第三十六話 オルトロスその力
一夜明け、我々は遺跡の警備を兼ねて狩りに来ている。
ストレイゴートを狩りつつ、目覚めたオルトロスのパワーとデュアルAIに慣れて貰おうと思ったのだが――
「だーーーー!!! バランスが取れねえ!!」
『マシュ~は~』
『せっかちすぎー』
「うるさいぞ!! あーもう! 何だよこのものすげえパワーは!」
『はやく慣れてね~』
『焦らずゆっくりはやくなれてー』
「どっちだよ!! うわああああ!!!」
……と、こんな感じで今朝からずっと転びまくっている。
制限がかかっていた状態でもあれくらい動かしていたのだから行けると思ったのだが、どうも異様に反応が良い腕の制御が上手く出来ないらしい。
オルトロスの特性はパワーのある腕だ。本来のオルトロスはそのパワーを生かして大太刀をぶん回すロボなのだが、マシューの趣味なのか、両手にはそれぞれ軽いナイフを装備している。
なので余計に攻撃の際にバランスが取れず転んでしまうのだ。本当は早々に慣れて貰いレニーとの連係攻撃の練習もさせたかったのだが……。
「ねえ、マシュー。腕に重しをつけてみたらどう? 多分腕が軽すぎて制御しにくいんだよ」
「おお! レニーあったまいいな! ようし、この採掘道具を腕にくくりつけて……うおお! 腕がもげる!」
『ましゅ~~もげる~~』
『腕の負担凄いよーやめれー』
変な連携でダメさに磨きがかかる始末。どうにかしなくてはと思うのだが、本来の武器が無い今、得意武器は生かしてあげたい。ああ、これはどうしたものか……。
どうにも良い考えが浮かばないため、休憩がてら気になっていたことを尋ねることにした。
「マシューが固定砲台として使っていた武器があっただろう? あれは俺でもオルトロスでも無い3機目の僚機専用の武器で我々には装備することが出来ないはずなんだが、どうやって撃っていたんだ?」
「なんだそんなことか。ちょっと頑張ってゴリゴリっと蓋を開けてな、そっから出した線を適当に魔道炉に繋いで無理やり起動させてたんだよ」
『そんな無茶苦茶な! 動くわけないですよ! 大体にしてセキュリティガードがかかって……』
「セキュ? いやよくわかんないけど動いちゃったんだって! やっぱ気合が大事なんだな」
気合ってそんな問題じゃないよ……。カイザーシステムは『かっこいい設定』の都合上、いちいち認証を通す必要がある。
武器も新規登場時はバンクが挟まりパイロット(と俺)、スミレ、本部と順番にセリフを挟んでわざわざ認証しないと使えないのだ。それをコード引っ張り出して魔道炉に繋いだ????? 気合で動かした?
「『ありえないから!!!』」
スミレとハモってしまった。みろ、スミレのやつびっくりしすぎて言語システムが随分砕けてしまっている。
しかし、本来ハンドガンとソードで戦いつつ、たまに格闘といったスタイルの俺を殴る蹴る主体で運用するレニー、太刀使いのオルトロスでナイフを操るマシュー。これらは原作の設定ではまずありえない話だ。
異世界転移という形で現実のものになったカイザーはもしかしたら原作準拠で考えてはいけないのかも知れない。大好きなカイザーの設定を壊すような気分でちょっと悲しいが、それ以上にワクワクする気持ちもある。難しく考えず色々試してみるのも良さそうだな。
と、いいつつも「原作の設定」で良いことを思い出したので早速試してみようと思う。
「マシューちょっとこっちに来てくれ」
マシューを呼び寄せ、輝力について説明をし、その制御方法を教えていく。あの様子だとレニー以上に訓練をする必要がある。
アレをやるしかない……ッ!
「うおおおおおお!!!! こらー!カイザー! これはなんだ、もの凄い機体なんだぞ? そんな機体でな、なんてことさせやがるんだあああ!! あ、あたい自身もさわったことがないのに……ああ、こんなの無理だよお……」
「泣き言を言うな! レニーはもっと辛い訓練を耐え抜いたんだぞ!」
対抗心を煽るべく適当な檄を飛ばし、訓練に集中させる。
「カ、カイザーさん……あんな棒で……ああ……マシューすごい……上手……」
『カイザー……前に反対したというのに……あなたという人はあんな……恥ずかしい…』
ううむ、何故だか分からないけれどどうも字面がまずい事になっている。
一体何をしているのかというと前にやろうとしてスミレに反対された特訓、俺達サイズの箸を作り石を左から右へ移動させる訓練である。
確かに8m程度の大きなロボが真顔でえっちらおっちら箸に苦戦する姿は中々にシュールであるな。
試しにレニーにもやらせてみたかったのだが、それはスミレが全力で反対した。
『オルトロスは……本人達が楽しそうだからまあいいでしょう。でもカイザーあなたはダメです。私の中のカイザー像が壊れてしまいます。もしやったら、私戦術サポートAIを辞職させていただきますからね』
スミレがサポートAIを辞職したら一体どうなってしまうのか非常に気になるが、拗ねられると後々面倒なのでここは折れておく。その反面、レニーは何故かとてもやりたがっていて、スミレの反対にがっかりしていたので後で生身でやればいいじゃんと提案してみようと思う。パイロットが箸の練習をする分にはスミレも何も言うまい。
30分ほどするとオルトロスが動かなくなった。
「オルトロス、どうした? 何かあったか?」
『ましゅ~ね~』
『めだまグールグルだよー』
『システム接続、オルトロスコクピット内チェック……カイザー、マシューが……』
「ああ、俺にも見えてる……」
「あちゃー、気を失ってますね……」
輝力を使い果たし気絶してしまったようだ。輝力は使い果たしたとしても体に害を及ぼすという事は無い。むしろこうやって限界まで輝力を使う訓練を続けることにより、輝力の出力調整に慣れ、その最大値も伸びていく。
訓練方法こそ違うが、レニーも最初のうちはこうやってよく気絶をしたもんだ。目が覚めたらレニーと共に昼食を取らせ午後の訓練に移ることにしよう。
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