第三十五話 長い夜

「まず、ご覧の通り俺は自分の意思で喋ることが出来るし動くことが出来る――君たちの言葉で言うところの機兵だ」


 改めて自己紹介をする。先ほどから喋ったり動いたりはしていたが、俺の紹介で改めてびっくりしている。


「そして、マシューの機体、オルトロスもまた俺と同じく喋るし動くことが出来る……が、こいつらは少し事情が違う」


『わたしたちは~』

『双子でーす』


「俺にもスミレという戦術担当のAI――まあ実態が無い乗組員だと思ってくれ――AIが乗っているが、オルトロスはその両方がオルトロスを動かしマシューの補助をするAIだ。つまりその機体そのものであり、人で言う魂のような物と言える」


『そうそう、二人あわせて~』

『オルトロスだー」


 半分以上話しについて来れていないようだが、仕方が無いことだろうよ。細々と説明したところで直ぐに理解出来るような物じゃ無いだろうし、本題に入るため淡々と説明していこう。


「さて、俺とオルトロスは僚機、つまり元々俺と同じ団体に所属していた同僚と言える存在なんだが、訳あって今まで離れ離れになっていたんだ。最初はかつての仲間だとわからなかったけれど、マシューと話し、誤解を解いて和解した後にようやく思い出せたんだ」


『オルトロスとカイザーは~』

『一心同体だー!』


「それで本題はここからなんだがオルトロスは僚機であり、俺の体の一部なんだ……と言ってもわけがわからないと思うから実践してみせよう。オルトロス、ついてきて」


『は~い』

『はーい』


 人々から少し距離を取り合体をしてみせた。勿論掛け声と決めポーズは忘れない。


 見ていたトレジャーハンターたちはもうびっくりし疲れたような顔をしてみているし、レニーは一度見て耐性がついているため寧ろ興奮しながら手を叩いている。


 軽く動いてみせた後、再度分離して元いた場所に戻る。


「と、いった感じで……オルトロスは本来俺の体の一部なんだよ。

 俺はとある事情から記憶が定かでは無くなっているのだけれども、手であるオルトロスが居たということは足となる仲間も何処かに居るんじゃないかなって思ったんだ。

 もし、もしマシューが良かったら、トレジャーハンターのみなさんが良かったらで良い。オルトロスを俺と一緒に旅に出させてもらえないだろうか。この世界の何処かにいるであろう俺の僚機を探す旅に……」


 マシューと元頭領は黙って何かを考えていたが、やがてマシューが立ち上がってこちらに歩いてきた。


「カイザー、少し考えさせてもらっても良いか? そこまで長い付き合いじゃ無いけどさ、こいつはあたいにとっても大切な機兵なんだ。そう気楽にいいよ、連れてきなとは言いにくいよ」


「勿論だ。いいかい、マシュー。嫌なら断っても良いんだ。もう1機の僚機と出会えたらその時改めてここに戻ってきてオルトロスと合わせてくれたら……俺はそれでも満足するからさ」


 俺の目的はただ一つ。手足を揃えて完全体となったカイザーになってみたい、それだけだ。それさえ叶えられるなら、一度だけでも叶うなら後はどうだって良いのさ。


 手足を揃えて強大な敵に立ち向かう! なんて使命があるわけじゃなし。

 ただ単に合体ロボの浪漫を感じたいから、手があるなら足もあるだろう? だったら揃えてみたいじゃんって言う軽いノリでしか無いのだから。


「ん。気持ちがまとまったら改めて答えを言うさ。さーて、明日は速いぞカイザー、レニー! それにオルトロス達もだ! 明日に備えて寝よう寝よう!」


 マシューは『お前らも飲んでないで寝るんだよ! 仕事があるだろ!』と男たちに片っ端からケリを入れ建物の中に追いやっていく。


「ほら、レニー、あんたはあたいの部屋に来な。布団くらい貸してやるよ」


「ありがとう! おうちは持ってきてるけどせっかくだしね! おじゃましま~す」


「お、おうち? お、おい! ちょっとまて何だそれ! こら! あたいより先に行くなー!」


 どたばたとギルドの宿泊施設に走り去るパイロット達。さて、俺らも話を始めようか。


 ◇


「オルトロス、改めて久しぶりだな。元気そうで何よりだ」


『カイザ~も元気で良かった~』

『あれは死んだと思ったよー』


『我々は壊れることはあっても死にませんよ』


『『そうだけどさ』』


「そうそう、そのことだよ。あの大噴火……あれ以来俺の記憶が半分くらい抜けていてね。お前たちのことも忘れていたんだよ。何があったのか教えてくれないか」


『やっぱり忘れてたんだね~』

『通りで攻撃してくるわけだー』


「そのことについては謝るから! 許してくれ! な!」


『まあ私たちも忘れてたっていうか~ 制御できなかったしね~』

『うん、僕たちのチカラじゃこの身体うごかせなかったしねー』


 おあいこだよー、と許してくれた。思考型AIが封印され半覚醒状態だったのが原因かと思ったが、ただ単に向こうも俺のことを忘れている上に自立機動も制限されて使えなかったようだ。


『私たちも良く理由がわからないんだけどさあ~』

『例の噴火まで僕らの意識は止まっていたみたいなんだよねー』


『『あの時ね』』


 と、語り始めた俺が知らない話はなかなかに興味深かった。


 二人の話によると、噴火する前まで俺と合体した状態だったらしい。俺同様オルトロス達も覚えていないようだが、おそらく良くある合体ロボットのように足となる僚機も足となって一体化していたはずだ。


 オルトロスと合体したことにより戻ってきた俺の記憶にアニメのカイザーの記憶があった。

 

 カイザー7話「夕焼けに誓った拳」で初登場するオルトロスとそのパイロット獅童しどう 謙一けんいち。獅童は如何にも昭和アニメにいそうな番長で主人公の竜也とは喧嘩仲間だ。


 お約束どおり河川敷で喧嘩中、敵に襲われるわけだが、竜也は獅童をかばうためピンチになる。


「畜生……! 得物が無けりゃ何も出来ねえ! ……いや、それは甘えだ! !竜也! 俺にかまうこたねえ! やっちまえ!! オラオラ! 化物! こっちだ! でけえだけで何も出来ねえのか! オラ!」


 生身で敵機を殴り挑発をするも、相手にされず悔しがる獅童。悔し涙を流すその姿にオルトロスが適応者と認め……というパイロット加入回なのだが、2体合体で倒した後のコクピットはカイザーとスミレ、竜也に獅童、そしてオルトロス達の声が溢れとても賑やかだったと記憶している。


 つまり、3体合体していただろう噴火前の状態でオルトロス達が静かだったのは何らかの事情で機能が制限されて停止していたということだろう。考えられるのは全機にパイロットが不在だったという辺りか。


 っと、更に驚くべき話があったんだ。噴火後、溶岩流に飲まれる直前になりオルトロス達は目を覚ましたらしい。


『びっくりしたよ~』

『あんまりなお目覚めだよー』


 たしかに。目を覚まして見れば周りは溶岩だ。さぞ驚いたことだろう。


『でね、緊急アラートが聞こえたと思ったら~』

『シュポーンって飛ばされたんだよー』


 そう、俺の身体から強制分離され射出されたらしい。


『確かにね~他の子も飛んでいったような気がするな~』

『誰なのかはーわからないけどねー』


 やはりだ。やはり"足”が何処かに存在している。願わくば息災であってほしい。欲を言えば人に見つからず……たとえ見つかっていたとしてもどこかの国の手に落ちていなければ良いなと思う。


『あとね~武器も飛んでったよね~』

『一個はねー、たまたま一緒にあるんだよーほらそこー』


 そう言われて謎のフォトンライフルの存在を思い出す。スミレに頼んでスキャンをしてもらうとギルドを守っていた砲台にもまた、コネクタが存在していた。


 さっそく接続しチェックしてみるが、やはり俺の武器だ。俺の武器なのだが……


『良いお知らせと悪いお知らせ2つあります。まず良いお知らせからです』


「そこは普通どちらから聞きますか? だろお……まあいいや。続けて」


『はい、まずこの銃、フォトンライフルは推測どおりカイザー、あなたの装備品です』


「おお! やはりそうか! で、悪いお知らせは?」


『はい、あなたは装備できません』


「つ、つまりどういうことだって……」


『これは特定の僚機、またはその僚機と合体時のあなたでなければ使うことが出来ません。ついでにいうとオルトロスには適合しないため、まだ見ぬ"足カイザー"の装備と推測されます』


「なんだよ足カイザーって……なるほど、わかったよ。この事も後でみなさんと相談しようか……」


 結局のところ、オルトロスは他の僚機や武器たちと一緒に俺から強制分離後、安全地帯まで射出され俺の目覚めを待つことになったようだ。


 その後、オルトロスは半起動状態でパイロット及び俺の到着を待ち続け、ようやく現れた適合者、マシューをコクピットに受け入れて今日まで一緒に過ごしていたらしい。


 ただ、AIが完全機動してはいなかったため戦闘補助が出来ず、またそれによる安全対策により出力を落とした状態で稼働していたということだ。


『カイザ~起こしてくれてありがとうね~』

『これで僕達おもうぞんぶん暴れられるよー』


「……マシューの言うことは聞くんだぞ……」

 


 

 気づけば東の空が白んできていた。俺達はロボなので眠る必要がないが、気分的に休んでおくことにする。


「よし、オルトロス達もスリープしような。スリープすればその分お楽しみの時間が早く来るぞー」


『『はい!おやすみなさい、カイザ、スミレ』』


『はいはい、おやすみなさいふたりとも』


 こうして長い夜が終わりを告げ、一時の安らぎが訪れるのであった。

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