第十九話 バックパック、その機能とは

「うえぇええん…ぐすっ…あたじのぱーづ…うっぐ、ひぐっ…おようふぐがあ……ぐずっ」


 ”おうち”の跡地前に座り込み、ぐすぐすと泣き続けるレニー。

 無理もあるまい、家財道具一式ごと家を失ってしまったのだ。

 そんなの俺でも泣いてしまう。


『冷静に分析してる場合ではありませんよ、カイザー。今後の信用問題に関わります。いいですか、カイザー、パイロットと言うのは……』


 スミレのお説教まで始まってしまった……。

 いやいや、意地悪をしているわけじゃ無いんだよ。なんというかタイミングを失ったというか、何というか……


『カイザー、余計な事は考えなくていいのですよ? レニーは単純な子です。結果を見せれば納得してくれます』


 そうかな……そうかも……。ん、そうだな、タイミングを伺うとか、空気を読むとかそう言うのは要らないな。


「スミレ、バックパックモードチェンジ ミニベースだ」


『バックパック モードチェンジ ミニベース データリンク一時解除 パージします』


 バシューと音を立て、俺の背中からバックパックがパージされ地面に降り立った。

 それはガシャリガシャリと結構な音を立てて変形を始めているのだが、わんわんと泣くレニーはそれに気づく様子が無い。


「レニー、お願いだ泣き止んでくれ、レニー」


「だ、だっでえ、ひどいでずよガイザーざん……あだじの……おうぢ……おりだだんで背中にぃ!」


 だからレニー、後ろ、後ろを見てくれ」


「ふぇ……?」


 レニーはぐしょぐしょの顔で力なく後ろを振り向いた。


「あっれえ!?どうじで?どうじであだじのおうぢが……?」


 フラフラと力ない足取りでおうちに入っていき……間もなくして歓喜の声と疑問の声が聞こえてくる。


「うわあああああ!!! あれもこれも全部そのままだ!!! で、でもなんで? あれえ? おかしいなあ……!? 確かにさっき消えて……あれえ??」


「説明しよう!」


「ぎゃっ」


 俺が突然大声を上げたのでびっくりしたようだ。ごめん。

 

「レニー、君が家と呼んでいたのは実は俺のパーツ、バックパック、失われていた装備のひとつだったんだ」


「ええええええ!!」


 驚きながらも家から出てこない。じっとこちらを睨む様子からして「今更返しませんよ!」とか思っているんだろう。


「どうせ、今更返さないとか考えてるんだろ?」


「ひぐっ! べ、べべ、い、いいいやあ? だだだってこれはカイザーさんの……で、でもぉ…? 拾った人の物になるというハンターの掟もぉ…?」


 図星だったのかしどろもどろになっている。所有権を主張したいのかしたくないのかどっちなんだ。


「安心してくれ、俺はもうレニーの所有物みたいなもんだ。そして俺の所有物はレニーの物、バックパックはそのまま使ってくれて構わない」


「へぅ? しょ、しょうなんでしゅか?」


 ……この娘は動揺すると舌っ足らずになるな。


「ただ、普段は俺のバックパックとして装備することになるぞ。だが、考えてみてくれ。留守中であっても家から離れることが無くなり、どんなに遠くに出かけても場所さえあれば直ぐに家に帰れる。最高じゃ無いか」


「しゃ……しゃいこうでしゅう……」


 しかもこのバックパックにはおまけがあるのだ……いや、おまけというよりもメインディッシュと言うべきだな。


「レニー、一度俺に乗り込んでくれ」


 レニーをコクピットに招き入れスミレにお願いする。


「スミレ、レニーにサブコンソールを出してやってくれ」


『サブコンソール イジェクト レニー、目の前にある端末を取りなさい』


 操縦システムのあたりからにゅっとスマホサイズの端末が出現している。


「なんですかこれ?」


「これはサブコンソールだ。バックパックと接続したことで使えるようになった機能だが、主な用途としてはある程度離れていても俺と通信できる連絡手段となる機能。レニー、ちょっと俺から降りて離れてみろ」


 素早くコクピットから降りるとあっという間に見えなくなった。この足の速さなら毎週かよってこれたのも頷けてしまう……っと今はそんな場合じゃ無かった。


 レニーに通信をしてみる。かなり遠くの方から着信音が聞こえるが、なかなか出ない。その辺りを集音してみると、どうやらどうしたら良いのか分からなくて慌てているようだ。


「……あ! これか! あれ? 何も起きない…? 壊しちゃった? わあああどうしよう…!」


 やっと繋がったと思えばまた何やら慌てている。面白い娘だ。


『カイザーが喋らないから何も起きないと困ってるのですよ? 意地悪しないで喋ってあげたらどうでしょう』


 おっと、別に意地悪をしていたわけじゃ無いぞ。忘れていただけだ。


「カイザーだ。無事繋がったようだな」


「ああっカイザーさん! 壊しちゃったかと思いましたよ~もう~!」


「すまんすまん。まあ、こんな風に離れていても連絡が取れるんだ。何かあったときは互いに連絡を取るようにしよう」


「了解~!」


 レニーを戻らせるともう一つの機能を説明する。これこそ我らの不便を解消する切り札だ。


「レニー、またおうちを背中にしまうぞ。いいな?」


「後で戻してくれるんですよね? いいですよ!」


 もう泣くことは無いだろうが一応許可を取りおうちをバックパックに変えた。


「いいか、俺が言うとおりに端末を操作しろ。まずバックパックという項目があるだろう?それを指で押すんだ」


「こうですか?わっ、ウェポンとアイテムという項目が出てきましたよ」


「うむ、ウェポンには武器が納められている……と言っても今は手作りナイフしかないが。そしてアイテムには……押せば分かるな、押してみろ」


「ぽちっ! わっ! ずらずらっと色々出てきましたよ! ええと……ベッド……布団……聖典の写しの写しの写し……歴史書にジャンクパーツA、ジャンクパーツB……ええー?これ私のおうちの中身ですよ!わ!ぱぱぱぱんっ!」


 顔を真っ赤にして端末をポケットに入れるレニー。ああ……下着までリストにあるから慌てて隠したんだな。馬鹿め、隠しても俺からは丸見えなのに。


『カイザー? またなにか意地悪な事を考えていませんか? レニーだって女の子なんですから、多少気を遣ってあげても……』


「大丈夫だ、問題ない、切り替えていく」


 スミレこええ……だめだだめだ、急いで話題を変えないと追求される。


「ごほん、それで本題だが、ジャンクパーツという丁度良いのがあるみたいだな? それを指で押してみろ」


「ううう……えいっ…わっ!」


 レニーの目の前に現れるジャンクパーツB……確かに用途が思い浮かばない良く分からないパーツが現れた。

 

「これが取り出し機能だ。元々良く分からない仕組みのバックパックにはさらに訳が分からない転送機能までついている。ただ、これには一応制約がある。まずバックパックモードで無ければ使用できない。次に俺から5m以上離れると使うことが出来ない。これは覚えておけ」


 なんだかとても不思議な物を見たという顔で俺とコンソール、ジャンクパーツを交互に見ている。そうだろうな、こればっかりは俺も説明できない。


 リアル系ロボット作品であれば、設定に矛盾が無くしっかりと考証されて作られていることが多いため、良く分からんが凄い謎のパワーとかはあまり存在せず、資料集できっちり説明されている。

 

 しかし、カイザーの様に浪漫重視型のロボット作品の場合、「うるせーな!浪漫が詰まった謎パワーだよ!」で片付けられていることが多く、やたら謎めいた便利な使用のバックパックについてはきちんと解説がされていない、つまり製作スタッフにより上手くお茶を濁されているというわけだ。


「ええと……今この機能を説明したと言うことは……?も しかして……?」


「察しが良いパイロットは好きだぞ! うむ! 木箱の中身を収納するぞ!」


「えええええ!!!やっぱりいいいい!!! ちょ、ちょっと待ってて下さい!」


 レニーが悲鳴を上げ家に飛び込むと、やがてドタバタと音が聞こえてきた。家の中を見ていないのでわからないが、アイテムがスタックされたりソートされたりしていくのを見るにお片付けをしているようだな。


 コンソールから収納すれば別に物理的に家に運び入れる事無く謎空間に別途収納されるわけだけど……ちょっと言い方が不親切だったかもしれないね。


 ま、片付けるのは良いことだしさ、どうせ今日はもう移動する時間も無いし。久々のおうちでゆっくりとお片付けをして貰おうじゃ無いか。

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