第六十五話 洞窟到着
今日もガタゴトガタゴトと馬車が走り、ノシノシノシノシと双頭の犬が歩く。
昨夜の話は俺とスミレの所で止めておき、暫く静観することに決めた。
俺達が知らない誰かとやり取りをしている、と言うのは気になるけれど、前の馬鹿共みたいに我々を陥れようとしているわけでも無さそうだし……ね。
すべてを知りつつ平静を装うってのは、意外と難しいんだよねえ。
ほんとロボの身体だからその辺りは便利だよ……と言いたいところだけれども、俺の場合ある程度表情に出ちゃうからね……顔があるロボは好きだけど、こう言う時は困るなあ……。
「そういや、ミシェルってさ、商会の娘さんなんだろ? 自分用の機兵とか持ってなかったのか? 護衛依頼を出すにしても機兵に乗ってた方が安全だし、そこまで用意していればこの依頼を受けるハンターだっていたかもしれないぞ」
自分用の機兵か……なるほど、お金持ちのお嬢様なら、そんな物を所有する事もありそうだよね。
戦闘用ロボって考えると、アレだけどさ、どうもこの世界のロボは自動車に近い立ち位置にいるからね。ハンターじゃなくとも、長期移動用の安全な足として、土木作業の手として機兵を所持している人は少なくはないみたいだからね。
逆に商会の娘さんだからこそ、そういうのダメ!とか有るのかもしれないけど……。
「私の機兵ですか? うーん……一応お家には練習機はありますのよ? あれはなんて言ったかしら、ええと、確かヴィクトル二型、そうですわ。アラニーラ工房のヴィクトル二型を所持していますわね」
「アラニーラのヴィクトル? めっちゃ高い奴だよそれ! ウチのギルマスですらそんな立派なの乗ってないもん!」
「あたいはそこまでは知らんが、レニーが言うなら高えんだろうな。そんな立派なやつなら性能も良いんだろう? それに乗って来ちゃダメだったのか?」
ギルマスすら乗れない高級機って凄まじいな。石油王が乗ってるようなスーパーカーみたいな物か? それを練習機……? ミシェル
「そうなのですが……ヴィクトルはあくまでも練習機としてお父様から預けられたものですので、わたくしの所有物というわけではありませんわ。
もちろん、わたくしも自分の機体があればと思うことは何度もありましたわ。今回の旅だって、それがあればきっちもう少し楽でしたでしょうから」
「だよねえ……こう言ったらなんだけど、ミシェルのおうちってお金持ちでしょう? 言えば一機くらい買って貰えるんじゃないの?」
「あまり無駄な出費は好みませんが、機兵は必要経費ですからね。わたくしも何か適当な専用機が欲しいとお父様にお願いしたのですが……」
悲しげな顔で首を横に振るミシェル。いくらお金持ちのお嬢様と言えど、そう何でもかんでも自由に手に入るわけじゃあないだろうからねえ……。
「何度言っても今はまだ我慢しろとおっしゃるばかりで、けして首を縦に振ってくれませんの。今回の旅だって、危険だから機兵が欲しいと言ったのですが、護衛を雇うからと……」
最もその護衛はフォレムで依頼後半の詳細を話したら逃げ帰ってしまいましたが、と苦笑いをするミシェル。
その護衛も良い度胸だな。そこまでのお金持ちの依頼を途中でほっぽっちゃったらルナーサで形見が狭くなりそうなもんだが……。
それに違約金だって発生するんだろう? それでも構わず途中でキャンセルしちゃうって……悔やみの洞窟……一体どんな場所なんだよ……。
……
…
「よし、街道を走れるのはここまでだ。ここからはバックパックを収納して馬で行くぞ。レニー、ミシェルを後ろに乗せてやってくれ」
ほんとアニメの謎設定は便利だよ。
馬車形態から馬形態になると謎の技術でバックパックが馬の荷物に変形する。両脇にそれぞれカバンをつけたような形状になるのだけれども、馬車が荷物に変形って……どう考えてもサイズがあわないよね……。
玩具になった時は流石に完全変形とはいかず、別パーツ扱いになっていたのは仕方が無い話だね。
さて、この馬形態だけれども……馬といっても通常の馬と比べたらかなりデカい。
世紀末的な覇者的な人が乗っている馬とか、やたら
そして、その額からは立派なツノが生えているわけで……馬と言うのには少々無理がある見た目だけれども……そこはそれ、機兵だからといって押し切ればね? そういうもんかと納得してくれるだろうさ。
「この馬……いえ、カイザーさんは揺れませんのね? 馬車に乗った時も不思議な感じでしたが、どうしてこんなに揺れませんの?」
「うーん、諸々の衝撃を吸収する仕組みでそれを実現しているのだと思ってくれ。
詳しく話せばジャイロだとかショックアブソーバーだとか……重力制御とか……なんとかかんとか色々あるんだが……噛み砕いて説明するのが難しいからね」
いや、難しいというか……出来ない!
その辺りの理屈は設定資料に色々細かく書いてあったと思うけど全て読み切ってないし、何より、何より……円盤付属特典である、最終版の資料集を読むことが叶わなかったのだから……!
街道から外れた道……と言っても洞窟までの道は踏み固められていて歩きやすい。
この道を歩いた者たち全てが悔やみながら戻ったと思うとなんだかアレだけれども……。
ともあれ、事前に見せてもらった地図はナビに登録済みだし、このまま迷わずいけそうだね。
街道から外れ、暫く歩いていると、森がやや開け人工物が視界に入るようになった。
遺跡――というか、かつて家だったろうものや、何かの施設、井戸や炊事場の跡地などなど。
これらは恐らくミシェルのご先祖様達が暮らした住居跡……というか、これだけの規模であれば、一族が暮らしていた集落跡地と考えたほうが適切だろうね。
「おっ! なんか見えてきたぞ! あれじゃないか!?」
先行するマシューの声にミシェルが反応する。
「おそらくそうなのだと思いますが……ええと、思ったより……大きな洞窟? ですわね……」
ミシェルが動揺するのも無理はない。我々の目前に現れたのは……洞窟と言うよりも、トンネルといった方が良さそうな巨大な横穴だったからだ。
「ひゃあ~でっかい洞窟だねえ」
『これは……? 規模を考えると信じられませんが、天然の洞窟ではありませんね。
旧機兵文明時代に機兵で掘った……のでしょうか? しかし、内部はかなり深そうです。機兵を使ったとしてもかなり時間がかかったでしょうね……』
「こ、これが人工物だあ?昔の人は何考えてんだよ……」
「わ、わたくしも家の者達がかつて使っていた倉庫だとしか聞かされてませんでしたわ! ま、まさかこんなに大きいなんて……」
俺やオルトロスが楽々入れるその洞窟はどう考えても倉庫としてはオーバースペック過ぎる。
倉庫は倉庫でも機兵をしまっておいた倉庫……いや、格納庫だったりするのだろうか?しかし、それならそれで中に入ったハンター達からそういう噂が立ってもおかしくは無い。
一体ここは何なんだろう……。
「こうやって立っていてもしかたが有りませんわね……では皆さん、ここからが護衛依頼の本番ですわ。よろしくお願いしますね」
神の山にぽっかりと空いた大空洞とも言える洞窟……悔やみの洞窟にいよいよ突入する。
さてさて……なにが出迎えてくれるのやら……。
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