第二十三話 カイザー オープンチャレンジ!
おそろいの機兵……とは言っても腕が長かったり足が短かったりとその辺は統一されていないウルフェンシリーズに乗った連中が俺を値踏みするように眺めている。
レニーはどう切り抜けるのかな、と様子を窺っていると、俺の前で腕組みをしドヤ顔で啖呵を切り始めた。
「嫌だなあ、冗談は顔だけにしてくださいよ。金貨1枚? 白金貨の言い間違えかもしれませんが、例え白金貨10枚、いえ、100枚積まれてもこれは売れませんよ。この機兵はもう私のものです! 一昨日来やがれですよ!」
いいぞいいぞ!レニー! 白金貨100枚つーと10億円か! うおお!超高級車じゃん! 俺!
例え話とは言えレニーが俺の価値を高く言ってくれたので気分がいい。それに反して男どもの気分は急降下だ。小娘にディスられて顔を真っ赤にしてわなわなと震えている。
「おいおい……あんまり生意気なこと言ってんじゃねえぞ? 街での機兵騒動はご法度だが、街の外で起きたことは自己責任ってのがライダーの掟だ……全裸ァ、お前どうなるかわかってんだろなあ?」
でました、三下らしいテンプレセリフ! 結局決闘になって返り討ちにされるっていう王道展開フラグじゃないか。いいぞ、構わん! レニー、やっちまえ!
「うーん、そうは言われましても、この機兵、もう私しか乗れないんですよー」
しかし、想像した通りに事は運ばない。俺のパイロットが喧嘩っ早い竜也であればそうなったと断言できるが、今俺のパイロットはレニーだ。
(えっ? 煽らないの? ねえ、煽らないの?『フッあんたたちこそ夜道は気をつけるんだな……まあ、生きて今夜の月を見れるとは限らねえけどな』とか言ってくれないの?)
なんてアホな事を考えちゃったけれど、今のパイロットは竜也では無くレニー。
熱い心を持つがアホで、頑張り屋さんのアホで、かと思えば結構賢いがアホなレニーだ。
予想した展開よりもなんだか平和的な方向に流れ始めているけれど、こうなると俺にもどう話が展開するのか分からない。取りあえず暫くじっと見守ってみようかね。
「あん? なにいってやがる? おめえがプレート剥がして俺達に献上すればそれで済む話だろうがよ」
「そうだなあ、じゃあ私は離れて見てるので、乗って動かしてみてくださいよ。もしコクピットに乗って動かせたらそのまま差し上げますので。
その代わりハッチが開かなかったり、例え開いたとしても動かなかったら私の話が本当だってことで見逃してくださいね」
なるほど、そうきたか。伊達にこの街で生き残ってないな……したたかな子である。
レニーが俺の角をそっと撫でた。はいはい機兵形態になってこいつらに試験させろっていうんでしょ、わかったわかった。
『カイザー、あんな臭そうな原生生物はコクピットにいれませんからね』
「わかってるよ、俺だって連中に座られるのは嫌だ。頼まれたって開けないよ」
間もなく"原生生物"達がワラワラと俺にとりついてくる。それぞれバールのようなものだの、杭のようなものだの、ハンマーのようなものだのとにかくハッチをぶっ壊して中に入りたいようだ。
とはいえ、万が一ハッチがこじ開けられたとしても俺とスミレが許可しない限りサブパイロットして登録されることはない。
つまりレニーの提案に乗った時点でこいつらの負けは確定済みなのだ。
「よおし、お前ら! ハッチをこじ開けるぞ!」
リーダーと思われる男の声と共になんだか懐かしい音が聞こえてくる。バキバキだのガンガンだの、この世界の人は本当にこれが好きだなあ!
『カイザー、こいつら焼き払いましょう』
流石にうざったいのかスミレが物騒なことを言いだした。俺だってそうしたいのは山々だけど、残念ながらそんな装備はない。出来ることはただ心を静かに保ち見守ることだけだ……ああ、ガンガンガンガンうるせえなあ。
15分ほどガンガンやられた頃だろうか。早くも原生生物達に疲労の色が見え始める。
レニーは1時間は軽く俺にガンガンガンガンやってたからそのくらいは覚悟していたが、どうやらレニーがおかしいようだ。
毎週毎週山を登ってガンガンやってるうちに色々鍛えられたのではなかろうか? そんなことを考えているとついに泣き言が聞こえてくる。
「くそっ! どうなってやがる! こっちの道具がひん曲がっちまった!」
「兄貴ィ、杭が折れちまったよ……なんだよこれ…」
「だから言ったじゃないですかー。これ工房の工具でも開けられなかったんですよお。
で、知り合いのお姉さんに調べてもらったら、呪い? かなにかで私は死ぬまでこの機兵から逃れられないらしいんですよねえ。だから他の人は乗ることが出来ないってことらしいです。残念無念あははー」
大根役者が可愛い笑顔で物騒なこと言ってる……工房なんていつ行ったんだ? 山の上のレニー工房か? つか、なんだよ呪いって……お姉ちゃんって誰だ? スミレの事か?
「ちっ! もういい! おめえらいくぞ!」
あまりにもデタラメな言い訳だから火に油を注ぐのでは? と思ったが、もう心が折れたのかベッタベタの三下捨てぜりふを吐いて去っていった……。
ああ、きっとあいつらどっかのタイミングでボコボコにすることになるな……。
これはそういうフラグに決まってる。
「ふええ……こわかったですよー」
三下共の姿が見えなくなると、レニーは糸が切れた人形のようにペタリと座り込みカタカタと震えはじめた。こっちはこっちでこれまたベタベタのテンプレだ。
「よしよし、よく頑張った! あんな面倒な事しなくても、煽って外で決闘する流れにしても良かったんだぞ?」
そういうと首をブンブン振って否定する。
「な、何言ってるんですか! 決闘なんてだめです!」
心優しい子だ……人を傷付けるのが嫌だとでも言いたいのだろうな。でもな、レニー。それじゃあこの汚い世の中は―――
「だってギャラリーがつくんですよ? 賭けの対象にされちゃうんです! そ、そんなの恥ずかしすぎて絶対に駄目です! どうせ勝っちゃうけど変な二つ名付けられちゃうじゃ無いですか! だから穏便に、穏便にーって必死だったんですからね!」
って、そういう理由かよ!
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