第四十九話 新装備
盛り上がるレニー達はそのままに、ざっくりとした今後の予定を考えてみる。
最重要案件は
なのでブレイブシャインとしてクエストをこなしながらレニーとマシューの練度を上げつつ、空いた時間で少しずつ情報を集めてじっくりと探索していけばいつかは見つかるんじゃないかなあと思う。
なるべく早く足と出会いたいとは思うけれど、急いだ所でどうなるようなものではないからね。そこは焦らずじっくりと確実に取り組んでいきたい。
足の行方として最悪のパターンとして挙げられるのは、既に誰かによって回収されている場合だ。
相手が個人であっても、説得を考えると非常に頭がいたいけれど、それよりも厄介なのは国家に抑えられている場合だ。
その場合、普通に考えて明らかなオーバーテクノロジーであろう機体は厳重に管理されているだろうし、話を通そうにも末端の末端である門番に声をかけた時点で追い払われてしまうのは目に見えて明らかだ。
いくらこちらが所有権を主張しようにも、説得しようにも……簡単に顔を合わせて話せない様な相手にはどうしようもない。
であれば、その最悪の事態を想定し、ある程度世の中に顔を売っておくのは大切な事かもしれない。
パーティレベルを上げ、俺達の知名度と信頼度が上がれば、直接は無理でも間接的に話を聞いてもらうことくらいは出来る様になるかもしれない。
巷で噂の
それを考えればレニーが言っていた「名前が売れれば周りからキラキラした目で見られるようになる」というのは案外馬鹿にできない要素かもしれないな。
……となればまずはクエストの受託を……いや待てよ、その前に……。
「盛り上がってるところ悪いが、レニーに聞きたいことがある」
「ん? なんでしょうカイザーさん」
「この街に"本屋"と言うものはないか? 地図や図鑑などがあると嬉しいのだが」
「うーん……書店ですか。無くはないのですが……本ってお高いですよ……? 薄い娯楽書でも1冊10銀貨は軽くしますし、図鑑や地図となると……1金貨は軽……く……」
「お高い……な……ううむ」
リックの持っている聖典の写しの写しや、街で見かけた本はこの手の世界お約束の羊皮紙ではなく、俺が良く知るものと遜色が無い程にきれいな植物由来の紙だった。
機兵なんてのが存在していたり、バイザーやモニタ的な物……それどころかコンピューターに準ずる物の存在も耳に挟んでいたので、この世界はそこそこ文明が発達していて、本など庶民でも買えるような値段で売られているのでは? と、踏んだのだがどうやらそうではないらしい。
なんでも、紙自体はそこまで高くはないらしいのだが(マシュー達が気軽に使ってたしな)問題は本の製法だった。
この世界で発展している技術はあくまでも聖典を元にした機兵周りのみ。なんと印刷という概念が無く、出回っている本は全て原本から手作業で複写された物なのだという。
それを聞いた時はびっくりして口からフォトンを垂れ流しそうになってしまったよ。
この世界の中心になっているのはあくまでも機兵。その機兵に関わる技術だけはどういうわけか驚異的に発達しているけれど、それ以外のものは大した発展をしていない……と。
嘘だろ……ロボが居て、データの登録やら何やらが在るような世界観なのに印刷技術が芽生えていないとか……どんな冗談だ。
本という存在がそこまで重要視されていないというのもその理由ではないかということなのだが……いやいやほんと、嘘だろう?
……なので、この世界における本というものは書店で金を払って買う他に、借りるという選択肢があって、多くの人はその方法で本を読んでいるようだ。
例えば金貨1枚の図鑑の場合、借りて読めば銀貨1枚で済む。それでも日本円にして約1,000円と割高だが、約10万円相当である1金貨と比べればだいぶ手に取りやすい。
何より情報が命のハンターにおいてその程度は安いくらいだろうさ。
前回の稼ぎは今後のためを考えると無駄には出来ない。従って借りる方法を取ろうと思ったのだが――
「本を借りたい? 無理ですよー、だってカイザーさん中に入れませんしね」
と、言われてしまった。
俺は前世の感覚で図書館やレンタルショップと同じように考えてしまったが、すべての本は持ち出し禁止。
まあ、そりゃそうだろうな。金貨1枚で売ってるものを銀貨1枚で借りられる、それを持ち出せてしまったら……悪いやつはそのまま戻ってこないだろうさ。
店外への持ち出し禁止であるおかげで、保証金抜きの低価格なお値段で読めるのだと言うことだが、これは俺にはとてもとても痛い話だ。
「あ、でもほら! 前に稼いだお金が結構ありますよね? それから出せば一冊くらいは……」
「いや、其れはだめだ。俺は食わなくても平気だが、レニーとマシューは食事が必要だろう? それに今後何に金を使うかはわからないし、それはパイロットが使うべき資金なんだ。だから高価過ぎるとわかった以上、本の購入には使えないよ」
「じゃあさ、本代を稼ぐ狩りに行けばいいさ。あたいたちの特訓にもなるしさ!」
「そうですね! 私の
「カイザー、情報は金を払ってでも手に入れるべきです。活動資金とは別に予算を捻出するのであれば問題ないと思いますよ」
「ううむ……そうかい? そうだよな……うん、よし!それで行こう!」
と、狩りの話題になった所でリックが何かを思い出したような顔をして声を上げた。
「お! そうだそうだ! おい、レニー! ライダーになった記念、そして4級記念に俺とカイザーからの贈り物があるぞ!」
あ! そうだ、そんな話もあったな!
ということは……以前頼んだアレが出来たんだな!
忘れずに俺と連名にしてくれてるのが泣けるよ。リック、あんたいい人だ……。
「え? なになに? カイザーさん、なんで黙ってたんですか!」
「こういうのは驚きを含めてこそ、だろ」
リックが何かの端末を操作すると、布がかけられた台がクレーンで運ばれてきた。
その中には結構大きめの物体が2つ。さてさて、何が出るかな?
「おら、レニー! 布を取ってみろ!」
跳ねるように駆け寄ったレニーがえいや! っと一度に布を剥ぎ取った。
……こいつプレゼントの梱包を破いて剥がすタイプだな。
「わあ……って、これは……? なに……かな?」
嬉しいような戸惑っているような、どうしたら良いのかわからない顔で俺とリックの顔を見る。
「ま、そうだろうな。おいカイザー、つけてみせてやりな。それが一番わかりやすいだろ」
これはレニーへのプレゼントって事になってるが、身につけるのは俺だからな。
なんだかあげたものを自分でつけるというのは妙な気分になるな。
両手にそれぞれ1つずつ、新たな装備をはめていく。
手のひらに固定するたび、パチンパチンと良い音が鳴るのが妙に滾る。
この手の装備は効果音もやっぱり大切な要素だよねえ。
「これは……ガントレット……? なんだかカイザーさんの手が一回りおっきくなったような感じですね」
「ああそうだ、カイザーからよ、おめえが近接格闘が得意だって聞いてな。そういや俺もレニーから良くぶん殴られたなあって思ったらそいつが一番合いそうだって思ったんだよ」
「ちょ! リックさん! 私そんなことしてませんよ!」
バシバシとリックの背中を叩くレニー。あの音、一切の手加減を感じられん……。
「おい、いてえ、いてえってばよ! 爺なんだから手加減しやがれ……。
ったく、あと、それは無駄にでけえだけじゃねえ。ちょっと秘密があってな。ほれ、握りの所に親指で押せるスイッチがあるだろ? それをな……って、おいおい今押すなよ?
戦闘時に獲物から離れて押してみてくれ。へへ驚くぞお……」
くくくっと笑っているが、その企み顔がとても気になるな。
ガントレットは概ね俺の指定通りの出来ではあったが、その、謎の機能を含めて大きく当初設計と違っていた。
ガントレットと言っても所謂手袋タイプではなく、メリケンサックにカバーが付いたような形状をしている。そのため拳を握った状態で固定されてしまうが、何か掴み動作が必要な時は都度バックパックに転送すればいいので問題ないだろう。
しかし気になるのは怪しげなスイッチだ……。
人差し指の付け根あたりに設置されているそれは、親指を少し手前にズラす事により押せるようになっている。
誤って押してしまうような物ではないため、誤爆の心配はまずなさそうだがなにが起こるのはまだわからない。
こういう物は前もってどの様な効果が発生するのか知っておかねばまずいと思うのだが……これもリック流のサプライズなのだろうから……しょうがないなあ。
しかし、俺の設計をリファインした上で魔改造してくるとは……恐ろしい爺さんだよね……。
ジンもフォトンライフルに何やら恐ろしい魔改造をしていたし、ほんとこの世界のメカニックは凄まじいよ。機兵周りと限定されるけれど、その技術力は地球のそれを大きく凌駕しているのではなかろうか……。
「カイザーさん! 早速試そうよこれ!」
「そうだよカイザー! あたいも見てみたい! なあ、行こうぜ、狩りによ!」
きゃあきゃあとはしゃぎながら狩りに行こうと騒ぐ少女たち。
その姿は年相応の女の子らしいけれど、言ってる内容が物騒だ……。
しかし、しかし狩りなあ。流石に今からの時間は――
「やめとけやめとけ! 今日出かけるのはよすんだ。今から行ったら森で一夜を明かすことになっちまう。
依頼でそういう日もあるかもしれねえが、久々に街に戻って早々にそれはいけねえ。ハンターは身体が資本つってな、おら、おめえら今日はうちに泊まって身体を休ませてけ。俺は少し片付けるからよ、それまでギルドで依頼を見てくるといいさ」
――どうやって二人を止めようかと思ったら、リックがわわわっと早口でまくし立て、反論させる間もなく却下してしまった。
ひらひらと手を降って奥へ入っていくリックの足取りは妙に楽しげで……ああ、これはあれだ、孫娘を家に招いて喜ぶ爺ちゃんの後ろ姿だ。
しかも今回は
残された二人はと言えば……リックにまくし立てられ、すっかり狩りに行く気が失せてしまったようで。
「……じゃあ、お言葉に甘えてギルドでも見に行ってこようか?」
「そうだな。急いでもしょうがねえし、今日の所は依頼のチェックだけにしておくかあ」
依頼を見に行くだけとは言え、パーティとして行動するのは嬉しくて、楽しくて仕方がないらしい。二人はニコニコと上機嫌でそれぞれの機体に乗り込むと、ギルドへと向かっていくのであった。
……そしてギルドにいくのは本日3度目だ。きっと『また来たのか、今度は何をやらかすつもりなのだ?』なんて顔で見られちゃうんだろうなあ。
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