第二十四話 レニーの知人達
無事? お約束のギルドごたごたイベントを終えた我々は不要なパーツを抱えジャンク屋へ向かった。
不要なパーツが入った木箱を店の前に転送し、さも機兵で担いできましたよと言う体を取る。結構な量だけど、これがいくらになるのか楽しみだね。
「じゃ、おっちゃん呼んでくるんで待ってて下さいね」
レニーが入っていった店は通称ジャンク屋。店には『アルバートパーツ店』と看板が掛けられている。
石壁で出来たその建物にはゴテゴテと様々なパーツがぶら下がっていたり、軒先には無防備に箱に入ったジャンクパーツらしき物達が転がっていてワクワクする。
暇つぶしに眺めていたが、結構面白いパーツがあるね。
ひとつ気になるパーツがあったので、後でレニーに頼んで買って貰うことにしよう。
「……へえ、これがお前の機兵か。ずいぶんすげえのを手に入れたもんだな!」
おっちゃんと呼ばれる店主は年齢五十歳前後、油か何かで汚れたその顔はいかにもジャンク屋といった顔つきで好ましい。
「えへへー! かっこいいでしょ! カイザーっていうんだよこれ」
「へえ、カイザーね。おっと、仕事を忘れるとこだったな。この箱の中身を査定すればいいんだな、どれどれ……ぬう、結構あるな……レニー、ちょっと時間かかりそうだから小一時間ほどどっかいってこい」
「りょうかーい! こっそり抜いちゃダメだからね!」
「馬鹿野郎! 俺がそんなことするかよ!」
「へっへー、ごめんごめん! じゃ、またくるねー」
気の置けない仲というかなんというか。年齢差はかなりあるが友達のようなやり取りをしている。あんな所に住んでいたり、全裸とからかわれたりしていたから心配していたが、ちゃんと街で生活出来ているじゃ無いか。
暇が出来てしまった我々はレニーの案内で機兵工房に向かう事となった。
機体のメンテは不要というか、出来る人が居ないと思うけど、今後何らかの形――装備品の調達等でお世話になることになるかもしれないしね。
それに何より……やっぱりロボ好きとして機兵工房というのは見逃せないよね……ふふふ、楽しみ。
ジャンク屋から少し移動した先にその工房は建っていた。機兵を格納するためなのか、結構大きな建物で、クレーンの様な物が見えていたり、謎の煙が上がっていたり……広めの空き地のような場所には様々なパーツが山の様に積まれていたり、修理中なのか建造中なのか分からないけれど、機兵がゴロッと転がってたりして……ああ、滾る!
「おう、おう、おうおうおう! レニィイイイイ! お前!!!」
と、工房の前に立っていた気難しそうな老人が我々の姿を見つけた瞬間、でっかいスパナを振り回しながら向かってきた。レニー、一体何をやらかしたんだ?
「おっす! リックさん! どうよこれー!」
って、レニーのヤツ迫る老人を物ともせずに明るく挨拶をして俺の紹介を始めた。これはもしかして何時ものやり取りってやつか。すげえマジな顔で向かってくるからびっくりした……。
「暫く面みせねえからとうとう死んじまったと思ってたんだぞ……って、レニー、コイツ…一体どっからもってきた?」
俺の姿に気づいたリックなる老人が打って変わって声を潜めるように聞いている。
「え? ええ? っと、その……王家の森の崖の下でえ……」
ギルマスにも言ったでっちあげだ。おいおい、レニー目が泳いでるぞ……。
「レニー? 森の小屋で伸びてたおめえに飯をやったのは誰だ?」
「リックさんです……」
「そうだな。金がねえおめえに餌やってんのは誰だ?」
「それもリックさんです……」
「小娘一人でハンターなんぞになりやがって、チンピラが悪さしねえように手を回してたのは……ってなんでもねえ」
「えっ!? リックさん、そんな事までしてくれてたの?」
「うるせえ……忘れろ。なことよりよ、俺はよ。おめえのこと孫見てえなもんだと思ってんだよ、水くさい嘘なんかついてんじゃねえよ。それに王家の森の崖だあ? 馬鹿野郎、そんなの俺が全部チェック済みだっつうの。伊達に年取ってるわけじゃねーぞ」
なるほど、ろくに稼ぎも無いレニーが今日まで生き残ってきたのは無駄にタフな特殊能力でもなんでもなく、リックさんのおかげだったのか……異能生存体かなにかだとばかり思ってたよ……。
この老人……信頼してもいいかもしれないな。
こっそりレニーに通信を送ってリックには真実を話すよう伝える。この老人からは嫌な感じがしない。受け入れるかどうかはリック次第だが、俺の事を知る味方は多い方が俺も助かるしね。
「ごめん、リックさん。本当のことを話すね……」
レニーは俺を見つけたときのこと、1ヶ月通ってようやくコクピットに乗れたこと、そして、俺の指示通り意思を持つ機兵であることを身振り手振りを交えて話した。
あまりにも熱が入りすぎて必殺技を放つシーンの時に手を痛めていたようだが、何も生身で石を殴ることは無かろうよ……。
「って感じなんだけど……」
「レニー……」
「う、嘘じゃ無いよ!」
「誰もおめえの話が嘘だなんて言ってねえだろうが」
リックは立ち上がると俺の前に立ち、帽子を脱いで頭を下げた。
「カイザーさん、と言ったか。レニーを助けてくれてありがとうよ。さっきも言ったが、こいつは孫のように思って大切にしてんだ。最近姿が見えねえと心配してたが、まさかそんな目に遭ってたなんてな……いや、何もかもあんたのおかげだよ。礼を言うよ」
良いおじいちゃんだなあ……やはり俺の目には狂いが無かったよ。
この人ならば本当に信頼できる。俺からもきちんと挨拶をしよう。
「頭を上げてくれリック。改めて挨拶をしよう。俺の名前はカイザー、理由あって詳しくは話せないが、今はレニーをパイロットして頼りにさせて貰ってるよ。
こちらこそレニーを守ってくれていてありがとう。おかげで良いパイロットを失わずにすんだ」
「かいじゃーしゃあん……」
なぜかレニーが感極まって泣いてしまった。リックは……うわっ固まってんじゃん!
いや、さっきレニーが言ったよね? ちゃんと言ったよね? 意思を持つ機兵だって。あ! レニーめ、喋るってとこちゃんと話してなかったな!
「う……うおお、おめえさん……意思を持つってそういう……そういうことか?」
「驚かして済まない。なんと説明したら良いか……そうだな、魂を持つ機兵とかそういう考え方で良い」
「そ、そうかい。レニー、おめえ本当にすげえのを――」
『私からもご挨拶をさせて下さい、私はスミレ、カイザーの戦術サポートAIです。以後お見知りおきを、リック』
急にスミレが喋ったから俺までびっくりしてしまった。リックは完全におかしな人になってるな。声の主を探してキョロキョロしてしまっている。
「な、なな、今度は女の声がしたぞ? ど、どこだ?」
「今のはスミレさん、カイザーさんに乗っている実態が無いパイロットみたいな物ですよー。私のお姉ちゃんなんです!」
「じ、実態が無い? お、お姉ちゃん? ゴ、ゴーストとかそういうやつか?」
「リックにわかりやすいように言えば、索敵や照準の補助、戦略を担当する機能が意思を持っているという感じだ。この機体に俺と同居してると思ってくれて良い」
「む、むう……わからん、わからんが、わかった。ううむ……ちょっと待ってろ……」
リックは奥に行くと聖典だと言う物を持って戻ってきた。
「こりゃよ、写しの写しだから抜けてるページが多いんだがな? これに帝国も解けなかった謎のパーツがあるらしいんだよな……この、訳せてない部分だな」
そう言うと俺をチラリと横目で見つめる。何を言いたいのかとってもわかるが、それは来たるときが来たら話そうって決めてるんだからどう揺さぶられても喋らないぞ。
俺が答えないで居ると、何か察したのか聖典をパタンと閉じた。
「……ん、まあいい。お前さんも事情があると言っていたしな。ただな、今見せたとおり写しの写しとは言え、俺は聖典を持ってる。んでもってお前さんは
つーこたよ、すり切れるほどこれを読み込んだ俺はお前さんに合う武器や部品を造れるっていうわけよ。他のヤツに頼むよりよっぽどいいもん造ってやっからよ、なんかあったら遠慮無く頼ってくれよな。」
きっしっし、と鼻の下を擦りながら小粋に笑っている。リックは恐らく聖典に書かれている機体は俺のことだって完全に理解した上で言ってるよねこれ。
まあ、レニーに言うわけでも無さそうだし、俺に答え合わせを求めてくるわけでもない。
これはただの善意として受け取っておこう。
「ああ、ありがとうリック。見ての通り今の俺にはろくな武器が無くてな。
丁度いい、新しい武器を思いついたんだよ。さっきそこのジャンク屋でパーツを……」
「ああーーーカイザーさん!!!おっちゃんのこと忘れてたよー!!」
気づけば小一時間どころか2時間ほど経っていた。おっちゃん、怒ってなきゃ良いな……。
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