第四十一話 バステリオン
◆◇ジック◇◆
やべえよ、やべえ……こりゃ本気でヤベえ……! 一体何でこうなっちまったんだ!?
クソオオカミ共を数体嗾けてやろうって思っただけなのに、なんで俺がこんな目に遭わなきゃならねえんだ……!
『まじかよジック! おめえ最低だな!』
ガハハと笑って俺の話に盛り上がっていたダックとニック。
あの時は我ながら妙案を考えたと思ったんだ。
けれど、それがどうしてこうなっちまったんだ?
確かによ、ここは
けどよ、噂は噂。玉無しの腑抜け共がブレストウルフ相手に逃げ帰った言い訳に盛った話しが広まったんだろう? その程度に思ってたんだよ。
だがよ、なんだよこいつはよ!?
作戦は上手くいくはずだったんだ……。
ギルドの裏側から山を登ってよ、ブレストウルフの巣を見つけた所までは良かったんだよな。
魔獣共を昂ぶらせ、人と見りゃ襲うようになる劇薬、そいつを巣穴にぶち込んでよ、後は適当にクソッタレギルドまで誘導すればいい、何時もやってる簡単な仕事の筈だったんだ。
『へへ、我ながら手慣れたもんだな。後はこの間抜け共を連れて下山すれば……おい……あれはなんだ……?』
ニックが妙におびえた声を出しやがったものだから、この野郎へたれやがってと振り向いてみりゃあ……そこに立っていたのは口の端に薬瓶を咥えたクソデケえクソオオカミだ。
噂の
そいつが……様子がおかしい手下共の様子を見てぶち切れやがったんだ。
馬鹿でけえ咆哮を上げやがってよお……ビビり散らしたニック達を無理矢理機兵に押し込んで撤退したって訳なんだが……まあ、考えように寄っちゃあ、予定より強力な嫌がらせが出来たってこったが……コイツは不味いぜ。
当初の予定では途中でさっとルートから外れてよ、後は高みの見物と決め込むはずが……俺達まで巻き込まれちまうじゃねえか! 畜生! 逃げる余裕がありゃしねえ!
こうなりゃ死なば諸共! クソッタレの穴掘り共を思い切り巻き込んでやるぜ!
◇◆カイザー◆◇
『カイザー、敵機目視範囲に入ります。レニー、見えますか?』
「うん……あ! 一人ふっとばされた! ……おかしいな、ウルフが追わずに無視してる……」
「そうだな、普通なら何体かがとどめを刺しに向かうはずだが、残りの二人をそのまま追いかけている……」
『お前らのんきに分析してる場合じゃねえぞ! 構えろ!』
追いついたマシューがナイフを構え、迎え撃つべく大地に脚を踏みしめる。
「ああ、ごめんごめん! ……でも走ってくる機兵邪魔だなあ……」
『搭乗パイロットサーチ完了。レニー、アレは気にせず諸共ぶっぱなして構いません』
「ええ……!? な、何言ってるのスミレお姉ちゃん? 相手は多分ハンターだよ?」
『あのパイロット、ダックとかいう"嘘つき"と街でレニーに絡んだ男ですよ。ついでに吹っ飛んでいったのも街で一緒に居た男です』
「ダック……ああ、なるほど……ね……」
ああ、なんだか話が見えてきたぞ……これは全部やっちゃっていいやつだぞ、レニー。
『あれは悪いハンターです。悪いハンターは多少ぶっ飛ばしても問題ありません』
「うふ、うふふ……わかりました! お姉ちゃん! なーに、コクピットに当てなきゃ良いんですよ! ふふ! 吹っ飛ばすだけなら……ちょっと痛いだけで済みますからね!」
『お……おい……レニー? お前……なんだか声が……怖いぞ……」
マシューが少し引いている……。
わかる。俺もちょっとびっくりしちゃったもん……。
普段あまりキレないレニーがガン切れしているんだもんな、そりゃマシューの反応もしかたないさ。
そりゃ俺だってレニーに『やっちまえ』と言いたい状況だったけれどさ、まさかレニーがここまで怒りに震えるとはっと、レニーが動き出したぞ!
「ふふ、ふふふふふ! 当たったら……ごめんなさいねえ!!!」
群れに向かって駆け寄り、やや手前でで飛び上がって蹴りの体制に入る。
「ライトニングゥウウウウウウ……スラッシャアアアアアアア!!!」
……恐らくその場のノリで言っているであろう、それらしい技名を叫びながら飛び蹴りを食らわせる。
体重が乗った俺の足がウルフェンタイプの頭部パーツに綺麗に決まり、遙か遠くに飛び去っていくそれを追いかけるかのように、残された機体はゴロゴロと群れから離れるように転がっていった。
……コクピットこそ無事だが、蹴り飛ばされた衝撃で機体は完全に破損していて……あの転がりっぷりでは中のパイロットも無傷ではいられないだろうな……どうやら生きては居るようだけれども……。
「よし! もう、一機! どーん!」
頭を蹴り飛ばした反動で身体を捻り、もう一体のウルフェンもソバットで蹴り飛ばす。あ、今度は技名特に言わないんですね。
『峰打ちでござる!』とは言うけれど、言っても刀って重たい鉄の棒だろう? いくら切れていないからと言って、あんなもんで叩かれたら結構やばいんじゃ無いか?
なんて疑問を感じる事がちょいちょいあるのだけれども、レニーが先ほどから笑顔で言っている『コクピットに当てなきゃ良いんですよ』と言う台詞はそれに近い言い訳ではなかろうか……。
「よーし! これで邪魔者は消えたよ!! マシュー!!」
『ああ! こっちだ! 狼共!』
マシューがヒラリヒラリと舞うようにブレストウルフの頭を潰していく。
特訓の成果で出力調整が上手になったため力の入れどころが的確になっている。っと、調子に乗ってるな? 後ろがお留守だぞ。
「マシュー!後ろ!」
背後から飛びかかろうとしていたブレストウルフをレニーが掌底で落とす。レニーも動きが機敏になり、咄嗟に動いても歪みが少なくなっているな。
『残りは~』
『あと一匹ー』
〔GuooooooAAAAAW!!〕
辺りに散らばる手下の亡骸を前にしてバステリオンが咆哮を上げている。
一戸建ての家サイズのオオカミを想像してみて欲しい。そんなデタラメな存在が、大気をビリビリと震わせながら咆哮を上げているのだ。
レニーやマシューは機密性が高い機体の中に乗っているから平気だろうが……これを間近で聞く羽目になったハンター共は余計に酷い事になってそうだな……まあ、自業自得だが。
しかし……この機械生命体……敵対生物でなければ味方に引き入れて共に戦いたかったなあ……見ろよこの、太い四肢にきらめく銀色の鬣、金色に輝く瞳に燃えるように揺らめく口……めちゃくちゃかっこいいじゃないか……って、待てよ? 燃えるように……揺らめく――
「まずいぞ! レニー! マシュー! 横に飛べええええ!」
『なあ!?』
「ええっ!?」
俺の声に従い、咄嗟に退避行動に入ったレニーとマシュー。訓練しておいて良かったな……前のままだったならば……この装甲でもかなりやばかったぞこれ……。
バステリオンの一閃――
それが過ぎ去った後を見れば……山道が酷く焼け焦げていた。
『対象の口蓋部に高出力兵器の存在を確認。所謂レーザー的なアレです』
スミレも必死なのか解説が雑だが、そうだね、レーザーだね。しかもぶっとくてやっばいやつだぜ、これ。
しかし……このままここでアレと戦闘を続けるのは非常に不味い。
あのサイズで暴れられたら下にあるギルドが巻き込まれてしまう。
「レニー! マシュー! ギルド下の広場に誘導するぞ!!!」
敵機に向かい投石をしながら下山していく。奴を怒らせ誘導することが目的の投石で、初めからダメージには期待していなかったが……思った以上にダメージが入らない。
一体どれだけ硬いんだあの体は。
しかし、誘導自体は上手くいっている。
仲間を殺され怒っているのか、石を投げられ頭にきているのかわからんが、うまいこと俺たちについてきてくれている。もう少し警戒されるかと思ったが、なんとも素直な奴だ。
ブレストウルフですらもう少し疑って行動してくるんだけどな……こいつデカい分脳筋なのだろうか?
レーザーによる砲撃に警戒をしながらの移動だったが、走っている間は撃つ事が出来ないのか、なんとか焼かれることなく目的地に到着した。
さあ来いバステリオン! ここなら思う存分相手をしてやれるぞ!
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