第四十話 トレイン

 ――話は少し遡り3日前。

 フォレムのとある場所、薄汚い小屋の中で一人の冒険者が仲間からの報告を今か今かと待っていた。


 男の名前はジック。3級サードハンターで、『ジダニックの牙』というパーティーのリーダーで、街でレニーに絡み、カイザーを強奪しようとした男である。

  

◆◇ジック◇◆


 全裸の小娘をトレージャーハンタークソツたれの穴掘り野郎共にけしかけてから今日で3日。

 ニックの話しによれば、小娘はまんまと山に向かったらしいからそろそろ頃合いだな。


 大体にしてなんなんだ、あの機兵はよ。魔獣が機兵になるだあ? みたことねえよ、んな妙なもん。


 型からすれば帝国の機兵にちけえが、馬の魔獣になる機兵なんざ聞いた事がねえ。


 大方、ゲテモノ過ぎてお偉方のお眼鏡に叶わず、怒りの余りに廃棄されたのを運良く拾ったってこったろうが……あれでも俺らが手に入れようと思ったら白金貨2枚は下らねえ。


 帝国の金持ち連中は気軽にホイホイと高級機を廃棄しやがるらしいからな……ったく、小娘のくせに上手い事やりやがって……ま、塗り替えて俺の機兵にしてもいいし、糞商人貴族に売りつけてやってもいいだろう。あいつらなら帝国の連中と違ってゲテモノでも喜んで買いそうだからな。


 穴掘り野郎共も最近見慣れねえ機兵に乗ってやがったが、あれは恐らく発掘された遺物だ。んな大昔の機兵がまともに動くわけはねえ。


 そんな骨董品でも、相手になるのは素人丸出しの小娘だ、丁度良くやり合ってくれるこったろうよ。

 同士討ちできりゃ御の字、そうじゃなくてもかなり痛めつけてくれているはずだぜ。


 せいぜい俺達の役に立ってくれよな、穴掘り共よ。


……む、誰か扉を叩いてやがる。このリズムは……っと。

 

「なんだ? 果物なら間に合ってるぞ?」

「そうかい、じゃあ馬肉はどうだ?」

「いただくとしようか」


 合い言葉を聞き、鍵を開けるとニックが入ってきた。

 なんだか苦い顔をしているが……まずは話を聞いてやろう。


「クソ野郎共はどうだ?2機か?1機か?最悪1機残ってりゃいいんだが、まさか……そのしけたつら……両方共大破しちまったってか?」


 全裸と穴掘りに共倒れになってくれるのはありがてえが、機兵が手に入らなけりゃあまり意味がねえ。2機共大破の共倒れっつうのは考えにくいが無い話じゃあない……。


「それがな……」


「なんだ? はっきり言え! 最悪パーツが取れりゃいいんだからよ。どんくらいぶっ壊れてたんだ?」


「いや、それがな……奴ら……未だピンピンしてやがるんだ……」


「ああ? 作戦が失敗したっつうのか? それとも小娘が日和って引き返しちまったか?」


「い……いや、奴ら仲良く一緒に遊んでやがった……機兵で……」


 一体何を言っているんだこいつは。

 

 ……報告によれば投げた石を棒で打ち返して遊んでいたり、山を作って棒を刺し、それを左右からそれぞれ掘ってみたり……とにかくよくわからない事をしていたということだが……いやいや、一体何を言ってるんだこいつは。


「全裸は確かにあの山に上がっていったんだよなあ?」

 「ああ、間違いねえ。間もなくドンパチ始まったからよ、てっきりハマってくれたと思ったんだが……」


 死体の確認にいったつもりが元気な姿をみちまったとぼやいている。

 ぼやきてえのはこっちの方だ。


「な、なあジック……どうする?」


「どうもこうもねえよ! ……いや、まてよ……? おい、ダック呼んでこい! おもしれえことを考えたぞ……」


……


◇◆◇

 

 ――そして3日後、カイザー一行はグレートフィールドでの狩りを終えて意気揚々とトレジャーハンターギルドに向かっていた。もう直ぐ日暮れになる時間だが、カイザーたちの足であればなんとか暗くなる前に到着する、その筈であった。


◇◆カイザー◆◇

 

「いやあ、たくさん獲れましたねえ」

『これがチームワークの勝利ですよ、レニー』

「まさかあんなにストレイゴートを狩れるなんてなー。あいつら直ぐ逃げるからよ~、高いカネ出して買ってたんだぜ? 慣れればあっさり穫れるもんなんだなー」


 チームワーク、か……。


 レニーとマシューの連携はまだ荒い。荒い故に今後も二人の成長を見守りより強くなった姿を見てみたい。贅沢を言えばアニメの二人のような熱い連携を……!


 しかしそれは俺のエゴだ。マシューはトレジャーハンター、レニーは狩人ハンターだ。

 そしてマシューには仲間たちが居る……マシューの事は諦めよう。


 自分で自分を納得させるようにしながら赤く染まりつつある山を急ぐ。

 少しばかり山を下りると周囲の様子に変化が訪れた。


 動物達の気配が消え去り、遠巻きに見えていたストレイゴート達の反応が散っていく。


 ――なんだか様子がおかしい……む、なんだこの反応は? 無数の反応が山の上から下に向かって移動している……?


「スミレ」

『はい、なにかが起きていますね……ルート解析開始……暫くお待ちください』


 レーダーに映った反応――今現在、魔獣と思われる反応と、そうではないものがいくつか下山しているようだ。

 

 想定されるのはハンターが魔獣に追われている……と言う事になるのだが、この山に好き好んで入るようなハンターはいないと聞いている。


 それを考えるとなんともきな臭い。


 もしかしたらば、本当にバカなハンターのやらかしかも知れないが……これもまた何者かの罠であるかも知れない。


 まずは情報を集めてから慎重に行動したい所なのだが、余り悠長にしている時間はない――


 ――と、頭を悩ませていると、良いタイミングでスミレの解析が完了した。


『ルート解析完了。魔獣の数7、機兵の数3。どうやら明らかに何らかの意図を持ってギルド方面に魔獣を誘導しているようですね……』

 

「なんだって!? ギルドを狙ってやがるのか! くそ! 急ぐぞ! オル! ロス! 

『急行~!』

『ダッシュだー!』


「俺達も行くぞ! レニー!」

「はい! カイザーさん!」

 

 オルトロスに続き俺たちも急ぎギルドへ向かう。相手が何を考えてるのかは分からないが、あの数にギルドを襲われたらひとたまりも無い。だったら理屈より先に行動を取るしかあるまいよ!


「スミレ、敵機のサーチを引き続き頼む。詳細がわかったら報告してくれ!」

『わかりました、サーチに専念します。レニー、後は頼みましたよ』

「了解!」


 スミレがサーチに集中するため戦術アシストが一時的にオフになった。

 と、いってもレニーが自分でディスプレイの表示をくまなくチェックすればいいだけなのだが……今のレニーには少々荷が重いかも知れないな。


 先行していたマシューがギルドに駆け込み敵機襲来を伝えている。


「マシュー! 先に行ってるぞ!」


 マシューを追い越し、山を登っていく。と、スミレのサーチが終わったようだ。


『詳細でました。トレインしている機兵はウルフェンタイプが3体。それを追う魔獣はブレストウルフ6体と……』


「ああ……あれ、バステリオンだ……あのでっかいの、バステリオンだよ!」

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