第四十四話 バステリオン戦 ―ギルドでは  

「よくやった!まさかバステリオンの奴を始末するとはな!」


 マシューが顔をくしゃくしゃにした前頭領に抱きしめられ、照れ笑いをしている。


「前頭領、貴方の射撃の腕もなかなかだったよ! 助かった! ありがとう!」


「いいってことよ! お前さんの声が無かったら動けなかったからよお。

 恥ずかしい話、小山みてえなバステリオンが暴れてんの見てな、身体が動かなくなっちまったのよ。

 あの呼びかけが無かったら……今頃どうなってたか考えたくもねえよ……いやな、あの時はな――」


◇◆前頭領ジン◇◆


 遠くに聞こえる鈍い音や微妙な振動、どうせまたあいつらが訓練か狩りでもしてんだろう、そう思っていた……が、直ぐにその違和感に気づいたのさ。


(マシュー達は下の遺跡で狩りをしているはず……じゃあ、上から聞こえるのは何だ?)


 何かが起きている、俺は若い衆を連れて様子を見に外に出たんだよ。

 んでよ、ギルドの展望台に登ってな、上からから下を見ると……白い機兵と紫色の機兵が山を駆け上がってくるのが見えるじゃねえか。


(やはりあいつらの足音か? いや、違う。やはり音は山の上から……)


 間もなくおめえらはギルドに到着したが、マシューだけ止まってカイザー達はそのまま走って行っただろ、ああ、こりゃヤベえな、何かが起きてるなって思ったのよ。


「……おめえら、何かが起きてやがる。念のため機兵だしとけ」

「しかし、頭領。機兵共ぁみんなやられて修理中でさぁ」

「……そうだったな……。うぬ、しょうがねえ、適当に武器でも構えて備えとけ!何か来るぞ!」


 そんな会話をしてたっけな、するとオルトロスのハッチが開いてよ、マシューが何か喚いてんだ。うるせーうるせーと聞いてみりゃあ、何処ぞの間抜けがトレインしてるって言うじゃねえか。


 規模はわからねえが、マシューの焦り様からヤベえと思ってな、マシュー達を送り出した後、俺達もそれなりに護りを固めて備えてたのよ。

 

 んで、マシュー達が山を登っていってから暫くたった後、地響きがまた大きくなってな……。


(機兵共が駆けるだけで出る振動か……?)


 そう、首を傾げていると、間もなく、カイザー、続いてオルトロスが凄まじい勢いで斜面を駆け下りていくじゃねえか。


 確かに地を揺らす勢いだ、けれどそれを追うように斜面を飛んでいく存在を見て全てを悟ったね。


「バ……バステリオン……だ……」


 誰とは無しにその名を口にした。


 恥ずかしい話し……もうその時点で俺達はブルっちまってな。

 誰一人としてその場から動けなくなっちまった。いや、あんなもん見ちまったら……しょうがねえだろうとは言わねえけれど、そんだけの迫力があったんだよ。


 ただまあ、奴が連れ回してるっつう眷属、ブレストウルフ共が一緒に居なかったのは助かったよ。普段なら兎も角、あの状態の俺らじゃあ、良いカモにしかならねえからな。


 其れもお前らが始末してくれたんだろう? いや、ほんとありがとよ。

 

 んでまあ、その後……下の平地でお前らがアレを相手に立ち回ってるのを見てな、なんて奴らだと。アレとまともに戦える奴らがいるのかと見ていて震えたよ。


 あんなもん普通の機兵じゃ敵うもんじゃねえ。万が一あっちまったら神に祈りながら逃げるような存在だぜ? しかし、それと対等に戦ってるって言うんだからたまげたね。


 まだ足腰がまともに立たねえ情けねえ俺らだったがよ、上から拳を上げてお前らを応援してたんだ。遠目に見てる分にはよ、優勢に見えたからな? てっきりそのまま倒しちまうもんだと思ったんだが……カイザーがやられ、マシューが潰され……ありゃ本当にキモが冷えたな。


 危なく目ェ回してひっくり返っちまうところだった。

 ヤスの野郎が頭をぶん殴りやがってな? 頭領しっかりしやがれって、思わず殴り返しちまったが、お陰で目が覚めたよ。 


 遠めがねで見りゃあ、マシューはまだ粘ってやがった。流石俺のマシューだ、粘りが違うぜ、って思ったが……どうにも事態は不味そうだってのは分かったね。


 カイザーは動けねえままだし、オルトロスだってあのままじゃあ喰われちまう。

 いよいよもう見てらんねえってなった時よ、声が聞こえたんだよな。


「こちらカイザー!こちらカイザー!現在バステリオンの攻撃によりマシューが拘束されている!砲撃による援護射撃を求む!」


その声を聞いた瞬間、目が覚めたね。何俺はぼーっと突っ立って見てんだよと。こっからでもやれる事はあるじゃねえかって。


 そしたら後は速かった。

 

「おめええらああああああ!!! おきやがれえええ!! マシュー達が喰われちまうぞおお!! 手伝えええええ!!!!」


 人の事言えたこっちゃねえが、知ったこた無いね。小僧共を怒鳴りつけてよ、砲台の支度を急がせたわけだ。


 予備の魔道炉を運ぶ者、砲台を調整する者、寝ぼけた顔をしてる奴はもう居なかった。

 まるで止まっていた時が動き出したかのように動き出したのさ。


 間もなく用意が終わり、砲台がバステリオンに向けられた。


 (待ってろよ……マシュー、喰われるんじゃねえぞ……)


 バイザーを銃座から伸びるケーブルに接続し、スメラ・イグルの眼球で作ったスコープを覗いたらよお、なんだかバステリオンと目が合ったしたんだよなあ。


 だが、俺はもうビビらなかった。奴をぶち抜いてマシューを救い出すって覚悟を決めたからな!


 ガツンとペダルを踏み、魔導回路に魔力を流し込む。回路が十分に暖まったら魔導炉に火ィ入れてよ。そしたら後は覚悟を決めるだけってな。


 ほんとは頭をぶち抜きたかったんだが、マシューに当たっちゃ元も子もねえだろう? ならば胴を狙ってやろうってな。


 胴をじっと睨み付けてよ――


(マシュー!後は上手くやれよ!!!)


 ――って、祈りながら指先に魔力を込めて引き絞ったのさ。


 後はご覧の通りだ。喧しい音と眩しい光。

 バイザー越しに怯むバステリオンと、その下から飛び出すオルトロスの姿が見えた時にゃあ、肺からひゅうっと溜息が飛び出たね。


 んでまあ、打ち終わった後は膝がどうにも笑って立てなくなっちまってな。

 小僧共に馬鹿にされながら椅子に座らして貰ってよ……特等席から全部見せて貰ってたってわけよ。


 いやあ、本当に凄かったな、お前ら。良くやってくれたよ、ありがとさん!

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