第二十一話 カイザー登録される 

 なんとかレニーの話題が再び俺への質問に変わる前に街が見えてきた。


 位置的には俺が居た場所の裏側――なるほど目視で確認できなかったわけだ。

 測定したデータによるとレニーの家があった場所からは60kmほど離れているから、前線基地とは言え森まで徒歩5分! といったわけではないようだ。当たり前か。


「凄い凄い! もう着いちゃったんですね! 信じられませんよ」


「え! 普通の機兵だとどれくらいかかるの?」


 思わず素で聞いちゃったよ。何も考えず走ってきちゃったけどそういえばすれ違う人々が凄い顔で見ていた気がする……。


「普通は5時間くらいかかりますよー」


 5時間。つまり時速12kmくらいの速度で移動してるってことか。参ったな、あんまり異常性を出さないようにしたかったのに。


「まあ、カイザーさんですし、今更気にするようなものでもないですね」


 それもそうか……いやどうかな……。


 街に入るので移動速度をかなり落としゆっくりとギルドに向かう。


 途中すれ違う人や機兵がガンガン二度見をしている。中には指を指して笑うものやヒソヒソと何かを話している者までいる。まあ、これは予想はしていた……予想通りだが……。


 ギルドの前に俺を停めると、『ちょっとギルマス呼んできます』とレニーが中に入って行った。俺の周りに遠巻きに人が集まり、上から下までジロジロと眺めている。何か珍しいのだろうか?


 暫くするとレニーが戻ってきた。ギルマスは接客中だからもう少しかかるとの事。


 すると、如何にもな連中がこちらにやってきてお約束が始まった。


「よお全裸のレニー!しばらく見ねえと思ったが生きてたんだなあ」


 出たなギルド名物新人いびり! いや、レニーは2年前から会員だから新人でもないのか。


「生きてましたよー。そして残念ながらもう全裸じゃないんですよー」


 ドヤ顔で俺を指差すレニーだが、男たちは腹を抱えて大笑いしている。

 

「ひゃーはっはっはっは!傑作だぜ!まさかそれを機……機兵だっていうのかよお! ひゃっはっっはっは腹いてえ」


 男たちが俺を指差し笑っている理由、今丁度やってきたギルマスが困った顔をしている理由、わかるぞ、俺にはようくわかるぞ。


「レニー、これがお前の機兵か? いやしかし……いくらなんでもこれはな……」


「だよなあギルマス! ひゃはっ、て、テイムした魔獣を連れてきて……登録しようとしたのは……お前がはじめてじゃねえかあ? ひゃっはっはっは」


 そう、今の俺は馬、馬車を引く馬だからだ。


 レニーからそこそこ距離があると聞いた俺はユニコーン形態で移動しようと提案した。実はバックパックには馬車になるギミックがある、あったのだ。


 バックパックを手に入れ思い出したが、カイザー4話でバックパックを馬車に改造する話があるのだ。テーマパーク内を移動する馬車に偽装して人質のもとへ向かい、スキを突いて救出する作戦だったと思う。


 馬車形態ならば荷物を引きながらかなりの速度で移動することが可能だ。一応空気を読んで時速30kmに調節して走ったが、普通に考えればかなりの速度が出てしまっていたと反省している。


 さて、そんな馬形態だ、ガラの悪いハンターだけではなくギルマスまでレニーをバカを見るような顔をしている。


 レニーは……どうしたらいいか困った顔をしているな……ようし、俺に言い考えがあるぞ、任せろレニー!。

 

 サブコンソールを振動させレニーに合図を送り耳に当てさせる。


『レニー、適当にそれらしい台詞を言いながら俺の角をそれっぽく撫でるんだ。』


「え? ああ! なるほどわかりました!」


 スタスタと俺の前にやってきたレニーはギルマス達に向かうと思いっきり叫んだ。


「カイザァアアアアアア!!! チェエエエエエエエエンジモォオオオオオドオオオオオ! ワン!」


 あ、はい!


 レニーがぬるりと角を撫でたのを確認し"機兵型”に変形してみせた。

 笑っていた男はひっくり返り、ギルマスは口を開けたまま動かなくなってしまったが……まあ、良い薬になっただろう? こういうのはガツンとやって分からせてやらないとな。


『カイザー……貴方は目立ちたくないような事を言っておいて……』

『あ、やばい……』

『でも今回はゆるします。グッジョブです』


 スミレもレニーが馬鹿にされるのを好ましく思っていなかったのだろうな。お小言を言われるかと思ったが、なんだか嬉しそうにしている。

 

「ね? 機兵でしょ? ほら! ギルマス! びっくりしてないで! 登録してください! ほら! 登録! はやく! 役目でしょ!」


 レニーにゆさゆさと揺すぶられ、我に返ったギルマスはレニーに何かしらの質問をしながら書類に書き込んでいるようだ。


 質問をしながら、首を傾げながら俺の全身をくまなくチェックしていく。なんだか健康診断をされている気分だ。


 どうやって手に入れたの? とか、どういう仕組なの? とか、あのセリフは必要なの? とか根掘り葉掘り聞いている。そりゃ聞きたくなるわなとしか言えない。特にセリフに関しては俺も聞きたいところだ。


 時折しどろもどろになりつつも、なんとか誤魔化しきれたようで、納得したようなそうでないような顔をしたギルドマスターが10cm程の識別ナンバーが入ったプレートを差し出し、それを受け取ったレニーが満面の笑顔でこちらに駆け寄ってきた。


「これなんですけど、どこに貼りましょうか、お姉ちゃん」


 俺じゃなくてスミレに聞く辺り悔しいがわかってるよなあ……。


『思ったより悪くないですね……うーん、じゃあ肩の辺りに貼っておきましょうか』


 レニーの手によって俺の肩にデカールのようなプレートが貼られ、晴れてこの世界におけるレニー機として正式に登録された。なんだかようやくこちらの世界に受け入れられた、そんな気分すらするね。


「気になったんだけど、よく誤魔化しきれたよな。特に入手先とか……拾ったとかアリなの?」


「ほら、前も言いましたけどパイロット登録が切れている機兵は早い者勝ちというルールが有るんですよ。だから王家の森の崖下におっこってたって言ったんです。パイロットは乗ってなかったから逃げたか食われたかしたんでしょうって」


「それで信じるのも凄いが、なんとかなるもんだな」


「危なかったといえば危なかったですね。なんたってカイザーさんのような機兵が登録されたっていう情報が過去になかったみたいなので。」


「へえ、結構しっかりとデータベースとして活用してるんだなプレートってさ」


「当たり前じゃないですか。じゃないと盗まれた時探してもらいにくいでしょ? それでですね、過去に登録された事実が無ければ、軍用機として存在している機体でも無いと言う事で『昔の大戦で使われた機兵の生き残りかもしれねえなあ、よくもまあ動いたもんだぜ……ま、今までの苦労に免じて帝国にゃ黙っといてやるよ』って言われましたよ」


 それはそれで面倒な事になりそうだが、まあ黙っといてくれるってならいいことにするか……。

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