第四十三話 二つの力
オルトロスの限界を伝えるアラートが機内に鳴り響く。
だめか、だめなのか? 間に合わなかったのか――
――そう思った瞬間、白く尾を引く光弾が目の前に着弾、遅れて轟音。
至近距離で着弾したフォトンライフルの光をもろにカメラが捕らえ視界が白く染まる。
それは各種センサーにも影響を与え、ノイズが混じって周囲の状況を確認する事が出来ない。
『急速修復中によりセンサーの修正処理が出来ず情報取得に遅延が発生しています。
……申し訳ありません、カイザー』
「いやかまわないさ、今は修復に集中してくれ」
通常なら、この程度の閃光は即座に遮光されパイロットの目を保護すると共に、例え光学的に見えなくともデータにより像が再現され、状況の確認が出来るようになっている。
しかし、現在リソースの殆どが修復に回されているためそれらの機能は働かず……我々の視界は未だ回復しないまま。
たのむ……マシュー、無事で居てくれ!
「…ザ………カ……け……も!……お……おおお!……」
音声センサーも影響を受けたのか、まともに音声を拾えない。
マシューの声か? 何か聞こえるが、状況が――
――と、ガツンと身体に大きな衝撃が走る。
何かに飛びかかられ、先ほどの岩場から身体が離れた感覚がする。
バステリオンの攻撃……?
光弾は……外れたのか? オルトロスを……喰い、今度は此方にターゲットを変えたのか? まさか……まさか!
復活しない視界に苛つきながらも抵抗をしようとするが、また飛ばされる。
マシューは……マシューは無事なのか? 外部音も拾えず、視界も回復しないまま不安が募っていく。だめだったのか? 俺達は……負けてしまったのか?
『カイザー修復率85%、各種センサー修復……完了、視界、回復します』
スミレの声と共に見えたのは俺を突き飛ばすオルトロスの姿だった。
オルトロス? 無事だったのか! しかしどういうことだ? 状況が分からない。
と、まもなく赤い光が走る。レーザーだ!
『カイザー! レニー! スミレ! ちくしょうやっぱり聞こえねえのか?』
「マシュー! 無事か! 良かった!」
『ようやくかよ! カイザー! 事情は後だ! あっちの岩陰まで急げ!』
岩陰に向かって走る途中、カメラを後部に動かしてみると、腰に被弾し立ち上がれなくなっているバステリオンの姿が見えた。
うおおおお! 前頭領、やるじゃないか! バッチリ良いところに当ててるよ!
間もなくレーザーの死角に入り、ここでようやく一息つけた。
今のうちにとオルトロスをスキャンしたが、大した損傷も無く、マシューも怪我が無いようでなによりだ。
『砲台のおかげでなんとか抜け出せたんだけどさ……思わず距離を取ってしまってね……。
そしたらバステリオンのやつ、今度はカイザーを狙ってレーザーを撃とうとしたんだよ。
危ないって思って、気づいたら体当たりで吹っ飛ばしちゃってたんだ……ごめん!』
「何を言うんだ、礼を言うことはあっても謝られる事は無いよ。ありがとう、マシュー、オルトロス!」
『へへ……いやあ、ほんと喰われるかと思ったよ……』
「ほんとだよね、見てるこっちがヒヤヒヤしたよ」
『カイザー、二人とも。安心するのはまだ早いですよ。バステリオンですが、自己修復機能があるようです。ゆっくりとですが……回復しています』
『ちくしょう! 化け物め! ああいや化け物か! いや、そうじゃなくって!
あーもう、今がチャンスなのはあたいにも分かる。今を逃してはいけないのも!
だけど、あいつ硬すぎて刃が通らないんだ、一体どうすりゃ良いんだ?』
「私の打撃もそうです! ナイフがダメなら! って殴ったんだけど、何処を殴っても効いてる様子が無くて……」
『確かに、あのバステリオン、装甲がかなり厚くダメージが通りにくいようです』
「カイザー! あたいはどうすればいい!? どうすればアイツを倒せる!?」
「カイザーさん! このチャンスを生かすにはどうすれば!? カイザーさん!」
『カイザ~』
『なんとかしてよカイザー』
……こうなったらあれをやるしか……無いか……。
今の二人では上手く扱えないかも知れないが、可能性はこれくらいしか考えられないからな……よし、やろう、そうさ、これしか無いんだ! やるしか無い!
「俺に……良い考えがある」
「良い考え? まさか自爆とかしないよな?」
それ以上はいけない。いや、遊んでる場合では無い!
「まさか! しかしそれに近いリスクはある。二人にとってはぶっつけ本番となるが、今は其れしか方法が無い……まずは……そして……」
『マジかよ……』
「こうなったらやるしか……ないですね!」
幸いバステリオンは大きく身体を動かすことが出来ない。
故に顔を向けられない範囲であればレーザー攻撃をされる心配も無い。
射線に入らぬよう、カイザー、オルトロス共に"獲物"の元へ近づく。修復が進んだのか、ゆっくりと立ち上がり此方を横目で睨んで居る。
まずいな、急ぐぞ!
「レニー!」
「マシュー!」
俺とオルトロスがバステリオンに駆けよっていく。
ぐんぐんと近寄る我々を見てゆっくりと首を振り、大口を開けてレーザーを放とうとするが、動きが鈍い今なら避けられる!
其れが吐かれる直前に左右に分かれるように跳躍し、レーザーを避ける。
放たれてから避ける事は不可能に近いが、放たれる前に動けば当たる事は無い。
増して、相手の首は動きが鈍いのだ。今のうちなら避けきれる!
再び口の奥が赤く発光していく。チャージが終わるまで後5秒、その僅かな隙を突いて我々2機は再び跳躍する――
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」
『いっくぜええええええええええええ!!!』
『カイザーシステム第5 起動 モードギガナックル 承認』
「『ギィイイイガアアアナックル!!! フォオオオオムチェンジッッ!!!』」
「で……出来た!」
「うお、レニーが横に居るよ!」
「馬鹿! 前を見ろ! 二人とも!」
「うおっとっとっとー!」
「あぶねえ!」
すんでの所で左に飛び、レーザーを避ける。
折角合体したのに直撃しちゃあ意味が無いだろ!
「よし、気を取り直して作戦通りやってみせろ!」
「よっし! 行くよマシュー!」
「ああ! レニー!」
現在メインコントロールはレニー、出力調整はマシューが担当している。通常自動的に最適な調整をされる出力調整をマニュアル化することにより"ちょっとした無茶"が可能となる。
そう、ちょっとした無茶が!!
「「うおおおりゃああああああああ!!!!」」
右腕にマシューの輝力を全振りし、下から突き上げるようにバステリオンを殴り上げる。あり得ないことにその巨体が持ち上がりそのまま高く宙に浮く。
素早く右腕を引き絞り、さらなる追撃に移る。
「「ギィイイイイガントオォオオオオオカイザアアアナッックルゥウウウウウウ!!!」」
落下するバステリオンの横っ腹に狙いを定め二人の全輝力を込めた一撃が放たれる。でたらめな出力の輝力により白く輝く拳が尾を引くように炸裂し、バステリオンの身体が轟音と共に飛んでいく。
沈黙したその身体を包むように大きな土埃が立ち上り、赤く夕陽に照らされた機体はそれを背にするように拳を高く突き上げ……勝利の決めポーズ……ッ 完璧だ……。
『……バステリオン、残存エネルギー検知されません。対象の沈黙を確認、お疲れ様でした』
「「やったああああああああああ!!!」」
あはは、手を合わせキャッキャと喜ぶ女の子二人にゃ、熱い決めポーズも形無しだね………けれど、本当に良くやったよ、二人共!
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