3章 悔やみの洞窟

第四十八話 パーティ結成 そして

「はい、こちらがパーティーカードです。リーダーはレニーさんで間違いないですね?」

「は、はい! それでおねがいします!」


「ふふ、お願いも何も、もうそれで作っちゃってますからね、今のは確認ですってば。ほらこれがカードですよ。落とさないでくださいね」

「ひゃい! あじがとうごじゃいます!」

 

「ふふ、どういたしまして。しかし、機兵を手に入れたと思ったら即4級フォースに上げて、さらに3級サードの資格の半分と、パーティメンバーを……それも立派な機兵付きで見つけてくるなんて……レニーさん、やはりあなたには秘められた力が……!なんてねー」

「やだもう、シェリーさんはまたそんなこといってー」


 ◆◇◆

 

 というわけで、善は急げとギルドに向かい、パーティー登録を済ませた。


 さっきのさっきで直ぐにギルドに戻ることとなったため、変な顔で見られたりやしてないかと少々心配したのだが、にこやかに手を振りながら出てきたレニーを見るに、問題なくきちんと登録が済んだようだ。


 リーダーを誰にするかという話になった時、全員一致で俺の名を上げたが、こいつら何も考えてないなと思ってしまった。


 そもそも俺は人間ではなく、ここで言えば機兵なんだぞ? 

 機兵がリーダーって、どこにそんなパーティーがあるんだよ……。


 リーダーともなればギルドに顔を出し、様々な手続きをしたり、何かの依頼で他のパーティと同行することになれば、その打ち合わせに参加することだってあるだろう。


 俺がのこのこと行って『どうも、ブレイブシャインのリーダーです』なんて行ってみろ。大変な騒ぎになるのは少し考えればわかるだろうに……。


 それでも『カイザーさんほど頼りになる人が居ない』『あたいは嫌だからカイザーがやれ』と聞く耳を持たなかったため……


『わかったわかった。だが、俺が前に出ると騒ぎになるからな。俺は裏のリーダーとして指示を出すから、表のリーダーはパイロットのレニー、お前がやるんだ』


 と、提案すると……はじめからリーダーなどやりたくなかったマシューがそれに乗り、レニーをやんややんやと煽てあげて……それに騙されたレニーがめでたくリーダーに就任したのであった。

 

「そ、それでさ……こ、これ無くしたら……再発行に……ぎ、銀貨50枚だって…」


「まあ、妥当な金額だね。カードってのは身分証だろ? しかもパーティの身分を証明するものだとなったら当然さ。例のバカどもの様な犯罪者連中でもさ、ブレイブシャインのカードを悪用すりゃあ、まっさらなパーティになりすませちまうんだからね」


「とと、というわけで、か、カイザーさん預かっておいてくださいね。真のリーダーはカイザーさんなんだから……」


 俺はあくまでも裏方で、その手の管理はレニーに任せておきたいのだが……確かにこれはなくすると色々面倒なことになりそうだ。


 しょうがないな、しっかりとバックパックにしまっておく事にしよう。

 関係者以外は干渉することが不可能な俺の背中は何処よりも安全な場所だからな。

 

「そうだ、おっちゃんやリックさんに報告にいかなくっちゃ」

「なんだ? レニーの知り合いかい?」

「うん、この街で私に良くしてくれてる人達なんだよ。マシューの紹介もしなくちゃね」

「レニー、それなら今日は先にリックの所に行った方がいいぞ。この間は先におっちゃんとこに行っただろう?」


「んー? そっかそうだね、リックさん心配してるだろうしそうしよっか」


 あのおっさん共は妙なことで張り合ってるからな。前回に引き続き、今回もまたおっちゃんの所から行ってきたーなんてリックに知れたらすんごい機嫌を悪くしそうだし。


 何より今回は昇級報告とパーティ結成という大きなイベントが有る。

 おっちゃんには悪いけど、今後の付き合いを考えればリックの機嫌はとっておきたいんだ。わるいな、おっちゃん!



 工房に向かう間、レニーはとても嬉しそうにマシューに観光ガイドをしていた。

 マシューは時折この街に来ることがあったようだったが、それでもこの街はそこそこの規模があるため、知らない店やスポットがまだ数多く在るようで、そういった場所をレニーから紹介される度、深く関心したように話に聞き入っていた。


 あっちへこっちへと、少々の寄り道をしながらのんびりとリックの工房に向かっているのだが……俺とオルトロス、白と紫の人型機兵はこの街ではかなり目を引いてしまっていた。


 レニーが俺と共に歩き回ったときでさえかなり話題になったのに、それが1機増えてともに歩いているのだ。

 すれ違う人たちが二度見をしたり、興味を持ったライダーがこちらと並走して話を聞こうとしたりと……なんだか賑やかなパレードのようになってしまっている。


「仕方ないさ。人型機兵なんて個人で使ってるやつあんまりみないからね」


「そうだね。マシューが言う通りこの辺は軍用機が来ることはあまり無いし、カイザーさんやオルちゃんたちはその機体ともまた雰囲気が違うもんねえ」


「レニーは俺を見つけた時、軍用機だと思ったのかい?」

「一瞬だけそう思ったんだけど、直ぐに違うと気づいたよ。軍用機にしては鎧っぽいデザインじゃくてスマートだし、特徴的なマスクもついてなかったし。何より人のようなお顔をしているでしょう? だからほんと……機兵の神様かと思ったんだよ」


 神様とは大層なことだ。ああ、そういや神様元気かな? どうにか俺に例のボックスを見させてくれないものだろうか。アレを見れば失われたアニメの記憶が甦るばかりか、まだ見ぬエピソードを見られるというのに……。


 そういえば、その作品のタイトル……カイザーカイザーと言っていたけど、正式タイトルってなんだっけ?

 そんな大切なことまで忘れてしまってるんだよな。くそう、早くを見つけて身も心も完全体になりたいもんだよ。


「あ、見えてきましたよー」


 レニーの声で考え事をやめ視覚情報に気を向けると、懐かしい姿がカメラに捉えられていた。

 それは何か作業をしていたらしいリックで、俺達の足音が聞こえたのか、くるりとこちらを向いた。


「リックさああああああああん!!! たっだいまあああああああ!!」


 ハッチを開け、レニーがブンブンと手を振って元気よくリックを呼んだ。

 リックはゆっくりと上を見上げ、手を振るレニーを視界に収めると、優しげに目を細めて人懐こい笑顔を見せた。


「おお、レニー! 随分遅かったじゃねえか……って、おい! なんだ? また1機ヤバそうなのが増えてんじゃねえかよ!? あー良い! 話は後だ! そこじゃ目立っちまって面倒くせえことになりかねん! お前らさっさとこっちに入ってきやがれ!」 


 慌てた表情を浮かべたリックに格納庫まで誘導され、そこでゆっくりとこれまでの経緯を報告し、併せてマシューを紹介すると、リックはレニーの頭をグシグシと撫で、心から嬉しそうな表情を浮かべた。


「へえ、トレジャーハンターの頭領たあ、良い奴と友だちになったな、レニー! マシュー、こいつのこと頼んだよ」

「へへ、任せてくれ。カイザーはたまに頼りないからね。しかし、リックさんの格納庫すげえなあ! うちのと大違いだ」


 機兵を整備するための格納庫だ、人の体であれば見上げてもまだ足りないほどに天井が高く、周囲には所狭しと専用の工具やクレーン、何やらよくわからないメンテナンス用であろう重機のような物が備えられていて、俺も感心したが、マシューはそれ以上に感心したようで、ぐるりとあたりを見渡してみては凄い凄いと連呼している。

 

「お、わかるかい? そうか、トレジャーハンターだもんなあ、設備の良し悪しにゃあ俺ら同様にうるせえからな。

 そうだ、丁度いいや、聞いてくれよ。この間こんな出物があってな、どうだい? マシュー、お前さんの目から見て……」

「おお、凄えなこりゃ。リックさん良く手に入れられたな……んなもん軍に見られりゃあ持ってかれちまうだろうに」

「ま、俺には俺のツテってのがあってなあ……んでよお……」

 

 なんだか少々ヤバげな濃い話が始まってしまったが……さっそく二人が打ち解けたようでなによりだ。レニーは二人の話があまり理解できていないようだが、それでも嬉しそうに相槌を打ちながら輪に加わってニコニコとしている。


 急ぐ旅というわけじゃあない。ここは設備も整っているし、リックが良いと言ってくれれば3級サードに昇格するまではここを拠点として活動するのも悪くないかもしれないな。


 この様子ならマシューのメンテスキルも上がりそうだし、ついでにオルトロスの武器を作ってもらうのも良いだろう。


 レニー達の様子を見るに……暫く楽しいトークタイムが続きそうだね。

 どうれ、今のうちに今後の予定をしっかりまとめておくとしますか。

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