第四十七話 重なる輝き 

 町の中心部よりやや離れた場所に位置する隠れ家的カフェ、そんな場所に俺たちは来ている。


 レニーお勧めの店ということで、なんでもカフェオレ的な物とパンケーキ的な物が美味しいとの事だけれども……勿論、ロボの自分にはそれを味わうことができないので少し悔しい。


 少しだけね!


 店の前は広場になっていて、イスとテーブルの他に騎兵を置くスペースもあり、我々がのんびり話すのにはちょうどいい場所だった。


「……で、勿論説明をしてくれるのだろうな、マシュー」


 今日の朝、感動的に別れを告げたマシューが今ここにいる。


 ハンターズギルドに現れたオルトロスを見たときはびっくりしてビームを噴きそうになってしまった(実際にそういう機能はないが)


 オルトロスから降り、俺をチラリと見ていたずらに笑うマシューに

『一体何事なのだ』と、危うく声をかけそうになったが、それをこらえた俺を誰か褒めて欲しいよ。


 それだけびっくりしたんだからな。


 その後しばらくして、レニーと連れだってギルドから戻ってきたわけだけれども、何故マシューがここに居るのか、詳しい話しを聞くためここにやってきたわけだ。


「説明も何も無いよ。あたいはもうカイザー達の仲間なんだ、一緒に居ておかしい話じゃないだろ」


「それはそうなんだが……いやいや、待ってくれ。俺が何でお前を置いてきたかわかるか?

 俺だって本当は誘いたかったんだ。しかしな、お前を連れて行くとあそこの護りが弱くなるし、それになんたってお前は頭領だろ? そんな大事な存在をおいそれと連れ出しちゃだめだ、俺はそう思ってだな――」


「カイザー、あんたはいくつか勘違いをしている」


 びしっと俺を指さし、険しい顔でここに居る理由を一つ一つあげていく。


「ひとつ、まずあたいは頭領だが、めんどくせえ業務は前頭領じつちやんが未だにやっているんだ。あたいは言わば名前だけのお飾り、まだ見習いなのさ。

 だからじっちゃんが『おめえはカイザーと共に世界をみてきやがれ』って追い出すようにあたいを旅に出してくれたんだよ」


 そして指をもう一本立て、少し溜めたのち説明を続ける。


「ふたつめ、カイザーはやたらとあそこの護りを気にしているが、一番の懸念だったバステリオンはもういないんだ。

 まあ……いつかまた似たような存在が生まれるかもしれないけど、当分あんなのは出ないだろう? そうなりゃ出るのはせいぜい盗賊やブレストウルフくらいのもんだけど、んな雑魚共、彼処の機兵で十分渡り合えるっつーの。

 レニーみたいなバケモンじみた真似する奴はそうそうこねえからな、あの程度の装甲でも十分立ち回れるんだよ!」


 そして、にやりと笑って3本目の指を立てその続きを話す。


「それにさ、あたいたちがたんまり素材を手に入れただろう? あれだけありゃあ、ストックしてた素材だけで戦闘用の機兵を2機は軽く新造出来るってわけよ。

 それに砲台も外さず残して行ってくれただろ? オルトロスなんて居た所で過剰戦力。あたいたちはトレジャーハンターであって傭兵じゃ無い。案だけだったら十分なんだよ」


 しかし、マシューには修理技能があるはずだ。機兵をメンテナンスする人員が、メカニックが居ないと困るのではないか? 


 それを聞くとすごく間抜けを見るような顔で見られてしまった。


「ぶぁ~~~~か。レニーも馬鹿だがあんたも大概だな!」


「マシュー!? さりげなくあたしも馬鹿にしたね?」」


「レニーはまあしょうがないだろ……いいか、カイザー。これはおまけの4つ目だ。

 修理できるのがあたいだけなわけないだろ? トレジャーハンターだぞ? 掘るだけじゃないんだぞ? 発掘品の調査っていうのは分解したり既存パーツと比較したり、遭わせてみたりと色々やるんだぞ? ただ見りゃいいってわけじゃねえ。技術が必要になるんだ。

 トレジャーハンターたる者、修理の一つや二つ出来なきゃ話にならないんだぞ?」



 びし、びし、びしと、指を指しながら子供に言い聞かせるように説明されてしまった……。

 言われてみれば確かにそうかも知れないけれど……知ってる常識だと、考古学者ってロボットを弄くり回したりはしないんだぞ……そりゃ、この世界は自分の常識が通用しない世界だって分かっちゃ居るけど……くう……ぐうの音も出ないや。

 


『ふふ、マシュー、その辺で許してあげてください。カイザーなりにすごく悩んで決めたことなのですから。』


「な、なあ。もしかしてスミレは気づいてたのか? 別にマシューが抜けてもあのギルドは回るんだって……」


『はい。トレジャーハンターの内情、置かれた戦力を考慮して、一時的にマシューの身を借り受けても問題ないと私は判断していました。

 一応カイザーにもそれを遠回しには伝えたつもりだったのですが……察して貰えなかったのは少々残念でしたよ』


 なんてこった……俺の独りよがりというか、空回りというか……!

 今ほどロボでよかったと思うことはないな。なんたって顔に出ないからな……人であったならば真っ赤になっているであろうこの顔を見られることがないのは幸いだ……。


『ふふ、カイザー、輝力がみだれてますよ。ヘッドパーツにエネルギー反応集中……ふふ』

「おいやめろスミレ」


「なんだカイザー、恥ずかしくなってきちゃったか? ん? ん?」

「ちょ、ちょっとマシュー! やめてあげなよ! カイザーさんが可哀想……うふ、うふふふ」


「……」


 しばらくこいつらとは口をきかん!

 ……というわけにもいかないのが悔しい。何より折角の再会の場、いやびっくりするほど早すぎる再会だったけれど、改めて仲間が増えた素晴らしき場だからな。ここは一つ、俺が大人になろうじゃ無いか、うん。


「ま、まあ……何はともあれ、何はともあれだ! 改めてよろしくなマシュー!」


「ああ、よろしくだ! カイザー! レニー! スミレ!」


『よろしくね~』

『よろしくー』


「えへへ、よろしくね、マシュー……って、そうだ! こうなったらパーティ名を決めないといけませんよ。マシューが加わったんですからね、パーティ名を決めてギルドに報告しないと」


「む、そんな義務があるのか? めんどくさいな……」


「何言ってんだカイザー、ハンターズギルドにとってこれは重要なことなんだぞ。

 あたいらが捕まえた連中を見ろ、捕まったのは3人だが、ほかに仲間が居るかもしれないだろ?

 そういう時にギルドはパーティ名『ジダニックの牙』で検索し、データをチェックするのさ。

 それを見て他にメンバーがいた場合は事情聴取をしたり、場合によっては捕えたりできるわけだ。ギルドとしてはありがたい仕組みなんだよ」


「私たちハンターとしても一応恩恵はあるんですよ。パーティ前提のクエストというのがありますし、個人ランクの他にパーティランクというのもあるのです。

 それはパーティの信頼度と等しく取り扱われる物で、上がれば上がるほど素材の買い取り金額が上がったり、クエストボードを通さず直に依頼をされるようになったり……

 あ! 後は名前が売れれば周りからキラキラした目で見られるようになったりもしますよ!」」


 レニーとマシューの説明により大体把握した。レニーが最後に話した部分はどうでもよいが、なるほど理にかなった仕組みだな。


「しかしパーティ名か……正直俺は妙な先入観で考えちゃうからな……よし! ここは君たちに任せたぞ!」


「よっしゃ! へへ、実はなーこうなると思ってさ。もう考えてあるんだよ!」


 まってましたとばかりに自信満々でマシューがカバンから紙を取り出した。さては昨夜思わせぶりに部屋に帰った後書いたんだな……ちくしょう……。


 ババーンと声に出しながらマシューが広げてみせた紙に書いてあったのは――


 <赤き尻尾 ハンターズ部門>


「却下」

『考えるまで無く却下ですね』

「なんっでだよ!!!」

「これじゃあ完全にお前んとこの傘下じゃないか。大体にして長いだろ! これはだめだ! 却下だ却下!」


「ねえねえ、あたしのもみてよ!」


 いつの間に書いたのか、レニーがえへんと胸を張り、丸めた紙を高く掲げている。

 レニーのセンスは案外バカにできんからな。良さげなのを出してくれるかも――


 <カイザーさんとゆかいな仲間たち>


「却下で」

「だな」

『支持したいところですが……却下ですね』

 

「な、なんでー!?」


「俺の名前が前面に出てるのは嫌だし、ゆかいな~が古臭いし、何よりかっこわるい! だめだ! だめだめ! だめだ!」


 却下を食らった二人は『だったらカイザーも案を出せよ』と、ブウブウ言ってるが、俺はだめなんだよ。どうしてもアニメの設定から考えてしまう。


何やら記憶の大半が失われているようだけれども、それでも設定の一部分は思い出せるようになっている。この状況で何かチーム名的なものを考えてしまえば、きっと無意識の内にアニメ内の名詞を拾ってしまうと思うんだよね。

 

 俺達は俺達で、新たな――アニメとはまた違うチームとして、新たなカイザーを描いて行きたいんだ。


 だからこそ、ここは下手な知識を持つ俺が考えるべきではないんだよ。


『あの、カイザー……私が考えるのは……だめでしょうか……?』


 スミレか……。

 スミレもまたアニメの影響を受けていないとは言えないんだが、最近のスミレを見ていると、どうも俺が知ってる筈のアニメに登場するスミレとは違うように感じるんだよな。


そもそもうちのスミレは変な言い方をすれば新品の状態で俺と出会ったんだ。

 向こうの世界から来た同胞であると共に、こちらの世界で生き、知識を吸収したこちら側の住人とも言える。


 そんな面白い立ち位置に居るスミレなら、俺よりもだいぶ良い案を出してくれるかも知れない。


「構わないぞ。せっかく考えてくれたんだ、遠慮せず発表してくれ」

『……ブレイブシャイン……というのはどうでしょう?』


 おお……悪くない……悪くない、が、どうもなにか心に引っ掛かる……。


「おお、何だか知らんが響きはかっこいいな! でも ぶれいぶしゃいん? ってどういう意味だ?」


『これは勇敢な輝きという意味です。勇敢で輝力を持ったあなた達に相応しい名前だと思うのですが……だめですか? カイザー? ね? いいでしょう?』


 くっ、スミレのおねだりボイスはレアい。それにこの名前はかっこいい、かっこいいんだが、どうも何か……記憶に引っ掛かる……特にシャイン……思い出せないがアニメに出てくる単語だぞ……。


「いいじゃないですか! シャイニングブレード? かっこいいですよ」


「バカ! ぶれいぶしゃいんだよ! あたいもかっこいいとおもうぞ、ぶれいぶしゃいん!」


『いいねえ、ブレイブシャイン! オルは好き~!』

『うん! ロスもブレイブシャイン良いと思うー! なんかしっくりくる!』


『どうしますか? カイザー、多数決なら圧倒的に決定なのですが』


 俺の都合で悩んでいてもしかたないな。そもそも仲間全員が良いと思ったし、俺だってこれはいいと感じちゃったもん。


 変なもやもやを抜きにすれば満場一致じゃんな、よし、これでいこう!


「うむ、俺も悪くないと思う。よし、チームブレイブシャインをここに結成する!」


「チームじゃなくてパーティだっつーの。まったくカイザーはしまらねえなあ」

「あははは」



 チームじゃなくてパーティだろと、マシューに突っ込まれ、レニーにも笑われてしまったけれど……俺的にはチームのほうがしっくり来るんだよー!

 

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