第二十二話 街を歩けば 

「えっへへー。カイザーさんと出会えたし、これで私もようやく上のランクを目指せますよー」


 以前聞いた話しによればレニーは現在5級である。これは4級に上がるための試験を達成していない、受ける事が出来なかったからである……と言う事らしいのだが。


「4級に上がる試験ってどんなんだ?」


 気になって尋ねて見るとレニーはそういえば! という顔をして、見てきますね! とギルドに入っていった。おいおい知らないのかよ。


 と、思ったが後から聞いたところによると試験内容は定期的に変わるらしい。不正対策かと聞いたら、ただ単にギルドの事情だそうで、あーそうですか~って感じだ。


「わかりましたよー! 今はブレストウルフ討伐とジェモ草5束でした!」


「ブレストウルフはアホほど狩ったけどどうやって討伐確認するんだ?」


「ああ、それは普通にブレストウルフの討伐部位を持ってくればいいんですよ。勿論パーツ屋で買ってきても成功扱いになるので、お金に余裕がある人はさっさとお金で4級にあがっちゃいますねー……褒められた事じゃないんですけどね!」


 ブレストウルフの討伐部位は燃料タンクらしい。それをまともな手段で手に入れるとなると当然討伐が必要になるわけだが、機兵無しで相手をするのは自殺行為。故に事実上機兵無しでは4級に上がれないようなものだ。


 逆に機兵を買えるほど余裕があるものは試験をまどろっこしく思うらしく、近場のパーツ屋で"討伐”するらしい。その場合かかる金額は銀貨50枚、約5万円だ。


 なるほど、金で解決しようと思えば出来るが、なかなか悩ましい金額だな。


「燃料タンクは何個かストックがあるからそれを出せばいいが、ジェモ草とやらは取った覚えがないな」


「ですねー、ジェモ草は森に生えている薬草なんですが、ポーションの原料になるためギルドでも採取を推奨してるんですよ。

 ただ、ハンターが草刈りなんかしてられるかー! って人も結構いるので、採取クエストは受ける人がほとんど居なくって。だから在庫が寂しくなってくるとこうやってさり気なく試験に混ぜてくるってわけです」


 なるほどね、魔獣の指定は固定、採取内容が事情により変更されるってわけね。うまいこと考えるもんだ。


 この手の素材は店では売りに出されない。なぜならばそんな物を欲しがるのは薬師くらいしか居ないし、その薬師はギルドに依頼を出して安く大量に入手してしまうため、わざわざそこらの店で買う事は無い。


 そもそもギルドへの納品すら不足する事があるような薬草だ、わざわざそこらの店に売りに行くような者は居ないし、店も売れない商品を買い取るような事はしないのである。

 

 なのでこればかりはどうしても自分で手に入れる必要があるそうだ。

 じゃあ、早速採取に行くのかな? と思ったが――


 

「流石に今日は疲れてるので採取は明日にしましょう! カイザーさん、お姉ちゃん!  折角だし街を案内しますよー!」


 どうやら今日は観光の日にするようだ。俺はこの体だからなんともないが、レニーは一応人間だ。疲れ知らずかと思っていたが、やっぱり多少の疲労があったのだろうな。


 それに採取といえど、場所が遠くなれば泊まりになるだろうから食料などの買い出しも必要だろうしな。レニーもちゃんと節度を持っているというか、落ち着いた行動が取れる奴だったんだなあ。


「ほらほら!こっちですよ!ついてきてください!」


 おいおい、ついてこいって俺が自立機動出来るのバレちゃまずいだろ。

前言撤回。もう少し落ち着いた行動を取れるようになってくれな……。


 しょうが無いのでユニコーン形態になりレニーに引いて貰うことにした。これでも十分おかしいとは俺も理解しているが、機兵形態の俺が一人でウロウロするよりよほど言い訳をしやすいだろうよ。


 

「そこの角を曲がると工房があってー、あっちはジャンク屋です。ジャンクのおっちゃんが面白くてー……」


 レニーが楽しげに観光ガイドをしている。街は機兵乗りライダーが多く居るためか街の中心を通る道は広く作られている。


 ちょうど2車線道路くらいだろうか。この微妙な地方都市感が実家がある街を思い出させて、なんだかとっても懐かしい気分になってくる。

 

 しかし道を普通に歩く機兵達……、その機兵にあわせた街作りというか社会かあ。

 ファンタジー世界に舞い降りた異分子ロボとして引っかき回したらさぞ愉快だろうなあと思っていたけれど、こうしてロボが社会に溶け込んでいる世界ってのも……悪くは無いね。


 そもそもが――


 『ロボが居ない異世界にロボが現れたらどういうリアクションをされるのだろうな!?

 伝説の巨神とか呼ばれて魔王戦の最終兵器にされちゃったりして! やべえ滾る!』 


 ――というしょうもない理由でロボが居ない世界にとオーダーしたわけだけど、こうして手作り感溢れるロボが沢山居る世界ってのもなかなかに熱い。


 剣と魔法の世界のような感じの世界に無理矢理存在する機械文明。そこからうっすら感じるスチームパンクの香りもたまらない。

 そうなるとマニュアル盗んでくれてどうもありがとう! おかげで面白世界になりました! なんて気分にすらなってくるね。


 しかし、機兵も色々な機体が居るもんだな。もう少し俺に近い機体が多いのかな? って思っていたんだけど、どうやらパーツ調達の問題でそうはならなかったらしい。


 すれ違った機兵だけでもピーマンに手足をつけたようなずんぐりむっくりした機体、スラリとしてるが小さめで、パワードスーツに近い様な機体、手作り感溢れる木製の機体(大丈夫かこれ)、等々、民間には規格が統一された量産機という物が無いらしく、似たような機体であってもまったく同じという物は見当たらない。


 強いて言えば二本角の機兵(宇宙世紀なアレのアンテナではなく、動物的な角のようなもの)が多いな、と感じたが、それでもやはり手足のパーツはそれぞれ別物だ。


「機兵工房毎にオリジナルの設計図ってのがあるらしいんですけどね、でもそれはあくまで基本部分、動力炉を含むボディとヘッドパーツだけで後は在庫次第って感じなんですよ」


「なるほどな、似たような顔の機兵は居るがデカかったり小さかったりするのはそのためか」


「ですです。パーツは魔獣頼みですからね、何時も安定して同じパーツが手に入るとは限らないので。ただ、動力炉と、ボディは手に入りやすいため同じ物を使ってる機兵が多いんですよ」


「例えばどんなパーツを使ってるんだ?」


「あの機兵とあの機兵、あとあれも。あれらはウルフェンというこの街定番の型で、ブレストウルフのボディと動力炉を使ってるんです。あいつら数だけは沢山居ますからねー、在庫には困らないんですよ」


「顔もほぼ同じ感じだが、あれはどうしてるんだ?」


「外装は人間用の防具の応用で造れちゃいますからね、見た目はそれでなんとか。中身はストレイゴートと言う魔獣の顔パーツを加工した物が入ってるんです」


「はじめて聞く名前だな、スミレ、聞いたことあるかい?」


『いえ、私もはじめて耳にしました。レニー、どういう魔獣なのですか?』


 スミレに聞かれると、えっへんと胸を張り得意げに語り出す。


「ストレイゴートは群れをなして行動するヤギのような魔獣で、王家の森よりさらに先にある大戦の原野グレートフィールドに生息しています。そこはかつての大戦で更地になった場所で、今では王家の森に匹敵する魔獣の楽園になってるんですよ」


「また面白そうな場所が出てきたな……」


「こっからだと結構遠いので、ヘッドパーツはなかなか貴重なんです。だもんで機兵ってのはそう易々と買える物じゃなくてですね-」


 と、またレニーが長文解説レディー状態になったところで邪魔が入った。


 どうやら先ほどギルドで絡んだ男達が仲間を連れてやってきたらしい。


「おい、全裸! 聞いたぞ、この機兵拾いモンなんだってなあ? 悪いこた言わねえ、俺達に譲りな。金貨1枚やるよ、どうだ?稼ぎが悪い全裸にゃ悪い話じゃないだろう?」


 き、金貨1枚? 10万円かよ! 俺はボロボロの中古車じゃないぞ!

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