第二十話 街道にて

 あれから一夜明けて。


 俺をレニーの機兵として登録するために我々はギルドのあるフォレムに向かっている。


 移動中、レニーが向かう先について説明をしてくれているが、なかなか興味深い話が出てきた。


「ギルドがあるのは前に話したフォレムの街なんですけどね、元々は王家の森に向かう私兵団の前線基地だったんですよ」


「王家の森か。そう言えば随分と立派な名前の森だなと思いながら話を聞いてたが、なんでまたそんな名前が付けられているんだい」


「それがですね、すんごい昔ここに王国があったみたいなんです。でも、あるとき火龍によって燃やし尽くされちゃって……今ではこの通り森になってしまったというわけですね」


「へえ、火龍とは凄い魔獣が居たもんだな」


「うーん、魔獣とは違うかもしれませんよ?なんたって神話には山の中から現れたって書いてましたからね。そんだけデカい魔獣なんて聞いたことありませんよ」


「山の中から、ね……。それじゃあ王国はひとたまりなく滅亡したのかい?」


『いえ、それがですね、神話によると神像の身体を借り降臨した神の言葉により無事逃げおおせたらしいんです。今で言うとルナーサの辺りに国を移して滅亡を免れたそうですよ」


「ふーん、神話に出てくる王国があった地域だから王家の森って言われてるわけかー」


 するとレニーは興味津々という顔で逆に質問を始める。


 まずい! こいつはたまにとても賢く鋭い。これは絶対に俺を疑っている顔だ。


「カイザーさんってあの山に居ましたよね? いつから居たんですか? あそこって神の山って言われてるんですよ。なんでも昔の人が神像を見つけて祈りを捧げに通ってたって言う話なんですが、今じゃそんな話、殆ど誰も知らなくてですね?」


「まてまて、どうして俺があそこにいた話から神像の話になるんだ?」


「まあまあ。それでですね、神の山には機神の像があるらしいぞって、知り合いのおっちゃんから聞いたあたしは『狩りのご利益があるかなー? あったら機兵が買えますようにー!』ってお祈りに行ったんですよ」


 そんな理由でわざわざあんな険しい山に登ってきたのか……。

 いやはや、ほんとに俺が居たから良かったものの、その手の話はデマも多いんだぞ?

 なんというかほんと、危なっかしい娘っこだなあ。


「そしたら機神像どころか機兵が転がってるんですよ? びっくりしたじゃないですか! 機神像ってどう考えてもカイザーさんのことですし、神話にも神像が出てくる、これはもしやーって思ったんですよ! どうなんです? カイザーさんこそ伝説の神像様なのでは? ねえ、どうなんですか!?」


 確かに間違いなく神話の神像は俺だろう。ルナーサとはおそらく俺が眠り前にあったルンシールのことだ。マニュアルが残ってる時点で確信していたが、ルストニア王国はルンシールで国を再建し機兵時代の礎を築いたのだろうな。


 以前話に出た「とある国」というのはやはりルストニア王国で間違いなさそうだ。


 しかし、どうしよう。レニーは俺のパイロットだがこの話をしていいものだろうか。


 レニーには聞こえないようにスミレに相談してみた。ちょっとこの話題はデリケートすぎる。


『そうですね、レニーにはいずれ話すべきだと思います。ただ、今はまだ話すときではないでしょう。時を見て……ですね』


 レニーに話したところで正直何かまずい反応をされるとは考えていない。寧ろレニーのことだから神話は真実だったー! とか、伝説の機兵だー! とか喜ぶと思う。


 しかし、俺の記憶もかなりの部分が失われている。折角なら本当の自分を取り戻した時、完全に記憶が戻った状態で真実を伝えたほうがよりいいはずだ。


 その時はレニーに、そしてスミレにも全て話そうと思う。


 だから今は――


「ああ、すまん。情報処理をしていて聞いていなかった。なんの話だっけ? ああ、そうだ! 街だ、どういう街なんだ? そのフォーラスって街は」


「もう! せっかく話してあげたのに! まったく! それにフォレムですよ、フォレム! フォレムはハンターが集まるハンターの街! 王家の森や周辺を狩場に集まるハンターたちの前線基地です!」


 ドヤアアっと得意げに話すレニーを見て無事話を反らせたことにホッとする。こういう扱いやすい子好きだよほんと……。


 そういえば今更だけれども、俺ことカイザーはAIを積んだ喋って踊れるロボである。


 初めてレニーをコクピットに入れたあの日、喋ったああ! なんてびっくりしていたが喋るロボはこの世界においてどうなのだろうか?


 ファンタジー作品だと喋るゴーレムと言うのはちょいちょい出てくるのだけれども、この世界にもその手の『喋る機兵』というのは存在するのだろうか。


「え?カイザーさんみたいに喋る機兵? うーん、もしかしたら帝国なら作ってるかもしれませんが、聞いたことありませんね……。自分で動くってのもテイムした魔獣以外では見かけないと思いますよ」


 なるほどやはりそうか。どれだけ真似をしたところでAI部分は再現できなかったのだろう。この世界には魔法というものがあったと思うが、それを持ってしても不可能、いや、人工精霊とかそういうのを作ってAI代わりに実装すれば……もしかすれば存在するのかも知れないが、レニーの反応を見る限りでは一般的では無いと。


 ま、とりあえず様子を見ることにしよう。


「レニー、相談なのだが当分俺はお前以外とは会話しないようにしようと思う」


「えっ? どうしてですか?みんなびっくりすると思いますよ!」


「だからだよ! 喋る機兵なんて居ないんだろ? そんなの見せたら気味悪がられるよ」


 そうですかねえ、素敵なのにーとレニーが食い下がるがトラブルのもとは避けていきたい。

『でも街でカイザーさん達とお話出来ないのは寂しいですよー』としょんぼりするレニーにスミレがアドバイスをする。


『レニー、サブコンソールを使えばいいのですよ。サブコンソールを耳に当てれば私達の声はあなたにしか聞こえません。あなたは目立たないように小さな声で話せばいいのです』


「な、なるほどお……!うん、それなら寂しくないね!」


 レニーはすっかり元気になり街に向かって速度を早めたのであった……転ばないように頼むぞ。

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