2章 大狼の山
第二十七話 緊急クエスト
「よ……よかった……、あんたライダーだろ? 助けてくれよ……」
ここまで必死に走ってきたのだろう、息を切らせた男はレニーからもらった水を一気に飲むと絞り出すように声を出した。
「すまねえ……助かったぜ……俺はダック、行商人だ。ザイークからフォレムに向かってたんだが……途中で盗賊団に襲われちまってよ……荷物は……悔しいが、いい、諦める……ただ……娘が……娘がさらわれちまったんだ……」
惨状を思い出したのか、疲れが限界に来たのか男はがっくりと崩れそれでも説明を続けた。
男、ダックによるとザイークなる
盗賊団は機兵を交えた大人数で活動しており、護衛のハンターすら役に立たないことが多いという。
男は殺し女は攫って奴隷商に下ろすというお約束の行動を取っているようで、ダックの娘は砦に攫われていったらしい。
「ちくしょう……俺に……俺に機兵さえあれば……って、すまねえな、嬢ちゃん一人でどうこう出来る相手じゃねえ……忘れてくれ……」
確かに盗賊団、と言うことはそれなりに頭数が揃った連中だろう。それに相手は賊とは言え人だ。レニーには少し厳しい戦いになる。
冷たいようだが、黙ってギルドに回した方が良い依頼だろう。
……と、レニーの視線が突き刺さる。
『カイザー、これは今すぐにでも向かいたいって顔ですよ』
「だよね……まあ、行くだけ行って様子を見てダメなら撤退、他のライダーなりハンターに任せるって感じでも良いかもしれないね」
レニーに通信を送りその様に伝えると、こちらに向かって親指を立て、謎のドヤ顔で力強く頷いている。
「ダックさん、詳しい場所を聞かせて下さい。私たちが先行して向かいます。ダックさんは街のギルドへ。ギルマスに事情を話し緊急クエストを依頼して下さい。ハンター達が名乗りを上げてくれるはずです」
「そうかい、助かるよ! 原野の場所は分かるな、神の山から西に抜けた先だ。そのまま西に向かうとやがて北に山が見える。
また初めて聞く名前が出てきた。レニーは……知ってるかな?
「ケル……ベラック…名前だけは…ブレストウルフの上位種、バステリオンが居るという山ですね……」
「ああそうだ。盗賊団だけじゃねえ、そんな化け物まで居るんだ、俺みたいな商人には悔しいがどうしようもできねえ……」
ブレストウルフに上位種が居るのか。予想通り、魔獣も徐々に進化をしているようだな。人助けも大切だが、そのバステリオンというのも放置しておくには危険すぎる。依頼のついでに討伐した方が良いな。
情報収集が終わると、男は街へ、俺達は
男は徒歩なので街までかなりかかるだろう。俺達が辺りの調査を済ませ、可能であれば突入、無理であれば撤退するころにはどちらにせよ援軍が来るはずだ。
どちらにせよ早く現地に向かい情報を得る必要がある。
「レニー、急ぐぞ」
「言われなくたって!」
森の地形は複雑だ。森を抜けるまでは"機兵"モードで、抜けてからはユニコーンモードで
森を四方に貫く道というものが一応は存在しているが、危険な箇所を迂回するように出来ているため律儀にそこを通っては返って時間がかかる、そう判断をしたレニーは『まかせて!』と謎の自信に満ちた顔で言い放ち最短距離で森を走り抜ける事になったのだが……。
結果としては崖から落ちる、ブレストウルフに絡まれる、岩に躓いて転ぶ、挙げ句の果てには木にぶつかる……。
等々、数え切れないトラブルに遭い、距離にして約200kmの道のりを10時間かけて抜ける羽目になった。時速にして20km前後、黙って林道を通っていれば俺の速さだ、遅くとも4時間もあれば抜けられていただろう。
「レニー……」
『自信満々でしたが……』
「わ、私は……悪くない! ……んじゃないかなあ……うーーごめんなさい!」
奴隷商に売るのであれば最悪明日の朝までに救い出せば良い。なのでこれくらいのロスは許容範囲内だ。
急がば回れ、これほど今のレニーにぴったりな諺はあるまい。
しかし、何度酷い目に遭おうとも最後まで俺にコントロールを頼ることが無かったのは良い傾向だ。正直俺が走った方がよほど早く抜けられたと思うが、レニーには良い経験になったと思う。俺としてもなるべく俺に頼らず、自分の判断で動いて欲しい。
森を抜けるとだだっ広い原野が広がっている。レーダーで見るとストレイゴートと思われる機影がいくつか見え、また目視では遺跡のような物があちらこちらに確認できた。所謂大戦の傷跡といった物だろうか。
今でもかつての大戦で活躍した機兵達が埋まっているとかで、発掘にくるトレジャーハンターも数多くいるらしい。
とはいえ、発掘される殆どのパーツは使い物にならず、機兵のパーツとしてでは無く、金持ちの道楽で取引されるとのことだ。
折角だから俺も過去のロボを見てみてみたい。色々終わったらレニーに話して宝探しも悪くないかもしれないな。
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