第二十六話 採集クエスト 

 俺が酒でも飲める身体ならばリックと飲み明かしたのだろうが、生憎のこの体だ。飲みイベントも、孫に手を出したら許さねえぞイベントが起こる事も無く穏やかに夜は更けていき……。


……


「ではいきましょうか!」


 日が昇るか昇らないかの内にレニーが工房にやってきた。


 人の身体では無いため、こんな時間でも眠いとか怠いとかそういう不満は出ないが、まさかこんな早くから来るとは思っていなかったためびっくりした。


「おはようレニー、ずいぶん早いな」


 引き気味にそう言うと、レニーは腕組みをして朝日を指さす。


「ライダーたるもの、夜明けと共に行動し日没と共に酒を酌み交わすべしッ!」


 ドヤ顔で何を言ってるんだか……。


 とは言え、起きてしまったものは仕方ない。さっさとジェモ草とやらを集めてくるか。


 馬車を走らせること2時間ちょい、王家の森が見えてきた。ジャモ草はコロニーを見つければ楽だとのことなので、まずはサンプルをレニーに探して貰う事にした。


 草ということでちょっとしたひらめきがあったのだ。


「ジャモ草はですねー、近くに沢があるような場所に生えてるんですけどね? この、ヤブレパラソルとちょーっと似てるので素人は間違えるんですよね……私とか……」


 なんとも言えない沈黙が広がるが、直ぐに慌てて否定する。


「ま、間違えたのは最初だけですからね! ほら、機兵無しぜんらだった私にとって採取は生命線ですから! 今ではそこらのライダーには負けない知識をもってるんですからね!」


 えっへん!と胸を張るレニーだが、ライダーとして其れは威張れる事なのだろうか。

 自信満々に飛び出していったが、少々心配になってしまう……。


 と、間もなくしてレニーがジャモ草を手に戻ってきた。


 流石にもう間違えないと威張っていただけあって、誤認するヤブレパラソルと共にきちんとサンプル採取をしてきてくれたようだ。


 しかしなるほどな。これは湯がいて食うと旨そうだよ。

 ヤブレパラソルと言うものに似ていると言っていた辺りから想像していたが、これは山菜のモミジガサによく似ている。


 食えないのかと聞いたら、食って食えないことは無いが苦くて美味しくないとのことだ。


 ううむ、モミジガサの風味に似ているんじゃ無いかって予感が凄くする。

 味見してみたいな……。


 さて、そのモミジガサ……じゃなかった、ジャモ草をスキャンしてデータベースに登録をする。こうして登録してしまえば……よし、見えたぞ。


「レニー、ここから300m程西に行ったところに沢があるんだが、そこを沢筋に沿って少し上ってみてくれ」


「んー? この辺はもう良いんですか? まだありそうなのになあ?」


 なんて言いながらもえっちらおっちら走って行く。いやいや、俺に乗って行けよと思うがもう遅い。


 一応周囲をサーチしてみるとやや遠くに人が居るようだが、俺を目視できる距離では無い。遠慮無く歩いてついて行くか……。


 俺の方が速度が速いため、あっという間にレニーに追いついた。斜面を登るレニーが俺に気づき、あっそうかと言う顔をしていたがもっと早く気づいて欲しかった。



 レニーが沢に入っている間、暇つぶしに周囲の環境を調査する。


 休火山の麓に広がる大森林は新緑が眩しく、山菜の様なものが豊富に茂っている。魔獣の狩り場と言われているが、動物も数多く生息しており、リスやネズミ、ウサギのような小動物の他、イノシシや鹿のような生物も存在している。


 これらの中でも魔力を強く秘めた魔石を持つ個体達が魔獣になってしまったわけだけれども、ハンターの狩り場となるほどに魔獣が産まれてしまったのは、その元凶である俺が近くに居たと言うのもあるのだろうが、元々動物達が多く生息している場所だったというのが大きな理由なんだろうな。


 魔獣が出る以前から狩人のキャンプが作られていたくらいだからね。

 

「カイザーさあん、すっごいですよここお」


 レニーから通信が入った。群生地コロニーに到着したようだ。


 山菜採りのコツはコロニーを見つけることだ。他人が知らない秘密のコロニーを発見すれば以後は毎年美味しい思いが出来る。ジャモ草もまた、植物なのだから同じように取れるのでは無いかと思ったのだ。


 増して今やロボの身体である。人のように周りの環境から推理してコロニーを探す必要も無く、索敵の応用でサーチすれば一発なのだ。


『レニーのためですから黙ってますけど、こう言うセコい使い方は余り好みませんよ、カイザー』


 案の定スミレは嫌そうだが、コツコツやっていては日が暮れてしまう。仕方ない,仕方ないのだよスミレよ。


 スミレとやいやいとたわいの無い言い合いをしていると満面の笑みに包まれたレニーが戻ってきた。


 泥だらけの可憐とはほど遠いその笑顔を見てスミレもすっかり毒気を抜かれ、レニーを労う。


「おかえりなさい、レニー。頑張りましたね」


 ジャモ草は10本一束で計算される。レニーが取ってきた量は数えるまでも無くノルマ達成だ。


 劣化しないよう、バックパックの謎空間に収納しようとしたが、レニーに止められた。


「どうせ納品するんですから、今のうちに束にした方が楽ですよ」


 なるほど、其れは正しい。バックパックから紐を取り出し、せっせと束を作っていく。この身体じゃ無ければ手伝えたのにな、と思いながら見ているが採取クエストならまかせろ! と言っていたとおりなるほど手際が良い。


 あっというまに15束と3本まとめ上げバックパックに放り込んでいた。


「さっき劣化しないようにっていっていましたが、バックパックに入れたものは腐らないんですか?」


「ああ、詳しくは解説されてないから俺もよくわからんが、3話冒頭で敵に襲われた竜也がラーメンを放り込んだことがあってな。

 周りから散々文句言われつつも、そのまま何事も無かったかのように淡々と戦闘が始まってしまうんだ。ラーメンはどうなったんだって気になって仕方が無かったんだが、戦いが終わった後、しれっと取り出して熱々のママ食ってたんだよなこれが。つまり時間経過しない謎空間になってるんだと思う」


 言った後しまった!と思った。ついつい友達に語るノリで話してしまった。


「ん? 3話? タツヤって誰ですか? ラーメン?」


「まあ、ほら、そういう話を聞いたことがあってな! うん、まあいいだろ!」


『カイザー…? 後でお話しが……それとも診断プログラムを走らせますか? どうもAIのデータに異常があるようですが……?』


 スミレまで興味を持ってしまったよ。いや、これは本気で故障を疑ってるのか? くそう、まだ話せないんだっつうの。俺も記憶があやふやなんだから。どうせ説明するならしっかり思い出してからじゃ無いと互いに気持ち悪いだろう!

 

『カイザー……』


 ああもう、だから今はその時じゃ無いって!


『カイザー、レーダーに人影が……目視可能エリアに入りました』


 人影? 言われてカメラを向けるとボロボロの服を着た男が息を切らせながら走ってきた。身体にこそ傷は無いが、逃げる途中襲われたのか服はすっかりボロボロになっている。


 やがてこちらに気づいたのか、フラフラと向かってきたので、レニーに事情を聞いてもらった。


 男の話はマイクで拾われ俺まで届いている。


 これは……緊急イベント発生ってやつだな。

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