第六十九話 決着、そして
フラグがどうのと言うわけではないが、砂埃が晴れた後に現れたゴーレムはまだ機能停止というわけではなく……しっかりと生存を示す反応をレーダーに強く表示させていた。
もっとも、生きていると言うだけで、既に戦闘可能な状態では無かったけれどね。
自慢の脚は破損し、上半身の回転ユニットも大きく歪んでいることから、これ以上の戦闘行為はどう考えても不可能だ。
なので脅威レベルとしては最低ランクとしても良い状態なのだけれども……それでもこちらを見つめるその目は好戦的に煌々と光を放っていて『動力炉は生きている、まだまだやれるぞ』と静かにこちらを威嚇している。
さて、まいったな……。
これがただの魔獣であれば即座にとどめを刺し、きちんと安全を確保するところだけれども、これはゴーレム、人工的に作られた存在であり、それもそれ、ミシェルの話によれば、先祖代々伝わる家にとって大切な存在で間違い無いと……。
となれば、勝手に壊すわけには行かないし、元々守護者のような役割をしていた存在なのであれば、破壊するというのにはやっぱりこう、胸が傷むよ。
まったくどうしたら良い物か……と、一人モヤモヤと考えていると、ゴーレムを調査していたらしいスミレが何か発見をしたようだ。
『カイザー、念のためにディープスキャンを試みていましたが、これは妙なことになっていますよ』
「妙なこと?」
『はい……スキャン結果を見ると……ちょうど背部に妙な物質が……』
「妙な物質……ね。ああ、なんだろうなこれ。石……? ミシェル、ゴーレムの中を見てもいいか? 中に異物があるようなんだが、開けて見ないとちょっとな」
「それは……いえ、構いません。言い伝えによれば、このゴーレムは少なくともわたくしを襲うような事はしないはずなのです。それが何故襲ったのかはわかりませんが……もし、その異物が原因なのであれば……直せる可能性もありますわよね?」
「確実に……とは言えない。今この場でこいつをどうにかできるのは俺じゃなくてマシューだからね。
中を開けてみて、それを判断するのはマシューだから……」
「そう……ですわよね。よろしいですわ。開けてあげてください。どのみち、このままではただ壊れて朽ちていくだけでしょうから」
ということなら……ええと、ゴーレムは……稼働中だけれども、動くことは出来ない……っと。ならばこのまま開けてもらおう。
「マシュー、このゴーレムの背中開けてくれるか? どうも中に異物があるようなんだ」
「う……なんだか嫌な予感がするが、あたいにかかればちょいちょいのちょいよ……って、こいつ、背中に大穴開いてるじゃねえか……よっと」
レニーがしまい込んでいたメンテナンス用の工具を借り、手慣れた様子でてきぱきとゴーレムの背中を開けていく。流石赤き尻尾のメカニックだな。
「む……これは……ひでえもんだぜ」
中を調べていたマシューが顔をしかめてこちらを見た。
「どうしたマシュー、何か分かったか」
「ああ、中に異物があるって言ってただろ? それな、ゴーレムのじゃなくて別の何処からか入り込んだ魔石だよ。そいつが内部機構に食い込んでんだ。
ゴーレム自体も動力源に魔石を使ってたみたいだが、それは加工済みの安全な奴。しかも
で、問題はこの異物、誰かさんの魔石だ。これは恐らく……魔獣との戦いの末に上手いこと……って言っちゃアレだが、妙な偶然で綺麗に入り込んだんだろうさ。背中の大穴、これは恐らく魔石が貫通して開けたもんだろう、これで砕けねえとかなんて頑丈な魔石なんだ」
「その魔石が悪さをしてゴーレムを狂わせていた、ということですの?」
「ああ、そう、恐らくはそうなんだが……わりい、ミシェル。今のあたいじゃコイツを外すことは出来ないよ……」
「そ、そんな! 何故ですの? そのゴーレムは我が一族を護る存在として伝わっていますわ。まさかここに現存しているなんて思いませんでしたが、折角こうしてお会いできたのですから助けてあげたいですわ……どうしても無理ですの?」
「ああ、無理だ。無理だが、それは現時点では直せないって話だよ。
ここ見てくれよ。永い年月をかけジワジワと溶けた魔石がゴーレムの魔導回路に干渉してやがるだろう? 恐らくこれで敵味方を判別する命令がやられてんだけど、ところがこいつを無理に剥がすとゴーレムが壊れてしまうんだ」
「ああ、本当ですわ……魔石が絡みつくように魔導回路に侵食して……かわいそうに……暴走はこれが原因でしたのね」
「でまあ、直せねえからから今は一時的に眠らせて置いてやろうと思うんだ。
これからゴーレムの文献や魔石の浸食について調べてさ、段取りがついたらあたいがきっと……直してやる、直してやるともさ。
こいつはこんな所でさ、一人ぼっちでずっとご主人様を待ってたんだ、直してやらなきゃ可愛そうだろ……」
「マシューさん……ありがとう……」
「お、おい、やめろよ! くっつくな! おい!」
ミシェルの抱擁に顔を赤くしつつも、仕事は最期までやるのがマシューだ。
「今のあたいでも触って良い所くらいは分かるんだ。ここ見てみろ、動力炉から伸びている太いラインがあるだろ? ここにこうして……これを塗ると……」
鈍く響いていた音が止みゴーレムの目から光が消えた。動力を遮断したのだろう。
「で、このままだと動力炉が暴走しちまうから……そいつはこれに……」
何処から出したのか、何かのケーブルを動力炉に繋ぐ。そしてスルスルと伸ばしたその先を投光器に繋いだ。
「あ、そのFG型魔導ランプあたしのじゃん!」
「良いだろ、ちょっとゴーレムに貸してやれよ。お前にゃカイザーライトが在るだろ。
でな、さっき魔石を調べて気づいたけどさ、どうもゴーレムは周囲から少しずつ魔力を吸収する機能があるらしいんだ。この状態でほっといたら爆発しちゃうだろ?
そこでこのコスパが悪い魔導ランプの登場だ。こいつを動力炉に繋いでやればどんどん魔力が流れていくから爆発することもないし、洞窟も明るくなって万々歳ってわけさ」
「その魔導ランプというのは寿命はどれくらいなんだい?」
「まあ、こいつはぶっ壊れるって事はまず無いからな。使い込まれてたとしても、発光触媒は2年くらいは平気だろうと思う。流石にそれまでには一回くらいここの様子を見に来る事もあるだろうし、まあ平気だろ」
2年か。確かにそれだけ持つのであればなんとかできそうだな。
レニー達と仲良くなったのを見れば、ミシェルとの付き合いはこれで終わりとはならなそうだし、今後もなにかの依頼で一緒に来ることがありそうだ。
その時までにマシューが修復方法を調べ終えていれば……その時は改めてゴーレムくんに挨拶でもしてやろうじゃないか。
「しかしさ、ほんとなんで行く時は見逃してくれたんだろう? やっぱあれか? 宝珠取ったのが悪かったのか?」
「俺もそれは考えていたんだ。浸食され狂いつつあったプログラムだとは言え、宝珠を護るという最重要命令がきちんと実行された可能性はあるね。
実際、俺達に目もくれず宝珠を持つミシェルに砲撃した理由はそうとしか思えないし。
けどさ、それは行く時に姿を表さなかった理由にはならないと思うんだ」
「姿を表さなかった? 別にそりゃおかしなことじゃないだろう?」
「いや、宝珠を持っていないにしろ、侵入者が居れば様子を見に来てもおかしくはないだろう?
それにさ、ほら、なんたってアレとあんなに派手な戦闘をしただろう? アレとあれだけの大立ち回りをすれば、縄張りを荒らす何者かが来ているとばかりに近くまで現れた可能性も……って、ああ、アレか! アレのおかげだったのかもしれないぞ!」
「おい! ばカイザー! アレってアレだろ? くそが! 思い出させるなよ!」
「そうですよ! あの記憶は無かったことに! 悔やみですよ! 悔やみ!」
「なんだよ、ばカイザーって……まあいい、良くは無いけど良い。ここを見てみろ。ゴーレムの頭部だ。恐らくこれはセンサー、ゴーレムに動く物を知らせる仕組みだ。
思い出したくもないだろうが、思い出してみてくれ。奴らに散布したアレが煙幕になり、視覚センサーを阻害して上手いことゴーレムを煙に巻いたんだろう」
「ったく。何上手いこと言ったって顔してんだよ、このばカイザーは」
「うむ、マシュー。二度目はダメだな。お前は口が悪すぎる。反省すべきだ。
よし、オルトロス、バックパックをロックしろ。これは上位機体からの命令だから俺の許可無く解除できないぞ。マシュー、今日のお前は野宿だ!」
「ちょ、おい! カイザー! 冗談だって! 許してくれよ! なあ!」
「あーあ、マシューやっちゃいましたね。カイザーさん結構厳しいんですよ? あたしなんか……」
「よーし、お喋りはそれくらいにしてそろそろ行くぞ。洞窟内で夜を迎えたらそれこそ何が出るかわからんからな」
「お、おい!嫌なこと言うなよ! あ! カイザー! さっきのはほんと謝るから! ね?お願い? 野営だけはね?」
『マシュー、まずは誠意を見せる所からですよ。カイザーではなく、カイザー様と呼んで差し上げなさい』
「お、そうか! なあ、カイザー様! 頼むよ! このとおりだよ! なあ、聞いてんのかカイザー様!」
「……様をつければいいってもんじゃないんだけどなあ……全くマシューは……」
「なーなー! カイザー様ああああ!」
緊迫感は何処へやら。一気に砕けた空気が充満し笑い声と共に洞窟を後にしたのであった。
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