第五十話 またまたハンターズギルドへ

◆◇レニー◇◆

 

「はい、次の方……本日はどのようなご用件……ってレニー? こ、今度はなんでしょうか? まだなにか、あるのでしょう……か?」


 本日3回目のご対面……予想通りシェリーさんが呆れ顔……ううん、この顔は少し何かを警戒している顔だね……。


 もう! だから別の人のところに行くっていったのに。

 マシューとカイザーさん、こうなるの予想してさ、面白がってシェリーさんとこに行け行けうるさいんだもん。


 横に居るマシューは笑いをこらえているし、カイザーさんは外にいるからわからないけど……きっとお姉ちゃんと笑ってるよ……もー、後で覚えてなよ!


「えっと、明日クエストに出かけようかなって思ってですね、そのついでに3級サードの昇級クエスト内容を聞きに来たんですよ」


「ええ? 今日帰ってきて? アレだけの事があったのにもう明日でかけるの? ……っと、すいません、つい言葉がくだけちゃって」


「いえいえ、お気になさらず。別にそのままで良いですって。

 それに、今日帰ってきたと言ってもですね、ずっと依頼で働きっぱなしってわけじゃなかったし、夜はマシューの所にお世話になってましたので、あんまり疲れてないんですよね」


「訓練だ大物狩りだって色々やったけどな!」

「ちょ、マシュー!」


『大物狩り』その言葉にシェリーさんが反応して何か言いたそうな顔でこちらを見つめている。

 うう……どうしよう。バステリオンの報告、どうすればいいかまだ相談してないんだよ。

 

 ギルドはいつでも素材は大歓迎だからね。この間はおっちゃんのとこに持ち込んだけどギルドに納品すれば個人とパーティへの貢献度としてカウントされる。


 2級セカンド以上を目指すとなると貢献度も気にする必要があるし……ううん、どうしよ、言っちゃおうかな……でもなあ、また騒ぎを起こすと『トラブルメイカー』とかそんな妙ちくりんな二つ名付けられちゃいそうだし……二つ名自体は憧れちゃうけどさ……。


「はいはい、そんな顔しないの。気になることは在るけれど、それはあとにしましょ。

 ごほん! さて、3級サードの昇級クエストですが、該当クエストである2つのうち、盗賊退治への参加は免除……この間言ったとおり、レニーは既に条件を満たしてますからね。

 そしてもう片方、魔獣の討伐依頼ですが、今月のオーダーはキランビ討伐ですね」


「えーっ!? キランビ!?」

「知っているのかレニー!」


「うん、キランビはハチの様な魔獣で……といっても魔獣だからさ、そこそこでっかいんだよ。

 ちょっとした物置くらいあってさ、それがブンブンと飛ぶんだ……。

 基本的に単体で哨戒してるんだけど、運悪く巣に近づいちゃったら……群れで襲いかかってくるんだって。

 群れも群れ、きちんと連携してくるらしくってさ、そうなると2級セカンドパーティじゃないと手に負えないほどに程脅威度が跳ね上がるんだ」


「だろうな。うちのメンバーも巣をつついちまってな、あんときゃ何人か酷い目に遭ってたぜ。幸い命は無事だったがね」

「え!? なに、知ってたの!? マシュー! じゃあ何で聞いたのさ!」

「あたいの心がそうさせたんだ」

「もー! マシュー!!」

 

「はいはい、喧嘩は後でやってねー。と言うわけで今回あなたに受けてもらうのはそのキランビの討伐。そこまでの知識を持っているのはハンターとして立派なことよ? 私も説明が省けてとってもありがたいです。

 御存知の通り、群れになれば危険な相手だけど、一匹ならそこまで苦労しないはずよ」


 しまった、ついマシューのペースに巻き込まれちゃった……恥ずかしい……。

 しかしキランビかあ。図鑑でしか見たことは無いけど……マシューは実戦経験があるみたいだし……戦い方、知ってるよね。


 ……頼りにしちゃおう!


◆◇マシュー◇◆

  

 キランビなー、逃げ帰ったメンバーの話しか聞いてないが、まあ物知りのレニーなら対策知ってるだろ。


 なんかやたらでけえハチだったって事と、すげえ数で襲われたって事しか聞いてないけど……うん、なんとかなるよな! カイザーもオルトロスもいるしさ!


◆◇レニー◆◇


「じゃあ、それを受託しますね。あ、あと先にクエストボード見てきて良いですか? 他に何か良いのがあったら一緒に受けたいので」

「ええ、この時間はあまり人も来ないからね、ゆっくりみてらっしゃい」


 さて、と。お言葉に甘えてボードをっと……うーんいいのが無い。

 そりゃさ、この間までのことを考えると4級のクエストを受けられるようになってるからそれと比べれば稼ぎが良いお仕事を受けられるようにはなってるんだけど……。

 

 なんだかなあ。この報酬額なら狩りをして素材を売った方が実入りが良いって思っちゃうな。


 でも、素材を壊さず狩るのは結構大変なんだよね。おっちゃんに売ったブレストウルフだって沢山倒した中からようやく売れるパーツを集めたようなもんだしさ。マシューは器用だからなんとかなりそうだけど……私はなーうまく出来ないからな……。


「おっ、レニー見てみろよこれ、金貨2枚だってよ」

「え! 金貨2枚!? ど、どれ?」


 思わずおっきな声を出しちゃったけど金貨2枚は凄い。マシューが指さす紙を見ると……護衛任務で金貨2枚? うわ、これいいなあ。場所次第で一緒に受けられそうだけど……ってこれはだめだあ……


「マシュー、だめだよこれ」

「ん? なんでだ? 詳細は分からんが護衛任務で金貨2枚は破格だぞ」

「そうなんだけど……ほら、ここを見てよ、3級サードって書いてるでしょ」


 そう、条件の所に3級サードとしっかり書かれている。つまり受注可能な最低条件が3級サード。私はまだ4級フォースだから受託することが出来ないんだ。


「あー、そうだな。レニーはまだ4級フォースだもんな。でもさあ――」

「もー! まだ無理なんだって!3級サードになって、まだ残ってたら受けたら良いでしょ!」


 マシューに悪気があったわけじゃ無いのだろうけど、ついつい責めるような口調になってしまった。反省反省。そんなもんだから、シェリーさんに気を遣わせてしまった。


「まあまあ、怒らないの。どうせすぐに3級サードに上がれるんだし、上げてからゆっくり受託すればいいじゃない」


「いや……いいんですよシェリーさん、慰めてくれなくても。

 別にお金がほしいなら他のクエストをコツコツやればいいんだし。

 それに明日急いで終わらせてきても、こんな美味しいクエスト即無くなっちゃうでしょう? わかってますよ、それが現実だって。あはは……」


「それがね……っていうか、レニーあなた今まで気づかなかったの?」


 シェリーさんが不思議そうな顔で私を見ている。一体何に気づかなかったのだろう?


「それね、焦げ付きよ? 貼り出されてからもう1ヶ月近く経つのにだーれも受託しないの。依頼主さん、よく諦めずに待ってるわねって噂の種よ」


「え? 一体何でまたそんな」


「ふふ、知りたかったらはやく3級サードに上がる事ね。残念ながら受注資格が無いハンターにはクエストの詳細を話せない規則だからね。3級サードまで来ればいよいよ一人前! そこから先は腕が無いと上がっていけない世界よ。がんばってね」


 と、シェリーさんがヒラヒラとキランビ討伐の書類を振っている。私たちがワイワイやってる間に手続きを済ませてくれてたみたい。


 うー! 気になる! 気になるし、金貨2枚は美味しい! 受けたい!

 よーし、明日、明日1日で片付けて昇級してやる! 待ってろ依頼!

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