第六十一話 洞窟に至る道中にて
ガタゴトガタゴト……のしのしのしのし……。
端から見れば謎のパーティーが街道を行く。
幸いな事に洞窟の近くまでは街道が通っているらしく、このままミシェルに大きな負担をかけることなく現地まで連れて行けそうだ。
馬車に乗せて連れて行けるのもそうだけど、何より街道には魔獣が出にくい。
いざ戦闘となったとしても、荷台部分はパージすることが可能だし、それ自身に結構な防御力があるため、多少の攻撃を受けても中のミシェルが怪我をする事はない。
けれど、それはそれ。だからと言ってほったらかしにはできないわけで。
万が一魔獣との戦闘が始まってしまえば、ミシェルが乗る荷台を防衛しながら戦う事になるわけだ。
そうともなれば普段よりも戦闘に時間が掛かる事となり……それが何度か続いてしまえば現地への到着時間はどんどん遅くなってしまい、着いたころにはすっかり疲れてしまうというわけだ。
なので、一切のエンカウントが無いまま、道が良い街道を移動できるというのは非常に幸せで最高の状況であると言える。
……このまま悔やみの洞窟でも魔獣が出なければ助かるんだけどな。
でも、これまでの情報を統合するに、恐らく何かしらの魔獣が棲みついていると考えた方が良いだろうさ。
今は馬車形態が使えるからまだ良いけれど、洞窟内となればきっとそうもいかない筈。
今のうちに何か護る方法を考えておかないといけないな。
そんな俺の心配を余所にレニー達は楽しそうに雑談をしている。暢気なもんだが、緊張がほぐれると思えば悪いことじゃあないね。
「ミシェルってルナーサから来たんだよね」
「ええ、そうですわ」
「ルナーサと言えば商人の国! ミシェルの家も商人なんだよな」
「そうですわ。今の事業はお爺様が始められたのだと聞いてますわ」
「しかしさ、どうしてまたルナーサからわざわざ悔やみの洞窟に行けって言ったんだろうね? 一族の何かって言ってたっけ」
我々は『洞窟最深部まで護衛して欲しい』とは聞かされているけれど、何故ミシェルがそんな場所までいく必要があるのかまでは説明が無かったためわからない。
我々はただの護衛役なので込み入った事情を知る権利は持たないので聞かなかったし、勿論ミシェルにだってそれを我々に話す必要はない。
けれど……可能であればその辺の事情は聞いておきたいとは思う。
なんというか、洞窟名からして嫌な予感がするし……情報はいくらあっても困らないからね。
もっとも、情報はただじゃない。いくら信頼関係を結べたとしても、一族にかかわるようなネタは気軽に話せるようなもんじゃないだろうさ。
なので俺はデリケートなそのあたりの話題を避けていたのだけれども……レニーなあ。
何気ないレニーの質問、しかしそれはあまりにもド直球過ぎてミシェルが考え込んでしまった。
火の玉ストレートをミシェルに投げつけたせいで、折角盛り上がっていたガールズトークが木っ端みじんに砕け散って強制終了してしまった……。
が、これに関してはレニーはお手柄だった。
「そうですわね、全てをお話しできるわけではありませんが……けれど、話せる範囲で説明させていただきますわ」
なんだか無理に聞くようで申し訳ない気がしたけれど、さっき言った通り情報はあるだけ良い。なのでここは敢えて静観を決め込み、ミシェルが話すに任せることにした。
「うちは元々ルナーサ領ではなくてトリバ領に住んでいたそうなのです。
その頃はまだ商家ではなく、狩りなどをして日々慎まやかに暮らしていたそうなのですが、お祖父様の世代で其れが変わりましたの。
ある日とある商材を思いついたお祖父様は、ルナーサに身を移して小さなお店を開きました。それは見事大成功を収める事となり、こちらに残していた家族を呼び寄せ永住を決めたそうなのです。
以後、我が家は大きな商会にまで成長し、おかげさまでわたくしは不自由なく生活させていただいてますわ」
予想通りお嬢様だったわけだ……。
そうなんだろうなって思っていたけれど、実際に聞くとちょっとびっくりしちゃうよね。レニーとマシューなんか口をあんぐりと開けて……あからさまに驚いているよ。
「それで……その、詳しくは話せませんが、ご先祖様が護り続けていたと言われている家宝を取りに行くようお父様から言われたのが今回洞窟に向かっている理由ですの。それも、なるべく早く手に入れるようにと」
「家宝が悔やみの洞窟に……か」
「ええ……まさかそのような名前で呼ばれ忌まれて居たとは私も知りませんでしたけれど、お祖父様の話ではその洞窟の近くでご先祖様達は生活し、代々洞窟に祀った家宝を護っていたと聞いてますわ」
「なあ、ミシェルさあ、家宝つったら大切な物なんだろ? なんたってルナーサにもっていかなかったんだい?
持っていって、そばに置いておいたらこんな苦労しないで済んだろうにさ。
それに……護りも無しにそんなもん置いておいたらさ、あたいら見たいなトレジャーハンターに持ってかれちまうだろ?」
「それは……そうなのですが、どうもその洞窟から持ち出すことが出来なかったようですの。
それと盗難に関しては恐らく大丈夫ですわ。お父様の話によれば、祭壇の間に入るためには特別な鍵が必要で、下手な泥棒やトレジャーハンターには手を出せないとの事ですので」
「あー、言われてみりゃそうかもしれねえ。実際うちのメンバーも尻尾を巻いて逃げ帰ってきたからな。案外その泥棒よけにひっかかったのかもしれないなあ」
さすが剣と魔法の世界は話が違うな。よくわからないけど、何か特別な術がかけられていて護られているとかそういう話なんだろう。一族の者以外が近寄ると呪いが…とか。
それに、当時持ち出せなかったものを今になって
何か時限式の魔術か何かがかけられていて……部外者が持ち出そうとすると……
……俺達呪われないよね……ミシェルの関係者だから平気だよね……?
「ふむう王家の森に神の山、そして悔みの洞窟……ね」
「おっ!? なんか知ってんかレニー!」
「うん? ああ、違う違う。随分歴史的に濃い場所に住んでたもんだなあって思っただけだよ」
「なんだよそりゃ……そう言えばレニーの家ってどこにあるんだ? ああ、実家じゃなくてフォレムでの家な。リックのところにばっか泊まってたけど、まさか家なき子ってことはないよな?」
「家なき子って……そう言えば見せてなかったね。ねえカイザーさん、今日は早めに野営の準備をしようと思うけど良いかな? あそこに丁度良い広場があるしさ」
「そうだな、ちょうどいいしここらで今日は休もうか」
「って、お前あれか? ……まさかテントに住んでいるのか? それって家なき子と変わらないんだぞ?」
「だーかーら! 違うって! カイザーさん、お願いします!」
「ああ、わかったっと……レニー、ミシェル一応馬車から降りてくれるかい」
乗せたままでも平気そうだけど、一応降ろしてからやらないとね。何か起きても困るしさ。
二人が降りて離れたのを確認し、荷台をレニーハウスに変形させる……と言っても例のコンテナ形態の事だけど、中身はしっかりレニーが住んでいた状態で保持しているからね。今じゃすっかり立派なレニーハウスモードになってしまっているよ……。
これにはレニーもニッコリって感じで、マシューとミシェルを中に案内している。
「じゃ~ん! これが私のお家よ!」
「なんだこれすげえ! ってか、お前カイザーに住んでたのかよ!」
「こ……これは……ねえ、レニーさん! なんとかして量産できませんの? 凄くお金の匂いがしますわー!」
様々な声が飛び交うが、流石のレニーハウスであってもどう考えても3人の寝床を作るには少し狭い。
……さて、いよいよマシューにアレを打ち明ける時が来たか。
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