボロスって名前に何か意味があるのかい?』
『坊っちゃんが適当につけた名前だと思ったんだけど』
「ウロボロスは俺の知ってる名称で架空の生き物……神話などに登場する伝説上の存在だ。
そしてオルトロスは双頭の犬で伝説上の存在だ。
俺は名前こそカイザーだが、馬形態であるあれはユニコーンという同様の存在を元にした姿なんだ」
『架空の生物繋がりだからそうだっていうのかい? それだけじゃ…』
『ええ、確かに貴方達の事は信用しているけど、現段階でその話を信じるのは難しいわ』
「いや、今はまだ詳しい話は言えないが今挙げた名詞がこの世界に存在することは在り得ないんだ。そして、君は……いや、君達の本体は何処かで別途眠っている。
そして手に入れた宝珠こそが眠りから覚ますための鍵……違うかい? あの宝珠には……」
『お、おっとカイザーくん、そこまでだ……そこまで知っているのであれば、やはり君達はミシェルに同行して貰うべきだな』
『そうね、まったくミシェルにも内緒のお話なんだから勘弁してよね』
そのセリフこそ聞かせちゃだめなんじゃないのかな……?
内緒って……。
『ま、俺達の存在が何かはまずは置いておこうじゃないか。』
『そうね、あの子にも相談しないといけないしさ。一緒に説明してもらうからね……?』
「なんだかわからんが、来るなって言われてもついていくぞ、あたいは」
「うん! カイザーさん達が何の話をしてるのか……途中で考えるのを辞めたけど同意だよ!」
「わたくしは……わたくしは……何がなんだか……」
静かだから寝てるかと思ったら考えるのを辞めていたのか君達は。
この流れ……いや、状況から判断してどう考えてもウロボロスはかつての仲間、恐らく合体して足パーツとなる存在だと思う。
なぜ、腕輪という形状になっているのか、なぜオルトロスのように眠らず覚醒したままなのかはわからないが、ルナーサに行けばすべての謎が解けることだろう。
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