第二十九話 砦突入作戦 

 レニーの熱い解説が終わり、気づけば日は完全に落ちて辺りは闇に包まれていた。


 盗賊団とやらの戦力が分からない以上、慎重に事を運ぶ必要がある。


 レニーに聞いた感じでは、少なくとも民間用の機兵にはレーダー的な物は無い、そんな物は聞いた事が無いとのことだから、予定通り闇に紛れなるべく音を立てずに接近することに決めた。


 とはいえ、俺はこの体だ。音を立てずに移動というのにも限界があるわけで。

 忍者やスパイのように気配を消して気づかれずミッションコンプリートって真似は無理がある。


 なのでここは文明の利器でごり押しだ。レーダーをチェックしながら疑わしき反応が見えたら遠回りをするという方法でジワジワと目的地に向かっていくんだ。


「ここにはバステリオンという上位種がいるんだったな」

「はい、ブレストウルフを束ねる親分みたいな存在と言われていますね」


 今のところ人影は無く、ブレストウルフらしい反応がチラホラと見えるくらいだ。しかし、そのバステリオンという存在との遭遇は後回しにしたい所だね。


 どう考えても穏便には済まないだろうし、戦いが始まれば盗賊団にこちらの存在がバレてしまう。


 面倒だけど、魔獣の反応も避けて山を上っていくしかないな。


 ……

 …

 

 もうすぐ山の中腹だろうかという高さまで来て始めて人間の反応が見えた。


『人間と思われる反応2体、機兵には乗らずウロウロとしています。見張りでしょうか』


「そうだろうね。しかし盗賊の見張りのくせに警戒心が低いのかな? 機兵で攻め込まれたらひとたまりも無いだろうに」


「うーん、もしかしたら何か隠し球でもあるのかもしれませんよ。ここは慎重に行きましょう」


 そのセリフをレニーに言われるとは思わなかった。確かにそうなんだがレニーが言うかよそれを……。


「スミレ、レーダー範囲を拡大して。見張りがいると言うことは砦が近いのかもしれない」


『了解、カイザー。レーダー範囲拡大、中腹よりやや上部に多数の反応、人間と思われる反応が12体、機兵反応は4』


「ありがとう。うーん? ……レニー、君はどう思う?」


 ちょっと気になることがあるが、先にレニーの意見を聞いてみようと思う。


「そうですね、砦を持つ規模の盗賊団……としては人数が少ないような? 大人数で外に出かけて留守番に何人か残していったとかそんな感じでしょうかね?」


 だよね。


 依頼主、ダックの話に寄ればもう少し大規模な組織だったと思う。護衛のハンターを潰すのであればもう少し人数が居なければ難しいのでは無いかと思う。まして反応は12人だけど、その中には人質も含まれているはずなんだ。


 これは留守番を残しての"仕事中"か、もしくは――


「これって砦の後方にはかなり遠くまで機兵も人も反応が無いってことですよね?」

 

 モニタを見ながらレニーが尋ねる。ちょいちょいスミレから教えて貰っていたのは当然知っているが、レーダーを見て戦略を考えるようになったんだなあ。感慨深いよ。


『その通りですよ、レニー。さて、それからどう戦略を立てますか?』


「そうですねえ、機兵4体にそれぞれ人が乗り込んだとして、4体+8人!レーダーには攫われた女性も含まれているでしょうし、他にも捕まってる人が居るかも知れない……だから実際はもう少し盗賊の数は少ないと思うんです。

 なので、ここは一気に突入して、無理なら撤退! それでいいんじゃ無いかなって思います!」


 いいねえ、いいよその乱暴さ! 正直今まで他の機体を見てきた限りではそこらの機兵には負ける気がしない。パイロットは発展途上だけれども、大きなスペック差という物が有るからね。


 相手が4体と言う事を考えれば多少は警戒が必要だとは思うけど、俺の判断はGOサインだ。スミレはどうかな……?


『そうですね、私もそれでいいと思いますよ。本当は何かしらの方法で無力化してから突入したいところですが、残念ながらその様な装備は現在ありません。カイザー、あなたはどうですか?』


「もちろん、OKだ!」


 そうと決まれば突撃だ! 遠慮無く出力を上げ、山道を駆け上っていく。途中すれ違った見張りがびっくりした顔で何か言っているが相手にしている暇はない!


 奴らの応援が来る前に突入するという重要なミッションだ! さあさあ! どいたどいた!


 全速力で駆け上がると、やがて砦にしては貧相な門が視界に入った。

 防衛も何も考えていないような木製の門だ。この程度であればそのまま突っ込んでそのまま破壊すれば良かろう。


「うおおおおおおお!!!いっくぞおおおおおおおおお!!」


 レニーが吼え、タックルの体勢を取り飛び込もうと足を踏み込んだ――


『高エネルギー反応! レニー! 横に飛んで!!』


 ――瞬間、正体不明の光弾が機体を掠め後方に飛び去っていった。レニーがスミレの声に反応し素早く横っ飛びをしてくれたので直撃は免れたが、上手く着地が出来ず斜面を少し転がってしまった。


 ……一体あの攻撃は何なんだ? 想定していた機兵の戦闘力を大きく凌駕しているじゃないか。


「レニー、あの弾は何だ? 何か心当たりはあるか?」

「いてててて……いえ、あんな凄いの見た事がありませんよ……魔導具による砲撃にしては速度が速いですし……私が知ってる限りではあり得ない攻撃です……」

 

「そうか……スミレは何か分かったか?」


 と、尋ねると少し間があった後驚いたような声でスミレの答えが返ってきた。


『私の……私の照合に誤りが無ければですが……あれは光子弾フォトンバレツト光子長銃フォトンライフルから放たれた光子弾フォトンバレツトですね……』


 フォ…光子弾フォトンバレツトだってえ? およそこの世界では見られないようなオーバーテクノロジーが出てきたぞ……? 魔導具という物があるけれど、其れの応用だろうか……?


 いずれにせよ……格下だろうと馬鹿に出来ない相手、というわけだ。

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